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現実の組立環境は, 精密に設計されたロボットであっても個体には僅かな差があり, 動作速 度が異なり不具合が発生する近実環境である. これは大規模構造物組立に用いるロボットでも 同様であり, 特にSSPSが組立られる宇宙空間では急激な温度の変化や太陽風などによる速度 低下や停止など, ロボットの動作への影響が深刻である.このような環境下での実ロボットを 用いた実験は現実的ではなく,不確定要素が多く理論的解析も困難である.

したがって,この章では故障や速度差,規模といった,実際のロボットを用いた実験が出来 ない環境下をシミュレーション上で模擬し,提案手法の有効性を検証する.具体的には,速度 差や故障の無い理想的な環境下で,提案手法によって構造物が組立可能であることを検証した 後,提案手法の近実環境下での検証として, (1)ロボット速度の個体差, (2)ロボットの故障,更 に(3)構造物の規模,という3つの観点から提案手法を解析する.表5.1は2章において提示 した本論文のアプローチと各章の対応である.この表において灰色の部分がこの章が対象とす る部分である.

5.1 本研究の課題

理想環境 近実環境(個体差・故障) シミュレーション 第5章・前半 第5章・後半

理論・実機 第6章・前半(理論) 第6章・後半(実機)

ことを検証するため,三角形,四角形,六角形という三種類の形状のパネルについて比較し,

更に六角形パネルを用いて構成した凹型の構造物についても比較する.

5.2.1 異なるパネル形状の構造物組立

5.2.1.1 シミュレーション設定

ここでは,様々なパネル形状で組立が可能であることを示すため,表 5.2に表すケースにお いて,目的地設定について需要度に基づく方法と距離に基づく方法,六角形,四角形,三角 形の三種類のパネル形状を比較する.構造物上のパネル形状は全て同一であるとし,例えば

Case 1aでは,需要度に基づく目的地設定方法に基づいて,六角形パネルを用いて組み立てる

場合を表す.このシミュレーションでは,全てのロボットが取れる 1回の行動には移動・展 開・接続・主従交換があり,それぞれ(i)発電パネルのある頂点からその隣の頂点への移動, (ii) パネルの展開を開始してから完全に開くまで, (iii)開ききったパネルの接続を開始してから完 了するまで, そして(iv)ロボット間で通信し主従関係が交換するまで, を意味する.全てのロ ボットは1ステップに1回の行動が取れ,ロボット間に速度差はない.

組み立てる構造物は,図5.1〜5.3に示すように,緑のパネル保管所を中心として,その周り を4層分のパネルが取り囲む構造物とする.表5.3にそれぞれの形状のパネル枚数と出現させ るロボット数について示す.構造物上に出現させるロボット数は,2組(4体)まで出現させて 100回組立,次に3組(6体)まで出現させて100回と,1組ずつ増加させ,最大で,それぞれ のパネルにおけるロボット頂点の三分の一までとする.例えば,六角形パネルでは150頂点存 在するため,50台(25組)のロボットを最大のロボット数とし,2組出現させる場合から25 組出現させる場合までを調べる.

5.2.1.2 評価基準

シミュレーション結果は以下の二つの評価基準で評価する.

組立成功率

提案手法を用いて組立出来ることを検証するため,各ロボット数での100回の組立のう ち, 組立が完了したものの比率を組立成功率として比較する. 例えば, 20回組立が完了

5.2 理想環境下シミュレーション:多様な構造物組立 51

5.2 シミュレーションケース

需要度に基づく目的地設定方法 距離に基づく目的地設定方法

六角形 Case 1a Case 1b

四角形 Case 2a Case 2b

三角形 Case 3a Case 3b

5.3 パネル形状の設定

形状 パネル枚数 ロボット数

六角形 61 4,6,8,…,50(最大ロボット数)

四角形 81 4,6,8,…,32(最大ロボット数)

三角形 121 4,6,8,…,16(最大ロボット数)

5.1 4層の六角形パネルの構造物 5.2 4層の四角形パネルの構造物

5.3 4層の三角形パネルの構造物

ネル形状における平均組立時間の比較を図5.4から図5.6に示す.これらの図において横軸は 構造物上に最大で出現するロボット数, 縦軸は平均組立時間を表し,青と赤のマーカーはそれ ぞれ需要度に基づく目的地設定と距離に基づく目的地設定を示している. これらの図から,赤 のマーカーが常に青のマーカーよりも小さく,全てのパネル形状において,距離に基づく方法 は需要度に基づく方法よりも平均組立時間が短く効率的であると言える.

