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研究ⅡとⅢでは、「第1の断り」から「第 5の断り」に至るまで、それぞれの断りを全 体的に捉えることで、その特徴を明らかにしてきた。その結果、JNSはほとんどが「第1 の断り」のみの出現で終わるのに対し、MNS には「第5の断り」まで出現する会話デー タが見られた。本研究では、JNSとMNSのデータにおいて、それぞれの断り発話が次の 断りの発話に移る際に、どのように変化していくのか、断り発話の連鎖について分析して いくこととする。

7.1.研究背景

ロールプレイで見られる断りについての研究はあるが、不可や弁明など、ある一部分に 着目したものが多い。談話の中での断りの出現や、その変化について言及した研究には、

森山(1990)と任(2003)がある。森山(1990)は、2.1 節でも述べたように断り方を「嫌型(は っきりやりたくないと言う)」「曖昧型(用事がある)」「嘘型(都合がつかない)」「延期型(考え ておく)」「ごまかし型(笑ってごまかす)」の四つの方略型に分類したが、この中で、親しく 同等関係には「嫌型」で親しくない場合には「嘘型」が多いとした。さらに、1 度依頼さ れたことを断った次の日に、再度依頼されたら、2 回目の断りをどのように表出するかと いうことについて、男女大学生にアンケートを取ったところ、男子学生は「嫌型」が増加 し、女子学生は「都合がつかない」などの嘘型が増えたとしている。任(2003)では、日本 語母語話者が、1回目の断りに比べて2回目の断りで、ためらいと情報要求の頻度が低下 し、理由、関係修復、代案、詫びの使用が増えるとした。一方で結論(不可)はストラテジ ーシフトが見られず、2回目のほうでは婉曲的な断り方が好まれると結論づけている。

以上、二つの研究は、森山(1990)はアンケート方式で一日おいた次の日という意味での

「2 回目の断り」で、任(2003)は調査対象者に対し、断りが出現しても再勧誘をするよう に指示をしたうえでの「2回目の断り」であるため、同じ2回目と言っても分析観点が異 なる。ひとつの会話の流れの中で、自然に再勧誘が起こり複数回の断りが出現した際に、

その断りがどのように変化するのかを調査したものは、管見の限り見られない。

7.2 研究目的と研究課題

本研究課題では、第1から第5の断りまで観察されたそれぞれの断りが、どのように接 続されて、連鎖を見せるのかを分析する。その際に「直接的断り」「間接的断り」「付随表 現」のカテゴリーに着目し、断りの連鎖の特徴を明らかにしていくこととする。

104 断りの連鎖において

課題1 断りの連鎖の様相はどのようになっているか。

課題2 断りの連鎖において、直接的断り、間接的断り、付随表現の三つのカテゴリーの

使用状況がどのようになっているか。

7.3 分析手順

分析対象となるデータは、JNSは「第1の断り」から「第2の断り」までの連鎖が見ら れた3組とする。MNSは、「第1の断り」から「第2の断り」までの連鎖が見られた26 組、第2から第3の断りまでの20組、第3から第4の断りまでの11組、第4から第5 の断りまでの5組、合計62組の断りの連鎖とする。

断りの連鎖の示し方は、第5章研究1課題3-1で示した意味公式の出現パターンの図示 の方法に従い、直接的断りは 、間接的断りは 、付随的表現は とする。

例えば、第 1の断りが「付随表現」と「間接的断り」で、第2の断りが、「付随表現」

と「直接的断り」と「間接的断り」だとしたら、 ➡ の ように図示する。同様に、「第 3の断り」が「間接的断り」で、第 4の断りが「直接的断 り」と「間接的断り」であったら、 ➡ のように示す。またそれぞ れの断りの連鎖については、「直接的断り」 、「間接的断り」 、「付随的表現」

の増減についても分析していくこととする。

7.4.研究Ⅳ 結果

7.4.1 課題 1 断りの連鎖のパターン

本課題では、断りの連鎖の様相はどのようになっているかについて明らかにしていくこ ととする。まずJNSの3組、つまり「第1の断り」から「第2の断り」までの連鎖のパ ターンは、以下表7-1の通りとなった。

