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第4章  話し合い活動を中心とした職員研修

第1節  教職員の研修の意義

の対応、「行動連携」の要求など、組織的な生徒指導推進の観点から 協働性の形成が求められている。

 この「同僚性」や「協働性」については、生徒指導推進の観点から だけではなく、すべての教育活動のなかで、それぞれの部会(学年部 会、教科部会、部活動、委員会活動、研修部会など)において、それ ぞれの教師が共通理解のもとで、双方向のコミュニケーションを取り 合い、高めていく必要がある。各部会での活動が「同僚性」や「協働 性」のもとで行われることにより、学校全体の教育目標へと近づき、

すべての教員の教育目標達成へとつながっていく。

 学校組織が円滑に機能しているかどうかは、それぞれの部会のリー ダー(ミドルリーダー)がどれだけトップと個々の教師をつなぐこと ができるかにかかっている。トップやミドルリーダーの話し合いの中 で決められたことが個々の教師にしっかりと伝えられ、浸透し、実践 される(トップダウン)には、ミドルリーダーのリーダーシップが問 われ、また、個々の教師の意見や考え、改善案などがトップに伝えら れる(ボトムアップ)かどうかはミドルリーダーの働きに左右される。

また、ミドルリーダー同士の横のつながり(ネットワーク)も大切で

ある。

年会 学部

学校組織

XH・X

р煤CL

  [憂]学

ミドル

委員

校全体の 教育目標

科三 教部

門会 下部

リーダー

字動

 互いに話しかけ・話しかけられる中で人間関係を育み、異なる専門 分野の人間が共通の目的のために対話することによって、新たなもの を生成することは、「教師一教師」の関係性を強め、「生徒一生徒」の 話し合い活動をも促進することになる。学校とは、「教師も生徒も学 び合う場」であるといえる。

 そこで、F教師同士が学び合う場」として、職員研修を行った。こ の職員研修は専門的な外部講師を招いて講話を聞くようなお仕着せ のものではなく、日頃、同じ学校で働きながらも、忙しくゆっくり話 ができにくい教師同士がほんの少し、時間を捻出して行ったものであ

る。

2 教師力をつける

 教師力とは何だろうか。「親の背中を見て子が育つ」ように、生徒 は教師の背中をとてもよく見ている。教師に人間的魅力があり、教師 の生き方に尊敬と信頼の念を持っていれば自然と生徒はその教師か ら多くのことを学んでいく。教師は生徒に知識を注入しさえずればよ いのではない。生徒が主体的に学ぼうとする意欲を引き出し、「子ど

も一子ども」の関係性のなかで知識を得ようとする姿勢を自然と身に つけていくようにすることが望ましい。そのためには、教師が自ら学 ぼうとする姿勢を持つことが大切である。

 教師になった人のなかには、ただ単に「子どもが好き」や「教える ことが好き」であるという場合がある。ともすれば、「大人が苦手」

である場合もある。大人と付き合うのが嫌だから、子どもだけを相手 にできる考えで教師を志望した人もいるだろう。「学級王国jという 言葉があるように、教室に入れば自分が王様になることができ、大人

との付き合いの中で生じるストレスを感じることなく、自分の思い通 りの空間を作り上げることもできる。職員室に戻れば同僚の教師との やりとりはあるが、授業について批判をもらったり生徒との対応を指 導されたりすることは少なく、教職経験を重ねていく。

 教師が新任のときには持っていたであろう自ら学ぼうとする姿勢       一82一

を取り戻すのは、何らかの困難にぶつかるときである。生徒に問題行 動が現れたり、不登校に陥ったり、保護者との対応に問題が生じたり、

地域住民とのやりとりが円滑に進まなかったりするときである。子ど も、保護者、地域住民などと良好な人間関係を形成・維持することは 教師にとって、とても重要である。教師にも、現代社会に生きる社会 人に共通して求められる資質能力として「人間関係を円滑に保つ能力」

が不可欠であり、それは教師の「社会性」へとつながっていく。子ど もや社会の変化に伴って、自分のやり方がこのままでいいのかどうか を自問するとき、自らの教育の方法を省察し、改善するために真の教 師力をつけるための契機が訪れる。そこで、学年や教科などそれぞれ の部会ごとに「事例検討会」を行い、互いの教師力を高めることを行

った。

3 相互行為から生まれるもの

 例えば、教師同士が授業を相互に参観し省察し語る職員研修は、教 員経験の少ない教師にとって「先輩の教師から教えてもらおう」とい う気持ちで参加するかもしれない。しかし、職員研修に「教える一教 えられる」の区別はなく、「先輩一後輩」の関係も存在しない。一つ の事例を互いに検討し、視点の異なる考えや方法を聞くことで、新し い教育方法が生まれ、相互に教師力が高まることが望ましい。Shulman

