1 授業構成案の開発
授業構成は3時間である。次の表6のような学習過程を計画した。
<表6 京都市小中学校いじめ事件の判決書教材を活用した授業構成>
学 習 過 程 時間 主な学習内容 個々の違法性・人権侵害
行為を判別し、認識す る。
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①京都市小中学校いじめ暴行事件の判決書を読み、どの行為がいじ めだと思うかを判決書に下線を引き、確認させる。同時にそのいじ めがどのような不法行為を含む人権侵害なのかを説明する。【(1)~
(16)、(19)~(22)、(24)~(27)】
責任の所在を確認し合
う。 1
②感想の代表的なものを何人か読み、各班に「いじめの責任の所在 はだれにあると考えるか」「学校・教師はどうすべきだったのか」
「周囲の人たちはどうすべきだったのか」「被害者はどうすること でいじめから逃れられたのか」「どうすればいじめのきっかけを防 ぐことができるのか」のテーマでグループに割り当て、話し合いを させ協力してまとめさせる。「いじめの責任の所在はだれにあると 考えるか」「学校・教師はどうすべきだったのか」について発表さ せ、議論させる【(17)、(30)、(31)】。学校・教師の安全配慮義務 については、千葉県中学校いじめ事件で裁判官が示した判断も紹介 し、本判決書の学校・教師の対応について考えさせる。最後に裁判 所の判断について紹介し、いじめ責任の所在について確認させる。
【(16)、(23)、(32)~(34)】
侵害された権利を洞察す る。市民性育成の基本原 理を導き、共通認識とす る。
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③「周囲の人たちはどうすべきだったのか」「被害者はどうすれば よかったのか」「どうすればいじめのきっかけを防ぐことができる のか」について発表し、論議する。周囲の人たちや被害者のシミュ レーションを通して現実的な対応を考察する【(29)】。いじめから 逃れる方法として、転校などの法的措置があることを学び、いじめ 相談所一覧を確認する。名誉や自尊心を尊重することがいかに大切 なものかを説明し、いじめ防止の姿勢・態度・行動を育成する。感 想を書く。
本いじめ判決書教材を活用した授業におけるねらいは、「いじめが犯罪を含む人権侵害 であり、被害者の精神をおいつめ、人格権の侵害となることを理解させる。」「いじめの責 任はだれにあるのかを確認し、被害者がどのような権利を侵害されたかを洞察させ、確認 させる。」「「キモイ」「ムカつく」「キレる」「死ね」などの悪口が氾濫するような環境であ ると、それがきっかけになり暴行や脅迫を含む深刻ないじめに発展する可能性があること を洞察させ、いじめ予防のためにおだやかな言葉環境をつくっていく大切さを意識させ、
そのような言葉を使用しない意志・姿勢を育成する。」「名誉や自尊心がいかに大切なも のかを学び、その上に立って、自由・人権とともに、社会が求める自律、規範を自覚さ せる。」である。本いじめ判決書学習においては、上記の下線部の部分が重点化してい るねらいである。
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また、主な学習内容に記されている【 】内の数字については、本判決書教材において 挿入している下線部記述番号と同じである。授業構成において、どの場面で抽出できた構 成要素と関連した学習が期待できるかを示している。
授業構成に見られるように、本判決書教材の授業では「いじめ判決書教材」に位置付け られている構成要素が含まれている。この要素が反映された授業構成による具体的な授業 実践によって、第4節で検討する感想文記述からキーワードを生成し、抽出した構成要素 をもとに比較・分析することは可能である。それは、判決書教材に内包される構成要素を 位置付けた授業が行われているからである。判決書教材の種類によってその授業について 考察した方法は、授業記録の検討や授業後質問紙による分析であったりとそれぞれに違い がある。そのため授業検討としては統一した研究方法がとられていないが、ここでの研究 の目的は授業構成案に含まれた構成要素が、授業によって生徒たちの感想文記述に構成要 素として抽出できるかについての関連を比較分析するものである。統一した研究方法がと られていないことについては、了解してほしい。
期待される学習内容の記述との関連では、授業構成の第1次において、(5)、(8)~(13)、
(22)、(24)、(28)が組み込まれている。これらの事実は、いじめの態様としての「悪口」に 関連するものであり、その学習が可能になると予想される。また「暴行・恐喝」の態様と しては、同じく第1次に(4)、(14)~(16)、(19)、(21)、(25)~(27)の事実を通して、生徒た ちは理解を具体的に深めることであろう。「悪口」などの言葉によるいじめや暴力による いじめについて具体的に学ぶことで、いじめが犯罪を含む不法行為・人権侵害であること を理解させようとした。
第2次では、いじめの責任についてグループ討議の後、全員で議論するが、その際に学 校教師の責任として(17)の事実から、考察を深めることができる。最終的に、裁判所の判 決を示し、(30)~(31)の判断について理解し、考察することができよう。保護者の責任に ついては、(18)、(23)、(32)~(34)が活用できる。第3次では、「どうすればいじめのきっ かけを防ぐことができるのか」について議論していく中で、「キモイ」という言葉の問題 がきっかけになって、暴行・恐喝などのいじめにエスカレートしていったことの裁判官の 事実認定の学習を通して、生徒たちはこのテーマについての学習を深めていくことが予想 できる。
