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漢和辞典における慣用音の調査およびその結果の概要 2.1 調査の対象と範囲および調査方法

第5章 〈慣用音〉について

第2節 漢和辞典における慣用音の調査およびその結果の概要 2.1 調査の対象と範囲および調査方法

どのような字音が慣用音として認められているのかを、調査する。調査の対象は、現 在の日本語で比較的使用頻度の高いと認められる「常用漢字表」の2,136字と「表外漢 字字体表」の826字、合計2,967字とする。

調査は、現在比較的広く用いられている漢和辞典の中から、出版社と編者が異なる次 の三種を選び、その範囲内で行う。

『角川新字源(改訂版)』角川学芸出版(1994) 小川環樹ほか編

『新選漢和辞典(第七版)』小学館(2003) 小林信明編

『学研新漢和大字典』学習研究社(2005) 藤堂明保・加納喜光編

この三種の漢和辞典の2,967字から、慣用音の付されたものを選んで、調査・分析す る。まず、三種の漢和辞典すべてが慣用音と認めている字を中心に調査する。そのうえ で、二種または一種の漢和辞典のみ慣用音と認めている字も参照する。

2.2 調査結果

2,967 字のうち、調査した三種の漢和辞典のいずれかに慣用音として認められている

字は254字存在する。このうち、三種の漢和辞典すべてが慣用音として認めている字は、

表(1)で掲げた145字である。

表(1) 三種の辞書が慣用音と認める漢字(145字)

※印は、辞書によって慣用音の音形が異なる字に付す。(以下の表も同じ)

圧アツ 院イン(ヰン) 員イン(ヰン) 韻イン(ヰン) 均イン(ヰン) 佳カ 掛カ(クヮ) 街ガイ 該ガイ 渇カツ 合カッ・ガッ・

ゴウ(ガフ)※

月ガツ・ゲツ※ 甲カン・カッ※ 含ガン 危キ

欺ギ 戯ギ・ゲ※ 犠ギ 喫キツ 暁ギョウ(ゲウ) 紅ク 偶グウ 遇グウ 隅グウ 宮グウ・クウ※

軍グン 茎ケイ 掲ケイ 劇ゲキ 撃ゲキ 研ケン 験ケン 誇コ 格コウ(カウ) 仰コウ(カウ) 郷ゴウ(ガウ) 拷ゴウ(ガウ) 剛ゴウ(ガウ) 石コク・シャク※ 近コン 酢サク 冊サツ 早サッ 雑ザツ・ゾウ※ 惨ザン

祉シ 次ジ 滋ジ 璽ジ 除ジ(ヂ)

執シツ・シュ※ 湿シツ 実ジツ 十ジッ 煮シャ

入ジュ 充ジュウ 銃ジュウ 従ジュウ・ジュ※ 縦ジュウ 獣ジュウ(ジウ) 汁ジュウ(ジフ) 渋ジュウ(ジフ) 准ジュン 準ジュン 遵ジュン 蒸ジョウ 迅ジン 髄ズイ 枢スウ 崇スウ・ス※ 数スウ 税ゼイ・ダツ 説ゼイ・セツ※ 責セキ 摂セツ 接セツ 染セン 想ソ 憎ゾウ 造ゾウ(ザウ) 妥ダ 蛇ダ 耐タイ 滞タイ 濁ダク 堪タン 反タン・ヘン※ 茶チャ 注チュウ 鋳チュウ(チウ) 緒チョ 賃チン 頭ト 登ト 胴ドウ 匿トク 南ナ 納ナ・ナッ・ナン

・トウ(タフ)※

軟ナン

女ニョウ 濃ノウ 派ハ 陪バイ 暴バク 爆バク 抜バツ 閥バツ 罰バツ・バチ※ 般ハン 判バン・ホウ※ 板バン 番バン 否ヒ 批ヒ 罷ヒ 匹ヒキ 拍ヒョウ(ヒャウ)ヒョウ(ヒャウ) 便ビン 不フ・ブ※ 豊ブ 夫フウ 覆フウ・フク※ 復フク 沸フツ 噴フン 別ベツ 返ヘン 畝ホ 父ホ 剖ボウ 紡ボウ(バウ) 膨ボウ(バウ) 朴ボク 法ホッ・ハッ 坊ボッ・ボウ※ 輸ユ 由ユイ 裕ユウ 立リツ 虜リョ 漁リョウ(レフ) 露ロウ 賄ワイ

