本コースのカリキュラムによる教育効果につ いて、平成20年度入学生(二期生)に対して、
平成20年4月、10月、平成21年8月に知識調査 を実施することで計測した。
調査方法は、下図に示すような設問に対し、
知識の深さについてレベル0から4で自己評価 するものである。設問は合計で60問からなり、
J07やSWEBOKの知識体系を参考に、構築技術、
形式手法、モデルと分析、要求工学、設計、正 当性検証と妥当性確認、保守と発展、プロセス、
品質、プロジェクト管理のカテゴリに分類され ている。
設計 0 1 2 3 4
情報隠ぺい、強度(凝集度)、結合度 アーキテクチャと品質特性
コンポーネント設計 HCI設計
構造化分析設計
レベル0:全く知らない
レベル1:教科書や講義などで見聞きしたことがあり、関連する資料を調 べることができる
レベル2:言葉の意味を理解しており、説明することができる
レベル3:言葉に関する技術・技法をソフトウェアやシステムの開発に利 用することができる
レベル4:技術の背景にある制約や特性について理解し、特定の問題に対 する向き/不向きを比較評価できる
第2章3 名古屋大学拠点
この回答結果から、平成20年度生の入学時の 知識レベルの平均は0.73であり、修士1年の前 期授業終了後に1.57、修士2年の前期授業終了 後1.93であることが分かる。学期が進むにつれ て知識レベルが向上し、ソフトウェア工学技術 に関する学習効果が上がっていることが分か る。なお、平成19年度入学生(一期生)につい ても同様の結果を確認している。
また、各知識領域についての結果を下図に示 す。特にプロジェクト管理や、検証、要求工学 に関する教育効果(レベルアップ)が高いこと が見てとれる。
また、特に企業プロジェクトマネージャと大 学教員が密接に連携して教育を行うOJLの教育 効果については、定量的な計測は困難であり実 施していないが、下に抜粋する連携企業および プロジェクトマネージャからのコメントや関連 教員からの意見を総合すると、特に次の点で学 生の知識やスキルの向上が見られているといえ る。
・システム開発やプログラミングの能力 実システムの開発に携わる事で開発能力や プログラミング能力がついている。特に、製 品レベルの品質を意識した開発や検証、保守 について、その重要性の理解が深まっている
といえる。
・プロジェクト管理能力・自主性
メタ技術を意識した開発プロジェクトの遂 行により、単なる開発要因として振舞うだけ でなく、自ら問題点の解決方法を提案し、ま たリスクを考慮しながら技術の取捨選択を行 い、プロジェクトを成功に導くための管理能 力と自主性が育っている。
・技術的コミュニケーションや文書作成の能力 製品レベルを想定した開発プロジェクトに おける、定期的なミーティング、文書交換な どを通じ、技術的なコミュニケーション能力、
技術文書作成の能力が向上した。
一方で、OJLを円滑に運営するための課題に は次のような項目が挙げられる。
・教員・企業スタッフの不足
大学と企業との間で製品レベルのシステム を題材に開発を行うというOJLを遂行できる 教員、企業スタッフは少ない。
・開発テーマの設定基準の問題
テーマの新規性や有用性について判断する 基準がなく、研究的観点からの価値判断では テーマ設定や成果に対する評価が難しい場合 が見受けられる。OJLとして適切なテーマ設 定の基準、評価の基準を作ることが必要であ
る。
・OJL実施期間の問題
本拠点のOJLでは1.5年間の開発を必須と しているが、企業にとっても大学にとっても 負荷が高いという意見が出されている。OJL 成果として一定のレベルを担保する仕組みを 設けることは必要であるが、より自由な期間 設定を可能とする必要がある。例えば半期の
OJL実施を通じて得られた知見に基づく研究 により修士論文を執筆するといったことも検 討すべきであろう。
・知的財産権の問題
OJLは教育の場であり、知的財産権の保護 の観点とは馴染みにくい。成果発表、論文公 聴会などの場でその折り合いをどのようにつ けるかが課題である。
●連携企業からのコメント(抜粋)
「修士を対象とした教育カリキュラムとしては、想定し得る最高レベルの教育を目指す挑戦的な取り組みである」
「OJLや企業での活動事例を紹介する中で、真に産業界が直面しているソフトウェア開発の課題を、学生のみならず、
大学教員と共有することは教育だけにとどまらず、今後のソフトウェア工学研究に寄与するものと期待できる」
「修了学生が長期的な人事キャリアパスにおいて先導的なソフトウェア技術者となるためには、世界的な人事の流動 性を見通して、修了後のキャリア形成につながる継続的な学習活動の動機つけの機会が必要」
「インターンシップでは、企業側ができる範囲で作業をしてもらうことになる。それに対し、OJLでは、教員がとも に参加し、教員からの知見を反映しながら実施するため企業としても、大変やりがいがある」
