第 5 章 ダム貯水池内の土砂流出現象の実態把握
5.1 はじめに
ダム貯水池内の河川支流からの土砂流出状況は,現状としてダム貯水池内の堆砂量で評 価されており,支流域単位の土砂流出現象の傾向については評価されていない。土砂移動に 関する蓄積データとしても,貯水池内の堆砂量変化や河床材料の変化を部分的に観測して いるだけであり,それらがどの支流域からどの程度影響をうけたものかについては評価が 進んでいない。また,支流域に対しても土砂流出現象の特徴について差別化されていない場 合がほとんどである。
一般的に,ダム貯水池内を含む広範囲の土砂移動把握手法として河床変動計算が用いら れる。河床変動計算では,上流からの流量および土砂流入量と下流端(ダム堤防)の境界条 件,計算を実施する区間の初期の河道状況(平均河床高,基盤岩の河床高,粒度分布など)
のデータが必要である。上流からの入力値を除けば,その他のデータに関しては定期的に観 測されており入手可能であるため比較的容易な手法である。しかし,一般的に河川支流の流 量データについては観測されていない。従来では河川支流の流量はダムを通過する流量を 河川支流の流域面積に応じて按分した数値としており,支流域の持つ貯水能力などの水文 特性については考慮されていなかった。そのような状況からタンクモデルや貯留関数法を 用いて観測流量からモデル化するケースもあったが,これらの手法は流域サイズのみを考 慮し,流域内の貯水,流下能力については補正係数として包括している。山地流域について は土壌や地形の形成がより複雑であり,それらが流域の水文特性を支配している。そのため,
山地部の流域では流量の再現に際しては地形や土壌特性を考慮した手法を用いることが適 切だと考えられる。
水文モデルにより与えられる流量のように,河床変動計算とは解析に必要な数値を用意 して試行計算を繰り返せば,ある程度の収束した解を得られる手法である。そのため,各解 析に必要な数値を如何に設定したかが解析結果に影響を及ぼすと考えられる。解析設定上 の不確定な数値をどのようにして実際の現象から決定するかが解析を実施する上で重要で ある。
5.1.1 ダム貯水池への土砂流出の広域的な把握・予測の必要性
(1) 土砂流出現象の広域把握・予測の必要性と課題
ダム貯水池内への土砂流出において,最も注意しなければならないのは流域全体の土砂 流出のバランスを維持することであると考えらえる。特に,大規模災害による土砂の流出は 崩壊地付近のみではなくその下流へ長期的に多大な影響を及ぼすものである。そのため,予
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見的に土砂流出が起きそうな箇所,もしくは流域を把握し,それに対して土砂流出を抑制,
観測,防止など対策をしておくことが求められる。
土砂流出源となる崩壊地の予測や支流域単位で地形や地質を考慮した土砂流出の予測,
など様々な広域の土砂流出現象を評価する手法があるが,実際問題としてそれらの評価が 土砂流出現象の把握・予測ができる単一のモデルとして活用されるケースはほとんどない。
どの手法を採用したとしても,流域が違えば地形から地質まで様々な条件が異なるため,と いった理由から正確な把握・予測が行えず,土砂流出現象を把握,予測するためにどのよう な要因が重要であるのか定まっていないのが現状である。そのため,ダム貯水池の管理を中 心に考えれば,実績データとして計測されているダム堆砂量を活用し,現状の土砂流出現象 の傾向把握の精度を強化することが望ましい。
広域モデルの主な課題としては,山地の複雑な地形を包括的に捉えており,降雨などの誘 因との組み合わせで予測されるため,該当する流域が過剰に抽出される点にあると考えら れえる。そのような評価に対して実際の土砂流出状況について確認するまで検証されたケ ースも少ない。地形や降雨などのデータから土砂流出現象を相対的に評価することはでき たとしても,山地河川の土砂流出については第3章で説明したように流域の発達状況やそ の河道の形状に左右されやすく,実際の土砂流出状況を度外視して山地地形と誘因の組み 合わせのみでその評価を担うことは難しい。
(2) 山地河川の特徴を考慮した河床変動計算
