第5章 気泡核の流動挙動の Lagrange 解析とそれによる
5.2 解析方法
5.2.2 Lagrange 法による解析方法
5.2.2.1 単一気泡核の運動と成長
5.2.2.1.1 気泡にはたらく様々な力
球形の単一気泡が液体中を流れるとき,気泡には,浮力 Fg,圧力勾配による力 Fp, 揚力Fl,抗力Fd,付加質量力Fa,履歴力Fhが作用する.また,気泡の径が変化する場 合は気泡半径が変化する際の周囲液体の慣性力 Fr を,気泡が壁面の近くに存在するな らば,気泡-壁間の液相流量が変化しそれによって生じる圧力分布が変化することに起 因する力である壁力Fwを受ける.したがって,気泡の運動方程式は,
43 ,-. /0
01 = 23+ 24+ 2 + 25+ 2 + 2)+ 2$+ 26+ 27#$ ) (5.4) となる[44].ここで,-は気泡半径,/は気泡内の密度,/は気泡の速度である.ただし,
乱流および層流はく離し再付着する点における乱れが引き金となりキャビテーション が初生することが考えられる[41]が,ここでは乱流による局所圧力変動による力は考慮
図5.1 解析領域
図5.2 喉部近傍の格子
106
していない.また,終始,球形気泡を仮定しているため,気泡と壁面との衝突による跳 ね返りや崩壊も正しく考慮されていない.以下に,式(5.4)の右辺の各力について述べる.
浮力,89
浮力は気泡内密度と液体密度 の差, /− ,気泡体積,4,-./3,および重力加速度 :により,
23= ( /− )4
3 ,-.: (5.5) で与えられる.
圧力勾配による力,8;
圧力勾配の項は気泡体積と気泡周囲の液体の圧力勾配∇ により,
24= −4
3 ,-.∇ (5.6) で与えられる.
揚抗力,8=,8>
揚力および抗力は,
2 = −? 4
3 ,-.( /− ) × ∇ × (5.7) および
25= −1
2 ?5 ,- /− ( /− ) (5.8) であり,揚力係数?および抗力係数?5については,様々な気泡レイノルズ数,
!/ =2- /− (5.9)
に対して,数多く研究がなされている[70-76].
付加質量力,8E
付加質量力は,流体中を加速度運動している物体が,流体を押しのける際に見かけ上 慣性力が増加することから生じる力である.押しのけた液体の質量に付加質量係数 Ca
を考慮した慣性力を付加質量力として表現する,
2 = −? 4
3 ,-.F0 /
01 −0
01 G (5.10)
107
となる.物体が球形でかつ物体がその他の物体と十分に離れている場合は,付加質量係 数Caは0.5である[77].
気泡の体積変化による力,8H
気泡体積が変化する場合の気泡周囲の液体の慣性力により気泡に作用する力,
2) = −4, - ( /− )
0-01 (5.11) が作用する.
履歴力,8I
先に挙げた抗力には,定常状態における抗力係数が非定常な流れにおいてもしばしば 適用される.しかし,非定常性が強い場合は,気泡の後流が定常の場合と大きく異なる ため,履歴力2$によって非定常な抗力が表される.履歴力は,連続相に対する分散相の 密度比が大きい,粒子が気相中で運動する場合や,連続相に対する分散相の密度比が0 に近い,液体中の気泡流などでもしばしば無視され,高木ら[78]により気泡レイノルズ 数が !/ ≥ 50の場合にはその寄与が小さいことが報告されている.
壁力,8K
気泡が壁面の近傍を運動している場合には,壁の存在により付加質量および抗力が増 加し,たとえ静止流体中でも力がはたらく.この力のことを壁力,壁効果などという
[45,46].これまで鉛直円管内の単一気泡が上昇または沈降する場合における壁力の研究
がなされている[45-47]ものの,その研究例は非常に少なく,また,キャビテーション流 れの解析に壁力を考慮した例は著者の知る限り無い.シートキャビテーションの初生過 程では第4章で示したように,気泡核が壁面に近づき壁に沿って運動する.したがって,
シートキャビテーションの初生を扱う場合,壁力の考慮が必要であると考えられる.
