1.
エジプトのこれまで今から遡ること
5
年前の2011
年1
月25
日、大規 模な抗議デモによってエジプトの政治情勢は一夜に して緊迫化し、これに続く2
月11
日、強権支配を続 け鉄壁と思われていたムバラク政権があっけなく崩 壊した。ムバラク大統領退陣直後は国全体が興奮に 沸き立ち、国民は新時代の到来を予期していた。し かし、エジプトは迷走した。軍最高評議会に委譲さ れた暫定政権は、結果的に民政移管を要求するデモ の拡大を広げ、多くの死傷者を出す惨事となった。2012
年1
月、人民議会選挙投票が実施され自由公 正党が第一党となり、5
月の大統領選挙を経て6
月 のモルシ政権の誕生に繋がった。しかしこの政権も 迷走した。前政権からの潮流を変えることはできず、主要産業である観光業は極度に落ち込み、満足な 就労機会が得られない中で物価だけは高騰を続け、
2012
〜2013
年にかけて、モルシ政権に反対する抗 議デモが相次いだ。2013
年7
月、軍は突如モルシ大統領を解任し、憲 法停止と共に大統領を拘束、事実上の軍事クーデ ターを起こし暫定政権を発足させた。これに対し、モルシ元大統領の支持母体であるムスリム同胞団 は、爆弾テロなどで暫定政府に対抗するが、かえっ てムスリム同胞団支持者への弾圧が強められ、多数 の死傷者を生む結果となった。この頃、金曜礼拝後 に続く抗議デモは常態化し、常にどこかで死傷者が 発生しているという異常な日々が続いた。
2014
年5
月、選挙監視団が見守る中、大統領選挙 投票が実施され、6
月3
日シシ候補の勝利が公式発 表され、続く8
日、大統領宣誓式においてシシ新大 統領が誕生した。国民の多くはこの新政権の誕生を 好意でもって歓迎し、政権発足直後から実行された 経済再建政策にも、異を唱える声は聞かれず、アラブの春以降期待と挫折の中にあった停滞感が、国全 体で払拭されるような感覚に満ちていた。
2.
新政権下での公共事業シシ政権は、財政収支改善策を進めると共に経済 成長・再建を念頭に、住宅・交通インフラ・電力・
水道の
4
分野の整備に公共政策予算の6
割強をあて ると表明、またスエズ運河拡張工事などと共にいく つかの大型開発プロジェクトが表明された。また、大統領令により工期
3
年から1
年に短縮されたスエ ズ運河拡張工事は、2015
年8
月6
日、多数の国家元 首ほか100
カ国以上の政府代表の出席のもと、開通 式典が大々的に挙行された。開通式典に先立つ
3
月、外国投資呼び込みを図る「エジプト経済開発会合」がシナイ半島のリゾート 地シャルム・エル・シェイクで開催され、湾岸
4
カ 国による125
億ドル規模の投資・支援表明に加え、石油・天然ガス開発などのエネルギー分野や発電所 建設など電力分野を中心に総額
600
億ドルの新規投 資・支援表明がなされた。3. 2016
年建設市場動向1
)新首都建設構想上述の経済開発会合において「新首都建設構想」
が発表され話題を呼んだ。これは首都カイロの過密・
老朽化を受け、カイロから
45km
ほど東側、紅海ま でのほぼ中間地点に、面積約700km
2、人口約500
万の新都市を建設する構想で、総工費450
億ドルを かけ、21
の居住地区、25
の政治経済地区、国際空港、90km
2におよぶ太陽光発電施設、2,000
の教育施設、660
の病院・クリニック、40,000
室分のホテル、全 長約9,700km
の道路を建設する計画。2020
年から2022
年までに国会、大統領府、政府関連省庁、外国大使館の移転を完了させる計画で、
10
月11
日シ シ大統領は第1
フェーズを2016
年1
月から2
年以 内に完了させると発表した。それに先立つ9
月、中 国国営建設会社(China State Construction Engineering Corporation
)とMOU
(了解覚書)署名を行い、既にユー ティリティーラインの建設は開始されている。新旧首都位置図
2
)スエズ運河地域開発プロジェクト先に述べたスエズ運河拡張工事のみならず、スエ ズ運河地域全体をひとつの経済活動拠点と捉え、運 河沿岸地域一帯を国際的流通機能を備えた中核地 区とする、『スエズ運河地域開発プロジェクト(
SC Zone
)』の推進による開発プロジェクトが近年最大 の経済開発計画として注目される。中核地区として、運河北端の①東ポートサイド、