以上により,二体一組の主従関係手法は故障や個体差がない理想環境下であれば,パネル形 状に依らずデッドロック回避し組立可能であることが明らかとなり,目的地設定手法において 距離に基づく方法の有効性が示された.

5.4 六角形パネルの平均組立時間 5.5 四角形パネルの平均組立時間

5.2.1.4 考察

距離に基づく方法は需要度に基づく方法の平均組立時間を約10〜25%削減している. これに よりロボットの運用期間を延長することが可能である. 例えば,SSPSは予定工期は約半年で あるため,本来180日かかるものがが45日の短縮が見込め,組立が長期に渡る大規模構造物 では大きな削減となる.

また,形状による差については,六角形パネルにおいてはロボット数が増加した場合の効率 低下が見られるのに比べ,四角形パネルと三角形パネルでは,六角形と同じ割合のロボット数

5.2 理想環境下シミュレーション:多様な構造物組立 53

5.6 三角形パネルの平均組立時間

においても,効率低下が起きていない.これは,六角形パネルでは移動可能な頂点数が最大2 頂点であるのに対し,四角形では3頂点,三角形では5頂点であることから,ロボットが増 加した際の混雑時に,四角形と三角形の方が移動可能な頂点が多く,回避が容易であるためで ある.

5.2.2 凹型構造物の組立

5.2.2.1 シミュレーション設定

ここでは,提案手法を用いて特殊な形状の構造物を組立可能であることを示すため,図 5.7 に示す凹型の構造物を組み立てる.この図の緑色の部分はパネル保管所を表し,黄色の部分が 組立が必要な部分である.この構造物のパネル枚数は87枚であり,最大ロボット数60台を用 いる.

前節のシミュレーション結果から,距離に基づく目的地設定方法の有効性が明らかとなっ たため,目的地設定は距離に基づく方法を用いる.ただし,直線距離を用いる場合は,凹型 という構造上,図 5.8に示すように,ロボットが構造物の凹字部分で動けなくなる問題があ る.この図では,黄色で示したロボットは白色のパネルを目的地として移動するが,次に移動 する頂点を直線距離で選択しているため,移動が不可能である.距離に基づく方法において は,自らの位置からグラフ的に近い頂点を選択出来ればよいため,本研究ではダイクストラ法

[Dijkstra, 1959]を用いて次に移動する頂点を決定する.具体的には,各ロボットは所持する

需要度マップにおける頂点の接続関係に対しダイクストラ法を適用し,目的地であるパネルに 最も近い頂点を選択する.ダイクストラ法を用いる場合,各ロボットが逐次頂点までの距離を 計算し,計算量が膨大になるため,試行数は各ロボット数に対し10回ずつとする.

5.2.2.2 評価基準

評価基準は前章と同様に組立成功率と組立時間を比較する.

5.7 凹型構造物 5.8 凹型構造物において直線距離で目的 地設定する場合のデッドロック

5.2.2.3 結果

組立成功率の結果は前節のシミュレーション同様100%であったため割愛する.凹型構造物 における平均組立時間を図5.9に示す.この図において,横軸はロボット数,縦軸は平均組立 時間を表す.図から明らかなように,凹型構造物においても,六角形,四角形,三角形と同様 の組立時間の傾向を示している.

以上から,二体一組の主従関係手法は故障や個体差がない理想環境下であれば,構造物の形 状に依らずデッドロック回避し,組立可能な手法であることが明らかとなった.

5.9 凹型構造物の平均組立時間