第2章 本研究におけるいじめの態様
第1節 本研究におけるいじめ態様の類型化
本研究におけるいじめ態様の類型化においては、文部科学省のいじめ調査におけるいじ め態様を参考にする。最初にどのような内容なのかについて説明し、次に教育法学や法律学 の研究者によるいじめ態様について整理する。それらの研究の成果をもとに、本研究におけ るいじめの態様を考察する。
1 文部科学省のいじめ態様
先述したように、文部科学省は、1985(昭和60)年以後、いじめ調査を毎年実施してい る。その調査項目の中に、「いじめの態様」が示されている。その例示されたいじめの態様 は、2006(平成18)年度のいじめ定義の変更(当該児童生徒が、一定人間関係のあるもの から、攻撃を受けたことにより、苦痛を感じているもの。起こった場所は内外を問わない。) によって、新たに見直しが行われた。それまでは、「言葉での脅し」「冷やかし・からかい」
「持ち物隠し」「仲間はずれ」「集団による無視」「暴力を振るう」「たかり」「お節介・親切 の押し付け」「その他」が調査項目としてのいじめの態様であった。
ところが、新しい態様の内容は、「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを 言われる。」「仲間はずれ、集団による無視をされる。」「軽くぶつかられたり、遊ぶふりを して叩かれたり、蹴られたりする。」「ひどくぶつかられたり、叩かれたり、蹴られたりす る。」「金品をたかられる。」「金品を隠されたり、盗まれたり、壊されたり、捨てられたり する。」「嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする。」「パソ コンや携帯電話等で、誹謗中傷や嫌なことをされる。」「その他」と見直された。
その時に、新しく態様として調査項目に取り入れられたものが、「軽くぶつかられた り、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする。」「嫌なことや恥ずかしいこと、危険な ことをされたり、させられたりする。」「パソコンや携帯電話等で、誹謗中傷や嫌なことを される。」である。新しい3つの態様は、1980年代半ばの第一次ピーク時や1990年代半 ばの第二次ピーク時に比較的多く見られた「継続的暴力、恐喝を中心に、いやがらせ、使 役など比較的見えやすい派手ないじめ1」とは違う新たに増加してきていた態様であった。
SNSの発達と同時に次第に増加傾向にあった「ネットいじめ」についてもいじめの態様の 一つとして文部科学省のいじめ調査項目に付け加えられた。
2006年度から見直されたいじめ態様の調査項目は、森田洋司が1986年に発表した『い じめ-教室の病い』(金子書房)において、いじめ調査として9つに分けたいじめ態様の 調査項目内容と相似している。その項目は、「仲間はずれ・無視」「しつこく悪口をいう」
「持ち物をかくす」「無理やりいやがることをする」「たたく・ける・つねるなどの小暴 力」「プロレスごっこなどといって一方的になぐったりする」「おどす」「金や物をとりあ げる」「着ているものを脱がす」である2。森田は、さらにそれらを類型化しており、「仲間
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はずれ・無視」「しつこく悪口をいう」項目を、「心理的いじめ型」としている。同様に、
「持ち物をかくす」「無理やりいやがることをする」「たたく・ける・つねるなどの小暴 力」については「心理的ふざけ型」、「プロレスごっこなどといって一方的になぐったりす る」「おどす」「金や物をとりあげる」については「物理的いじめ型」、「着ているものを脱 がす」は「物理的ふざけ型」としている。そして、現代のいじめでは、「心理的いじめ」
が一般的であるとし、そのいじめは、遊びやふざけと区別のつかないかたちで行われるだ けに、子どもたちの日常生活にとりこまれ、「物理的ふざけ型」と結びついて、「物理的い じめ型」の非行性をおびたいじめと併存する傾向がみとめられると説明する。つまり、
「初期の段階では軽微ないじめやふざけ半分のいじめであっても、エスカレートするにつ れて、しだいに粗暴化し、非行関連型へと発展していく傾向がある。この『ふざけ型』か ら『非行関連型』への移行過程として偽装型のいじめを経過していくようである。」3と述 べ、森田はいじめの態様に注目し、それらがどのように移行していくのかについても分析 した。森田は文部科学省をはじめ、国立教育政策研究所生徒指導センターにおいても、委 員や協力者となっている4が、その研究や社会活動がいじめ態様の調査項目の見直しに影響 を与えたのではないかと考えられる。
以上のように、現在の文部科学省によるいじめの態様の分類については、国立教育政策 研究所生徒指導センターなどの研究や森田洋司などの研究を踏まえて、現在のように類型 化しており、学問的根拠をもとに改善を図ってきたのである。
なお、これまで説明してきた文部科学省のいじめ態様の分類の変化と関連づけた研究者 や研究所の分類については次の表2に整理した。
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<表2 文部科学省のいじめの態様の分類の変化と関連づけた研究者・研究所の分類>
文 部 科 学 省