表 7-1 JNS の断りの連鎖のパターン

1組 ➡ 1組 1組 ➡ 1組

1組 ➡ 1組

JNS に見られたのは、「間接的断り」 から「間接的断り」+「間接的断り」

、「間接的断り」+「直接的断り」+「間接的断り」 か ら「間接的断り」+「付随表現」+「間接的断り」 、

「付随表現」+「付随表現」+「間接的断り」+「直接的断り」+「間接的断り」

105

から 「付随表現」+「付随表現」+「間接的断り」+「間 接的断り」 の3組であった。

MNSに見られた合計62組の断りの連鎖のパターンについて示す。表7-2では連鎖のパ ターンの中で比較的多く見られた44組を中心に述べ、表7-3では1組や2組など少数見 られたパターン18組について示す。

まず、表7-2の通り、最も多かったのは「付随表現」+「間接的断り」 から 連鎖が始まる断りで、14組見られた。次に「付随表現」+「直接的断り」+「間接的断り」

「付随表現」+「付随表現」+「間接的断り」 と

「付随表現」+「間接的断り」+「間接的断り」 から始まる連鎖が 8 組、その次には「間接的断り」 から始まるものが6組見られた。

この中で複数見られた断りの連鎖について述べると 「付随表現」+「間接的断り」

から「付随表現」+「間接的断り」 が4組、「付随表現」+「間接 的断り」 から「間接的断り」 が4組、「付随表現」+「付随表現」+「間 接的断り」 から 「付随表現」+「間接的断り」+「間接的断り」

が3組見られた。いずれも直接的断り が使用されず、「付随表現」

と「間接的断り」の組み合わせでの連鎖が見られた。

表 7-2 MNS の断りの連鎖のパターン(62 組中 44 組)

14組 ➡ 4組

4組

2組

1組 1組 1組 1組

8組 ➡ 2組

2組 2組 2組

8組 ➡ 3組

1組 1組 1組 1組

106

1組

8組 ➡ 1組

2組 2組 1組 1組 1組

6組 ➡ 3組

2組

1組

次の表7-3で示すのは「直接的断り」+「間接的断り」 や「間接的断り」+

「直接的断り」 などから始まる連鎖のパターンである。特徴としては、「直 接的断り」が使用されている割合が、表 7-1で示した連鎖のパターンよりも高く、2回に 渡り「直接的断り」が使用されているものもある。

表 7-3 MNS の断りの連鎖パターン(62 組中 18 組)

3組 2組

1組

3組 1組

1組 1組

2組 1組

1組

2組 1組

1組

2組 1組

1組

1組 1組

1組 1組

1組 1組

1組 1組

1組 1組

107 1組

1組

また表7-2,7-3から見てみると、「付随表現」と「間接的断り」を使用した連鎖が、62

組中44組(71%)を占めていることが分かった。

前々頁で述べた通り、複数の出現が見られた「付随表現」+「間接的断り」

から「付随表現」+「間接的断り」 の4組、「付随表現」+「間接的断り」

から「間接的断り」 の4組、「付随表現」+「付随表現」+「間接的断り」

から 「付随表現」+「間接的断り」+「間接的断り」 の3組のようなパ ターンも、全て「付随表現」と「間接的断り」で構成されていることから、MNS の連鎖 は、「付随表現」と「間接的断り」が中心になっていることが分かる。

7.4.2 課題 2 断りの連鎖の変化

本研究課題では、断りの連鎖がどのように変化するかについて、「直接的断り」「間接的 断り」「付随表現」の三つのカテゴリーの増減に着目して分析を試みた。その結果、以下図 7-1 のように、「同じカテゴリーの連鎖」が 12 組(20%)「カテゴリーが減少する連鎖」が 17組(28%)「カテゴリーが増加する連鎖」11組(18%)「カテゴリーの減少と増加両方が見 られる連鎖」21組(34%)の4パターンが見られた。以下それぞれのパターンの内訳につい て詳述していくこととする。

図 7-1 MNS の連鎖の特徴(62 組)

まず、同じカテゴリーで断りの連鎖が見られたもの 12 組について、連鎖のパターンは 次頁表7-4の通りとなった。例えば「付随表現」+「間接的断り」の断りには、同じ「付

