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本研究におけるいじめ態様と裁判例の選定

第2章 本研究におけるいじめの態様

第2節 本研究におけるいじめ態様と裁判例の選定

これまで、いじめ問題の裁判例に注目する教育法学や法学関係などの研究者が、いじめ裁 判例として取り上げる判決などをもとにして、文部科学省のいじめ態様と比較関連を図り ながら、分析整理してきた。その結果、文部科学省が類型化するいじめ態様は、多様ないじ め問題の裁判例と関連させることができ、研究者の学問的探究と重なっていることが明ら かになってきた。

本節では、それらの考察をもとにして具体的に本研究で取り上げる5つのいじめ態様を 選定する。また、態様ではないが、本研究におけるいじめ問題の学習内容として特別に取り 上げる「いじめとふざけ」「特別支援いじめ」の理由について説明し、「ネットいじめ」につ いて本研究における学習内容としない理由について述べる。さらに、本研究におけるいじめ の類型化による学習テーマに対応した裁判例について考察し、選定する。

1 本研究における五つのいじめの態様

本研究では、文部科学省のいじめ態様類型化に注目しながら、いじめ問題の判決書教材の 開発と学習内容として適切だと考察するいじめの態様を次のように検討した。

市川が分類した「従来型の暴行・恐喝中心型のいじめ」は、どの研究者においても共通に いじめの態様としてとらえられている。坂田はこのいじめ態様を「法的問題としてのいじめ」

における「法的責任Ⅱ刑事責任」に分類する。梅野、采女においても刑法と関連づけてとら え、最も多くの判決書を分析し、紹介している。斎藤、岩崎・橋本・船木も関連する判決書 を多数紹介している。それらにおいては、「暴行や恐喝」が重大ないじめ行為として位置づ けられている。

市川は「心理的いじめ」が被害者のプライドに揺さぶりをかけ、暴力よりも悲惨な側面が あると分類した。これは、坂田においては、「法的問題としてのいじめ」における「法的責 任Ⅰ民事責任」として分類されている。梅野は、「名誉毀損、侮辱、無視・村八分」である と分類している。それらにおいては、「無視、仲間はずれ、村八分」などの精神に対する攻 撃となる心理的いじめと考えられる。

また、「心理的いじめ」の態様として、梅野が注目する名誉毀損や侮辱と重なる「言葉の 暴力」としての「悪口」も、重要ないじめの態様として上げられる。文科省は「冷やかしや からかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」と分類している。文科省の調査55では、

この態様に該当するいじめ行為が圧倒的に多く、2014年度調査で64.4%に及んでいる。特 に近年は、SNS が発展しネット環境を悪用した誹謗中傷や名誉毀損が「ネットいじめ」と して多発しており、「悪口」についてもいじめの態様として分類できると考えられる。

市川は、「トラブル型いじめ」についても分析しているが、それらは、森田の調査項目で は、「心理的ふざけ型」と重なっている。文科省の分類では、「金品を隠されたり、盗まれた

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り、壊されたり、捨てられたりする」「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、

蹴られたりする。」というものである。坂田の分類では、「教育課題としてのいじめ」として 位置づけられる。「子どもの行動が学校教育上見過ごすことが出来ない程度」になった場合 と考えられる。そして、「一定の者から特定の者に対し、集中的、継続的に繰り返される心 理的、物理的、暴力的な苦痛を与える行為が、受忍限度を逸脱した場合には法的責任の追及 が初めて可能となる」として、「教育課題としてのいじめ」と「法的問題としてのいじめ」

を区別している。梅野は、判決書の事実に見られる「肩パン」「プロレスごっこ」「蹴り上げ る」「サインペン事件」などのいやがらせを取り上げ、それぞれの行為を点ではなく線とし て視点を変えて見ていくことの必要性を述べている。それは、市川が「一人一人の行為は悪 質ないたずら、あるいは、一対一トラブルの延長」のようなところがあるが、一人に集中し て行われているところに注目すべきであると述べていることと共通している。これらの教 育法学や法学関係者の研究から、「いたずら、トラブルと考えられる行為」としての「物理 的いじめ56」についても、いじめ態様に基づく学習内容のテーマとして必要だと考えられる。

また、市川が「性的いじめ」として分類し、坂田が、「恐喝や強制わいせつなど、学校教 育の範疇を超えて警察に委ねられるべき問題」と断じ、梅野が「生存権、人格権を脅かす」

