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第 5 章 パッシブ可変オイルダンパーを用いた免震建物の動的解析による制御効果の検証

5.5 本章のまとめ

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108 参考文献

1) 久田嘉章:来るべき大地震とは何か-建物はどう対応すべきか?-,「免震・制振技術の 現状と来るべき大地震への備え」,日本建築学会大会PD資料,pp.25-38,2013.8 2) 多賀謙蔵,林康裕,小倉正恒他:上町断層帯地震に対する設計用地震動ならびに設計法

に関する研究,その8~9,日本建築学会大会学術講演梗概集,B-2,pp.551-554,2011.7 3) 菊池優:免震技術の課題と新たな取り組み,「免震・制振技術の現状と来るべき大地震へ

の備え」,日本建築学会大会PD資料,pp.43-54,2013.8

4) 宮崎光生,水江正:震源近傍の地震動に対して免震構造物は対応可能か?,第 28 回地 盤震動シンポジウム,日本建築学会,pp.119-136,2000

5) 大川出,佐藤智美,佐藤俊明他:超高層建築物等への長周期地震動の影響に関する検討

-南海トラフ4連動地震による超高層・免震建物の応答解析-,日本建築学会大会学術 講演梗概集,B-2,pp.275-278,2012.9

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第 6 章 結論

建物の応答制御は,1980 年代後半に実用化がすすみ,1990 年代以降主要な構造技術のひ とつとして位置づけられるようになった。本研究は建物の応答制御の高度化を目的に,応 答振幅に応じて適切に性能を変化させる,実用的なパッシブ型性能可変ダンパーを提案し,

その有効性を示したものである。風揺れの微小振幅から地震時の大振幅まで広範な制振効 果を有する高性能な「粘弾性・弾塑性要素複合制振ダンパー」と,免震建物に対する中小 地震時の絶対加速度応答低減効果と免震層変位の大地震時抑制効果を併せ持つ「免震建物 用のパッシブ可変オイルダンパー」を提案し,実験とシミュレーション解析によって,そ の有効性を明らかにした。

以下に,本論文の各章の結論を総括して述べる。

第 1 章は序論であり,本研究の背景および目的を述べ,関連する既往の研究を整理した。

第 2 章「風揺れの制御を対象とした粘弾性・弾塑性要素複合制振ダンパーの開発」では,

高度化を実現した複合制振ダンパーを提案した。この複合制振ダンパーは,粘弾性ダンパ ーと座屈拘束ブレースからなる。風揺れを対象とするような微小振幅振動に対しては,粘 弾性ダンパーがエネルギーを消費する。大振幅の揺れに対しては,粘弾性ダンパーに生じ る変形を滑り機構を用いて制限することで主として座屈拘束ブレースがエネルギーを消費 する。最大減衰力 800kN の実大試験体を用いた動的加力試験を行って,微小振幅から大振 幅にわたるまで有効なエネルギー消費を実現することを明らかにした。さらに,粘弾性ダ ンパーの振動数依存特性を考慮できる 6 要素モデルを含む簡単な力学モデルを構築して実 験結果を再現し,モデル化の妥当性を検証した。本章で得られた結論は以下の通りである。

● 0.1mm 程度の微小振幅の揺れにおいても,粘弾性ダンパーは安定したエネルギー消費を 行う。弾塑性ダンパーが線形範囲にとどまるような小振幅の揺れに対して,複合制振ダ ンパーの等価減衰定数 0.1 程度の大きな値を実現した。

● 複合制振ダンパーの振幅が 5mm を超えるような大振幅の揺れに対しては,主として座 屈拘束ブレースがエネルギーを消費する。その際,粘弾性ダンパーに直列接合した滑り 機構が有効に機能し,30mm の大振幅加力においても粘弾性ダンパーに生じる変形を 5mm 程度(粘弾性ダンパーの歪みで 250%程度)に制限することを実現した。

● 粘弾性ダンパーを 6 要素モデル,滑り機構をバイリニアモデルで表した簡単な解析モ デルにより,ダンパーの荷重-変形関係および累積吸収エネルギーを再現した。

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第 3 章「粘弾性・弾塑性要素複合制振ダンパーを用いた実建物の振動試験による効果検 証」では,複合制振ダンパーを適用した 9 層鉄骨造建物において人力加振試験を実施した 結果を提示した。1年再現期待値にあたる風速レベルの微小振幅に対しても,2章で検証し たダンパー単体の試験結果通り,大きな変形ロスもなく粘弾性ダンパーが安定した履歴ル ープを描いてエネルギー消費を行っていることを実証した。加えて,同様な風速レベルに 対し,振動試験から同定した建物減衰定数を反映させた風応答解析を実施して,複合制振 ダンパーの居住性能改善効果を評価した。これらの検証より,以下の結論を得た。