その他の力,8LMINH
27#$ )は,気泡-壁間の衝突時に生じる力などの,気泡に作用するその他の力である.
5.2.2.1.2 本解析における気泡核の運動方程式
本解析においては,単一気泡核の運動方程式を解く.その際,履歴力2$は無視できる と仮定する.また,気泡-壁間の衝突時などのその他の力27#$ )は考慮しない.そのた め,運動方程式は次のようになる.
4
3 ,-. /0
01 = 23+ 24+ 2 + 25+ 2 + 2) + 26 (5.12)
108
揚力は,液相の流れ場の速度勾配により,気泡核に対して流れに垂直な方向にはたら く力である.上述したように,揚力係数に対し,様々な提案がなされている.高気泡レ イノルズ数 !/の範囲においては,Autonら[70]により非粘性流体の仮定の下,球周りの 運動量保存よりClを0.5とした揚力が導かれ,Navier-Stokes方程式を解いた数値計算と の誤差は !/ = 100で 6%, !/ ≥ 300では 2%程度である[79].また, !/ ≤ 100程度の 範囲においては,Mei[71]により提案された,Dandyら[72]の固体球周りの三次元DNS解 析による結果を整理して得られたClの近似式がある.さらに,低 !/の範囲( !/≪ 1) において,Saffman[73]およびLegendreら[74]は揚力を理論的に導いている.一方,キャ ビテーション初生過程における気泡の挙動を追跡した解析例の中には,揚力を無視した ものもある[69].本解析では,ポテンシャル理論から得られかつ簡単な Auton ら[70]に よる揚力係数,Cl=0.5を採用する.
また,抗力係数に関しても様々な研究がなされており[75,76],本解析においては,広 い範囲 !/(10Q.≤ !/ ≤ 10')に対して有効なTomiyamaら[76]による抗力係数,
?5= min U16
! (1 + 0.15 !V.WXY),48
![ (5.13)
を採用する.
壁力に関して,Antalら[47]は,鉛直管内の静止流体中の気泡の運動に対して,回転す る二つの円柱周りのポテンシャル流れとのアナロジーにより理論的に壁力を導いた.壁 力は,壁近傍の気泡および粒子に作用するが,Antal らの壁力は壁から気泡までの距離 が大きいほど壁に寄る力が気泡にはたらく.宋[45]はこれを改善するために,気泡 – 壁 間の流路断面積の縮小の効果を取り入れたモデルを提案している.また,このモデルに は実験に基づき決定されたモデル定数を用いている.濱田[46]は,宋のモデルが粘性の 比較的高い条件のみによるモデルであるため,モデル定数を再評価している.また,
Sanadaら[80]およびde Vries[81]は,Kok[82]の,ポテンシャル流れの仮定の下に得られ た球形の2気泡の気泡間力を気泡-壁間に適用し壁力を計算している.本解析において は,モデル定数を含まないSanadaらおよびde Vriesの方法を採用する.
図5.3に示すように,2気泡間を結ぶ線の中心を通りこの線に垂直な方向を壁とする.
壁上にある原点から2気泡間を結ぶ線の中心までの距離をxtとし,気泡から壁までの距 離をynとする.気泡が壁付近で運動する場合,xt,yn方向の2気泡に課される付加質量 係数\ #,\] はそれぞれ次のように与えられる.
\ # = 1 + 3
16 ^-_. (5.14)
\] = 1 +3 8 ^
-_. (5.15)
109
上式の付加質量係数は,壁がない場合の一つの球形気泡に対する付加質量係数(0.5)に,
壁の効果によって壁に水平な方向に(3/32)(-/ ).,壁に垂直な方向に(3/16)(-/ ).だ け加えられたものとなっている.また,2気泡間の力を2′5 aおよび2′5]bとすると,静止 流体中を運動する2気泡に対する運動方程式は,2気泡に課される付加質量力より,
を用いて,
4
3 ,-. c\ #d#e
c1 = 22f5 a (5.16) 4
3 ,-. c\] e c1 =1
24
3 ,-. g e c\]
c + d#e c\ #
c h + 22′5]b (5.17)
となる.ここで, 2′5 aおよび2′5]bは次式で計算され,抗力係数を?5 = 48/ !/とした壁 が存在しない場合の抗力25と,壁が存在することによる抗力26に分けることができる.
