• 検索結果がありません。

新 たな る Wissenschaft(科学・学 問)論の可 能性

第六章 人智学認識論の 構 造と読み解 き のパラダイム

第 三節 新 たな る Wissenschaft(科学・学 問)論の可 能性

こ こで は 、 理論 と 実 践 の 分断 の 要 因と さ れ て き たシ ュ タ イナ ー 教 育 思 想の 科 学 性に つ いて、

こ の思 想 と 時代 が 有 す る ≫Wissenschaft(科 学・学 問 )≪ の 観 点か ら そ の意 義 を 再度 確 認 す るこ と で、 シ ュ タイ ナ ー 教 育 (思 想 ) の精 神 科 学 と して の 有 効性 と 可 能 性 を示 唆 し たい 。

本 論で 述 べ たよ う に、シ ュタ イ ナ ーが 生 き た 19世紀 後 半 には 、自 然 を 対象 化・客 観 化 する 近 代 自然 科 学 の一 方 向 性 に 対し て 、ロ マ ン 主義 や 観念 論 哲 学が 新 た な ≫Wissenschaft≪と し て の科 学 的知 を 提 供し て い た 。 そう し た 新た な 見 方 は 、ま な ざ しを 自 己 自 身 の内 奥 に 向け 、 い っさい の 前提 や 偏 見を 排 除 し 純 化し た 「 精神 」 の う ち に真 実 在 の認 識 と い う 役割 を 見 いだ し た 。それ ゆ え、 こ の 立場 は 、 可 視 の事 実 に 限定 さ れ た 推 論的 な 思 考や 主 客 の 分 離を 前 提 とす る 自 然科学 的 な対 象 視 とは 一 線 を 画 す。 む し ろ、 無 時 間 的 で直 観 的 な思 考 を 支 持 する こ と にな る 。 そこで 採 用さ れ る 「特 殊 ( 個 ) と普 遍 ( 全体 ) の 即 応 的認 識 」 の在 り 方 は 、 自然 科 学 的立 場 か らは、

「 新プ ラ ト ン主 義 」 「 神 秘主 義 」 とい う 漠 た る 前近 代 的 枠組 み に は め られ が ち であ る が 、内実 は 、人 格 的 な善 さ. . . .. .

へ と 向 かう ギ リ シア 的 な 「 内 観の 知 」 が、 近 代 の 科 学的 観 察 と反 省 的 思考の フ ィル タ ー を通 し て、今 日的 意 義 をも っ て 再 構 築さ れ た もの と と ら え るこ と が でき る 。本 論 で、

シ ュタ イ ナ ー教 育 思 想 を 読み 解 く ため の 理 論 枠 組み と し て紹 介 し た 「 現代 的 ホ リズ ム ( ホリス テ ィッ ク パ ラダ イ ム ) 」 もま た 、 そう し た 拡 張 する 科 学 の知 の 系 譜 に 位置 づ く こと に な る 2)。 し たが っ て、こ の よう な 科学 上 の 背景 を ふ ま え るな ら ば、シ ュ タイ ナ ー に よ る ≫Wissenschaft≪ と して の 人 智学 や 精 神 科 学は 、近 代 以降 顕 著 と なる ≫Science( サ イ エ ンス )≪ と して の 自 然科 学 の 知 と 異 な り 、 古 代 の 神 秘 的 叡 智 に 発 し 、 19 世 紀 の ≫Wissenschaft≪ 論 に お い て 磨 か れ 発 展 を 遂げ た 今 日的 な ホ リ ス ティ ッ ク パラ ダ イ ム に 位置 づ く もの と い え る 。

シ ュタ イ ナ ー自 身 、 「 感 覚に 生 じ 来る も の は 、 正し く 認 識さ れ る な ら ば、 そ れ がつ ね に精神 的 なも の の 開示 で あ る こ とを 教 え る」3)、「自 然 科学 の 方 法が 、精 神 領 域に 対 し て誠 実 に 適 用さ れ るな ら 、こ の 方 法 も ま た認 識 を 通し て 精 神 領 域へ と 導 く」4)と 考 え 、自 然 認 識と 精 神 認識 と が 本 質的 に 重 なり を 有 す る もの と 理 解し て い る 。 その こ と は、 シ ュ タ イ ナー が 内 観的 洞 察 を通し て 自ら の 認 識論 哲 学 を 体 系づ け た 『自 由 の 哲 学 』の 副 題 に記 し た 、 「 自然 科 学 の方 法 に よる心

の 観察 結 果(Seelische Beobachtungsresultate nach naturwissenschaftlicher Methode)」 と いう 表 記 に も 見い だ さ れる 。そ れ は 、ジ ェ ー ムズ ,W.(James William)が 高 次 の 意 識の 神 秘 的状 態(mystical states of consciousness)に つい て 、 「感 情 の 状 態 に似 て い るけ れ ど 、 経 験し た 人 にと っ て は、 知 識 の 状 態 で も あ る よ う に 思 わ れ る 」5)と 言 明 す る よ う に 、 そ う し た 高 次 の 意 識 状 態 の う ち に 認 識 的性 質(noetic quality)を 見 い だす と い う事 実 が、 当 時 、識 者 の 間 で は共 有 さ れつ つ あ っ た。