②中流域のイスマイリア、③南端のスエズ・アイン ソフナの
3
区域が指定され、おのおのの地区の地理 的条件・周辺環境などを考慮して、物流、海運関連 事業、情報通信、エネルギーおよび製造業の5
分野 が考えられている。2015
年11
月シシ大統領は「東 ポートサイド港開発プロジェクト」の開始を宣言 した。3
)運輸セクター関連最近運輸省より配布された運輸セクター関連の主 要プロジェクトを以下に列記する。
①港湾関連
・アレキサンドリア港 エル・グウナ石油港整備:
4
基新設バース、5
基既存バース改修(総工費2
億ドル)・ディケーラ港 食品加工・配給センター:
食品加工・包装および配送施設(総工費
2
億ドル)・ディケーラ港 ドライバルクターミナル建設:
新首都およびSC Zone位置図
開発地域 東ポートサイド イスマイリア スエズ・アインソフナ
誘致産業
*物 流(コンテナ ターミナル拡充)
*消費財製造業
*情報通信産業の R&D
*再生可能エネル ギー開発拠点
*農産物加工
*物流(ドライポー ト)
*海運関連事業
*物 流(コンテナ ターミナル拡充)
*消費財製造業
*石油化学 表1 スエズ運河地域開発プロジェクト(SC Zone)マスタープラン
多目的ドライ交易施設(総工費
1
億5,000
万ドル)・ダミエッタ港 多目的ターミナル建設:
多目的ターミナル建設(総工費
1
億5,000
万ドル)・ダミエッタ港 野菜・果物梱包ターミナル建設:
輸出用野菜・果物の梱包・冷凍センター建設(総 工費
2,500
万ドル)・ダミエッタ港 家具ロジスティック基地建設:
45
エーカーの家具工業ロジスティックフリー ゾーン建設(総工費3,200
万ドル)②鉄道関連
・エル・ディケーラ〜
10
月6
日市(6th of October City
)間貨物線建設:
10
月6
日市(6th of October City
)〜エル・ディケー ラ〜アレキサンドリア間を結ぶ全長200km
の貨 物船建設(総工費2
億ドル)・ソフナ〜ヘルワン間貨物線建設:
ソフナ港とヘルワン工業ゾーン間、全長
140km
の貨物線建設(総工費1
億4,000
万ドル)・アレキサンドリア〜アスワン間高速鉄道建設:
アレキサンドリア〜カイロ〜アスワン高速鉄道の 第
1
期である、アレキサンドリア〜カイロ間全 長200km
(総工費30
億ドル)・ルクソール〜ハルガダ高速鉄道建設:
ルクソール市〜ハルガダ市間新規高速鉄道建設
(総工費
20
億ドル)上記のほか、トンネルセクターとして、現在本邦 円借の
P
/Q
(事前資格審査)を実施中のカイロメト ロLine4
に続く、Line5
(全長約20km
、17
駅、25
億ドル)および
Line6
(全長約30km
、24
駅、35
億ドル)がある。また道路セクターとしては、北部の都市アレキサン ドリアから南部の都市アスワン経由、神殿で有名な アブ・シンベルを結ぶ道路建設計画(総工費
27
億5,000
万ドル)などがある。上記計画のほとんどは
BOT
/PPP
などでの実施 を想定しており、資金手当てもまだ確定していない ものが多く、実際の着工までには相当な時間が必要 と考えられる。また電力・エネルギー分野ほか、上 述以外の社会インフラにも多くの需要があるが、当 面の動きとしては、スエズ運河拡張に継続して、① 近年最大の開発計画である「スエズ運河地域開発 プロジェクト(SC Zone
)」に関連したプロジェクト、および、②新首都建設に関連したプロジェクトのふ たつを軸に展開されるものと思われる。
4.
終わりにシシ大統領就任以降、数年来続いた政治的混乱も 収束に向かい、各地で発生していたデモ・衝突も減 少し、今後の景気回復に弾みがつくと思われていた 矢先、
2015
年10
月に発生したピラミッド近くの爆 弾テロやシナイ半島でのロシア旅客機墜落事故な ど、治安に対する不安要素がいまだ払拭されていな いことを世界に知らしめる結果となった。そんな中、かなりの間停滞していた地下鉄円借款 事業の資格審査が開始され、また前述の経済開発 会合では新たな円借款事業(新ダイルート堰建設事業、
58.54
億円)のEN
・LA
の署名や、2015
年12
月には 無償資金協力案件(カイロ大学小児科病院建設、15.6
億 円)のEN
調印など、日本側からも活発な動きが見 られるようになったことは喜ばしく、今後のさらな る支援を期待したい。特集