●OJLプロジェクトマネージャからのコメント(抜粋)
「OJLで、完結性の高いテーマを設定したが、学生は当初の予想よりも高度な理解をし開発を進めている。大学との 連携的な研究的な要素も入れた、より高度なテーマも可能ではないか」
「学生が対象ということで、OJLテーマのレベルを心配していたが、基礎知識があり、学習意欲が高いため順調にプ ロジェクトを実施することができている」
「OJLにおけるプロジェクトを通じ、オブジェクト指向設計、リファクタリング、状態遷移モデリング、デザインパ ターンなど、設計や再利用に関するベース技術を特定の問題に適用する能力はほぼ備わったと考えている。また、こ れらのベース技術を適切に組み合わせ問題解決をはかるためのメタ技術についても徐々に備わりつつあると評価して いる。」
「参加学生の到達レベルに関しては、現時点では最終到達目標に未到達であるものの、今後の活動を通じて目標達成 できるものと考える。到達目標に未到達である項目のうち、PJ・開発プロセス等のマネージメントに関しては、経験 不足に起因していると考えられ、今後の重点課題であると認識している。とは言え、技術要素に関しては、目標レベ ルに達成している項目が多数見られ、PJの成果であると考えている」
第2章3 名古屋大学拠点
情報発信
名古屋拠点における実践教育活動の内容や成 果について紹介し、本教育スキームを普及させ
るために、これまでに次に挙げるような機会を 利用して広報活動を行ってきた。
日付 会議等名称 発表題目 発表者
2006/11/13 日本ソフトウェア科学会ソフトウ ェア工学の基礎ワークショップ
(FOSE2006) メタ技術とOJL 野呂(南山大)
2007/ 3/ 8 情報処理学会第69回全国大会 メタ技術とOJL 野呂(南山大)
2007/ 9/12 日本ソフトウェア科学会第24回
大会 Project OCEAN 名古屋大学先導的IT
スペシャリスト養成 阿草(名大)
2007/ 9/18 九大・名大 先端技術者養成シン
ポジウム(第3回) Project OCEAN:名大における先導的
ITスペシャリスト養成の取組み 小林(名大)
2008/ 9/17 名古屋大学組込みシステム研究セ ンターシンポジウム・技術人材育 成の取り組みと課題
「OJLによる最先端技術適応能力を持 つIT人材育成拠点の形成」これまでと
これから 古賀(名大)
2008/10/30 情報処理学会組込みシステムシン
ポジウム(ESS2008) 飛行船制御を題材としたプロジェクト
型ソフトウェア開発実習 沢田(南山大)
他 2009/ 1/13 大学教育改革プログラム合同フォ
ーラム 拠点紹介ポスター展示 小林(名大)他
2009/ 1/22 実践的ソフトウェア工学教育に関
する国際シンポジウム 協賛、および拠点の取り組み内容紹介 沢田(南山大)
他
2009/ 5/23 情報処理学会 コンピュータと教 育研究会 99回研究発表会
ソフトウェア開発の教員主導型PBLに おける反復プロセスとEVM導入の効 果
松澤(静岡大)
他
2009/ 8/21 第34回教育システム情報学会全
国大会 パネル討論「実践的課題に基づく技術
者教育」に共催、パネラとして参加 阿草(名大)
2009/ 8/25 S-open(ソフトウェア技術者ネ
ットワーク) ホットセッション Project OCEAN: 産学連携による実践
的ソフトウェア技術者教育 沢田(南山大)
2009/10/23 情報処理学会組込みシステムシン ポジウム(ESS2009)
パネル討論「組込みシステムの進化に 向けたものづくりイノベーション」に
パネラとして参加 沢田(南山大)
2009/11 情 報 処 理 学 会 論 文 誌Vol.50,
No.11, pp.2677-2689 飛行船制御を題材としたプロジェクト
型ソフトウェア開発実習 沢田(南山大)
他
2009/12/ 2 フロンティア21エレクトロニク
スショー 2009 愛知県立大学大学院 ITスペシャリス トコースについて出展
山本(愛知県立 大)
他
2009/12/ 4 2 nd International Research S y m p o s i u m o n P B L
(IRSPBL'09)
Two Challenges to Promote EVM on PBL in Software Engineering Education
松澤(静岡大)
他 2009/12/15 日刊工業新聞 24面 OCEANの産学連携について紹介
2010/ 1/ 7 大学教育改革プログラム合同フォ
ーラム 拠点紹介ポスター展示 沢田(南山大)
他
2010/ 1/19 第4回先導的ITスペシャル育成推 進プログラムシンポジウム
Project OCEAN: OJLによる最先端技 術適応能力を持つIT人材育成拠点の形 成
古賀(名大)
坂部(名大)