さ ら に 、 こ の 深 化 ・拡 張 さ れ た ≫Wissenschaft≪ と し て の 知 は 、 シ ュ タ イ ナ ー 教 育 に お い て は

≫Kunst( 術 ) ≪ と 融 合 す る こ と に な る 。 か れ に と っ て ≫Wissenschaft≪ は 、 思 考 を 通 じ て 理 念 を もた ら す 人間 の 精 神 活 動の 産 物 であ り、≫Kunst≪ は その 理 念 を、存 在 世界 か ら 採ら れ た 素材 に 刻印 し 表 象化 す る も の (不 可 視 な 本 質 の 可 視 化) と 解 され る 6)。 つ まり 、 こ こで の 両 者の関 係 は、≫Wissenschaft≪ が 具体 的 普 遍の 内 実 か ら 紡が れ た 理性 的 な 知 で ある の に 対し て、≫Kunst

≪ は 方 法 論 と し て の メ カ ニ ズ ム で あ り 、 行 為 に 応 用 さ れ た 具 体 的 な 実 践 科 学(praktische Wissenschaft)と い う位 置 づけ に な る 7)

対 象視 に 徹 する 通 常 の 自 然科 学 の 知が 、 認 識 に 限界 を 定 め、 現 象 の 表 層的 な 事 実の 記 述に終 始 す る の に 対 し 、 こ の ≫Kunst≪ と し て の ≫Wissenschaft≪ は 、 そ の 記 述 さ れ た 文 字 の 背 後 に あ る 本質 へ と 歩み 入 り 、 理 念 を 実 践 へと 還 元 す る 力を も つ 8)。 そ れ ゆ え 、シ ュ タ イナ ー の 教育術

(Erziehungskunst) に お いて は 、 知は ≫Kunst≪ 的創 造 の 領域 に 接 近 し 、融 合 す るこ と に な る。

そ れは 、認 識 行為 と ≫Kunst≪ 的行 為 が 、と も に 、所与 の 現 実を 介 し て 、わた し た ちを 真 実 在の 領 域に 引 き 上げ る こ と を 意味 す る 。こ の こ と は 、源 泉 で ある 内 奥 の 観 照を 通 し て、 わ た したち は 創造 さ れ たも の か ら 創 造へ と 、 偶然 性 か ら 必 然性 へ と 昇っ て い き 、 そこ に お いて 自 然 の統一 性(Natureinheit)が 精 神 的な ま な ざし の 前 に 立 ち現 れ る 、と シ ュ タ イ ナー に よ っ て 表 現 される

9)

以 上 が 、 ≫Wissenschaft≪ の フ ィ ル タ ー を 通 し て み た シ ュ タ イ ナ ー に よ る 教 育 術 の 意 義 と な る 。この こ と をふ ま え た 上で 、今 日 の実 践 上 の 評価 に 鑑 みれ ば 、シ ュ タイ ナ ー 教育( 思 想 )は、

分 断さ れ た 知情 意・身 体・モ ラル を 総 合し 、本 来 的な 生 や 精神 を 回 復 す る有 効 な 教育 理 論 と して の 可能 性 を 有す る も の と いえ る 。

小 括

シ ュタ イ ナ ーの 認 識 論 は 、か れ 自 身、 「 一 元 論 は人 間 が 素朴 実 在 的 に 制約 さ れ ると い う事実 を 無視 し な い。 一 元 論 は 人間 を 人 生の ど の 瞬 間 にも 存 在 全体 を 開 示 で きる よ う な完 結 し た所産 と み な さ な い 。 … 一 元 論 は 、 人 間 の 中 に 発 展 す る 存 在 を 認 め る 」(Die Philosophie der Freiheit.

1894)と 述 べ る よ う に 、 固 定 し た 普 遍 を 前 提 と せ ず. . . . . . . . . . . .

、 現 実 的 な 思 考 を 軸 に. . . . . . . . .

、 不 完 全 な 感 覚 身体 を 精神 的 人 格的 な 存 在 へ と高 め つ づけ る 動 的 な 主体 変 容 の知. . . .. . . ..

と し て 構 想さ れ て いる 。 こ うした 人 智学 的 認 識論 の あ り 方 は、 現 象 面に お け る 状 況相 対 的 な事 実 を 受 け 入れ た 上 で、 事 象 の内的 な 相対 化 に 努め 、 形 而 上 学的 な 領 域へ の 一 足 飛 びの 飛 躍 を否 定 し 、 現 実的 な 視 点か ら の 構造化 と ドグ マ の 回避 に 徹 す る 点で 、 ポ スト モ ダ ン 以 降の 今 日 的な 脱 ( 再 ) 構築 哲 学 の方 向 の ひとつ に 位置 づ く もの と い え る 。

加 えて 、 こ の立 場 は 、 わ たし た ち が今 日 に お い てさ え 無 自覚 で あ る 無 意識 の 層 や超 - 時空的 な 現象 を も 含め た 理 論 の 構造 化 を 教育 学 の 領 域 で推 し 進 めて き た 。 そ こに お い て、 感 覚 的経験 と 理念 認 識 とし て の 思 考 体験 は 、 科学 - 形 而 上 学と い っ た学 問 的 分 化 を意 味 せ ず、 精 神 の発達

と いう 系 ( =知 の ヒ エ ラ ルキ ー ) の連 続 性 の も とで の 意 識レ ベ ル の 拡 大. .. . . . . .

