2014
年 に3
年 ぶ り の プ ラ ス 成 長(実 質GDP
+0.9%
)へ回帰したユーロ圏経済は、引き続き緩やか な回復基調が続いている。2015
年は、新興国経済の 減速やロシア経済制裁の影響でドイツを中心に輸出 は大幅に減速したものの、原油安の追い風もあって 加速した個人消費が牽引し、実質GDP
は+1.5%
と なる見通しで、ユーロ圏*1経済はリーマンショック 前の水準にまで回復しつつある(表1
)。今後も、新興国経済の減速による成長や物価の下 振れリスクは高まるものの、雇用回復による家計所 得環境の改善とエネルギー価格の下落による低イン フレの長期化による実質可処分所得の押し上げによ り個人消費の拡大が継続し、
ECB
(欧州中央銀行)の 追加金融緩和なども背景に2016
年も実質GDP
+1.6%
と回復基調を持続すると予想される。難民の大量流入による財政支出の拡大や消費の押 し上げによる経済効果が期待される一方で、 現段 階ではドイツ経済を直接的かつ急激に減速させる懸 念は小さいと見られている
VW
(フォルクスワーゲン)排ガス不正問題や、パリ同時多発テロを受けてフラ
ンスを中心とした域内周辺国における投資・観光マ インドの悪化など、定量的に計りきれない新たな要 因による不透明感も高まっている。
一方、英国経済であるが、
2014
年の実質GDP
が+
3.0%
の高成長となり、2015
年も失業率は自然失 業率(5%
前半)並みの水準まで低下するなど、雇用 環境の改善が一段と進んでおり、実質GDP
+2.5%
を確保する見通しで底堅い拡大を継続している。今 後も、個人消費の拡大と堅調な設備投資の国内民間 内需を背景に
2%
台の成長率を予想する。2.
欧州建設市場の現状と見通し欧州の建設市場(
EC19
カ国*2:ユーロコンストラクト 加盟国)は、2014
年に長らく続いた景気後退が底を 打ち全体での建設投資が+1.3%
とプラスに転じ、2015
年も引き続き+1.6%
と、緩やかながら拡大基 調にある(表2
、表3
)。EC19
カ国の市場規模は、2015
年のGDP
総額が14.4
兆ユーロ、うち建設市場が1.37
兆ユーロとGDP
における建設事業の割合は9.5%
程度である。2006
年の12.1%
からは大きく下落し、近年における経済 への建設市場の役割も大きく変化してきている。さて、
EC19
カ国における2015
年度の建設投資高1
兆3,707
億ユーロの内訳(図1
)であるが、住宅が市 場の約46%
と変わらず大きな部分を占めている。非住宅(新築・改修)は市場の
3
分の1
で約4,357
億 ユーロの投資があったが、これは過去15
年大きな 変動はない。また、土木は約
3,102
億ユーロで全体の約23%
を 占め、今後も安定した割合が見込まれる(セグメント は図2
を参照)。なお、新築・改修別では、改修が全体 の51%
を占めている。今後の建設市場の見通しであるが、
2016
年以降2010 2011 2012 2013 2014 2015
(予想) 2016
(予想)
ユーロ圏 2.0 1.6 ▲0.8 ▲0.3 0.9 1.5 1.6
EU 2.1 1.8 ▲0.4 0.2 1.5 1.9 1.9
ドイツ 3.9 3.7 0.9 0.4 1.6 1.5 1.6 フランス 2.0 2.1 0.2 0.7 0.2 1.2 1.5 イタリア 1.7 0.6 ▲2.8 ▲1.7 ▲0.4 0.8 1.3 英国 1.9 1.6 0.7 1.7 3.0 2.5 2.2 チェコ 2.3 2.0 ▲0.9 ▲0.5 2.0 3.9 2.6 ポーランド 3.7 4.8 1.8 1.7 3.4 3.5 3.5 ハンガリー 0.8 1.8 ▲1.5 1.5 3.6 3.0 2.5 ルーマニア ▲0.8 1.1 0.6 3.4 2.8 3.4 3.9 表1 欧州実質GDP成長率 (単位:%)
出典:International Monetary Fund(October 2015)
*1 ユーロ圏:EU28カ国のうち、Euro通貨を導入している諸国(現 在18カ国)で形成される経済圏
2012年実績 2013年実績 2014年見込み 2015年予想 2016年予想 2017年予想 2018年予想
フランス 217,040 214,481 205,517 202,769 210,601 216,578 222,224
ドイツ 287,168 285,564 292,485 293,616 299,359 302,685 303,595
