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情報リテラシー教育(河西由美子)

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4. 先行研究レビュー

5.3. 情報リテラシー教育(河西由美子)

本稿では,日本における情報政策の一領域として,初等中等教育における情報教育 政策を対象とする。ただしその背景となる世界的な情報化の動向を概観する上で,情 報を取り扱う能力(情報リテラシー)に関する米国での展開を中心に紹介し,日本の 情報教育の特徴と現状を相対化する素材としたい。

本稿で使用する用語として,日本語表記の情報リテラシーとインフォメーション・

リテラシー,情報活用能力を使い分けることとするが,それは各用語の属性により差 異が生じているためであることを前置きしておく。詳細は本文中で解説する。

5.3.1. 情報化社会と新たなリテラシー

「情報化社会」という言葉が叫ばれて久しい。その嚆矢は,日本においては梅棹忠 夫(1963)の「情報産業論」であり,世界的に広範囲に影響力を与えたのは,1960年 代後半から

70

年代にかけての

Bell(1975)や Drucker(1969)らの著作である。

水越伸(1999,

2002)は,メディア論の見地から「デジタル・メディア社会」を「デ

ジタル情報技術の社会的実用化が本格化した一九八〇年前後から現在を経て,二一世 紀半ばあたりまでを時間的な区切りとする社会状況を指」すとし,その意味を「デジ タル情報技術が組み込まれたメディアが日常生活にあふれ返っているような社会」(水 越伸 2002, p. 47-48)と表現し,「人間の歴史の中で今日ほど,産業と技術の論理によ って商品化されたメディア機器が,仕事から家庭生活にいたるあらゆる領域に浸透し たことはなかった」と述べている。

日本においても

2000

年の流行語「IT 革命」に象徴されるように,パーソナル・コ ンピュータや携帯電話等の情報機器の普及とインターネットに代表されるネットワー ク技術の発展により,情報化社会あるいは水越伸の言うデジタル・メディア社会は,

一般市民に身近なものとして実感されていると言えるだろう。こうした世界的な情報 技術革新と,社会・生活環境の変化は,産業や生活の情報化に速やかに対応できる人 間像の形成を要求する。

1994

年 に ユ ネ ス コ は 「 中 等 教 育 の た め の 情 報 学 ~ 学 校 の た め の カ リ キ ュ ラ ム 」

(Informatics for Secondary Education – A Curriculum for Schools) を発表した。その後 の日本の情報教育の成立過程に大きな影響を与えたものとして,以下にその

4

つの目 標を示す。括弧の中は同目標の中で設置が望ましいとされた教育課程を指す。

1. コンピュータリテラシ(基礎レベルの一般教育)

2. 他の科目でのツールとしての適用(基礎レベルと上級レベルの 両方の一般教育)

3. 他の科目での情報学の適用(上級レベルの一般教育)

4. 専門領域での情報学の適用(上級レベルの職業教育)

2000

年前後には情報化社会に求められる能力に関して新たな概念が次々と提唱さ れるようになった。

山内祐平(2003)はその著書『デジタル社会のリテラシー』の中で,「このような 情報化社会に必要とされている能力」すなわちリテラシーに関し,「リテラシーは,文 字の読み書き能力を指した言葉であるが,社会を生きていくために必須の能力という 意味でも使われている」としている(p.1)。山内は,噴出・乱立する多様なリテラシ ー概念を「混迷するリテラシー」(p.71)と評し,図1のようにその相互関係を整理し ている。

その中で,情報リテラシーとインフォメーション・リテラシー,情報活用能力が分 けて取り扱われている。ここでは,英語圏での概念としての

information literacy

を,

日本語における情報リテラシーの解釈と差異化するために,インフォメーション・リ テラシーと表記することとし,次節以降,本稿で取り扱う中核的概念として,これら の概念と用語について整理を行いつつ,日本の情報教育制度について詳述する。

図 1.情報・メディア・技術のリテラシーの相関図(山内 2003)

情報 処理する 利用する

メディア 解釈する 表現する 技術 操作する 理解する インフォメーションリテラシー

情報活用能力

ネットワークリテラシー コンピュータリテラシー

技術リテラシー 映像視聴能力

ヴィジュアルリテラシー メディアリテラシー

5.3.2. 情報リテラシー概念の発生と展開(米国事情)

「情報リテラシー」の原語である “information literacy” 1の初出について今日多く の研究論文で引用され(Behrens

1994,Spitzer, Eisenberg & Lowe 1998

など),日本で は野末 俊比 古(1999) によっ て紹 介され てい るのは ,1974 年 に米 国情報 産業 協 会

(Information Industry Association:

IIA)

会長であった

Zurkowski

が米国図書館情報学 委員会 (National Commission on Libraries and Information

Science: NCLIS)

への提言 の中で使用した以下の定義である(Zurkowski 1974)。

職業上の諸問題に対して情報による解決を行う際に,広範な情報ツールならびに 基本的な情報源を利用するための手法や技能2

その後インフォメーション・リテラシーを巡る論議はなかなか発展を見せなかった が,1980年代終盤になって,米国図書館界を中心に「インフォメーション・リテラシ ーの時代」の幕開けを果たした

2

つの出版物があった。

そのひとつは

Breivik & Gee(Breivik & Gee 1989)による

Information Literacy:

Revolution In The Library3 である。Breivikらは,インフォメーション・リテラシーを 以下のように定義している(日本語版

p.14-15

による)。

情報リテラシーは,情報化時代を生き抜くための技能である。情報リテラシーを 身につけている人々は,生活の中にあふれている大量の情報におぼれることなく,

特定の問題を解決したり意思決定を行うためには,どのようにして情報を見つけ,

評価し,効果的に用いればよいのかを知っている。

も う ひ と つ の 重 要 な 資 料 は ,

1989

年 に 公 表 さ れ た 全 米 図 書 館 協 会 (

ALA

) の Presidential Committee on Information Literacyの報告書である。この報告書はインフォ メーション・リテラシーについて,個人,産業,市民(シチズンシップ)の各レベル での問題解決と意思決定のために重要であることを全国的に宣言するものとなった。

その中でインフォメーション・リテラシーは以下のとおり定義されている(日本語訳 は筆者による)。

z いつ(どのようなときに)情報が必要であるのかを認識する z 与えられた問題や課題に対処するために必要な情報を特定する z 必要な情報を発見し,その情報を評価する

z 情報を組織する

z 直面する問題や課題に対処するために効果的に情報を活用する

この

ALA

報告書はその1章を「情報化時代の学校」と題し,総括の部分でもイン フォメーション・リテラシーの教育について重要性を強調している。

前年の

1988

年に米国学校図書館協会(

AASL)と教育コミュニケーション工学協会

(AECT)により学校図書館を対象としたガイドラインInformation Power が発表され ている。米国では

1960

年代から視聴覚教育の勃興と連動する形で「学校図書館」の情 報化が進行しており(古賀 1972),多機能な学習情報メディアセンターとしての方向 性が推進されてきていたが,Information Power により,学校図書館が「

information

literate

な生徒を育成」するための施設であることが宣言されたことになる。

1998

年には前述の

AASL

AECT

によりInformation Power: Building Partnerships for

Learningが刊行された(AASL,AECT 1998a)。その別冊として発表された Information

Literacy Standards for Student Learning(AASL,AECT 1998b)は,初等中等教育段階で育 成されるインフォメーション・リテラシー教育の能力を,9 つの基準(standards)と

29

の指標(

indicators)をもって詳細に定めたものとして,その後世界的に教育・学校

図書館関係者に広く周知され,大きな影響を与えた。

ちなみに米国ではこれまでほぼ

10

年間隔でこの種の学校図書館ガイドラインが発 表されており

2007

年には新たな基準として

AASL

から Standards for the 21st-Century

Learnerが発表されたが,そこには情報リテラシーについての言及は見られない。

米国の例に顕著なように英語圏における

information literacy

という概念および用語 は,図書館界における教育活動と密接に関係していることが社会的に認知されている。

そのため本稿では以後「英語圏で

1980

年代以降図書館分野において定着した情報リテ ラシー概念」を特に区別して表現する必要のあるときには「インフォメーション・リ テラシー」とカタカナ表記を用いる。

5.3.3. 日本の情報教育制度

(1)狭義の情報リテラシー(コンピュータ・リテラシー)の存在

日本において「情報リテラシー」という用語がマスコミなどで取り扱われ始めたの は,1990年代後半に入ってからのことである。

1998

11

2

日読売新聞東京朝刊教育面では,川上善郎成城大学教授による情報 リテラシーの比較研究として「パソコンをはじめ,テレビ,ビデオ,電子手帳など,

家庭にある情報機器の利用能力を日本,米国,イタリアで調べ」たとある。また「IT 革命」が流行語となった

2000

6

24

日毎日新聞朝刊のコラム「ニュースの言葉」

においては,

「多機能化するパソコンや携帯電話などの情報機器を自由自在に操作して情報 を収集・活用できる能力」

という定義がある。高木義和(2007)は,日本においては情報リテラシーがコンピュ

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