● 建物頂部の加速度が 5mm/s2~30mm/s2の微小振幅レベルの振動に対しても,粘弾性ダン パーには層間変形に比例した変形が生じ,微小振動であっても変形が大きくロスするこ となくダンパーに作用することを明らかにした。

● 建物頂部の加速度が 10mm/s2以下の微小な揺れに対しても粘弾性ダンパーが有効に作 動し,0.01mm の微小な変形に対しても安定した履歴ループを描くことを確認した。

● 人力加振による建物の自由振動波形から同定した 1 次モードの減衰定数は 2.0%となる。

この減衰定数を採用した建物モデルの風応答解析によって,粘弾性ダンパーを設置しな い構造減衰定数 1.0%のモデルに比べて,最大応答加速度が 60%程度に低減される効果を 確認した。

第 4 章「免震建物を対象としたパッシブ可変オイルダンパーの開発」では,バイフロー 型・ユニフロー型のオイルダンパーに対して,設定した変位に達すると機械的に低減衰か ら高減衰に切り替わる,変位感応型のパッシブ可変オイルダンパーを新たに提案した。両 方式の実大ダンパー試験体に対する動的加力試験を行い,減衰係数の精度の良い切替えが 実現されていることを確認した。すなわち,正弦波加振によって低速度から高速度領域に わたる安定した減衰性能を,三角波加振および地震応答を想定したランダム波加振によっ て高速な切替性能を明らかにした。得られた結論は以下の通りである。

● 実大試験体の動的加振試験により,変位検出ロッドと機械式の切替回路を用いた単純 な作動機構によって,所定の変位で減衰係数の精度の良い切替を実現していることを確 認した。

● 減衰係数を高減衰側・低減衰側のそれぞれに固定した状態での正弦波加振試験から,

低速度から高速度領域にわたり,ダンパーの伸側・縮み側ともに安定した減衰力特性を 得られることを確認した。

● 切替変位に達してから減衰係数が切り替わるまでのタイムラグは,低速度から高速度

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領域にわたり 0.2 秒程度となり,高速な切替性能を実現している。速度一定の三角波加 振と地震波のランダム加振に対して同様の性能を得た。

● バイフロー型,ユニフロー型ともほぼ同様の結果が得られ,両方式のダンパーで所定 の性能が得られた。

第 5 章「パッシブ可変オイルダンパーを用いた免震建物の動的解析による制御効果の検 証」では,通常のクリアランスを持つ免震建物とクリアランスを十分に確保することが困 難な都市部狭小敷地の免震建物の二つを想定して,それぞれの建物に 4 章提案のパッシブ 可変オイルダンパーを適用した効果を地震応答解析により検証した。前者の建物に対して は,擁壁までのクリアランス500mmとし,設計レベルの地震動に対する絶対加速度応答の 低減効果と設計レベルを超える大きな地震動に対する変位抑制効果を検証した。後者の建 物に対しては,クリアランス200mmを想定して,大地震時の免震層変形を目標とするクリ アランス内に抑えながら,通常の減衰係数固定となるオイルダンパーを持つ免震建物に比 べても,より優れた中小地震時の絶対加速度応答低減を実現できることを確認した。また,

免震層の偏心やダンパー切替作動のばらつきが免震層の変位応答に及ぼす影響についても 検証した。以下の結論を得た。

● クリアランス 500mm の免震建物に適用した場合,免震層に大きな変位が生じる可能性 のあるレベル 3 地震動に対しても,免震層変位を目標とするクリアランス内に抑えなが ら,レベル 1 地震動およびレベル 2 地震動に対する絶対加速度応答低減効果を向上させ ることを実現した。

● クリアランス 200mm の小ストローク免震建物に適用した場合,大地震時の免震層変形 を目標とするクリアランス内に抑えながら,中小地震時の絶対加速度応答を,通常の減 衰係数固定のオイルダンパーを適用した免震に比べて低減できることを確認した。

● ダンパー変位が切替変位に達さないような入力レベルの地震動に対して,たとえ一部 のダンパーが高減衰に切り替わって免震層にねじれ応答が発生しても,更に大きな入力 レベルの地震動に達してしまえば,全てのダンパーが高減衰に切り替わることでねじれ 応答は抑制され,切替作動のばらつきが免震層の最大応答変位に及ぼす影響が小さいこ とを確認した。

以上,本論文は,建物の応答制御の高度化を目的として,応答振幅の大きさに応じて適 切に性能を変化させる実用的なパッシブ型の性能可変ダンパーを提案し,実験および解析 によって,その有効性を明らかにしたものである。2 章で提案した粘弾性・弾塑性要素複合