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第4章研究1では、「第1の断り」に至るまでの言語行動についてJNSとMNSの違い について述べてきた。

本章では、勧誘を受けた直後に出現する断りである「第 1 の断り」に着目し、JNS と MNSそれぞれの特徴を明らかにする。

5.1 研究背景

断りの研究は、第2章2.2、2.3節でも述べたように、様々な観点からなされている。そ の観点の一つには、例えば謝罪の使用、言い訳の質などがある。つまり特定の機能につい て分析し、断りの様相を探るというものである。

本研究では、断りが展開される中で、断りの様相がどのように変化していくかを明らか にするという目的がある。その際に各々の意味公式に着目することも大事だが、断りの意 味公式の構成や直接性などの特徴を明らかにすることも重要だと思われる。

また、比較する際に、断りの中でどこの断りに着目するかを考えるときに、すべてのデ ータに見られる勧誘の直後に出現する断り、「第 1 の断り」に着目するのが望ましいと考 えた。本研究では先行研究で得られた結果を踏まえ、ロールプレイでの会話データにおけ る第1の断りがどのような様相になるのかを観察し、分析していくこととする。

5.2 研究目的と研究課題

本章では、JNSとMNSの「第1の断り」に着目し、その特徴を明らかにすることを目 的とする。まず意味公式の使用数について明らかにし、次に初出意味公式を、「直接的断り」

「間接的断り」「付随表現」の 3 種類のカテゴリーと、下位区分の意味公式に分類して特 徴を明らかにする。さらに、意味公式の出現パターンを、初出意味公式と同様に3種類の カテゴリーと意味公式に分類して、その特徴を明らかにするために、以下の研究課題を立 てる。

第1の断りについて

課題1 意味公式使用数に、JNSとMNSにどのような差違が見られるか。

課題2 初出意味公式において

2-1 カテゴリーに差が見られるか。

2-2 意味公式には具体的にどのようなものが見られるか。

課題3 意味公式の出現パターンにおいて

3-1 どのようなカテゴリーのパターンが見られるか。

3-2 意味公式には具体的にどのようなものが見られるか。

64 5.3 分析手順

分類には、第3章の研究方法で提示した「断りの分析枠組」(表3-2)を使用する。

分析対象は、勧誘の働きかけ発話に対する最初の断りの発話、つまり直接的断り及び間 接的断りが含まれる「第1の断り」とする。

分析手順は、以下に示す会話例5-1の通りとする。断り手は勧誘を受け、明日は実家に 帰るから行けないと断りを表出している(10B)「第1の断り」を、まず「直接的断り」「間 接的断り」「付随表現」の三つのカテゴリーに分類し、その後下位区分の意味公式に分類し ていく。課題1は意味公式使用数、課題2では初出意味公式について、課題3では意味公 式の出現パターンについて分析し、以下のように結果を示す。

会話例5-1 JNS14 (A 勧誘者 B 断り手 以下同様)

9A 明日さ ちょうど授業ないからさ、一緒行かない?hh 10B ①あしたはちょっと実家に帰らなきゃいけなくなっちゃって

②行けないんだよね。

①「間接的断り」【言い訳】②「直接的断り」【不可】

分析結果例

課題1 意味公式使用数2

課題2 初出意味公式 「間接的断り」【言い訳】

課題3 間接的断り【言い訳】+直接的断り【不可】

5.4 研究Ⅱ結果

5.4.1 課題 1 意味公式使用数

本課題では、「第1の断り」における意味公式使用数に、JNS とMNSにどのような差 違が見られるかについて比較していく。

JNSとMNSの意味公式使用数は、以下図5-1の通りとなった。JNSの意味公式使用数 は、使用数2の会話データが最も多く18組で、単独使用が9組、使用数3が6組、使用 数4以上は2組見られた。一方MNSは使用数3が最も多く17組、使用数2は9組、使 用数4以上は8組見られた。JNSで9組見られた単独使用は、MNSでは1組しか見られ なかった。一方MNSでは使用数4以上が8組あるのに対し、JNSに見られたのは2組で あった。JNSとMNS両者の意味公式数平均値には有意差が確認された(χ2 =18.261, df=3, p<.001 (両側検定))。

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図 5-1 意味公式使用数比較

以下に示す会話例5-2は、JNSによく見られた意味公式使用数2の例である。断り手は

「明日」と勧誘者の発話を繰り返し、田舎に帰らなければいけないと言い訳している(6B)。

【繰り返し】と【言い訳】つまり「付随表現」「間接的断り」の二つの意味公式を使用して いる。

会話例5-2 JNS28

5A 明日あたし映画見に行こうと思ってるんだけど ゆきも一緒に来ない?

6B ①明日②明日はね 田舎に帰んなきゃいけないんだよ 帰ってって言われて

「第1の断り」

7A あ そうか また今度ね 8B うんうん

一方、以下の会話例5-3はMNSによく見られた意味公式使用数3の例である。断り手 は、まず「ああ」とためらいを表出し、「残念」と遺憾の気持ちを表出したあとに、田舎に 帰ると言い訳をしており(2B)、【ためらい】【遺憾】【言い訳】つまり「付随表現」「間接的 断り」「間接的断り」の3つの意味公式を使用している。

会話例5-3 MNS27

1A Dessy, di TO besok ada film gaga, ada tu film horor yang baru, ngana suka mo pigi ba uni?

2B ①ya ②kasiang ③sabantar le kita mo pulang kampung, kita pe mama deng papa sampe so ndak pernah kita liat.

