第 4 章 堆積状況に基づく支流域からの土砂流出量の算定と土砂流出量推定式の構築
4.3 濁度変化を考慮した土砂流出量推定式の構築
4.3.1 濁度および流量観測の意義
河川における土砂通過量の把握については濁度計を用いる方法が有効であることが述べ られている 19)。濁度計による観測は浮遊砂に限られるが,連続観測に適しているなど採水 等の直接計測より有利な面がある。そのため,流域上流部に土砂生産があるかなどの監視や 土砂生産,土砂移動のタイミングの把握,特に浮遊土砂の通過量の把握について有益な情報 が得られることが期待される。山地河道では,無降雨時に水深が小さいことや,複雑な河道 構造に伴って水深の変動幅が大きな箇所もあり,濁度データについても巻き上がった粒径 の大きな土砂を含む場合があり注意が必要である。
4.3.2 濁度データと土砂濃度の関係性
濁度データについては,七ツ山川の河口域及び増谷川の河口域で2014年4月1日~8月 28日までの観測データである。このデータについては,地質的に両支流域が異なるため比 流量に対して濁度の分布が異なることが図4-11に示すように報告32)されている。
解析結果及び調査からも挙げられるように増谷川は出水時,比較的粒径の大きな中礫や 粗礫を伴った土砂流出現象が確認される。これは河道構造的に狭窄部が多く分布しており,
大きな掃流力を生み出す構造を持つためだと推測される。そのため,薄く広く浮遊砂やウォ ッシュロードが分布する七ツ山川に比べて,比流量に対する濁度の増加が著しいと考えら れる。比流量0 m3/s/km2から1 m3/s/km2の間では常に比流量に対する濁度の数値が違うと いうわけではなく,基本的には 100ppm のように同様な数値を取っており,増谷川におい てはいくつかのプロットが高い濁度を示している。七ツ山川では比流量が1.5 m3/s/km2か
ら3.5 m3/s/km2の間で同様な傾向を示している。
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図 4-11 比流量と濁度の関係
これらは山地河川特有の土砂堆積状況の影響だと推測している。山地河川では,下流域の 河川に比べて水位の増減が著しく変化する。それに従って,水に浸かる領域と浸からない領 域の境界は大きく変化し,水位の上昇に伴って河岸で堆積した土砂が流下を始めると考え られる。河道構造の特徴として七ツ山川と増谷川は川幅が大きく異なる(川内川も七ツ山川 と同様の構造を持つ)。そのため,小さい流量で水位が大きく変化する増谷川は七ツ山川に 比べて濁度の上昇も比流量が小さい段階で発生すると推測される。
4.3.3 濁度変化を考慮した土砂流出量推定式の構築
濁度データについては河川の濁りの指標であるため,実際の浮遊土砂量との関係性につ いてはその質によって異なってくる。したがって,濁水の採取を行いそれに含まれる土砂量 について検討する必要がある。各支流域の濁水については,7/9 から8/11 の出水期に七ツ 山川で14 回,増谷川で16 回確認されている。各支流域における濁水の採水による調査デ ータは図 4-12 に示すとおりであり,いずれのデータについても濁度(ppm)と SS 濃度
(mg/L)については相関性が高く,線形が成り立つため近似式により濁度から SS 濃度が 推定可能である。そのため,以下の式が成り立つ。
(七ツ山川)
(SS濃度) = 0.932 × (濁度) − 65.477 (4-74)
(増谷川)
(SS濃度) = 0.9449 × (濁度) − 84.34 (4-75) y = 64.919e0.5746x
R² = 0.7211 y = 53.572e1.4279x
R² = 0.3171
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
濁度(ppm)
比流量(m3/s/km2) 七ツ山川
増谷川
指数(七ツ山川)
指数(増谷川)
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(a)七ツ山川
(b)増谷川
図 4-12 採水によるSS濃度(mg/L)と濁度(ppm)の関係
(4-74)式,(4-75)式より濁度からSS濃度(浮遊砂)を求めることが可能であり,濁度につ
いては流量の大きさに従って数値がばらつくものの流下する土砂のボリュームを推定する ことは可能である。しかし,これらは浮遊砂量を推定するものであり,山地河川においては 掃流砂も頻繁に流下するため,これらの式により評価できる量と掃流として含まれる量を 明確に分けることが重要である。採水によりそれぞれの支流域の浮遊砂分として観測され た濁度は表4-6 及び表 4-7 に示されるような粒度を主体として構成されている。いずれも 粒径2mm以下の土砂で構成され,シルトを主体として含んでいる。粒径ごとの含有量の標 準偏差を取ると,七ツ山川では粒径の小さい方から4.4,6.2,9.2を取り,その大小関係は
y = 0.932x - 65.477 R² = 0.8792
0 200 400 600 800 1000 1200
