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第 6 章 結論 — まとめと課題 —

6.1 本論の取り組みとその結論

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視覚定位によって手段を担うモジュールに,注視目標という目的を形成するモジュー ルを直列に前置接続する回路構成によって,その機能性が実現できる

ことを明らかにした.直列的な回路構成によって構築した学習モデルは,親の視線からオ ブジェクトを連想し,視界の外にあるオブジェクトを見るという共同注視行動を獲得す る.このとき,親の視線の先に複数のオブジェクトが配置される状況に対しても,形成す る注視目標によって見るものを自律的に決定する機能を獲得する.ここに,単に親の視線 に反射的に反応して視線を動かす行動との質的な違いがある.

この学習モデルでは次の3つのメカニズムが重要な役割を担う(3.8節).

1. 親やオブジェクトといったカテゴリを識別する仕組み(3.8.1節)

2. カテゴリの識別に基づいて出力情報を変更する仕組み(3.8.2節)

3. 親・オブジェクト間の感覚情報の遷移を頻度分布に蓄積する仕組み(3.8.3節)

2.の「カテゴリの識別に基づいて出力情報を変更する仕組み」は,2つのメカニズムか ら説明される(4.3.1節).

2–a. 感覚情報を特定の順序で比較する仕組み

2–b. 対象を注視しているかどうかに応じて比較条件を変更する仕組み

2–a.の仕組みは,情報へのアクセス時間に違いがあることを仮定することで説明できる ことから,ワーキングメモリや短期記憶といった記憶情報のタイプに関連した仕組みであ ると考えられる.また2–b.の仕組みは,注視することに馴れた状態を仮定することで説 明できることから,乳幼児の持つ馴化/脱馴化の生理的傾向に関連した仕組みであると考 えられる.この2つの仕組みに加えて,1.のカテゴリを識別する仕組みを併せた3つの仕 組みが,乳幼児の持つ認知傾向との接点を持つ重要な仕組みであると言える.中でも2–a.

の仕組みは,乳幼児の行動観察からは推定が難しい仕組みであるという意味で,構成論的 アプローチが発揮した1つの重要な成果であると考えられる.まとめると,本論が構築し た学習モデルから乳幼児に必要な能力として推定されるメカニズムは,

カテゴリ形成の仕組み

馴化/脱馴化の仕組み

6.1. 本論の取り組みとその結論 107

記憶情報のタイプに関連した情報の比較順序に関する仕組み の3つである.

3.の「親・オブジェクト間の感覚情報の遷移を頻度分布に蓄積する仕組み」に関しては,

情動的参照視のモデルを構築することによって,共同注視や参照視の規則性を体験する基 盤的な行動が実現できることを確認した(4.3節).このモデルの構築から本論は,体験 の中から乳幼児が規則性を抽出する能力を仮定する以前に,そもそも共同注視や参照視を 体験させるような基礎的な行動が反射的共同注視や情動的参照視として存在しているこ とを示唆した(4.3.2節).先行研究のモデル(2.2節)は,共同注視を反射的な行動とし て設計しながらも,親の視線の先にあるオブジェクトを見るという体験からその規則を学 習する.しかし,反射的な行動(即時的という意味でここに情動的行動も含める)は視界 の端に映るものを反射的に見てしまうような運動に類似した仕組みによって形成されるべ きもので,親の視線とオブジェクトとの間にある規則をその体験から学習する仕組みとは 分けて考えるべきだと思われる.

6.1.2 他者の意図を理解する発達モデルのメカニズム

意図的主体性を「自ら見ようとするものを持つこと」としたことに対応して,他者の意 図を理解することを「他者の見ようとするものを理解すること」と定義し,次の問いを発 した.

2.他者の意図を理解する過程に関する問い

³

 内部に注視目標を形成して意図的主体性を実現するメカニズムを鋳型にして,他者 の意図を理解し,やがて他者の心的状態を理解するようになる発達過程はどのような メカニズムを持った人工システムによって構築可能か.

µ ´

この問いに対して,意図的主体性を形成する学習モデルに基づく議論から,

目的と手段がセットになった意図的主体性が,他者を巻き込んで入れ子の構造を構 成するメカニズムがあるのではないか

ということを示唆した(5.2節).この意図的主体性の入れ子構造は,既にある目的と手 段のセットを1つの手段にするような新たな目的形成モジュールを直列に前置接続するこ

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とで実現できるのではないかということを論じた(5.3節).これは,本論で構築したモ デルが手段を担うモジュールに対して目的を形成するモジュールを前置接続する構造を 持っているからこそ構築できる構造である.ただし本論では,具体的なモデルの構築には 至っておらず,モデルを構築するための基本的な考え方を提示したに過ぎない.今後は,

このメカニズムを実現するモデルを構築し,入れ子が2次の状態や3次の状態になる過程 のそれぞれで,他者の意図を理解する状態や他者と意図を共有する状態がどのように構成 可能であるのかを検討する必要がある.また,この入れ子構造を具体的に構築していくと きには,5.4節の議論において述べたように,感覚情報の非論理的な蓄積規則を考える必 要があるのではないかと考えられる.これは,本論のモデルが仮定する乳幼児の能力と,

生物が進化過程で獲得したであろう能力の接点を議論した結果から示唆するものである.