(2003)は、「よい事例には指導案という計画段階には想定していな い、具体的な文脈の複雑さ、偶然性のなかで生じた事柄、授業者の予 想や思いを超えた事柄が何であり、何を発見したのか、それとともに 生じた感情を記録しておくことで、授業の場や事例記録を読むことに 共にたちあった者が代理経験できる」2としている。また、「事例に基 づく学びは、実際に行動し、それをふり返り、同僚と協働でその事例 を物語っていくことを通して、学び合う共同体やある教師文化、学校

(Darling−Hammond&Hammerness,2002)」3と述べている。いくら児童 生徒に「話し合い活動」の重要性を解き、実行しようとしても、教師 同士に学びがないと児童生徒は後に続かない。教師みずからが相互に 作用し行為することで、児童生徒にも連鎖し、学び合う学校文化が構 築されるのである。

・84一

:第2節 道徳と職員研修

 「話し合い活動jの有用性を感じ取れると思い、まず、「月で遭難 したら」4を提示した。次に、「ハチドリのひとしずく」5については、

道徳の授業づくりの方法を示す例としてさまざまな活用類型の中の 批判的に展開する模;擬授業を行い、体験してもらった。最後に、「父

の仕事」6であるが、授業づくりの方法の続きで、実際に自分が授業 するならば、ねらい、主題、授業展開はどうするかなど、各自考え、

発表し、指導案作りへの糸口をつかんでもらった。

1 実践例  「月で遭難したら」

(1)研修記録

①②③④⑤

対象教員 希望者 司会者  筆者 実施日 10月20日

資料  「月で遭難したら」

趣旨

 「月で遭難したら]を考える場合、人によって様々な考えや思 いがあり、価値:観も多様である。そこで、小グループで自由に自 分の考えや思いを出し合い、他人の考えや思いを分かち合い、相 互に刺激し合う。また、班全体の考えをまとめることで、他者と 相互に考えをすり合わせ、自分自身の価値観を見直しさせる。

ねらい

 円で遭難したら」で自分の考えをもち、他者と話し合うこと で考えを深めさせ、自己と他者との関係を深め、よりよい考えが 生まれることを理解させる。

研修展開

3

4

発表し、意見をすり合わせて、グループの優先順位を考え、ワ クシートに記入する。

NASAの説明の紙を見て、 NASAの順位と自分の考えた順位、グル ープで考えた順位との誤差を出し、グループで話し合った順位 の方がNASAの順位に近いことを確かめ、話し合いの有用性を実

感する。

話し合いの6つのルールに沿って、話し合いが進められたかど

うかを発表する。

(2)研修の考察

 『会議が絶対うまくいく方法』という題名につられて、「月で遭難 したら」という資料を用い、研修を行ったが、実際うまくいったグル ープとそうではないグループができてしまった。専門的な知識のある 新卒2年目の男性教員と、新卒3年目の女性教員だけが、自分の考え た順位より、グループで考えた順位の方が、NASAの順位より遠ざかっ てしまった。その原因としては、教員集団にはかなりの年齢差があり、

グループでの話し合いの雰囲気が、偏ったものになっていた可能性が 考えられる。

教員年数の長い教員に発言力や説得力があるため、若い教員に遠慮が 生まれたのかもしれない。実際、新卒2年目の男性教員は、研修後に

「自分の意見を推さずに譲ったところがあった」と感想を書いている。

理想的発話状況のなかで、話し合い活動が行われるように、研修企画 者は留意しなければならない。

一86一

裏づけ 発射の反動を利用して、自力で前進で きるかもしれない

理由づけ ピストルには破壊力がある

根拠月で遭難したら 限定 できれば

45口径のピス

トル2挺が必要 反証 人に対して使わ

ない限りは

(図4−2)トゥールミンの議論モデル「Eで遭難したら」バージョン  また、(図4−2)のように15品目それぞれに何がどれだけ重要 であるかを理由づけ、さらに裏づけをしっかり考えたうえで、研修を 行う必要がある。そして、話し合い活動の有用性を感じてもらうため に、NASAの順位との比較を行ったが、他者と相互に考えをすり合わせ、

自分自身の価値観を見直しさせ、よりよい考えを作りだすことがねら いであれば、NASAの順位や順位との誤差の数値による評価も提示する 必要があったのだろうかと疑問に思う。

2 実践例「ハチドリのひとしずく」

(1)研修記録

①②③④⑤

対象教員 希望者

司会者  筆者 実施日 10月28日

資料  「ハチドリのひとしずく」

趣旨

 「ハチドリのひとしずく」の道徳授業を行う場合、ねらい、主 題、展開の方法などを紹介し、実際に模i擬授業を体験することに