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第6章研究Ⅲで、「第1の断り」から「第5の断り」に至るまで明らかにし、第7章研 究Ⅳではそれぞれの断りの連鎖がどのように出現するかについて分析してきた。本章では、

JNSとMNSを比較し、「第1の断り」から「第5の断り」に至るまでの各々のデータに おいて、断りがどのように変化し展開していくかを分析し、その特徴を述べていくことと する。

8.1 研究背景

滝浦(2008)によると、例えば誘いを受けて断る場合には、誘ってくれた人のポジティブ フェイスへの補償として、いったんは名目上の受諾で応答する、あるいは誘いに応じられ ない理由を述べる、代案を提示する、さらには非優先的な返答をしなければならないこと 自体の躊躇を表す、といった対人配慮を多く含んだ「断りのシークエンス(発話連鎖)」が 形成されるとしている。つまり、断りでは人間関係修復あるいは維持のために、様々なシ ークエンスが展開されるのである。

そしてそのシークエンスというのは、本論文の研究Ⅳで示したように、ひとつひとつの 断りの発話が、どのように接続されていくかという観点と、断りの談話全体で、「第1の 断り」で収束する談話、「第2の断り」までの出現で終わる談話、「第5の断り」まで連鎖 が続く談話とでは、断りの展開は異なると思われる。断りが複数回続けば、全体に渡りそ れがどのように変化するかという点についても解明する必要がある。

8.2 研究目的と研究課題

研究Ⅳでは、断りの連鎖について分析してきた。本研究課題では、「第 1 の断り」で収 束するデータから、「第 5 の断り」まで連続的に出現するデータ、それぞれにおいて、断 りがどのように変化していくかという観点から、意味公式で分析を試み、その特徴を明ら かにするために、以下のように研究課題を立てる。

8.3 分析手順

研究Ⅲ課題1においては、第1から第5の断りまで、断りの出現回数によってデータを 断りの展開パターンについて

課題1 第1の断りと第2の断りで収束するデータにおいて

JNSとMNSにはどのような断りの展開パターンが見られるのか。

課題2 第3の断り、第4の断り、第5の断りまでで収束するデータにおいて MNSにはどのような断りの展開パターンが見られるのか。

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以下表8-1の通りに分類した。まず「第1の断り」の出現のみ、つまり断りの出現が1度 だけのデータは、JNSが32組、MNSが9組であった。次に、断りが2度出現し、「第2 の断り」で収束するデータは、JNSが3組、MNSが6組であった。「第3の断り」以降 はJNSには出現しなかったが、「第 3 の断り」、「第 4 の断り」、「第 5 の断り」それぞれで 収束した出現したデータは、それぞれ 9 組、6 組、5 組であった。

表 8-1 断りの出現回数別比較

JNS(全35組) MNS(全35組) 第1の断りのみの出現 32組 9組 第2の断りで収束 3組 6組

第3の断りで収束 9組

第4の断りで収束 6組

第5の断りで収束 5組

断りの展開パターンについては、以下、会話例8-1と図8-1で示す。会話例8-1は第2 の断りで収束する会話例である。勧誘を受けた断り手が田舎に帰るから映画を見に行けな いと、「第1の断り」を表出する(2B)。それから、勧誘者から再勧誘を受けたのち、祖父が 入院したと言って「第2の断り」を表出する(4B)。その後勧誘者は「本当?」と聞き返し (5A)、断り手が別の機会にと提示したのちに(6B)、分かったと言って受諾し会話は収束し ている(7A)。

会話例8-1 MNS21

1A Kita dengar ada film bagus kang besok, ngana mo pigi nonton deng kita?

2B Ya kita nimbole pi nonton. ada mo pulang kampung kong le ada urusan..

3A Kiyapa dang, besok jo dang pigi deng kita

4B Ya ada urusan kita pe opa maso rumah saki dikampung.

5A O: Iyo?

6B Iyo nanti laeng kali jo ne 7A O: Iyo jo dang

1A 明日いい映画があるらしいよ。いっしょに行かない?

