5. 本調査について
5.3 調査の結果
5.3.1 情報やり場面
ここでは、調査の結果についてみていく。まず、母語話者・上級話者が中級話者に 対して情報を提供する場面(情報やり場面)について述べる。
5.3.1.1文の長さについて
第4章で述べた、文単位、強境界に基づき、発話における文の長さを集計したとこ ろ、以下の表のようになった。
22 筑波日本語テスト集「TTBJ」SPOT90を使用。スコアは0-30:入門、31-55:初 級、56-80:中級、81-90:上級である。
http://ttbj-tsukuba.org/p1.html#pageLink01を参照。(2019/12/17)
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表 19 強境界と文単位の出現数
NS H
出現数(%) 出現数(%)
強境界 54(28.6) 45(33.8)
文単位 135(71.4) 88(66.2)
合計 189(100.0) 133(100.0)
この表からは、NS も H も文単位の発話が多く、文の境目があいまいな強境界は
30%前後しか出現していないことがわかる。このことは、NS、Hどちらも文の句切れ
がはっきりとした発話を用いてタスクを遂行していることを示唆している。
予備調査の結果からは、非母語話者であるHの方が一文が短い発話を行いながら情 報のやりとりを行うと推測したが、ここでは、NS による文単位の発話の出現数が若 干多いことが明らかになっている。このことは、非母語話者との接触経験が少ないNS による発話は強境界の出現数が多いとしている栁田(2015)の結果とは異なっている といえる。
では、なぜ接触経験の少ない母語話者も文単位の発話を多く使用したのであろうか。
それは、本調査で用いたタスクが 5 コマ漫画であったことが理由として考えられる。
栁田(2015)においては、映像を使用したため、どこで文を切るかの判断は各話者に 委ねられるが、コマが存在するマンガにおいては、話者がコマごとに文を終結させる 意識が働いたと推測できる。そのため、接触経験の少ない母語話者であっても文の句 切れが短い、文単位の発話が多くなったのではないだろうか。
また、Hに目を向けてみると、Hも同様に短く文を区切ってタスクを遂行している ことから冗長な発話はあまり見られなかった。このことは、支援者として非母語話者 が携わる際に、簡潔な文を産出できる、という点で有効になり得ると考える。
5.3.1.2情報やり場面におけるコミュニケーション方略の使用
情報やり場面は、上述したように、日本語母語話者から、日本語非母語話者に情報 を提供する場面である。情報やり場面でのカテゴリーを再度以下に示す。
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表 20 情報やり場面の発話カテゴリーおよび発話機能
上記のカテゴリーを基に、コミュニケーション方略の使用数を集計した。それを以 下に表に示す。
表 21 NSによる情報やり場面におけるコミュニケーション方略の使用数
23 一つの発話に複数の方略がある場合、もしくはコーディングができない発話が存 在する場合、方略の総使用数と総発話数は必ずしも一致しない。
場面 発話カテゴリー 発話機能
情報やり 情報提供 情報提供(INF)
意味交渉 中級話者のため の理解促進
自己発話の修正(SM)
承認(AC)
否認(NR)
中級話者に対す る理解確認
相手の理解確認(COMP.C)
反応要求(RR)
NSA NSB NSC NSD NSE NSF 合計
情報提供(INF) 11 18 10 14 42 2 97 自己発話の修正(SM) 8 10 10 12 14 3 57 承認(AC) 0 3 0 12 2 12 29 否認(NR) 0 1 0 0 1 0 2 相手の理解確認(COMP.C) 3 3 1 3 1 0 11
反応要求(RR) 0 0 3 1 0 1 5 総使用数 22 35 24 42 60 18 201 総発話数23 20 33 19 44 58 21 195
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表 22 Hによる情報やり場面におけるコミュニケーション方略の使用数
以上が、情報やり場面における全体のコミュニケーション方略の使用である。情報 提供に関しては NSEによる使用が他の話者と比較して多いといえるが、これは、対 話者である M による発話が増えるとその分ターンが増加することが理由として挙げ られる。そのため、情報提供に関しては、使用数のみで特徴を判断することはふさわ しくないと考えられる。
また、コミュニケーション方略全般の使用数に関して見ると、NS の方が多く見ら れ、全体で201回の使用が見られた。一方でHは、全体で140回とコミュニケーシ ョン方略の使用が少なかった。この結果は何を意味しているのだろうか。考えられる ことは、Mと活発なインタラクションを行ったかどうかである。HA、HC、HEは表 で分かるように、発話数が少なく、ターンの交代もあまり見られなかった。特にHA とMAのやりとりでは、HAが一方的に話し、MAがそれをあいづちをせずに聞く、
といった様子が見られ、NSA とのやりとりの際と同様のインタラクションは見られ なかった。また、HCにおいても情報の提供が少なく、活発なインタラクションは見 られなかった。
この結果は、話者が消極的であったためであるとも考えられるが、ファン(1999)
が指摘するように、第三者言語接触場面においては、言語ホスト・ゲストの関係が存 在しないことも一つの要因であるといえる。そのため、Hは、NSのように、自らが 言語ホストの立場から相手に配慮しながらコミュニケーションを取るというよりも、