イタリア 169,737 163,832 160,247 160,963 163,912 167,339 170,687
スペイン 98,317 79,739 78,275 80,191 83,685 86,998 89,848
英国 177,882 181,330 195,533 202,823 210,284 219,630 221,244
(※西欧主要5カ国計) 950,144 924,946 932,057 940,362 967,841 993,230 1,007,598 その他西欧諸国 343,105 338,520 345,615 354,163 363,603 371,489 379,927
西欧15カ国計 1,293,249 1,263,466 1,277,672 1,294,525 1,331,444 1,364,719 1,387,525
チェコ 16,542 15,387 16,012 17,192 17,760 18,372 19,170
ハンガリー 7,405 7,859 8,520 8,784 8,819 9,093 9,746 ポーランド 43,526 40,985 43,102 45,504 48,866 52,928 57,015 スロバキア 4,682 4,437 4,262 4,700 4,647 4,697 4,749
中東欧4カ国計 72,154 68,668 71,896 76,179 80,093 85,090 90,681
(西欧主要5カ国除く計) 415,259 407,188 417,511 430,342 443,696 456,579 470,608
EC19カ国合計 1,365,403 1,332,135 1,349,567 1,370,704 1,411,537 1,449,809 1,478,206
表2 欧州(EC19カ国)建設投資高 (単位:百万ユーロ)
出典:80th Euroconstruct Conference, Budapest, December 2015
建設市場13,707 住宅 3,706(27%) 住宅
2,542(19%)
改修:6,981(51%)
非住宅 2,105(15%)
土木1,170(9%)
土木1,932(14%)
非住宅2,252(16%)新築:
6,726(49%)
その他7%
治水12%
エネルギー 17%
通信8%
その他交通 8%
鉄道15%
道路・橋33%
3,102億 ユーロ
2012年実績 2013年実績 2014年見込み 2015年予想 2016年予想 2017年予想 2018年予想
フランス ▲0.7 ▲1.3 ▲4.2 ▲1.3 3.9 2.8 2.6
ドイツ ▲0.6 ▲0.6 2.4 0.4 2.0 1.1 0.3
イタリア ▲6.3 ▲3.5 ▲2.2 0.4 1.8 2.1 2.0
スペイン ▲31.4 ▲18.9 ▲1.8 2.4 4.4 4.0 3.3
英国 ▲7.7 1.9 7.8 3.7 3.7 4.4 0.7
(※西欧主要5カ国計) ▲2.4 ▲2.7 0.8 0.9 2.8 2.6 1.4
その他西欧諸国 ▲2.4 ▲1.4 2.1 2.4 2.6 2.1 2.2
西欧15カ国計 ▲6.1 ▲2.3 1.1 1.3 2.9 2.5 1.7
チェコ ▲7.7 ▲7.0 4.1 7.4 3.3 3.4 4.3
ハンガリー ▲3.3 6.1 8.4 3.1 0.4 3.1 7.2
ポーランド ▲1.8 ▲5.8 5.2 5.6 7.4 8.3 7.7
スロバキア ▲13.9 ▲5.2 ▲3.9 10.3 ▲1.1 1.1 1.1
中東欧4カ国計 ▲4.3 ▲4.8 4.7 6.0 5.1 6.2 6.6
(西欧主要5カ国除く計) ▲3.6 ▲2.0 2.5 3.0 3.0 2.8 3.0
EC19カ国合計 ▲6.0 ▲2.4 1.3 1.6 3.0 2.7 2.0
表3 欧州(EC19カ国)建設投資高の伸び率 (単位:百万ユーロ)
出典:80th Euroconstruct Conference, Budapest, December 2015
図1 欧州(EC19カ国)建設市場割合 (単位:億ユーロ)
出典: 80th Euroconstruct Conference, Budapest, December
2015 出典: 80th Euroconstruct Conference, Budapest, December
2015
図2 土木事業別割合(2014年見込み)
も緩やかながら年
2
〜3%
