• 検索結果がありません。

第4章では断りに至るまでの言語行動を、第5章では「第1の断り」に着目し、JNS と MNSのそれぞれの特徴を明らかにした。

本章では、「第1の断り」の後に、再勧誘が出現した場合、「第2の断り」が出現するのか について分析し、出現するとしたら、「第2の断り」以降の断りが、どのような様相である のかについて分析し、それぞれの特徴を明らかにしたい。

6.1 研究背景

実際のコミュニケーションでは、断りが1度だけ表出されたのち、そのまま勧誘者に断 りが受諾されて会話が終了することもあれば、再勧誘が起こり、複数回断りが出現するこ ともある。

断り後の再勧誘や再依頼に着目した研究は、ザトラウスキー(1993) 都・崔(2010)、鄭 (2013)などがあるが、再勧誘とその後の断りの双方に着目し分析しているものには、倉本・

大浜(2008)が挙げられる。倉本・大浜(2008)は、日本人大学生を対象に、勧誘のロールプ レイを行い、勧誘や断りが会話者間のやりとりから再勧誘に関する分析を行った。その結 果、会話の全体的な流れは、勧誘と断りのやりとりが平均7回繰り返され、その間に情報 要求と情報提供の往復が2回挿入され、条件提示とその受諾の往復は約半数の会話で見ら れたとしている。一方で、勧誘者自身が勧誘内容の否定的側面を自ら表明し、被勧誘者に 断りをしやすくするという「勧誘受諾困難点の告白」の使用が、全会話中2件しか見られ なかったとしている。この「勧誘受諾困難点の告白」は、ザトラウスキー(1993)や宇佐美 (2006)では「相手への配慮行動」とし、日本人の勧誘行動の特徴として挙げていたため、

異なる結果が出たと述べている。

以上の研究は、断りがどう受け止められるか、また再勧誘者のストラテジーに着目した ものであるが、再勧誘後に断りが出現するか否かに着目した研究や、再勧誘後の断りの様 相について分析した研究も少ない。

6.2 研究目的と研究課題

本研究課題では、まずJNSとMNSの会話データには、再勧誘が起こり、「第2の断り」

の出現があるかどうかについて明らかにする。さらに「第2の断り」以降の出現があると したら、その断りの様相はどのようなものであるか、その特徴を明らかにすることを目的 とし、以下の研究課題を立てる。

79 6.3 分析手順

分析対象は、再勧誘に対して表出された「第2の断り」及び、その後に表出される「第 3の断り」「第4の断り」「第5の断り」とする。

第2、第3の断りの構成を分析するためには、まず「勧誘の分析枠組」(表3-8)を使用し、

第2の断り以降について

課題1 第2の断り以降の出現についてJNSとMNSで差が見られるか。

課題2 第2の断りについて

2-1 意味公式使用数に、どのような差違が見られるか。

2-2 初出意味公式において

2-2-1 カテゴリーにどのような差が見られるか。

2-2-2 意味公式は具体的にどのようなものが見られるか。

2-3 意味公式の出現パターンにおいて

2-3-1 どのようなカテゴリーのパターンが見られるか。

2-3-2 意味公式は具体的にどのようなものが見られるか。

課題3 第3の断りについて

3-1 意味公式使用数に、どのような差違が見られるか。

3-2 第3の断り発話における初出意味公式において

3-2-1 カテゴリーはどのようなものであるか。

3-2-2 意味公式は具体的にどのようなものが見られるか。

3-3 第3の断り発話における意味公式の出現パターンにおいて

3-3-1 どのようなカテゴリーのパターンが見られるか。

3-3-2 出現パターンの意味公式は具体的にどのようなものが見られるか。

課題4 第4、第5の断りについて

4-1 意味公式使用数に、どのような差違が見られるか。

4-2 第4、第5の断り発話における初出意味公式において

4-2-1 カテゴリーはどのようなものであるか。

4-2-2 意味公式は具体的にどのようなものが見られるか。

4-3 第4、第5の断り発話における意味公式の出現パターンにおいて

4-3-1 どのようなカテゴリーのパターンが見られるか。

4-3-2 出現パターンの意味公式は具体的にどのようなものが見られるか。

80

勧誘者が再勧誘をしているかどうかを判定する。それから「断りの分析枠組」(表3-7)を用 いて、「第2の断り」以降をコーディングしていく。

以下の会話例6-1では、断り手は「明日はちょっと」と曖昧に言い訳をして、あさってな ら平気だと言っている(8B)。その後勧誘者はその断りを受諾しているため(9A)、第2の断り はないものとする。

会話例6-1 JNS2 (A:勧誘者 B:断り手 以下同様)

3A hhh明日ほら 劇団ひとりの映画 4B hhhh

5A 明日 いかない?

