4. 先行研究レビュー
4.4. 各種メディアの心理学的な影響・発達的研究(鈴木佳苗)
今日,家庭や学校へのメディア普及が進み,子どもたちは幼い頃から多くの時間を さまざまなメディアとともにすごしている。子どもたちのメディア利用の実態につい ては,いくつかの大規模調査が参考になる。たとえば,NHK放送文化研究所が
5
年ご とに実施している全国的な生活時間調査によれば,2005 年の日本の小学生,中学生,高校生のマスメディア(テレビ,ラジオ,新聞,雑誌・マンガ,本,CD・テープ,ビ デオ)接触量は,平日
1
日あたり,それぞれ2
時間50
分(小学生),3時間1
分(中 学生),4時間51
分(高校生)であるという(NHK放送文化研究所 2006)。読書につ いては,毎年,毎日新聞社と社団法人全国学校図書館協議会が「学校読書調査」を行 っており,1 か月に本(教科書,マンガ,雑誌などを除く)や雑誌を読んだ冊数が調 査されている。2007年の調査では,1か月に読んだ本の平均冊数が,小学生9.4
冊,中学生
3.4
冊,高校生1.6
冊であったことが報告されている(全国SLA
調査部 2007)。子どもたちへのテレビゲームやコンピュータの普及も進んでおり,2006 年
11
月に 行われた日本PTA
全国協議会の調査によれば,日本の小中学生のテレビゲーム所有率 は,約9
割であるという。また,総務省が2006
年12
月に行った「小中高生情報通信 機器利用状況実態調査」では,小学3
年生以上の85.4%,中学生の 86.7%,高校生の 83.3%が自宅にパソコンがあると答えている(「情報モラル教育」指導手法等検討委員
会 2007)。また,小学3
年生以上の18.6%,中学生の 50.7%が自分用の携帯電話を所
有していることが報告されている。高校生になると,9 割以上が携帯電話を所有して いるという報告もある(Benesse教育研究開発センター 2005)。こうしたメディア利用の影響については,テレビの暴力シーンの視聴によって認知 発達が阻害されたり,暴力的な人格になる,テレビゲームやインターネット使用によ って社会的不適応性が高まるなど,悪影響が懸念されている。しかし,この懸念に一 致する結果は必ずしも実証的に示されていない。一方,メディア利用のよい影響とし て,テレビ視聴によって認知能力が高まったり,むしろ攻撃性が低下する場合や,テ レビゲームによって社会性や認知的処理能力が上昇したり,インターネット使用によ って情報活用能力や社会性が上昇したり対人関係が拡大するといった結果も報告され ている。また,読書については影響研究が他のメディアよりも少ないものの,他のメ ディアと同様に,よい影響も悪影響もあることが示唆されている。
メディアの悪影響を避け,よい影響をできるかぎり引き出すことができるよう,有 効的に利用していくためには,どのような状況,条件でメディアがよい影響を及ぼす のか,あるいは悪影響を及ぼすのかを理解することが有用であると考えられる。そこ で,本節では,それぞれのメディアの影響について,学力的側面への影響と,社会・
対人的側面への影響に分け,最近
20
年の日本における研究を中心にレビューし,メデ ィアがよい影響を及ぼす条件,悪影響を及ぼす条件を知るための参考となる研究につ いても紹介する。4.4.1. 読書の影響
(1)学力的側面への影響
学力的側面への読書の効果については,Krashen(1996)が約
100
年にわたってアメ リカ,イギリス,カナダなどで発表された研究をまとめている。この中では,自由読 書と読み書き能力の相関関係が一貫して見られることが示されている。たとえば,読 書活動と読解力の関係については,41の実践例を取り上げ,自由読書(読みたいから 読む,読みたくない本は読まず,別の読みたい本を選ぶという読書)プログラムと従 来の国語科指導(指示された教科書を読む,文法,語彙,読解,つづりの直接的な指 導に重点をおく授業)の読解力テストの結果を比較している。その結果,実施期間の 長さにかかわらず,自由読書プログラムの効果は従来の授業と同じかそれ以上の場合 が多いという結果が示されている。また実施期間が長くなると,自由読書プログラム のほうが,成績が上昇する事例が多くなる傾向があり,児童生徒が自分の力で本を選 べるようになるにはしばらく時間がかかるため,継続して自由読書を実施することが 重要であることも示唆されている。ただし,「読み書き能力」の書く能力については,必ずしも効果的でないという結果も報告されている。読み慣れている人は,既存の知 識に基づいて推測したり,文章の内容が確認できる最小限度の文字だけを読んだりす るために,読み手の注意が必ずしも全ての文字に向けられておらず,つづり,句読点,