ものであるとする「性的嫌がらせ」についても、態様として特別に取り上げる必要があると 思われる。「性的嫌がらせ」については、表3でも三つの裁判例が説明されているが、その 他の態様に分類されている裁判例にも、散見される。市川は、「一般的に同性間のいじめに あっても、中学生以降の思春期のいじめでは、ズボン脱がしのような性的いやがらせが単純 な暴行や恐喝などと並んで、大きな比重を持っている。精神的・人格的な打撃の深刻さとい う点では、物理的暴力以上に有効な性的いやがらせないし性暴力は、男女を問わず潜在的に はかなりの頻度で行われているとみられるが、被害の陰湿さからなかなか顕在化しない。こ のことは、いじめが異性間に生じた場合、いじめがストレートに性暴力につながることを暗 示している。57」と述べ、性的いじめについて旭川地裁平成13年1月30日判決「中学生校 内性的暴行事件」を事例に論じている。

以上、本研究では、教育法および法学関係の研究者が注目するいじめ態様、およびいじめ 裁判例や判決の知見をもとに、5つのいじめ態様について、いじめ判決書教材の開発および 学習テーマとして妥当ではないかと考察する。その五つは、「悪口」「無視・仲間はずれ、村 八分」「暴行・恐喝」「物理的いじめ」「性的嫌がらせ」である。

2 本研究で取り上げる「いじめとふざけ」の考察

「いじめとふざけ」の違いに関わる態様についても、重要な学習内容と考えられる。この 項目は本来はいじめの態様ではなく、いじめの峻別という課題である。市川は「トラブル型 いじめ」については、「行為一つ一つをとってみればいたずら・トラブル(小競り合い)と しかみえない転校生いじめ」として、(ツ)東京高裁平成14年1月31日判決「神奈川県中学

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校いじめ自殺事件」を取り上げている。これは、森田の分類では「心理的ふざけ型」のいじ めとなるが、「いじめの態様として、孤立しがちな転校生に対するいじめということから、

加害生徒が多数にのぼり、一人一人の行為は、悪質ないたずら、あるいは、一対一トラブル の延長のようなところがあって、加害意識が希薄なのに対し、他方当事者は常に一人H君 に集中していたという特質がある。」として、いじめとふざけの違いについて考察している。

市川はこの裁判について、「短期間に担任が認識しえただけでも同級生との 15 回にも上る トラブルを経験した生徒…教師には深刻ないじめが認識可能であれば、抽象的レヴェルで のいじめ自殺の予見可能性は常に認められることになろう。」と学校・教師の責任を分析し たが、「心理的ふざけ型」によるいじめの集積や共同不法行為によるいじめ自殺について、

この判決の意義を述べている。

坂田仰は、いじめの態様について大きく三つに類型化する。「a日常的衝突、b教育課題 としてのいじめ、c法的問題としてのいじめ」の3タイプである。「aは子ども社会におい て日常的に見られる衝突の類いである。bは子どもの行動が日常的な衝突の域を超えて、学 校教育上見過ごすことが出来ない程度まで社会化のプロレスから逸脱するようになった場 合を指す。cは教育課題のいじめのうち、被害者の法的な権利が著しく侵害されており、訴 訟の対象となるレベルにまで達している場合」と説明する。そして「cは、更に、私法上の 問題、刑事法上の問題、児童福祉法上の問題に分類することが可能である。」と述べ、「法的 責任Ⅰ民事責任」と「法的責任Ⅱ刑事責任」58に分けて説明している。現在の学校現場では、

これらの分類が混乱していると指摘し、「学校現場には、クラスや部活動で孤立しがちな子 どもや、日常的な衝突の類いから、恐喝や強制わいせつなど、学校教育の範疇を超えて警察 に委ねられるべき問題に至るまで、一括りに『いじめ』として論じる傾向が今も存在する。

教育課題としてのいじめと、法的問題としてのいじめを峻別し、いじめの類型化を図る必要 がある。」と主張する。そして、法的責任のいじめについては、「学校およびその周辺におい て、児童・生徒の間で、一定の者から特定の者に対し、集中的、継続的に繰り返される心理 的、物理的、暴力的な苦痛を与える行為が、受忍限度を逸脱した場合には法的責任の追及が 初めて可能となる。」と述べている。また、「刑罰法規としては、暴行、傷害、恐喝等」を「法 的責任Ⅱ刑事責任」とし、「損害賠償の請求に関しては民法上の不法行為に関する規定」を

「法的責任Ⅰ民事責任」として、類型化している59

以上のように、研究者においても、いじめとふざけの峻別についての法的判断を論じてお り、判決書教材開発や学習テーマとして必要な要素だと考えられる。

3 本研究で取り上げる「特別支援いじめ」の考察

本研究では、「特別な支援を必要とする児童・生徒に対するいじめ問題」(以下、本研究で は「特別支援いじめ」と呼ぶ)についても学習テーマとして考察する。

市川や坂田は、特別な支援を必要とする児童・生徒については安全面の配慮がより高まっ