2′5 a= −48,i-d#e j1 +1
8 ^-_.k = 25 #+ 26 # (5.18) 2′5]b= −48,i- e j1 +1
4 ^
-_.k = 25] + 26] (5.19)
本 解 析 に お い て は , 付 加 質 量 係 数? を? # = 0.5\# = 0.5 + (3/32)(-/ ).お よ び
? ] = \] = 0.5 + (3/16)(-/ ).と し ,d#e お よ び e は 気 液 間 の ス リ ッ プ 速 度 l# =
#− #および l = − とする.
以上の壁力モデルを考慮すると,気泡核の運動方程式(5.12)は以下の通り表される.
4
3 ,-. 0 01 =4
3 ,-.( − ): −4
3 ,-.m −4
3 ,-. ? l× ∇ ×
−1
2 ,- ?5 l l−4
3 ,-. 0? l
01 − 4,- l
c-c1 + 26 (5.20) ただし,26はそのまま記している.
さらに,上式の両辺を で除して, / ≪ 1として整理すると,
0? l
01 = −: − 1m − ? l× ∇ × − 3
8- ?5 l l−3 - l
c-c1 + 3
4,-.26 (5.21) となる.式(5.21)を壁に平行な方向と垂直な方向に分け,壁力26に式(5.18)および(5.19) を適用すると,以下に示す通り,壁に平行な方向と垂直な方向の気泡の運動方程式が得 られる.
110 c l#
c1 = 1
? #^23 #+ 24 #+ 2 #+ 2) #+ 25 #+ 26 #−4
3 ,-. l# l c? #
c _
= 1
? #n−: #− 1 (m ) #− ? ( l× ∇ × ) #−3
- l #
c-c1
− 3
8- ?5 l l#j1 +1
8 ^-_.k −1
2 l# l F− 9-.
32 oGp (5.22) c l
c1 = 1
? ] j23] + 24] + 2] + 2)] Fc?q]
c G
+25] + 26] +2
3 ,-. F− l c? ]
c + l# c? # c Gk
= 1
? ] n−:] − 1 (m )] + ? ( l× ∇ × )] −3
- l] c-c1− 3
8- l j1 4 ^
-_.k
− 3
8- ?5 l l j1 +1
4 ^-_.k +1
4 j− l F− 9-.
16 oG + l# F− 9-.
32 oGkp (5.23)
5.2.2.1.3 気泡核の成長
気泡核の成長は,気泡内部の状態が一様で液体の圧縮性を無視した,静止流体中の気 泡の膨張,収縮運動を表した,次の Rayleigh-Plesset の式[83]を解くことにより求める.
--r +3
2 -e = 1^ − + 3−4i -e - −2s
- _ (5.24) ここで,sは表面張力である.
CFD解析におけるキャビテーションモデルでは,気泡核半径の二階微分の項,粘性項 および表面張力の項を無視した,簡略化された Rayleigh-Plesset の式が用いられること
図5.3 球形2気泡の位置と座標
111
が多いが,本解析では,気泡核径により大きく気泡核の軌跡が異なる可能性があるため,
表面張力の項および粘性の項は無視せずに,式(5.24)を解いている.また, 3は,初期 状態において気泡核の状態は力学的に平衡であるとし,気泡内の空気が不凝縮でかつ等 温変化すると仮定して求めた.また,気泡核は,ある径を超えると爆発的に成長する.
その径は,臨界半径と呼ばれ,力学的平衡条件,すなわちLaplaceの式(式(5.24)におい て時間変化項をゼロ)より得られる.また,そのときの気泡核周囲の液体の圧力を臨界 圧力と呼ぶ.式(5.24)を解く場合において,本解析では気泡核半径が臨界半径に達した 時点で気泡核の追跡を止め,臨界半径以下の範囲における気泡核の追跡を行う.