1. 2015
年経済概況一昨年(
2014
年)のモディ政権誕生に伴い回復し たGDP
経済成長率は、昨年度の7.3%
を超える見込 みで、アジアの経済成長が鈍化する中、ついに成長 率トップとなった。インフラ公共投資の拡大、8%
から
6.75%
へ政策金利の段階的利下げ、原油安を背 景とした物価の安定(インフレ率5%
以下)、経常赤字 の低減、ビジネス環境の改善などの効果が浸透し、内需の強いインドは成長のポテンシャルは高く、ま さに実質的な景気上昇はこれからというところであ る。
GDP
シェアを目標の60%
へアップする製造業 強化政策(Make In India
)の強力な推進、昨年(2015
年)11
月に規制緩和された外国直接投資(FDI
)策の促 進、新外国貿易政策の推進による輸出拡大、各種手 続きの合理化、迅速化など、2
年間のモディ首相の 政策実行力、積極外交は評価され、実を結びつつあ ると言える。2.
インドに暮らして3
年、インドを知るインドは多様性の国と呼ばれている。何千年の 歴史の中で、あらゆる民族、宗教、文化を受け入れ てきた。多様な宗教の中で
80%
以上を占めるヒン ドゥー教は、宗教というよりは永らく続く生活習慣 と言える。シバ神、ビシュヌ神をはじめ、象のガネー シャ神、猿のハヌマーン神など数多くの神々を信仰 し、あらゆるものに神宿る神話の国である。日本に 伝わった七福神の大黒天、弁才天、毘沙門天も馴染 み深い。イスラム教やキリスト教、シーク教、仏教 をはじめ、あらゆる宗教が共存する、心も食物も豊 かな国である。29
の州ごとに言語や民族、文化が異 なり、紙幣には15
種類もの言語が使われる。英語を 広く公用語として通用させる教育が近年の発展の一 因であるが、言葉の壁を越えるためか、古来では神に捧げる民俗ごとの踊りや音楽、絵画、近年ではイ ンド映画産業ボリウッドが発達したと言われる。イ ンド人とのコミュニケーションは歌と踊りに尽きる のである。
インドでの生活は毎日がインクレディブルで、何 事に対しても
No Problem!
との返答には驚かされる ことの連続である。そもそも時間を守るという観念 が希薄で、間に合うか合わないかより、とにかく行っ た、できたという事実が重要という感覚である。人 口12
億人を超えていまだ増大を続け、2025
年には 中国を抜き、世界一にならんとする世界最大の民主 主義国家で、しかも25
歳以下が50%
以上という若 さとエネルギーに満ち溢れた人材の宝庫である。デリーの南隣、日本人が最も多く暮らすグルガオ ンの生活環境は、この数年間でかなり改善され、美味 しい焼鳥屋や和食レストランも増え、モール、スー パーの品揃えもかなりよくなっている。高級高層マ ンションやメトロの建設も盛んに行われている(写真
1
、2
)。3.
日系企業の進出と建設市場の動向日系企業の進出はこの
1
年でさらに増加を続け、昨年初めには
1,209
社、3,961
拠点となり、日本人は 約8,300
人以上が暮らしている。年間10
兆円を超え る規模の建設不動産市場は、鉄道、電力、上下水道 などのインフラ公共投資や100
のスマートシティ構 想に代表される都市開発、民間商業住宅開発、自動 車関連などの生産設備投資を中心に成長を続けてい る。特にこの1
年は台湾やオランダなどの大型投資 案件が話題を呼び、日系ではウッタルプラデェシュ 州での石炭火力発電所をEPC
受注した東芝ジェイ エスダブリュータービン・発電機社や、グジャラー ト州での本田技研工業、スズキ、チェンナイ近郊他でのいすゞ自動車、ヤマハ、コマツ、ユニ・チャーム、
アンカーエレクトリカルズ社の工場建設が話題を呼 んだ。しかし鉱工業指数(
IIP
)の上昇が続く中、建設 業の成長率はやや伸び悩みを見せている。日系企業の民間設備投資に関しても、前述の大手 自動
2
輪、4
輪の生産施設などが昨年前半に少なか らず出件したものの、新規企業の設備投資は少数で、土地の収容問題やアジア全体での需要の減退に伴う 新規投資の見直しなども重なり、少し停滞気味の
1
年となった。ただし、インフラの整ったグジャラー ト州の工業団地や、南印のチェンナイ、スリ、バンガロールの工業団地周辺で土地を確保する日系およ び外国企業の動きは盛んである。
4.