単に情報の伝達のみに専念していたことが考えられる。そのため、活発なインタラク ションが見られなかったのではないだろうか。また、次節の意識調査の部分で詳しく 述べることになるが、Hはほとんどの話者が、内容を詳細に伝えることのみに専念し ていたのに対し、NSは、簡単な言葉に言い換える、文を短くする、などの語彙や文の 長さに関する調整や、心理面の配慮を行っていたためにそれがインタラクションの多 寡に影響したとも推測できる。
HA HB HC HD HE HF 合計
情報提供(INF) 3 20 7 16 12 2 60 自己発話の修正(SM) 0 18 3 25 0 4 50 承認(AC) 0 6 0 6 1 9 22 否認(NR) 0 0 0 4 0 0 4 相手の理解確認(COMP.C) 0 1 0 0 1 0 2 反応要求(RR) 0 2 0 0 0 0 2 総使用数 3 47 10 51 14 15 140 総発話数 3 38 9 48 14 15 127
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< 自己発話の修正の種類 >
続いて、ここで使用されたコミュニケーション方略の中で、NSとHの間に顕著な 違いがあるかどうかを見ていくことにする。自己発話の修正の種類に関しては第4章 で述べたとおりである。再度その種類と、情報の再構成の度合いをまとめると以下の 表のようになる(表23)。さらに、この分類を基に自己発話の修正の種類別発話数を まとめた結果、(表24)のようになった。
表 23 自己発話の修正の種類と情報の再構成の度合い 自己発話の修正の種類 情報の再構成の度合い
繰り返し 低
同義語・類義語言い換え 中
多言語言い換え 詳述化 簡略化
パラフレーズ 高
例示
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表 24 自己発話の修正の種類別使用数24 自己発話の修正の
種類
情報の再構成 の度合い
NS H
使用数(%) 使用数(%)
繰り返し 低 37(64.9) 37
(64.9)
18(36.0) 18
(36.0)
同義語・
類義語言い換え
中 5(8.8) 16
(28.1)
8(16.0) 24
(48.0)
多言語言い換え 0(0.0) 0(0.0)
詳述化 11(19.3) 16(32.0)
簡略化 0(0.0) 0(0.0)
パラフレーズ 高 0(0.0) 4(7.0) 1(2.0) 8
(16.0)
例示 4(7.0) 7(14.0)
合計 57(100.0) 50(100.0)
この表を見ると、自己発話の修正の種類ごとに大きな違いは見られないと考えられ るが、情報の再構成の度合いに着目すると、NS は情報の再構成の度合いが低い「繰 り返し」を64.9%使用しているのに対し、Hは「繰り返し」の使用は全体の36%に留 まり、中程度の再構成の度合いである、同義語言い換え、詳述化が48%、例示等の情 報の再構成の度合いが高い修正が16%と、情報の再構成の度合いが高い修正を行って いることが分かる。
もちろん、HA、HEが自己発話の修正そのものを行わなかった等の個人差は否定す ることはできないが、Hの方が、自己の発話を例を挙げることや、言い換える、詳細 に述べる等の方略を用いて行っていることが分かった。
< 相手の理解確認の使用 >
次に、相手の理解確認の使用について見ていくことにする。情報やり場面において、
NS とH との間で顕著な差が見られたものは、「わかりますか?」「大丈夫ですか?」
といった、相手の理解確認の使用である。坂本他(1989)でも述べられているように、
習熟度が上級になるにつれて相手の理解確認に対する好感度が低下することを踏まえ ると、上級話者は日本語母語話者と比較して、相手の理解確認を用いないことが予想 される。以下が、NS、Hそれぞれによる相手の理解確認の使用数である。
24 網掛けは注目する部分を示している。
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表 25 相手の理解確認の使用数
話者 NS H
A 3 0
B 3 1
C 1 0
D 3 0
E 1 1
F 0 0
合計 11 2
以上の結果からは、NSは相手の理解確認をF以外すべて行っており、その総使用 数は11回である。それに対し、HはHB、HEのみが相手の理解確認を行っており、
総使用数は2回のみである。
では、なぜHはNSと比較して相手の理解確認を使用しなかったのだろうか。この 理由としては、Hは学習者としての経験があり、相手の理解確認を使用されることに 抵抗があることから、相手の理解確認を使用しないようにしていると考えられる。し かしながら、相手の理解確認の不使用に関して、事後インタビューにおけるHの語り からは何も述べられてはいなかった。
< 相手の理解確認の種類別発話数 >
栁田(2015)では、相手の理解確認の使用は接触経験の少ない母語話者は少ないこ とが明らかになっており、本研究の結果と比較すると、それよりもさらにHは相手の 理解確認を使用しないことがわかる。また、相手の理解確認の内容に関してもNSと Hでは使用傾向に違いが見られた。ここで見られた理解確認は、①詳細(語彙や速度 などの言語面)についての相手の理解確認、②全体についての相手の理解確認に分け ることができると考えられる。
①の例を挙げると、「日本語大丈夫ですか」「しげみ、わかりますか」などの語彙や 話す速度について尋ねる相手の理解確認である。
< ①詳細についての相手の理解確認 >
1325 NSD そうですね、、、そう犬が、えーっと茂み、わかりますか?
19 NSA あっ、日本語うーんと、もう少しゆっくりしゃべったほうが大丈夫、
25 ここでの番号は実際の発話の番号である。