に 位 置 づけ ら れ 、両者 の 相違 は 同 一系 に お け る 位相 の 問 題と さ れ る 。

た だし 、シ ュ タ イナ ー 自 身は 、当 時 、自 ら の 教 育思 想 を 言表 す る 際 、科 学(Wissenschaft)と 形 而 上 的 領 域 を も 解 説 す る 神 秘 主 義 (Mystik) の 両 領 域 は 「 同 じ 道 の 別 の 姿 」 で あ る と 主 張 す る にも か か わら ず 、 そ れ らを 架 橋 する 具 体 的 な 理論 や パ ラダ イ ム の 提 示に は 至 って い な い。そ の 整合 的 な 理解 は 、 究 極 には 、 各 人の 個 別 な 内 的体 験 (Nachdenken 追 思考 ) に ゆだ ね ら れ た。

そ れゆ え 、 シュ タ イ ナ ー 的認 識 論 の内 実 を ふ ま え、 そ の 今日 的 意 義 を 一般 に 解 説で き る理論 枠 組み の 提 示が 必 要 と な る。 今 日 、各 学 問 領 域 で注 目 さ れる 「 現 代 的 ホリ ズ ム 」が そ れ に該当 す るも の と 思わ れ る 。

こ のパ ラ ダ イム は 、1970年 代 以 降、実 証 科学 の 限界 を 超 えた 説 明 の で きな い 現 象を 有 意 味的 に 解 明 す る 今 日 的 枠 組 み と し て 、 自 然 科 学 者 の 側 ( ス タ ン フ ォ ー ド 大 学 神 経 科 学 教 授 の Pribram,Karl,H.や 量 子 論 を 研究 す る ロン ド ン 大 学 理論 物 理 学教 授 Bohm,D.な ど)か ら 提唱 さ れた も ので あ る 。従 来 の 分 析 的モ デ ル が個 別 の 日 常 意識 の 次 元と 超 個 人 的 な次 元 と の関 連 を 説明で き なか っ た のに 対 し 、 こ のホ リ ズ ム的 モ デ ル は 、東 西 の 神秘 主 義 思 想 が従 来 述 べて き た 事象間 あ るい は 、部 分( 特殊 )と 全体( 普遍 )の 即応 的 な相 互 連 結や 変 容 の 内 実を 説 明 可能 に す る「特 殊 即普 遍 の パラ ダ イ ム 」 を採 用 す る 。 そ の 見 方 は、 一 元 的存 在 論 、 相 互作 用 的 一元 的 認 識論、

類 比的 方 法 論、 確 率 論 的 因果 性 、 構造 的 分 析 性 、負 エ ン トロ ピ ー 的 力 学と い う 「全 体 論 的一元 論」 (Battista,J.R.)の 構 造を と る。 こ の理 論 モ デル に お いて は、 シ ュ タイ ナ ー 理論 同 様、 認 識 の 壁は 一 時 的な も の と さ れ、 認 識 主観 の 高 進 の 程度 に 応 じて 存 在 の リ アリ テ ィ は漸 次 開 示され て いく と い う認 識 図 式 が 支持 さ れ る 。 つ ま り 、 この パ ラ ダイ ム で は 経 験的 認 識 (知 ) か ら超越 論 的存 在 認 識( 知 即 在 ) への 架 橋 は、 至 高 の 同 一性 を め ざす 連 続 的 な 認識 主 観 の存 在 論 的変容.. . . .. . . ...

プ ロセ ス. .. .

と して 解 説 さ れ るの で あ る。

以 上の こ と をふ ま え る な らば 、 正 しく 理 解 さ れ た人 智 学 的認 識 論 は 、 無意 識 の 領域 を も射程 に 入れ 、 現 象の 有 機 的 連 関や 生 成 発展 の 一 回 性 の意 義 を 説明 で き る 先 駆的 な 教 育学 理 論 に位置 づ く可 能 性 を秘 め て い る こと が 理 解さ れ る 。 し かも 、 こ こで 示 さ れ た 全体 論 的 一元 論 の パラダ イ ムは 、 ラ バグ リ ィ が 、 今後 、 シ ュタ イ ナ ー 教 育思 想 の 解読 に 向 け て 期待 し た 「 従 来 の 経験的. . . ...

実 証科 学 と 精神 科 学 と の 境界 を 見 通し た 新 た な 理論 地 平. .. . . .. . . . . .. . . .. . . . . .. . .

」と し て 十 分 機能 し う るも の と 考えら れ る。