文法の間違いなど,書き言葉を完全には修得できないという限界もあるという。
日本の研究では,足立にれかほか(1999)が,中学生と高校生を対象としたパネル 調査 1を行い,読書量(1 日あたりの本・雑誌を読む平均時間)が情報活用能力に及 ぼす影響を検討している。その結果,中学生では,本・雑誌などの読書量が情報活用 能力の中の「情報処理能力(加工能力)」や「情報理解」を高めていることが示されて いる。
また,漢那憲治(1979)は,小学校
1
年生を対象として,1年間毎週1
回放課後に 読み聞かせをする群と,読み聞かせをしない群を設定し,読み聞かせを始める前と終 了後にそれぞれ読書力テスト(語の理解, 図形の弁別, 音節の分解, 音節の抽出, 文字 の認知, 文・文章の理解)を実施した。その結果,読み聞かせをした群のほうが音節 の抽出や全般的な読書力の伸びが見られ,読み聞かせが読書力に効果的であることが 示唆されている。(2)社会・対人的側面への影響
日本の研究では,読書が思いやり意識や共感性などに及ぼす影響についての研究が ある。たとえば,佐々木良輔(1998)は,小学校
6
年生を対象とした調査で,読書量 の多さと思いやりの気持ちの高さに関係性があることを示している。さらに,佐々木(1999)は,思いやりの気持ちと深く関連している同一化の機構に注目し,内容を同 一化しやすい読書材を読ませる群と,同一化しにくい読書材を読ませる群,統制群の
3
群を設定し,読書材を読む前,読後,時間を置いた後の3
時点で思いやりの気持ちを測定し,同一化しやすい読書材を読ませる群では,読後に思いやりの気持ちがより 高まることが示された。ただし,この効果は長くは見られず,数編の読書材では効果 に限界があることが示唆されている。
また,鈴木佳苗(2007a)は,小学生と中学生を対象としたパネル調査を行い,読書 が共感性に及ぼす影響を検討している。この研究では,小学生,中学生に共通した結 果として,(1)読書が共感性や社会的スキルを高める,(2)男子では,推理小説を読 むと,共感性の下位尺度のファンタジー(仮想の状況・場面に自分を置き換えて想像 する傾向性)が高まる,(3)女子では,ファンタジーを読むと,共感性の下位尺度の 気持ちの理解が高まることなどが示されている。
4.4.2. テレビの影響
(1)学力的側面への影響
テレビ視聴が学力的側面に及ぼす影響 2については,学力,創造性への影響を検討 した研究がある。テレビ視聴の長期的影響 3を検討した海外の研究では,テレビ視聴 が小学生の読解力の発達を抑制するという結果や,高校生の数学の成績を抑制する効 果があることが示されている(Koolsta et al. 1997,Aksoy & Link 2000)。しかし,テレ ビ視聴が高校生の学力に及ぼす影響を検討した結果,数学,語彙力,読解力のいずれ においても影響が見られなかったという研究結果も見られる(Gaddy 1986)。
日本の研究では,テレビ視聴の悪影響を支持する結果も支持しない結果も見られる。
たとえば,
2001
(平成13)年 11
月より,“子どもに良い放送”プロジェクトが発足し,2002
年に約1,200
名の0
歳児を対象として映像メディア接触が発達に及ぼす影響が縦断的に検討されてきている(NHK放送文化研究所 2003,2005,2006,2007)。調査は 毎年
1
回行われ,2007(平成19)年には,3
歳になった子どもについて,第4
回調査 が行われている。これまでの調査では,メディアの影響に関するさまざまな結果が報 告されている。たとえば,第2
回調査では,小学校2
年生,5年生,中学校2
年生を 対象として,テレビ,ビデオ,テレビゲームへの接触が子どもの認知能力への影響を 検討している。その結果,いずれの年齢においても認知能力への影響は見られていな い。テレビ視聴と学力との関連を検討したメタ分析 4研究では,子どものテレビ視聴時 間が
1
週間に10
時間未満の場合にはテレビ視聴が多いほど学力が高くなるが,10 時 間以上の場合には学力が低くなることが示された。この研究からは,テレビ視聴自体 が問題ではなく,一定時間以上のテレビ視聴が問題なのではないかということが示唆 されている。また,テレビ視聴が創造性に及ぼす影響を検討した坂元桂ら(1998)の研究では,
小学生と中学生を対象としたパネル調査を行い,テレビ視聴が創造性に及ぼす影響を 検討している。その結果,日曜日のテレビ視聴が子どもの創造性の発達を抑制するこ とが示されている。