デリー・ムンバイ間産業大動脈構想と 円借款事業、工業団地開発デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(
DMIC
)は、デリーとムンバイを結ぶ大動脈としての貨物専用鉄 道約
1,500km
を6,400
億円あまりの円借款で整備 し、その周辺地域60
万km
2の開発を含む120
兆円 規模のインフラ整備、産業都市開発の計画である。双日とインフラ大手
Larsen&Toubro
が合同で貨物 線800km
の電化事業を受注、工事着手し、日立製作 所、三井物産なども合同で信号通信設備を受注、日 本の技術を活用するSTEP
を適用した円借款が供与 され、足を速めて動き出している。直接関連するグ ジャラート州、ラジャスタン州、ウッタルプラデェ シュ州、マハラシュトラ州など沿線各州では、FDI
誘致の投資セミナーなどの活動を積極的に展開して いる(写真3
)。その他の地域でもアンドラプラデェ シュ州の新州都計画、南インドのチェンナイ・バン ガロール産業回廊構想(CBIC
)など、各州でのイン フラ整備、FDI
誘致、各州首相の訪日なども盛んに 写真1 グルガオンのゴルフ場周辺で進む高級高層マンションの建設(大型型枠、枠組足場使用)
写真2 グルガオンで進むメトロの延伸(デリー市内、空港へ)
写真3 ラジャスタン州での投資サミット
展開された。円借款事業では、デリーと周辺工業団 地を結ぶ都市鉄道、各州の電力事業、再生可能エネ ルギー事業、ガンジス川浄化事業、ハイデラバード 工科大学のキャンパス整備事業など、運輸、上下水 道、電力ガス、農業森林灌漑、教育などの各分野に おいて、過去
10
年間の累計で約2
兆4,000
億円あま りの円借款事業が推進されている。工業団地開発では、デリーから
100km
、2
時間あ まりのラジャスタン州のニムラナ日系専用工業団地 で46
の日系企業が既に操業しており、さらにその 近くに、新しいギロット工業団地を開発し300
エー カーの販売を開始した(写真4
)。また、ハリアナ州 グルガオン近郊のMODEL ECONOMIC TOWN
(
MET
)では8,000
エーカーを超える土地を確保し て、モディ首相肝入りのインド商工省JAPAN PLUS
のもと、複合都市開発(工業、住宅、商業、物流複合)が 推進中である。グジャラート州サナンド工業団地、マンダル工業団地、アンドラプラデェシュ州スリ工 業団地、ウッタルカンド州シドクール工業団地(写 真
5
)などを含め、今までの工業団地に優る利点もあ り、今後の日系企業の進出が期待される。5.
今後の課題と見通し建設市場にとっての課題は、改善されつつあると はいえ、インフラ整備の遅れ、停電の多さ、給排水 インフラの不足、土地収用の長期化、道路網の未整 備、輸送の不確実さ、州ごとに異なる煩雑な付加価 値税や各種税制、許認可など官庁手続きの複雑さ不 透明さ、担当官僚の裁量権の強さなどなど、山のよ うに立ちはだかっている。しかしながら、あらゆる 資材や機器、人材も国内ですべて調達可能であり、
建設業の裾野は広く、バラつきの大きさを克服すれ ば十分な潜在的成長力があると言える。
昨年末の安部首相の訪印に際して、日印両政府は アーメダバード〜ムンバイ間
500km
の高速鉄道に 日本の新幹線方式採用を決定し、1
兆4,600
億円を 円借款で供与することが発表された。さらに原子力 発電所関連の資機材や技術の輸出を可能にする原 子力協定の締結を原則合意し、戦略的パートナーと しての日印新時代の幕開けを大きく印象づけた(写 真6
)。また、今年度4,000
億円規模の円借款をアー メダバードやチェンナイのメトロ事業、主要都市間 の交通網整備などに実施することも発表され、イン ドへの円借款がインドネシアを抜いて最大となる見 写真4 ラジャスタン州ギロット工業団地のNH8からのゲート写真5 昨年着工した日系建設現場での基礎RC躯体工事
込みである。日本の民間企業のインド進出促進のた め
JBIC
などが1.5
兆円分の投資支援を行うことも 決まっている。これらを契機として今後各地での日 系企業の直接投資、設備投資の拡大と建設市場の活 況が予想される。世界で唯一高成長を維持するイン ドにとっては、長年のインドの課題である間接税のGST
(物品、サービス税)への統一を早期に実現する ことが最も重要といえ、それと共に流通の改革が果 たされれば、本格的な経済成長が実現していくものと期待される。 写真6 バラナシでの日印両首相の初セルフィ(自撮り)