次に、二種の辞書が慣用音と認める漢字を表(2)(3)で掲げる。

表(2)『角川新字源』と『新選漢和辞典』が慣用音と認める漢字(47字)

乙オツ 画ガ(グヮ) 訓キン 救グ 身ケン 個コ 拘コウ 可コク 告コク 搾サク 述ジュツ 術ジュツ 手ス 寿ス 足スウ 寸スン 舌ゼツ 絶ゼツ 捜ソウ(サウ) 測ソク

帥ソツ 率ソツ 打ダ 奪ダツ 通ツウ・ツ※

仁ニ 寧ネイ 熱ネツ 培バイ 富フウ 仏ブツ・ボツ※ 発ホツ 末マツ 抹マツ 密ミツ 米メ 命メイ 名メイ 銘メイ 鳴メイ 明メイ 盟メイ・

モウ(マウ)※

滅メツ 猛モウ(マウ) 没モツ 物モツ 話ワ

表(3)『角川新字源』と『学研新漢和大字典』が慣用音と認める漢字(31字)

奥オク 渦カ(クヮ) 偽カ(クヮ) 競キョウ(キャウ) 峡キョウ(ケフ) 狭キョウ(ケフ) 後ゴ 差サ 宗シュウ 増ゾウ

卒ソツ 停チョウ(チャウ) 弟デ 適テキ 斗ト 土ド 同ドウ 洞ドウ 銅ドウ 動ドウ 童ドウ 博バク 評ヒョウ(ヒャウ) 副フク 母ボ

簿ボ 僕ボク 迷メイ 毛モウ(マウ)・モ※ 耗モウ(マウ) 竜リュウ・ロウ※

最後に、一種の辞書のみ慣用音と認める漢字を表(4)に掲げる。なお、『新選漢和辞典』

と『学研新漢和大字典』については、それだけが慣用音と認める漢字は存在しないため、

『角川新字源』のみ慣用音と認める漢字を掲げる。

表(4)『角川新字源』のみ慣用音と認める漢字(31字)

亜アツ 和オ(ヲ) 空クウ 華ゲ 欠ケツ

顕ゲン 減ゲン 碁ゴ 住ジュウ(ヂュウ)ジュウ(ヂュウ)

且ショ 助ジョ 召ショウ(セウ) 推スイ 施セ 障ソウ(サウ) 側ソク 台ダイ 脱ダツ 柱チュウ 駐チュウ 痛ツウ 乳ニュウ 柔ニュウ(ニウ) 農ノウ 封フウ 保ホ 麻マ 売マイ 盲モウ(マウ) 糧ロウ(ラウ)

以上に示したように、調査で使用した三種の漢和辞典のいずれかに慣用音として認め られている漢字は、調査の対象である2,967 字のうち、254字存在する。このうち、三 種すべての漢和辞典に慣用音として認められている漢字は、表(1)のとおり 145 字で

2,967字の約5%である。

表(4)から、『角川新字源』は、他の二種の漢和辞典では慣用音と認めていない多くの 漢字に慣用音を認めていることが分かる。

表(2)(3)(4)から、二種または一種の漢和辞典しか慣用音を認めていない漢字でも、「告 コク」「同ドウ」「空クウ」など、このように日常よく使用される字音が存在することが 分かる。しかし、これらの漢字は、一部の漢和辞典が認めているだけで、どの漢和辞典 も慣用音と認めているわけではない。これは「慣用音」の定義が曖昧であることと関係 があるように思われる。

では、どのような字音が慣用音とされているのか、一字ずつ検討する。まず、表(1) で示した145字について、検討する。

第3節 慣用音と認めるべき理由と範囲