10 熱力学とは
10.1 温度と圧力
圧力 圧力もわれわれは日常的に感じている.たとえばエレベータで低 いところから高いところに移動すると,耳に異常を感じる.耳が急激な気 圧の変化に順応しきれないためである.圧力の原因は,物体を構成してい +筆者の腕時計は気圧計が
ついている.高度が高いほど 気圧は低くなり,10 mで100 Pa (N/m2)低くなる.気圧 の変化からこの時計は高度計 としても使え,重宝している.
る原子・分子の衝突である.圧力は,単位時間,単位面積あたりに粒子が 壁に衝突して与える力積で決まる.粒子の力積は粒子の運動の激しさで決 まるので,圧力は温度が高ければ高いほど,強くなる.また体積を変化さ せると,1秒間あたりに衝突する粒子の数が変化するので,圧力が変わる.
状態方程式 圧力を気体の運動から簡単なモデルで求めてみよう.辺の 長さがLx, Ly, Lzの直方体を考え,Lxをx軸に,Lyをy軸に,Lzをz軸 に沿って置く(図10.1).質量m,速度v= (vx, vy, vz)の粒子が,x軸に 垂直な壁に当たると,力積mvx−(−mvx) = 2mvxが与えられる.簡単の +運動量の変化が力積であ
る.ニュートンの運動方程式
(第3.2節)参照
ため,vx >0とする.この粒子は1秒間にvx/Lx進むので,この壁には vx/(2Lx)回衝突する.よって,1秒間に壁に与えられる力積F は
F = 2mvx× vx
2Lx
= mvx2
Lx
(10.1) である.この壁の断面積はLy×Lzなので,壁の圧力は直方体の体積V を 使って
P = F
Ly×Lz
= mvx2
V (10.2)
である.粒子数がN個の場合,
P=N mvx2
V (10.3)
である.vx2は,vx2のN個の粒子にわたる平均値を意味する.
図10.1 圧力と粒子の運動の関係.粒子が壁にぶつかり力積を与えることで圧力が 生じる.
ここで温度を粒子の運動と結びつけよう.粒子の運動の激しさは,その 運動エネルギーの大きさから評価する.また,粒子の速さの統計平均は,方
10.1 温度と圧力 145 向によらないとする.つまり,
v2=vx2+vy2+vz2= 3vx2 (10.4) とする.このとき,温度を
kBT =mvx2= mv2
3 (10.5)
と定義する.温度は0℃でも気体の原子・分子は運動している.それなの
に式(10.5)では運動エネルギーが0になっているように見えてしまう.実
はこの式で定義される温度T は絶対温度とよばれるもので,日常的に使わ れる摂氏とは違う.摂氏と絶対温度は
絶対温度=摂氏+ 273.15 (10.6)
という関係があり,摂氏と区別するため,ケルビン[K]という単位を使う.
kBはボルツマン定数で,温度とエネルギーの比例関係の係数である.
kB= 1.3806503×10−23J/K (10.7)
以上から,気体の圧力,体積,温度の関係は
P V =N kBT (10.8)
となる.
気体の粒子数をアボガドロ数(NA)×モル数(n)で表すと,上の式は P V =nNAkBT =nRT (10.9)
となる. + 1気 圧 は 1.013×105Pa
(=N/m2) と 定 義 さ れ て い る.P V =RTより0℃,1 気圧の気体の占める体積は V =RT /P≒2.24×10−2 m3=22.4リットルである.
R=NA×kB = 8.314J/K (10.10) は気体定数とよばれ,式(10.9)は状態方程式とよばれる.
+歴史的には,温度,圧力,
体積の関係が調べられ,それ らの間の関係が状態方程式と してボイルやシャルルによっ て発見された.よってボルツ マン定数よりも気体定数が先 に定義されている.
内部エネルギー 気体の内部エネルギーUは U =
∑N i=1
1
2mvi2 (10.11)
である.viはi番目の粒子の速度である.速度の2乗の平均値は v2= 1
N
∑N i=1
vi2 (10.12)
で定義されるので,
U =N 1
2mv2 (10.13)
となる.式(10.5)を使うと,U は U = 3N
2 kBT = 3n
2 RT (10.14)
となる.
内部エネルギーと状態方程式を組み合わせると P V = 2
3U (10.15)
を得る.これは温度やモル数を含まないのでときとして便利な式である.
粒子の運動エネルギーは,並進運動だけとは限らない.粒子が2原子分 子の場合,2つの原子を結ぶ直線をz軸にとり,2つの重心を原点にとると,
x軸のまわり,y軸のまわりそれぞれに回転できる.並進運動のみ行う単原 子分子と,並進運動に加えて回転を行えるようになる2原子分子は,運動 の自由度が異なると熱力学では考える.単原子分子の自由度は3で,2原子 分子の自由度は5である.運動の方向が3方向あった場合,U = 3N
2 kBT + 分子は互いの距離が固定
されているので,3原子以上 からなる分子の自由度は6で ある.なお,二酸化炭素のよ うな直線状の分子だと3原 子でも自由度は5のままであ る.これらの自由度に加え,
分子内の振動の自由度も存在 する.
であったことを考えると,2原子分子の場合 U = 5N
2 kBT = 5n
2 RT (10.16)
となる.
運動エネルギーは各自由度に等しくkBT /2分配される.これがエネル ギー等分配則である.自由度fの分子では,
U = f N kBT
2 (10.17)
である.
ファン・デル・ワールスの状態方程式 粒子間に働く力を相互作用とよ ぶ.相互作用をおよぼし合っている粒子系は,解析的にも数値計算でも非 常に扱いづらい.そこで近似的に相互作用がない場合を考える.こうした 相互作用のない気体を理想気体とよぶ.原子1つからなる粒子の場合を単 原子理想気体,原子2つからなる粒子の場合を2原子分子理想気体とよぶ.
状態方程式(10.9)は理想気体に対してのみ成立する.
では理想気体からずれる場合,圧力,体積,温度の関係はどのように修 正されるのであろう.まず実際の原子・分子は大きさをもっている.そのた め,粒子が多いほど動き回りにくい.
V →V −bN (10.18)
とする.さらに,粒子が相互作用していると,圧力も変わる.相互作用に よる補正は粒子数密度N/V の2乗比例すると考え,
+相互作用を考える場合,必 ず相手が必要なので粒子数密 度に比例するのではなく,2 乗に比例する.
P→P+a (N
V )2
(10.19) とすると,状態方程式は
( P+a
(N V
)2)
(V −bN) =nRT (10.20)