多くの河床変動計算が上流域からの土砂流出量を算定することを目的としており,多く のケースでその粒度分布についてはあらかじめ同一であると仮定している。実際の解析作 業では,上流域からの土砂流出量を解析ごとに調整し,解析結果が実際の計測結果に近づく までその過程は繰り返される。上流域からの土砂流出量は,平衡給砂量(流量に見合った土 砂量)を代表粒径ごとに計算し,平衡給砂量に係数を乗じて設定するのが一般的である。(平 衡給砂量は上流に流下可能な土砂が十分に存在するという仮定で与えられる数値である。)
上流域間の粒度分布の違いは上流域からの土砂流出量の調整の過程に含まれている。
沖積河川のように土砂の分級が進み,解析区間の下流域から上流域まである程度土砂の 粒径が均一である状態であれば,前述した手法でも問題はないと思われる。しかし,ダム流 域を下端として上流に支流域を複数持つような山地河川においては土砂流出量よりもまず 堆積物の粒度情報に着目すべきだと考えている。土砂流出量の算定には流量が大きく影響 し,流量見合いで土砂流出を評価する解析モデルとなりやすい。言い換えれば,流量が大き な流域の土砂ストック量(流域の堆積層厚や河道の堆積物の量など)やその材料に支配され やすい。第3章では,支流域の河床変動についてUAVを用いた空中写真測量による評価を 行ったが,その傾向として特徴的だったのは移動している土砂の粒径が大きく異なったこ とである。また,山地河川では同じような地形の河川であっても土砂流出状況が全く異なる
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ことが特徴として報告されている1)ことから,土砂流出量を解析的に求める前に河床材料等 の変化を確認することから始めるべきではないだろうか。地形や地質と河床材料に有意な 関係性があるのかについては難しい問題であるが,量だけではなくその質(粒径)にも注目 すれば,河床変動計算結果の解析精度の向上および広域的な土砂移動状況の評価につなが るのではないかと考えられる。
まずは河床変動計算をベースとして,観測堆砂量と山地河川の特徴に適した条件で,山地 河川における土砂移動状況をより明確に把握することを目標とする。
(3) 河床変動計算による土砂流出現象の把握の重要性
近年,流域内における土砂流出の不均衡に伴って様々な領域で土砂問題が発生している ことから流域一体として土砂の流れを考える,総合的な土砂管理の考え方が推進されてい る。流域一体とは言っても,設備規模が大きく流砂系に絶大な影響を与えるダム・貯水池の 役割は極めて大きく2),流域全体の土砂移動の不均衡を解消するためにダム下流への土砂排 出設備(排砂バイパスなど)の設置や流域内の土砂流出現象の把握,そして予測の技術構築 が求められている3)-6)。
本章の研究対象である耳川流域においても,平成17 年の台風14号における災害を重大 視し,河川管理者である宮崎県は,土砂に起因する様々な問題を流域全体で正しく捉え,水 系一貫で土砂の流れを管理していく耳川水系総合土砂管理計画7)を策定している。それに伴 って,耳川流域にあるダムについてもダム改造工事により通砂運用 8)が現在開始されてお り,流域内の土砂連続性の回復を図るとともに全体の土砂バランスをコントロールしてい る。このような運用においては,土砂流出現象の的確な把握・予測をする技術が必要であり,
本研究のように山地河川の特徴を捉えた解析によりでどのような土砂流出評価ができるの かは把握技術の向上にもつながる。
5.1.2 本章の流れ
本章の河床変動計算手法について,次の要素を取り入れ,山地河川における土砂移動をよ り正確に再現することを試みる。そのために,以下の要素を取り入れる。
支流域の水文特性をより重視した水文モデルの構築
河床変動計算における不確定要素の決定
具体的には,まず支流域河口の河床粒度についても整理する。そして,粒度分布の傾向に 応じて,支流域の地形的な特徴との関連性について検討する。河床変動計算における流量デ ータについては,観測流量から地形データを考慮した水文モデルの構築により再現する。こ のように,山地流域の急峻な地形や土壌の性質に加え現河床の状況を考慮した入力値とし