66 訳

1A デシー、映画館で明日いい映画やるの。新作なんだよ。見に行きたくない?

2B ①ああ、②残念。③これから田舎に帰るの。お父さんとお母さん、しばらく私に会

ってないんだ。

5.4.2 課題 2 初出意味公式

本研究課題では、「第 1 の断り」の初めに来る初出意味公式について、3 つのカテゴリー と具体的な意味公式の種類について分析を試みる。

5.4.2.1 課題 2-1 初出意味公式カテゴリー

本課題では、初出意味公式において、出現するカテゴリーに差が見られるかについて述 べていくこととする。

意味公式を、「直接的断り」「間接的断り」「付随表現」の 3 種類のカテゴリーに分類す ると、以下図5-2の通りになり、JNSとMNS両者の初出意味公式の使用カテゴリーには 有意差が見られた(χ2 =19.698, df=2, p <.001(両側検定))。初出意味公式が「直接的断り」の例 は最も少なくJNSに1組(3%)見られただけで、MNSには見られなかった。一方で、「間 接的断り」は、JNSが18組(51%)に対しMNSが2組(6%)でJNSの方が多かった。また、

「付随表現」は、JNSが16組(46%)であるのに対しMNSは33組(94%)で、MNSの方 が多いことが分かった。このことからJNSもMNSも「直接的断り」を初出に使用するこ とはないが、JNSは「間接的断り」と「付随表現」を使用し、MNSは大部分が「付随表 現」を使用する傾向があることが分かった。

図 5-2 初出意味公式比較

5.4.2.2 課題 2-2 初出意味公式の種類

本課題では、課題2-1で見られた3つのカテゴリーの中で具体的にどのような意味公式

67 が見られるかについて述べていくこととする。

種類別の内訳を見てみると、次頁表5-1の通りになった。

「直接的断り」は、JNSで【不可】が1組見られたのみであった。

「間接的断り」は、JNSには【言い訳】が13組で最も多く、【謝罪】も4組見られた。し かしMNSは【言い訳】と【謝罪】が1組ずつ見られただけであった。

「付随表現」は、JNSに【ためらい】が5組、【繰り返し】が4組【願望】が6組【情報確認】

が1組見られた。MNSは【ためらい】が最も多く25組、【驚き】が4組、【繰り返し】【願望】

【情報確認】【困惑】がそれぞれ1組見られた。付随表現そのものの総数はMNSのほうが多 いのだが、【繰り返し】と【願望】についてはJNSのほうが多く見られたことになる。初出 意味公式の使用カテゴリーと同様に、JNSとMNS意味公式の種類別においても有意差が見 られた(χ2=37.790, df=9, p<.01(両側検定))。また、JNSの言い訳(χ2=12.857, df=1, p<.01(両側検 定))、MNSのためらい(χ2=23.333, df=1, p<.01(両側検定))についても有意差が認められた。

表 5-1 初出意味公式の内訳 カテゴリー 意味公式

種類

JNS(組) MNS(組)

直接的断り 不可 1 0

小計 1 0

間接的断り 言い訳 謝罪 将来の約束

13 4 1

1 1 0

小計 18 2

付随表現 ためらい 驚き 繰り返し 願望 情報確認 困惑

5 0 4 6 1 0

25 4 1 1 1 1

小計 16 33

合計 35 35

以下の会話例5-1(再掲)は、JNSによく見られた初出意味公式が【言い訳】の例である、

勧誘者が断り手を映画に誘うが(9A)、断り手は、明日実家に帰らなくてはいけないという 言い訳をしたあとで、行けないと不可表現を用いて断っている(10B)。

68 会話例5-1(再掲) JNS14

9A あしたさ ちょうど授業ないからさ、いっしょいかない?hh

10B ①あしたはちょっと実家にかえらなきゃいけなくなっちゃって、行けないんだよね。

①「間接的断り」【言い訳】

一方、以下の会話例 5-4 は、MNS に最も多く見られた、初出意味公式が【ためらい】

の例である。勧誘者は断り手を映画に誘ったのち(3A)、断り手はためらいを表出したあと、

謝罪をし、田舎に帰ると言い訳をしている(4B)。

会話例5-4 MNS28

3A Ngana mo ba uni sama-sama deng kita?

4B Ya:: sorry s'kali, soalnya kita besok mo pulang kampung.

3A あなた明日私といっしょに見に行かない?

4B ①ああ、ほんとにごめん。明日田舎にかえるから。

「付随表現」【ためらい】

付随表現の総数ではMNSのほうが多かったのだが、【繰り返し】と【願望】については JNSのほうに多く見られた。以下に示す会話例5-5は、JNSに見られた【繰り返し】であ る。勧誘者が気晴らしに映画でもと誘い(1A)明日?と聞き返す(2B)。勧誘者が「明日」と 言ったのちに(3A)「明日か」と繰り返している(4B)。また会話例5-6は【願望】の例で、

映画の勧誘を受けて、自分も見たいと言ったのち、実家に帰らなければならないと言って いる(22B)。

会話例5-5 JNS8

3A (課題)進まないよね 気晴らしに、明日映画でも見に行かない

4B 明日?

5A 明日

6B ①明日か: 明日ちょっとね つ: ちょっと 都合が悪くてね 「付随表現」【繰り返し】

会話例5-6 JNS9

21A 明日 わたし暇だからさ 休みだしさ 映画見に行かない

22B ①あたしもすごいみてえんだけど 明日さ なんか お母さんに卒業式の袴を着 る練習をするって 実家に帰らなくちゃいけなくて

「付随表現」【願望】