6A hhhh あー行きたいね おもしろそうだもんね

7A ね:::

8A あ:::明日 明日ね ちょっとね あさってなら平気だよhhhh

「第1の断り」

9A そっかむりか 明日はだめなんだね 【受諾】

一方、以下の会話例6-2は、「第1の断り」の後に、勧誘者が再勧誘して断りを受諾せず、

「第2の断り」「第3の断り」が表出されるMNSの例である。勧誘者が、明日用事があるか を尋ね映画に誘ったところ(1A)、断り手は、明日は田舎に帰ると言い訳し、行けないと不 可表現で断っている(2B)。しかしそれに対して、もう一度、相手と一緒に映画を見たいと 再勧誘をされたのち(3A)、「ああ」とためらい、行けないと不可を表し、もうチケットを買 ったと言い訳して「第2の断り」を表出する(4B)。更に勧誘者はいい映画だと勧誘理由を表 して(5A)、もうチケットを買ったから行けないと「第3の断り」を表出している(6B)。

つまり、この会話例は、「第2の断り」と「第3の断り」があるとして分析する。さらに

「第2の断り」と「第3の断り」については、第1の断りを分析した研究2と同様に、意味公 式数、カテゴリー、組み合わせについて分析する。

会話例6-2 MNS17

1A Miranti emm Ngana besok sore ada acara apa? torang mo pigi ba uni?

2B Ya:besok sore kita da pulang kampong, jadi ndak bisa ya

3A Mo pulang kampong? O:: pada hal kita mo pangge pa ngana mo ba uni film deng kita kua di TO

4B ①Ya ②ndak bisa③ soalnya kita so beli tiket,, 5A Film gaga te,,!

6B ①Ndak bisa②soalnya kita so beli tiket ini

81 訳

1A ミランティ、ええと、明日夕方、何か用事ある?映画館に行こうよ。 勧誘 2B ああ、明日の夕方田舎に帰るの。だから行けない。 「第1の断り」

3A 田舎帰るの?ああ、私はあなたを誘いたいの。明日映画館でいっしょにあなたと映 画を見たいのよ。 直接勧誘

4B ①ああ②行けないよ③だってもうチケット買ったし。 「第2の断り」

5A いい映画なんだよ。 勧誘理由

6B ①いけないよ。②だってもうチケット買ったし。 「第3の断り」

第2の断り 分析結果例 2-1 意味公式使用数3

2-2 初出意味公式 「付随的表現」【ためらい】

2-3 付随的表現【ためらい】+直接的断り【不可】+間接的断り【言い訳】

第3の断り 分析結果例 3-1 意味公式使用数2

3-2 初出意味公式 直接的断り【不可】

3-3 直接的断り【不可】+間接的断り【言い訳】

6.4 研究Ⅲ 結果

6.4.1 課題1 第2の断り以降の出現の有無について

本課題では、「第2の断り」以降の出現についてJNSとMNSで差が見られるかについ て明らかにしていく。

JNSとMNS、各35組のデータのうち、第1の断りのみ出現したデータと、第2の断

り以降が出現したデータとを比較した。その結果第1の断りのみ出現したのは、JNSが 32組、MNSが9組だった。一方第2の断り以降が出現したのは、JNSが3組、MNSが 26組であった。両者の第2の断り以降の出現については有意差が見られた。(Fisherの正 確確率検定p<.001)

82

図6-1 第2の断り以降の出現についての比較

さらに、第2の断り以降の出現について分析したところ、以下表6-1のようになった。

「第2の断り」まで出現したデータは、JNSが3組60、MNSが6組であった。そして、

「第3の断り」まで出現したデータは、JNSには見られず、MNSには9組見られた。第 4、第5の断りも、JNSには見られず、MNSには「第4の断り」までのデータが6組、「第 5の断り」までが5組見られた。このことからJNSの断りは「第2の断り」までに留まり、

MNSは「第5の断り」まで出現することが分かった。

表 6-1 「第 2 の断り」以降の出現について

JNS(全3組) MNS(全26組)

第2の断り 3 6 第3の断り 0 9 第4の断り 0 6 第5の断り 0 5

以下図6-2のように、第2の断りが出現するデータは26組、第3の断りは20組、第4 の断りは11組、第5の断りは5組になった。課題2では、それぞれの断りについての特 徴を分析することとする。