2B ①ああ②見に行けないよ③用事があって田舎に帰るの。「第1の断り」

意味公式使用数3

初出意味公式 「付随表現」【ためらい】

意味公式出現パターン 【ためらい】+【不可】+【言い訳】

115 3A なんで?一緒に行こうよ。

4B ①ああ②おじいちゃんが入院したんだ 「第2の断り」

意味公式使用数2

初出意味公式 「付随表現」【ためらい】

意味公式出現パターン 【ためらい】+【言い訳】

5A 本当?

6B ああ、また別の機会にね。

7A うん。分かった。

以上のような例の場合「①【ためらい】+【不可】+【言い訳】→②【ためらい】+【言 い訳】」のように表すこととし、図は、以下図8-1のように示す。

ためらい 不可 言い訳 ためらい 言い訳

図 8-1 断りの展開パターン例

課題1では、「第1の断り」のみ出現したデータと、「第2の断り」で収束したデータを JNSとMNSで比較して、その特徴を明らかにする。課題2では、第3、第4、第5の断 りで収束したデータ、それぞれ 9組、6組、5組について断りの展開パターンを見ていく こととする。

8.4 研究Ⅴ 結果

本研究課題では、「第1の断り」で収束したデータJNS32組、MNS9組と、「第2の断 り」で収束したデータJNS3組、MNS6組を分析対象とする。

8.4.1 課題 1 JNS と MNS の断りの展開パターン

本課題では、「第1の断り」と「第2の断り」までのデータにおいて、JNSとMNSに はどのような断りの展開パターンが見られるのかについて比較していくこととする。

まず、「第 1 の断り」のみ出現している会話データ、JNS32組、MNS9組についての比 較を試みる。まず意味公式から比較すると、意味公式使用数1のデータは、JNSに8組、

MNSには見られなかった。意味公式使用数2は、JNSで17組、MNSには2組、意味公 式使用数3は、JNSで5組、MNSには3組、意味公式使用数4は、JNSで1組、MNS で2組、意味公式使用数6は、JNSには見られなかったが、MNSには1組見られた。

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JNS32組 MNS9組

1将来の接触 1 困惑  言い訳

2言い訳 2 ためらい 不可

3言い訳 3 ためらい 不可 言い訳

4言い訳 4 ためらい 不可 言い訳

5言い訳 5 ためらい 遺憾 言い訳

6言い訳 6 繰り返し 驚き 不可 言い訳

7言い訳 7 ためらい 言い訳 将来の接触 言い訳

8言い訳 8 謝罪 言い訳 不可 謝罪

9ためらい 言い訳 9 情報確認 驚き 謝罪 言い訳 驚き 言い訳

10繰り返し 言い訳

11繰り返し 言い訳

12願望 言い訳

13繰り返し 言い訳 14繰り返し 言い訳

15願望 言い訳

16情報確認 言い訳

17ためらい 条件提示

18繰り返し 言い訳

19願望 言い訳

20願望 言い訳

21謝罪 言い訳

22謝罪 言い訳

23言い訳 不可

24謝罪 不可

25言い訳 困惑

26不可 言い訳

27言い訳 不可 代案伺い

28繰り返し 願望 言い訳

29ためらい 言い訳 不可

30謝罪 言い訳 将来の接触

31言い訳 謝罪 不可

32ためらい 繰り返し 不可 代案伺い

図 8-2 第 1 の断りのみ出現したデータ

次に、「第2の断り」で収束しているデータ、JNS3組とMNS6組の比較を行う。

「第2の断り」で収束するデータは、JNSは、①【言い訳】→②【言い訳】+【将来の 約束】、①【言い訳】+【不可】+【代案伺い】→ ②【言い訳】+【ためらい】+【代案 提示】などの3組、MNSは、①【言い訳】→②【言い訳】、①【ためらい】+【言い訳】

