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流域単位の土砂移動特徴の評価

第 6 章 GIS を用いた大規模土砂生産時の土砂移動状況の把握

6.4 流域単位の土砂移動特徴の評価

6.4.1 災害直後の河道状況の調査

災害後に乙石川流域内の土砂移動状況を確認するために現地踏査を行った。実施した期 間は2017年の8月,9月及び11月である。ただし,11月の調査についてはすでに災害普 及のため土砂の人為的な移動等が行われているため,本流の土砂堆積状況については8月 及び9月の調査状況に基づいている。本調査では,特徴的な堆積状況の変化の記録と本流堆 積土砂の堆積厚の測定を実施した。写真の撮影位置および測定した堆積厚を図6-9に示す。

図 6-8 乙石川本流部の土砂移動範囲における河床変動 (A~Cのポイントで上流域の崩壊面積を評価)

A

B

C

158

図 6-9 撮影した写真の位置及び測定した堆積厚

(1) 河道の侵食状況および洪水堆積物の特徴

1) 松末小学校付近の乙石川左岸側の侵食状況(図 6-10(a))

この付近では,大幅な河道侵食が発生しており,埋設されていたパイプライン等が露出す るような状況が確認された。侵食された河道の断面は,断面底部から厚さ1 mのシルト質 礫層,厚さ1mのシルト質砂層,最上部に植生を挟みおよそ30 cmの緩い砂層で構成され ている。植生より下部の層は,過去の災害による堆積物であり本災害により侵食され露出し たと推測される。最も下部に位置するシルト質礫層は,洪水堆積物等に見られる層状の構造 を持たず,礫の一部には花崗岩を含み板状の結晶片岩が目立っている。また,粗礫から粗石 サイズの材料により構成されている。中部に位置するシルト質砂層は,層状の構造を持ち,

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中礫を主体とする部分も一部確認される。植生上部の砂層は,河床を構成する土砂と同じ性 質の土砂であり,本災害による堆積物である。この堆積物は主に細礫から砂で構成される。

また,これらの堆積物が中礫程度の礫により覆われた状態の堆積箇所が調査中数度確認さ れた。

2) 松末小学校から180m上流の乙石川右岸側の侵食状況(図 6-10(b))

水面から約30cmまでの高さまでは,風化した褐色の花崗岩の層が確認される。そして,

その上部にはシルト質礫層が約1 m分布しており,さらにその上部に厚さ1.5 mのシルト 質砂層が分布している。写真右側ほど花崗岩の層が厚く,中部の礫層は場所により分布して いない。また,観察した断面の一部に砂層と花崗岩の境界でパイピングが生じたと思われる 箇所があり,水の噴出により洗われたと推測される礫分がその下部で確認された。

3) 侵食により露出した古い石垣と侵食断面の状況(図 6-10(c))

この侵食が観察された箇所は,松末小学校より 545m 上流の左岸側である。この侵食断 面上部は,農耕地であり写真より確認される石は古い石垣と推察される。その上部に無構造 の巨礫を含むシルト質砂層が約1 mの厚さで分布している。さらにその上部に約20cmの 厚さの砂層が分布しており,この堆積層は現在の(災害前の)石垣の高さより上部に位置す るものであると確認された。

4) 本災害による洪水堆積物(図 6-10(d))

この洪水堆積物は,乙石川下流の各所で確認されたものである。写真の洪水堆積物は 80cmから60cmのものであり,崩壊や上流部の土石流堆積物を土砂供給源として,水流に より運搬され,乙石川下流部の各所で堆積したと推測される。この堆積物の主な粒径は砂か ら細礫サイズであり,その中部では中礫サイズの狭い層が2~3層確認できる。堆積物表層 は,板状の中礫から粗礫で被覆されている状況が特徴的であり,粘土分は少なく乾燥した堆 積物は脆い。

5) 乙石川本流部の災害後流量が低下した状態における土砂移動状況(図 6-10(e))

写真は8月初旬に調査した際の乙石川本流部における状況である。調査地の河床勾配は 緩やかであり,水深は10cm程度である。水は濁水となっており,水流部の河床は足が沈む ほどの強度であり洪水堆積物に比べて細粒分や砂が集中的に分布していた。また,写真中の 黒い物体は約5 cm程度の礫分であり,中礫程度の礫がいくつも河床を転動している様子を

160 (a)

(b)

(c)

(e)

(d)

図 6-10 撮影した現地写真,(a)松末小学校付近の乙石川左岸侵食断面の写 真,(b)乙石川下流部の右岸側侵食断面の写真,(c)侵食により露出した礫分 を含む砂層断面の写真,(d)乙石川本流で確認した砂および中礫で構成される 洪水堆積物の写真,(e)災害直後の乙石川本流の土砂移動状況の写真

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確認した。この時期の水流では動かないような礫が移動した要因としては,河床を構成して いる細粒分の存在比率が大きく,頻繁に動いているため,礫分下部の河床が安定せず流動し て緩やかな河床勾配に従って移動していたと考察できる。