以上のように、授業構成の中には、いじめ判決書教材の分類分析で抽出できた構成要素 が位置付けられているために、この教材を活用した授業を通して、いじめの態様やいじめ 責任等の理解が深まり、授業感想文において構成要素として抽出できると予想される。
83 2 授業実践の概要
(1)基礎的なデータ
本授業実践は2011年10月、公立中学1年生2クラス総数63人に対して行われた。道 徳授業1時間と社会科2時間の計3時間を利用して、「穏やかな言葉環境づくり」という カリキュラムを特設し、授業は実施された。3時間授業において1時間でも欠席した生徒 は8人いた。授業者は新福悦郎である。
(2)授業の概要および特色
授業実践の概要を説明する。ここでは、「事前アンケート」「生徒達の評価とその理由」
ならびに「授業実践後における質問紙調査」の概要を紹介する。授業の様子ならびに研究 の補足的な参考資料とする。なお、本研究においては、いじめ判決書教材に組み込まれた 抽出できた構成要素を、授業実践によってどのように生徒たちは理解していくのか、授業 感想文の分析を通して抽出する。そのために、本節においては、本研究を補足的に説明す るものとしてとらえる。
(ア)事前アンケート
授業実践の前にいじめについての事前アンケートを記述式で実施した。(公立中学校1 年生3クラス計88人、2011年10月実施)。アンケートの内容は、授業後の学校生活で考 え方の変化、対応の変化、姿勢・態度の変化、行動の変化に関するものであった。次の表 7がそのアンケートの結果である。さらに半年後に同様のアンケートを実施し、言葉環境 改善の変化を調査した。
<表7 事前のいじめアンケート(総数88人、複数回答)>
項目内容 総数 割合(%)
(3)いじめというとどんな行為を思い浮かべますか。分かるだけ書きなさい。
①悪口、陰口 58 65.9
②暴力 46 52.3
③無視、シカト 27 30.7
④ものを隠す、ものをとる 26 29.5
⑤仲間はずし 22 25
(4)いじめはいじめの加害者のほかにだれに責任があると思いますか。
①見過ごす人、周囲の人 64 72.7
②加害者仲間 10 11.4
③被害者 10 11.4
④保護者 6 6.8
⑤学校教師 2 2.3
(5)いじめが目の前で起こっていたらどうしますか。
①注意する。止める。 37 42
②見て見ぬふりをする。 19 21.6
③被害者を支え、相談に乗る。 11 12.5
④先生に言う。 8 9.1
⑤何もできない。 4 4.5
⑤止められそうだったら止める。 4 4.5
⑤記述なし。 4 4.5
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上記の表7の(3)の項目より、生徒達がいじめとして考え感じているのは、悪口や陰口が もっとも多く、次に暴力となる。これは先述した文部科学省の調査17による「冷やかしや からかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」という回答の割合と同様に高い。この 悪口や陰口が人権侵害であるという意識を高め、姿勢・態度まで高めることがいじめ予防 のために重要になってくる。
表7の(4)の項目からは、いじめに対する周囲の同級生の対応のむずかしさを示してい る。生徒達はいじめ問題の解決のためには、周囲の人たちの対応であると感じ考えている が、(5)の項目からわかるように「注意する。止める」と答えがある一方で、「見て見ぬふ り」をしたり、「何もできない」「記述なし」という答えも多い。周囲の同級生がどのよう な対応をすればいじめは抑止され、また防止できるのかについても生徒たちと学び合う学 習が求められている。
(イ)本授業についての生徒達の評価
2008年の実践時より授業直後に行っている授業に対する生徒達の評価(一連のいじめ判
決書学習は「◎とても役に立った、○役に立った、△ふつう、×あまり役に立たなかっ た」)の総数とその割合、そして本授業実践直後に同じように評価をとった。本授業実践 に対する評価は、「◎81.8%」「〇18.2%」で、役に立ったと評価する生徒が100%であっ た。これまでの評価18と比較すると「とても役に立った」という評価の数値がかなり高く なっている。「とても」と「その他」でχ2乗検定を行うと、χ2値=17.28、df=1、
p<0.01となり、本実践後に「とても」と回答した生徒の割合は統計的に有意であった。
(「◎とても」とそれ以外の○△×に分けて、χ2検定を実施)
次に、「とても役に立った」と回答した生徒達(総数45)が書いた理由についてまとめ たのが、次の表8である。
表8 なぜ「◎とても」にしたのか、その理由
項目 内 容 (n=45 上位数のみ掲載) 総数 1 いじめが冗談でもやってはいけないものだという理解 14 2 いじめきっかけがわかり、いじめを防ぐためにこの学習を今後の生活に生かせる 12 3 「キモイ」という言葉が大きないじめになることを学べた 7
4 いじめ被害者の気持ちが理解できた 7
5 いじめが犯罪であることを学べた 6
6 周囲の人の対応を学ぶことができた 6
7 いじめをしないという決意を持つことができた 6
8 人のいやがることを前まで少し自分で言ったりしていた 6
「◎にした理由」は、判決書の学習を通して、いじめについての内容を具体的・現実的に 理解できたことが大きい。いじめの問題性や犯罪性を理解し、キモイなどの言葉問題とい じめの要因、被害者・周囲の人などの対応方法の理解についての学びなどが生徒達に本授