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第 5 章 議論:意図的主体性に基づく他者 の意図理解の意図理解

5.1 意図的主体性を実現する学習モデルのメカニズム

構築した人工システムの最も重要な特徴は,目的として機能する連想器のモジュールを,

既得能力である視覚定位モジュールに直列に接続し,目的と手段の結合状態を実現すると ころにある.これによって子エージェントは,視線の先に複数のオブジェクトが配置され

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るような状況でも,自律的に見るものを決めることができるようになる.こういった方法 で見る物の曖昧性を解決する方法は,2.2節の先行研究に挙げた3つのモデル(Matsuda and Omori (2001),Triesch et al. (2006),Nagai et al. (2003))の解決方法とは根本的に 異なる.親の視線に関する感覚刺激と視点の運動方向を直接結び付ける方式では,注視目 標の自律的な設定によって曖昧性を解決する方法を実現することが難しい.

これに対して,目的を生成する機能を担うモジュールを明示的に追加することは,主体 的な行動の表出にどのような仮定が重要な役割を持つのかを明らかにする助けとなる.連 想器を直列的な接続によって追加することで,注視目標を内部に持つための重要な仕組み として分かったことが3つある.それは,カテゴリを識別する仕組み,馴化/脱馴化の仕 組み,そして情報を順序的に比較する仕組みである.以下にそれぞれの仕組みが持つ特徴 とその重要性をまとめる.

5.1.1 カテゴリを識別する仕組み

子エージェントは,感覚情報に含まれる親やオブジェクトといったカテゴリを識別し,

それぞれのカテゴリに特定の行動を割り当てることを学習する.カテゴリを認識するこ とによって,形成される目的(注視目標)は1つの感覚状態が担うのではなく,感覚状態 の時系列が担うようになる.そしてその時系列は,カテゴリを特定の規則で選ぶ61ことに よって生成される.つまり,カテゴリという識別階層を子エージェントが独自に定義する ことによって,生成される感覚状態の時系列が目的として,そして既得能力の視覚定位が 手段としてそれぞれ機能するようになる.

この仕組みは,感覚情報に含まれる親やオブジェクトといったカテゴリを乳幼児が認識 できることを仮定している.ここに乳幼児の認知能力を調査することと,本論が構築する モデルとの1つの接点がある.本論が構築したモデルを通じて,乳幼児が感覚情報をどの ようなまとまりとして捉えているのかを検討することができるし,また逆に認知実験から 得られる知見によって,モデルの妥当性を検証していくことが重要だと考えられる.

61このカテゴリの選び方は,本論では感覚情報から親とオブジェクトを切り出せるように実験者が予め設 計した.本来,どのようなカテゴリの形成が行なわれるかを調査することは重要で難しい課題である.

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5.1.2 馴化/脱馴化の仕組み

子エージェントが親とオブジェクトを交互凝視するには,それぞれを注視できたとき に,その注視しているものとは異なるカテゴリのもの(親ならオブジェクト,オブジェク トなら親)を選ぶ仕組みが必要である.つまり子エージェントには,内部に想起している ものを見ようとしているのか,それとも見ようとしていないのかを表現するために,想起 したものと同じカテゴリのものを維持し続けるのか,それとも別のカテゴリのものを選ぶ のかを決める仕組みがあるのである.

この仕組みが,乳幼児が持つと言われる馴化/脱馴化の仕組みに関連すると考えられ る.乳幼児が何を見ようとするのかを認知実験から調べることは難しい62.しかし,本論 のようなモデルを構築することで,馴化/脱馴化のような認知傾向との接点をメカニズム の視点から議論することができるようになると考えられる.また,何を見ようとするのか を検討することは,経験からどのような規則を抽出するのかを考えることにも関連する.

これは,乳幼児が親とのインタラクションを好むといった説明や,ある特徴を持ったおも ちゃが好きであるといった説明に対して,記憶への蓄積強度というメカニズム的説明を与 えることに関連する.

5.1.3 情報を順序的に比較する仕組み

子エージェントの内部には,「1.今見ているもの」と「2.見ようとしていたもの」,そし て「3.今見ているものから連想されるもの」という3つの情報がある(不安時の情動的参 照視を考慮するなら,そこに「最後に見た親の情報」が含まれる).カテゴリを識別し,

内部に想起したものを見ようとするのか/しないのかが決められたとき,子エージェント はその3つの情報を特定の順序(1.→2.→3.)で想起している情報と比較する必要があ る.この順序は,それぞれの情報にアクセスする時間の違いによってもたらされるのでは ないかと考えられるが,乳幼児にその仕組みを仮定できるのかどうかは良く分からない.

ただしこの仕組みが,構築したモデルから論理的に導かれた仕組みであることから,逆に 乳幼児の持つ機構として検証の必要性を提案できるのではないかと考えられる.この意味 で,本論で構築したモデルの持つ意義を最も良く表わすのがこの仕組みであると言える.

62乳幼児が何に視線を向けているのかを観察することはできる.しかし,それを見ようとしているのかど うかを知ることは難しい.

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