程度の伸び率を予想する。今後
3
年間で計約7%
超の伸び率により、2018
年 の建設市場規模は約1
兆4,800
億ユーロが見込まれ るが、これはリーマンショック以前である2007
年 の建設市場の約90%
程度で、この水準まで回復す るには、まだしばらく時間がかかりそうだ。国別でも、
2013
年には、EC19
カ国のほとんどの 国でマイナスもしくは停滞が見られたが、2015
年 にはフランスなどを除いてほとんどの国が増加に転 じた。なお、市場規模では主要5
カ国(ドイツ、フラン ス、英国、イタリア、スペイン)が欧州(EC19
カ国)建設 市場の約7
割を占めている状況に変わりはない。ドイツは、依然として欧州全体の約
21%
を占め ており、健全な状態にある。2016
年からはやや速度 が弱まり安定から停滞期に入るものと見られていた が、欧州全体で2017
年までに300
万人とも言われ る難民の主な流入先として、大都市圏を中心にその 住宅供給の影響などにより2016
年は2%
前後の伸 びを予想する。英国は、
2014
年に住宅(新築)の前年比+25%
増 と驚異的な市場拡大により全体でも+7.8%
の伸び となったが、2015
年以降は住宅(新築)投資も3%
台 に落ち着き、2016
年は全体で3
〜4%
前後の市場拡 大を見込む。また土木でも道路、エネルギー投資を 中心に高成長が期待されている。フランスは、堅調なドイツや住宅市場の急速な拡 大により好調な英国に比べ、景気回復の遅れと低調 なインフラ関連の影響で
2015
年も▲1.3%
と厳し い状況であるが、2016
年以降は住宅市場の回復な どによりプラスに転じると予想する。ただし、パリ 同時多発テロによる投資マインドの悪化がどの程度 影響するかが懸念材料である。イタリアは、
2007
年に比べ約30%
減の市場規模となっている状況であるが、インフラ事業が堅調な 回復傾向にあり、
2015
年は0.4%
とわずかながらプ ラスに転じて、2016
年も1.8%
と予想し、新たな建 設市場のサイクルが始まったと思われる。スペインは、
2007
年の20%
以下(80%
超減)まで 建設市場規模が落ち込んだ2014
年から、2015
年は 景気回復(実質GDP
+3.1%
)を背景にプラスに転じ、2016
年以降も3
〜4%
の拡大が期待される。中東欧は、欧州(
EC19
カ国)建設市場の5%
程度の 規模にすぎないが、中東欧で最も大きな建設市場で あり拡大基調にあるポーランドを中心に、今後も年5
〜6%
のペースで市場拡大が期待される。ポーラ ンドでは、目覚ましい経済発展とEU
ファンドを背 景にすべてのセグメントで大きな伸びが期待され、特に土木ではインフラ関連を中心に、今後の
3
年間 で計30
〜40%
の伸び率を予想する。3.
おわりに米タイム誌の“
2015
年パーソン・オブ・ザ・イ ヤー”に、今世界で最も影響力のある人物のひとり であるドイツのメルケル首相が選ばれた。ドイツの 財政均衡を実現し、ギリシャ問題や難民問題でも強 力なリーダーシップを発揮して、ドイツの独り勝ち 状況をつくり出してきた。難民問題で逆風が吹き始 めているとも言われるが、2017
年の総選挙では4
期 目を目指す。ロシア・ウクライナ問題、デフレ懸念 や難民問題に加え、英国のEU
離脱是非を問う国民 投票(2017
年末までに実施予定)や右派勢力の台頭な ど、今後ますます難しい舵取りを必要とされる欧州 であるが、政治的・経済的な諸問題を抱えながらも、タフに着実に前に進んでいくだろう。
最後に、銀行監督権限をユーロ圏で
ECB
に一元 化した「単一監督制度」に続いて、2016
年1
月より「単一破綻処理制度」の運用も開始され、英国、ス ウェーデンを除く
EU
域内における銀行の破綻処理 もECB
で一元化されたことを付け加えておきたい。さまざまな困難や問題に直面しながらも、確実に欧 州統合は進んでおり、欧州経済も緩やかながら確実 に歩みを進めていくことを期待する。
〈参考および引用〉
・
80th Euroconstruct Conference, Budapest, December 2015
*
2
EC19
カ国は以下の通りドイツ、フランス、英国、イタリア、スペイン、オランダ、ベ ルギー、オーストリア、デンマーク、フィンランド、アイル ランド、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、スイス、ポー ランド、チェコ、ハンガリー、スロバキア
特集