60 JNSには再勧誘が出現したデータが5組見られたため、本来なら5組の「第2の断り」が出現するはずだが、5 組中2組は、その再勧誘に対して、「他の時間なら」と言って勧誘を受諾していたため、断り発話が出現しなかった。

83

第1 第2 第3 第4 第5

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9組

― ― ・・・・・・・・・・・・・ 6組 ― ― ― ・・・・・・・・・・・ 9組 ― ― ― ― ・・・・・6組 ― ― ― ― ― 5組

総数 35組 26組 20組 11組 5組

図 6-2 MNS 各断りの出現数

MNSには「第2の断り」の出現が多く、第2、第3、第4の断りのように、複数回繰り 返す例も見られる。MNSに見られた以下の会話例6-3は、再勧誘が4回出現し、断りの 発話が合計5回出現してから終結する会話例である。断り手が勧誘者に対して、明日は行 けないと言う(10B)。それから度重なる誘いに対して、不可表現を使用したり、言い訳をし たり、代案を提示したりして(12・14・16B)、最後の断りで謝罪を表出したのちに(18B)、

勧誘者にわかったと受諾されている(19A)。

会話例6-3 MNS4

10B Ya::besok kita nimbole, ada mo pulang kampung 11A Nimbole tunda?

12B Uhm butul mo pulang kampung kita

13A Bagus kata dia pe cirita, kita le, cuma dorang ada cirita makanya kita mo pangge no pa ngana!

14B Ya:nimbole besok.! Lusa jo ato kapan bagitu, ato weekend torang ba uni no!

Nanti ta ba tamang akang pa ngana,masih ada to itu sampe weekend di TO.

Soalnya besok kita mo pulang, kita pe papa ada suruh pulang!, pulang kampong, ada urusan no kita pe papa ada bilang

15A Nimbole dang besok? Iyojo kua!

16B iyo! Nimbole, mungkin lusa ato nda weekend no torang ba uni,malam minggu kek bagitu

17A malam minggu kita so ada janjian, besok jo kua!

18B Hii::nimbole, aduh minta maaf kita mo pulang!, neh nanti jo brikut, Lusa jo!, lusa jo? Iyo kita suka sih ba uni tapi lusa jo soalnya kita ada urusan mo pulang kampung.

● ●

84 19A iyo

10B ああ。明日行けないわ。田舎帰らなくてはいけないの。「第1の断り」

11A 延期するのはだめなの?

12B ううん ほんとに田舎帰らなくてはいけないの。「第2の断り」

13A 映画はいいらしいよ。みんな言ってる。だからあなたを誘ってるのよ。

14B ああ、明日はだめだ。あさってか週末にしようよ。またいっしょに行こうよ。週末 ならまだ映画館でやってるでしょ?あたしは実家に帰らなきゃ。お父さんが帰りな さいと言っているの。用事があると言っているの。「第3の断り」

15A じゃあ、明日はだめなの? 明日行こうよ。

16B うん。いけないわ。あさってか週末ならいいわ。「第4の断り」

17A ええ?週末は約束があるのよ。明日にしようよ。

18B ひい。だめよ。ああ ごめんね。わたし帰らなきゃ。また今度ね。あさって。

あさってはどう?行きたいんだけど、実家帰らなきゃなんないの。

「第5の断り」

19A わかった

以下の会話例6-4は、JNSに見られた「第2の断り」3組のうちの1組の会話である。まず 断り手は、映画の誘いを受けてから、行きたいが家の用事があり明日は行かなければなら ないと言ったうえで、謝罪と不可を表出している(2B)。その後、勧誘者が映画が楽しいこ とをアピールすることで再勧誘をしたため(3A)、第2の断りとして、【願望】と【言い訳】

を表出したのちに、別の機会を打診している(4B)。

会話例6-4 JNS18

1A 明日暇なんだけど、映画行かない?

2B あ:なんか行きたいんだけど ちょっとなんか家の用事できちゃって、ちょっと 明日行かなきゃいけないんだ だからちょっとごめん 行けないや「第1の断り」

3A ん すごい楽しいよ ← 【勧誘理由】

4B あ:: 行きたいんだけど どうしても帰んなきゃいけなくて 今度じゃだめか な? 「第2の断り」

6.4.2 課題 2 第 2 の断りについて

課題 1 では、JNSの断りはほとんどが「第1の断り」のみの出現で、出現しても「第2 の断り」までの出現に留まることが分かった。一方MNSは、第1の断りで終わるものか ら、再勧誘が繰り返されて「第5の断り」まで出現するデータも見られた。

本研究課題からは、まず「第2の断り」まで見られたJNS3組と、第2から第5の断り