(2) 堆積物厚さの計測

堆積物の厚さの計測は,重機による掘削作業が始まった9月に実施され,計6箇所で堆積 物層の厚さを計測した。計測位置とその厚さは,図 6-9に示すとおりである。また,これら は人為的な土砂の移動が行われていない堆積物に対して実施されたものである。しかし,谷 底平野部の堆積領域だけでも依然として多く,大きすぎて安全上立ち入りが困難な場所も 多かった。

堆積物の特徴としてはまず,堆積物の厚さは均一ではなく,上流側に行くほど谷部が狭く なり,それに伴って堆積層厚も増加する傾向が確認された。通常は,図 6-10(d)に示すよ うな中礫層を有する砂を主体とした堆積物が各所に存在していた。堆積層厚2.2mが確認さ れた付近では,シルト質で中礫や粗礫を含む構造を持たない堆積物が確認されている。この 堆積物は,下部に厚さ40cm程度の洪水堆積物,その上部は厚さ1.8mほどの無構造なもの であった。この地点は支流部の出口でもあったため支流からの土石流堆積物であると推測 された。しかし,本流の堆積物としてはまだ洪水堆積物の割合の方が多いエリアである。以 上より,斜面の崩壊と土石流の発生には時間差があるのではないかと考察している。

6.4.2 河川の流量及びシリカフラックスの分布

(1) シリカフラックス計測の意義

流域末端の河川水は,降雨が表層流や中間流,基底流など様々なプロセスを経て最終的に これらが混合されたものである。河川水中のシリカフラックスについては,水―岩石反応だ けで説明可能である 11)と言われており,長期的な岩石の風化程度の指標として用いられる

12)。土壌中のシリカは水との反応により容易に溶出することから,降雨による山地渓流にお ける流量の時間的変化などの短期的な現象に用いられた事例 13)もあり,流域内における残 存土砂量や水文的なプロセスの違いの評価指標となることが期待される。

(2) 調査の手法及び時期について

河川流量の計測及びシリカフラックスの調査が行われたのは,2017年11月及び12月で ある。対象とした支流は,図 6-11に示される右岸側10支流,左岸側11支流の計21支流 である。乙石川支流の河川流量に関しては,希釈法および容器法により計測されている。ま

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た,溶存シリカの測定については河川水約100mLのサンプリングを行い,0.45µmのフィ ルターで懸濁物質をろ過した後に,モリブデン黄法による比色法14)にて測定した。

(3) 調査結果およびその考察

計測された流量の平均値は,11月で2.4mm/day,12月は2.1mm/dayであった。アメダ スによる朝倉地区の観測情報を確認すると,2017 年の 10 月~12 月の期間の月降水量は 各々295.5mm,22.5mm,17.0mmであり,降水量の減少に応じて河川流量も減少したこと が推測される。溶存シリカ濃度の平均値は,11月,12月ともに支流で290µmol/Lであり,

12月に計測された本流における数値は280µmol/Lと支流に対してあまり変化しなかった。

図6-12は各支流域の流量(mm/day)及び溶存シリカ濃度(µmol/L)の関係を示してい る。右岸側10支流の計測値は赤丸で示され,左岸側 11支流の計測値は黒丸で示されてい る。乙石川本流で計測された数値については,プラス記号で表示されている(4箇所)。河 川流量は,右岸側支流においては 1~2.5mm/day の範囲に分布しているのに対して,左岸 側支流では0.5~4.5mm/dayの比較的広範囲にわたって分布している。本流における計測

図 6-11 調査対象支流

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値は安定した値を取っている。調査支流の中で,最も溶存シリカ濃度が高い数値は右岸側支 流で計測されており,最も低い濃度は左岸側で計測されている。また,左岸側のみおよそ

R=0.8の高い相関係数が確認されている。

図 6-13 は各支流の流域面積(km2)とシリカフラックス(mol/day/km2)の関係を示し ている。また,図中にはシリカフラックスの平均値と標準誤差(σ)の値が青線で示されて いる。本流のシリカフラックスの値は,おおよそ平均値に近い値を取り安定的な分布をして いる。右岸側の支流についてもシリカフラックスの数値は集水面積に関わらず平均値近い 値狭い範囲を示したが,左岸側についてはばらつきが大きく,特に流域面積が小さい支流に おける数値のばらつきが目立っている。

これらの右岸側支流と左岸側支流の計測データの傾向の違いは,崩壊地の分布や地形的 な違いの影響を受けていると考えられるため,崩壊地や地形データと合わせて流域の特徴 について検討する。

図 6-12 河川流量(mm/day)と溶存シリカ濃度(µmol/L)の関係(図 6-12 において は,黒丸で左岸側支流のデータを示し,赤丸は右岸側支流のデータを示す。図中には,参 考値として 25℃及び 75℃における石英溶解時の数値 14,草原土壌及び森林土壌におい て測定された数値13)を示す。)