0 200 400 600 800 1000 1200
SS濃度(mg/L)
濁度(ppm)
y = 0.9449x - 84.34 R² = 0.9626
0 50 100 150 200 250 300
0 50 100 150 200 250 300 350
SS濃度(mg/L)
濁度(ppm)
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表 4-7 増谷川の採水に含まれる土砂の粒度 粒径ごとの含有量(mg)
SS濃度(mg/L) 0.0046mm(粘土) 0.063mm(シルト) 2mm(砂)
246 8.0 62.9 29.1
166 5.4 57.6 37.0
91 2.4 54.2 43.4
77 12.3 68.0 19.6
33 9.1 65.0 26.0
21 1.6 55.4 43.0
16 6.1 69.8 24.1
13 9.4 64.5 26.1
13 3.1 65.0 31.9
11 10.1 64.5 25.3
8 10.7 62.4 27.0
7 9.5 66.3 24.2
5 4.9 68.4 26.7
5 6.5 64.1 29.4
5 16.4 74.4 9.2
3 7.9 59.6 32.5
表 4-6 七ツ山川の採水に含まれる土砂の粒度 粒径ごとの含有量(mg)
SS濃度(mg/L) 0.0046mm(粘土) 0.063mm(シルト) 2mm(砂)
1090 10.8 70.9 18.2
624 12.9 66.1 21.0
261 8.7 63.4 27.9
146 20.5 67.4 12.0
42 16.5 63.5 20.0
35 12.4 74.1 13.5
34 16.1 66.0 17.9
31 15.2 64.6 20.2
28 14.9 64.1 21.0
21 19.0 76.7 4.3
16 11.5 71.7 16.8
12 13.3 63.9 22.8
100
増谷川でも3.7,5.1,8.1となるため同様である。粒径が細かいほど数値が安定的であるの はその土砂の供給源の違いが粒径ごとにあると推測している。基本的に粒径の細かい土砂 は山地河川においては水底部でも見られ,流量が上昇すれば容易に下流へと輸送される。そ のため供給量が安定的であり標準偏差は小さい。一方で,砂は水位低下時では水に浸からな いような位置に堆積する状況が見られ,流域内の分布的な水位の上昇や河川への土砂流出 のタイミングに従ってその供給量はばらつくと考えられる。相対的に増谷川の標準偏差が 七ツ山川に比べて小さいのはその流域面積によるものであると考察している。七ツ山川は 流域面積約90.2km2であり,約20km2の3つの支流を上流部に持つ。その一つが川内川で ある。山地部の特徴として降雨分布にばらつきがあり,流量が支流ごとに一律に上昇しない ため相対的に標準偏差が大きくなると考えられる。
今回,七ツ山川の濁度は川内川と同様であると仮定する。川内川は解析結果からも考察さ れるようにその移動土砂の粒度はほとんど粒径2mm以下を主体として構成しており,河床 変動にはほぼ寄与しないため浮遊砂のみで土砂流出量の推定が可能であると思われる。一 方で,増谷川は粒径2mm以下の土砂も顕著に堆積することが計測および河床堆積物の調査 より確認されており,粒径2mmは増谷川では浮遊砂及び掃流砂の両方の形態を取る重要な 粒径である。2次元河床変動計算により,河床状況を再現することができればその流域から 流出する土砂を浮遊砂,掃流砂と分けて算出することができ,土砂の移動形態にわけて土砂 流出量を換算することが可能である。図 4-13は2次元河床変動計算により算出した増谷川 河口部の掃流砂と流量の関係を示している。これらを用いて次のように式を整理する。
図 4-13 増谷川の掃流砂量と流量の関係 0.003
0.0035 0.004 0.0045 0.005 0.0055 0.006 0.0065 0.007
2.9 3 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6
掃流砂濃度(m3/s)
流量m3/s
101
【川内川の土砂流出量推定式】
{土砂流出量(𝑚3) } = (浮遊砂量)
= (𝑆𝑆濃度) (⁄ 土粒子密度)× (流量) × (時間)
= (0.932 × (濁度) − 65.477) × 10−3⁄(2.65 × 106)× (流量) × (時間)
(4-76)
【増谷川の土砂流出量推定式】
{土砂流出量 (𝑚3)} = (浮遊砂量) + (掃流砂量)
= (𝑆𝑆濃度) (⁄ 土粒子密度)× (流量) × (時間) + (掃流砂濃度) × (時間) = [0.9449 × (濁度) − 84.34] × 10−3⁄(2.65 × 106)× (流量) × (時間) +[0.0031 × (流量) − 0.0052 ] × (時間)
(4-77)
ただし,土粒子密度は2.65 g/cm3とする。濁度については図 4-11の分布を参照する。
したがって,各支流域からの土砂流出量は流量さえわかれば推定することが可能である。