108

随表現」+「間接的断り」が、「間接的断り」のみの断りには「間接的断り」というように 接続されるのである。「間接的断り」と「直接的断り」の断りは、出現順序が逆になってい るが、同じカテゴリーの断りを使用していた。

表 7-4 同じカテゴリーでの連鎖 (12 組)

4組

3組

2組

1組 1組

1組

次に、各カテゴリーが減少しているものを以下表7-5にまとめた。全部で17組あり、「直 接的断り」が減少したものは3組、「間接的断り」の減少は1組、「付随表現」の減少は10 組、「付随表現」と「間接的断り」が減少は1組、「付随表現」と「直接的断り」が減少は 2組であった。「付随表現」の減少が最も多く見られた。研究3で示したように、「第1の 断り」から「第 5 の断り」に推移する際に、「付随表現」の使用は減少するという結果が 出ているため、断りの連鎖にもその現象が出ていると言えよう。一方で「間接的断り」の 減少はほとんど見られていないことも分かった

表 7-5 カテゴリーが減少する連鎖(17 組)

①直接的断りが減少 3組

➡ 2組

1組

②間接的断りが減少 1組

1組

③付随表現が減少 10組

➡ 4組

2組 1組 1組 1組

1組

④付随表現と間接的断りが減少 1組

1組

109

⑤付随表現と直接的断りが減少 2組

2組

次は、増加したものについて見ていくこととする。増加したものは以下表7-6の通り、

11組あった。「直接的断り」が2組、「間接的断り」が3組、「付随表現」が3組、「付随表 現」と「間接的断り」が 2組、「付随表現」と「直接的断り」が1組見られた。それぞれ のカテゴリーでの増加は見られるが、「付随表現」の減少とは異なり、何かが特に増加して いるという特徴は見られなかった。

表 7-6 カテゴリーが増加する連鎖(11 組)

①直接的断りが増加 2組

➡ 2組

②間接的断りが増加 3組

2組 1組

③付随表現が増加 3組

➡ 1組

1組 1組

④付随表現と間接的断りが増加 2組

➡ 1組

1組

⑤付随表現と直接的断りが増加 1組

1組

最後は減少と増加の両方が見られるものについて見ていくことにする。次頁表7-7の通 り、減少と増加が見られたものは全部で21組であった。まず、「直接的断り」が減少した データは 6組で、そのうち「間接的断り」が増加したものは 1組、「付随表現」が増加し たものは 5組であった。次に、「間接的断り」が減少したデータは 2組で、そのうち「直 接的断り」と「付随表現」の増加は、それぞれ 1 組であった。さらに、「付随表現」が減 少した連鎖は 11組で、「直接的断り」が増加したのは 2組、「間接的断り」が増加したも のは9組であった。そして「付随表現」と「間接的断り」の二つが減少したデータは3組 で、3組とも「直接的断り」が増加している。この中で最も多く見られたのは、「付随表現」

110

が減少し、「間接的断り」が増加したデータ9組で、次は「直接的断り」が減少し、「付随 表現」が増加したデータ5組であった。

表 7-7 減少と増加と両方が見られたデータ(21 組)

①直接的断りが減少し、間接的断りが増加 1組

➡ 1組

②直接的断りが減少し、付随表現が増加 5組

➡ 2組

2組 1組

③間接的断りが減少し、直接的断りが増加 1組

➡ 1組

④間接的断りが減少し、付随表現が増加 1組

➡ 1組

⑤付随表現が減少し、直接的断りが増加 2組

➡ 1組

1組

⑥付随表現が減少し、間接的断りが増加 9組

➡ 3組

1組

1組

1組 1組 1組 1組

⑦付随表現と間接的断りが減少し、直接的断りが増加 3組

➡ 2組

1組

JNSは3組のみだが、次頁表7-8の通り、「間接的断り」の増加、「直接的断り」の減少 と「付随表現」の増加、「直接的断り」の減少の三つのパターンが見られた。3 組中、「直 接的断り」の減少が2組見られ、増加したカテゴリーは「付随表現」と「間接的断り」で あった。