( 1985
~2005)
言 葉 で の 脅 し
冷 や か し・
か ら か い
仲 間 は ずれ
集 団 に よ る 無 視
暴 力 を 振 るう
た か り
持 ち 物 隠 し
× × × お
節 介・
親 切 の 押 し つ け
そ の 他
文 部 科 学 省
( 2006
~現在)
冷 や か し や か らかい、
悪 口 や 脅 し 文 句、嫌な こ と を 言 わ れ る
仲間はずれ、集 団 に よ る 無 視 をされる。
ひ ど く ぶ つ か ら れ たり、叩か れたり、蹴 ら れ た り する
金 品 を た か ら れる
金 品 を 隠 されたり、
盗 ま れ た り、壊され たり、捨て ら れ た り する
軽くぶつ かられた り、遊ぶ ふりをし て叩かれ たり、蹴 られたり する。
嫌なこ とや恥 ずかし い こ と、危 険なこ とをさ れ た り、さ せられ たりす る
パ ソ コ ン や 携 帯 電 話 等で、誹 謗 中 傷 や 嫌 な こ と を される。
× そ の 他
国 立 教 育 政 策 研 究 所 生 徒 指 導 研 究 セ ン タ ー に よ る 国 際 調 査 (2006)
か ら か う・悪口
* by teasing , calling names
仲間はずれ,無 視、陰口 * by excluding,ign oring you
ひ ど く ぶ つかる・た たく・蹴る by pushing,h itting (on purpose)
金銭強要・物品破 壊 by taking and damaging your property
かるく ぶ つ か る・たた く・蹴る
** by pushing, hitting (jokingl y)
× パ ソ コ ン や 電 話で by using compute r, email
×
森 田 分 類
(1986)
し つ こ く 悪 口 をいう
仲間はずれ・無 視
プ ロ レ ス ご っ こ な ど と い っ て 一 方 的 に な ぐ っ た り す る おどす
金や物 をとり あげる
持ち物を かくす
たたく・
ける・つ ねるなど の小暴力
無理や りいや がるこ とをす る。着 ている ものを 脱がす
× ×
心理的いじめ型 物理的いじめ型 心理的ふざけ型 物理的 ふざけ 型
2 研究者が注目するいじめ裁判例といじめ態様との関連
それでは、いじめ問題の裁判判決書に注目する教育法学や法学研究者は、どのようない じめ裁判例を取り上げているのか。そして、その裁判例は文部科学省のいじめ態様の類型 化とどのように関連しているのだろうか。
次の表3は「文部科学省のいじめの態様の分類と関連づけた研究者が注目するいじめ裁 判例」の一覧である。
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<表3 文部科学省のいじめの態様の分類と関連づけた研究者の分類と判決書> 文部
科学 省の いじ め態 様の 分類
ア 冷や かしやか らかい、
悪口や脅 し文句、
嫌なこと を言われ る
イ 仲間 はずれ、
集団によ る無視を される。
ウ ひどくぶつか られたり、叩かれ たり、蹴られたり する
エ 金品 をたから れる
オ 金 品を隠 された り、盗 まれた り、壊 された り、捨 てられ たりす る
カ 軽 くぶつ かられ たり、
遊ぶふ りをし て叩か れた り、蹴 られた りす る。
キ 嫌 なこと や恥ず かしい こと、
危険な ことを された り、さ せられ たりす る
ク パソコ ンや携帯電 話等で、誹 謗中傷や嫌 なことをさ れる。
ケ そ の他
伊藤 進、
織田 博子
(ア)東 京地裁平 成 2 年 4 月 17 日 判決
「杉並区 小学校い じめ事 件」
(ハ)新潟地裁昭 和 56 年 10 月 27 日 判決
「定時制農業高校 校内自殺事件」
(ヒ)東京地裁八 王子支部平成 3 年 9 月 26 日判決
「東京都いじめ自 律神経症事件」
(オ)東京地裁平 成 3 年 3 月 27 日判 決
「中野区中学校い じめ自殺事件」
(サ)浦和地裁昭 和 60 年 4 月 22 日 判決
「浦和市立小学校 いじめ事件」
(タ)福 島地裁い いわき支 部平成 2 年 12 月 26 日判 決
「いわき 市中学校 いじめ自 殺事件」
市川 須美 子
(オ)東 京高裁平 成 6 年 5 月 20 日 判決
「中野区 中学校い じめ自殺 事件」
(カ)富 山地裁平 成 13 年 9 月 5 日判 決
「富山市 中学校い じめ自殺 事件」
(ク)福岡地裁平 成 13 年 12 月 18 日 判決
「福岡県中学校 いじめ自殺事件」
(ケ)鹿児島地裁 平成 14 年 1 月 28 日判決
「鹿児島県知覧町 中学校いじめ自殺 事件」
(タ)福 島地裁い いわき支 部平成 2 年 12 月 26 日判 決
「いわき 市中学校 いじめ自 殺事件」
(チ)秋 田地裁平 成 8 年 11 月 22 日判決
「秋田県 中学校い じめ事 件」
(ツ)
東京高 裁平成 14 年 1 月 31 日判決
「神奈 川県中 学校い じめ自 殺事 件」
(ト)
旭川地 裁平成 13 年 1 月 30 日判決
「中学 生校内 性的暴 行事 件」
(コ)
大阪地 裁平成 9 年 4 月 23 日判決
「大阪 府中学 校いじ め暴行 殺害事 件」