→②【言い訳】などの6組が見られた。

JNS3組

1 言い訳 言い訳 将来の接触

2 言い訳 不可 代案伺い 言い訳 ためらい 代案

3 ためらい 願望 言い訳 謝罪 不可 ためらい 願望 言い訳 代案

MNS 6組

1  言い訳 言い訳

2 ためらい 言い訳 言い訳

3 ためらい  言い訳 ためらい 代案

4 ためらい 不可 言い訳 ためらい 言い訳

5 ためらい 不可 言い訳 言い訳

6 ためらい 驚き 困惑 願望 言い訳 言い訳 願望

図 8-3 第 2 の断りで収束するデータ

JNSとMNSの共通点としては、「第1の断り」と「第2の断り」の両方に【言い訳】

が使用されているデータが、JNSで3組、MNSで1組を除く5組で見られた。「第2の

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断り」までの出現の場合には、2 回とも【言い訳】を使用するということが分かった。ま たJNSにもMNSにも、「第1の断り」で【不可】が使用されるデータがそれぞれ2組見 られたが、「第2の断り」には【不可】が見られなかった。「第1の断り」で【不可】を使 用したとしても、「第2の断り」の断りでは【不可】を使用しないことが分かった。

JNSとMNSの相違点として、まず意味公式使用数について述べる。JNSは「第1の断 り」から「第2の断り」に至るまでに、①【言い訳】→②【言い訳】+【将来の約束】の ように、意味公式が1から2に増加するもの、①【言い訳】+【不可】+【代案伺い】の ように、意味公式使用数が同数のもの、①【ためらい】+【願望】+【言い訳】+【謝罪】

+【不可】→②【ためらい】+【願望】+【言い訳】+【代案伺い】のように、意味公式 使用数が、5から4まで減少するものなど、増加、同数、減少それぞれが見られた。しか しMNSは、①【言い訳】→②【言い訳】のように、意味公式使用数が同数のものが2組、

①【ためらい】+【言い訳】→②【言い訳】のように、2から1に減少するものが4組見 られ、増加するデータは見られなかった。また「第2の断り」の意味公式使用数は、JNS は2と3と4だが、MNSは1か2である。このことから「第2の断り」で収束するデー タにおいて、MNSは意味公式使用数が少なくなると言える。

8.4.2 課題 2 MNS の断りの展開パターン

本課題では、「第3の断り」「第4の断り」「第5の断り」でそれぞれ収束するデータに おいて、どのような断りの展開パターンが見られるのかについて分析していく。なお「第 3の断り」以降は、MNSにしか出現していないため、以下、MNSの特徴について述べて いく。

まず、「第3の断り」で収束するデータMNS9組には、以下図8-4のように、①【ため らい】+【言い訳】→②【ためらい】+【不可】+【言い訳】→③【不可】+【言い訳】

や、①【ためらい】+【困惑】+【言い訳】→②【ためらい】+【言い訳】→③【ためら い】+【言い訳】などのような展開パターンが見られた。

1 ためらい  言い訳 ためらい 不可 言い訳 不可 言い訳

2 ためらい 困惑 言い訳 ためらい 言い訳 ためらい 言い訳

3 ためらい 困惑 言い訳 ためらい 代案 言い訳 ためらい 名前 困惑 言い訳 代案提示

4 驚き 願望 言い訳 言い訳 驚き 困惑 名前 驚き 不可 言い訳 困惑

5 ためらい 謝罪 言い訳 将来の接触 不可 代案提示

6 ためらい 謝罪 言い訳 願望 困惑 言い訳 困惑 繰り返し ためらい 願望 困惑 代案

7 驚き 謝罪 言い訳 ためらい 言い訳 説得 言い訳

8 ためらい 不可 言い訳 ためらい 困惑 言い訳 ためらい 困惑 ためらい 言い訳 説得

9 繰り返し 不可 驚き  言い訳 ためらい 不可 代案提示 言い訳 ためらい 不可 ためらい 謝罪 言い訳 代案伺い 願望 言い訳

図 8-4 第 3 の断りで収束するデータ

「第2の断り」で収束するデータでは、「第1の断り」から「第2の断り」に至るまで に、意味公式使用数が、同数もしくは減少していたが、「第 3 の断り」で収束するデータ では、第1から第2に至るまで、及び第2から第3に至るまで、増加する会話データが見 られた。特に「第2の断り」から「第3の断り」に至るまでには、意味公式使用数が増加