4. 調査方法
4.4 予備調査
4.4.2 分析項目
4.4.2.1情報やり場面
本研究では、栁田(2015)に倣い、NS及びHが情報を提供する場面を「情報やり 場面」と呼び、NSおよび、Hが情報を受け取る場面、つまりMが情報を提供する場 面を情報とり場面と呼ぶ。
まず、情報やり場面における言語調整行動を見ていくことにする。
文の長さについて
文の長さについて上級話者と、母語話者では、違いが見られるのかを明らかにする ため、栁田(2015)で用いられている、小磯(2008)の「文単位」「強境界」を援用 した。小磯(2008)で用いられている「絶対境界」「強境界」「文単位」の定義を以下 に示す。
絶対境界:文末に相当する境界、明示的な文末表現の直後
文単位:「絶対境界」、「体言止め」、「と文末」、「文末候補(文末表現+終助詞など)」 強境界:後続の節に対する従属度の低い、つまり切れ目の度合いが強い節境界(ケ ド節、テ節で接続しているものなど)
(小磯2008を基に筆者が加筆)
実際の発話における「文単位」「強境界」
NSY えっと、まず、女の人がいて《強境界》、えっとー、かばんを、ショルダーバ
ッグ?肩にかけるバッグをもって《強境界》、えっと、犬のお散歩をしてい ます【文単位】、で、犬の種類は、ちょっとわかんないんですけど、《強境界》
柴犬みたいな
上記の例を参考にすると、
今回の調査で以上の定義を用いて文の長さについて分析を行ったところ、非母語話 者の方が文単位での発話が多く見られる傾向があることがわかった(表10)。
36
表 10 強境界と文単位の出現数
NSY HY
出現数 % 出現数 %
強境界 27 65.9% 17 29.8%
文単位 14 34.1% 40 70.2%
合計 41 100.0% 57 100.0%
意味交渉について
次に、情報やり場面での情報提供、意味交渉について分析した。そこでは、母語話 者は相手の理解確認を使用しないが、非母語話者は相手の理解確認を使用していた。
また、非母語話者の方が、明示的に「そうです」「そう」など、相手の確認を承認して いた(表11)。
表 11 情報やり場面における各機能別発話数
NSY HY
情報提供 9 21 自己発話の修正 16 22 承認 3 10 否認 0 2 相手の理解確認 0 1 反応要求 4 3
このことから、日本語を母語としない、日本語上級話者は、相手の理解確認を用い て、相手の理解困難な部分の予測をしたり、相手の発話が正しいのかを明示的に示す 可能性が考えられる。以下は、HY から見られた相手の理解確認及び承認の発話であ る。
< 相手の理解確認 >
1119 HY あっ鏡といえば、たぶんね、あのー、押し入れ、押し入れ知ってい
ますか?
<承認>
19 ここでの数字はやりとりで見られた実際のターン数である。
37 66 MY じょう?この、/手の部分?/
67 HY //じょう、上半身そうそうそう//この部分しか見えない、、、あー、そ
ういう感じ
ただし、NS、Hによる情報提供の回数には違いがあることから、使用される方略の 回数はターン数に比例して増加しているだけに過ぎないとも考えられる。そのため、
この予備調査の例だけで、非母語話者間の方が意味交渉が活発であり、Hが必ず相手 の理解確認や承認を積極的に使用する、と断言することはできないと考えられる。
また、使用数が多い理由が積極的な言語調整行動をしているからなのか、Hの説明 に難があり、意味交渉を行わなければいけないからであるのかの判断は注意が必要で あるといえる。
自己発話の修正の種類
上述したように、相手からの不理解表明や、不理解を予測した際に、自分自身の発 話を修正するものが、「自己発話の修正」である。予備調査の段階では、自己発話の修 正はどちらの話者にも見られた。自己発話の修正に関して、筒井(2008)では、接触 経験の多い、日本語教師、ホストファミリーは情報の再構成の度合いが高いことが確 認されている。栁田(2015)では、自己発話の修正を7種類に分類し、それを情報の 再構成の度合い別に高、中、低の3つのレベルに割り当てている。以下は栁田(2015)
で述べられている7種類の自己発話の修正の種類である。
①繰り返し
前述の発話をすべて、もしくは一部を繰り返す。
1 NSY えーと犬がちょっと吠えて、吠えて、吠えました
②同義語・類義語言い換え
前述の語彙を同じ、または似た意味の語彙に修正する。
1 HY あの男の子が女の子から叱らされてます 2 MY しかれ、しか?
3 HY うん、え、えーと、お、怒られる
③多言語言い換え20
前述の語彙を多言語に言い換える。カタカナ語も含む。
20 予備調査では現れなかったため、この例は栁田(2015, p.96)を参照。
38 1 A わかりますか?お医者さん 2 B はい、/わかります/
3 A //dentistですね?//
④詳述化
前述の語彙や発話に新たに付け加える。
NSY えっと、女の人?その飼い主の女の人が
⑤簡略化21
前述の語彙や発話を省略する。
A こうー、いじりだしたら、痛くってこう飛び上がる、っていうか、
あ痛いってなったときに、
⑥パラフレーズ
前述の発話に似た意味の発話に修正する(1)。または、前述の語彙を辞書的に説明 する(2)。単語よりも長い単位の修正である。
(1)
1 HY 頭、頭と手しか見えない
2 MY うん
3 HY でも、顔は、汗かいていますから、たぶん、走ってきたと思う、そ う、図の中にあの、じょう、上半身しか見えない
(2)
1 NSY はげまそう、はげま、さっきいった/その/
2 MY //うん//
3 NSY 元気づけようとして
⑦例示
前述の発話を修正する際に、具体的な例を示す。
1 NSY その泣いている女の子を、えー、励まそうと、えっと、/ペットボト ルに入った飲み物を/
2 MY //励まそう//ってなんですか?
21 脚注20に同じ。
39
3 NSY あっそうですね、えっと、なんだろう、泣いている人って悲しいじ ゃないですか
以上で示した自己発話の修正を再構成の度合いで分類すると、①は、再構成の度合 いが低く、②、③、④、⑤は再構成の度合いが中程度、⑥および⑦は再構成の度合い が高いとされている(表12)。
表 12 情報の再構成の度合いの分類
自己発話の修正の種類 情報の再構成の度合い
①繰り返し 低
②同義語・類義語言い換え 中
③多言語言い換え
④詳述化
⑤簡略化
⑥パラフレーズ 高
⑦例示
予備調査の段階では栁田(2015)に倣い、自己発話の修正の種類ごとに発話を集計 した。情報の再構成の度合いに関しても分析したが、母語話者と非母語話者間に大き な違いは見られなかった。
40
表 13 自己発話の修正と種類別発話数 自己発話修正の種類 NSY HY 繰り返し 3 8 同義語・類義語言い換え 0 1 他言語言い換え 0 0
詳述化 8 5
簡略化 0 0
パラフレーズ 3 4 例示 2 4 合計 16 22 表 14 情報の再構成の度合い別発話数
情報の再構成の度合い 自己発話の修正の種類 NSY HY
高 パラフレーズ・例示 5 8
中 詳述化・簡略化 8 6
同義語・類義語/多言語言い換 え
低 繰り返し 3 8
合計 16 22
ここから考えられることとしては、非母語話者であっても母語話者と同様、もしく はそれ以上に、情報の再構成の度合いが高い修正を行うことができる、ということで ある。まだ、1名の段階であるため、この結果を安易に結論付けることはできないが、
非母語話者であっても情報を再構成しながらやりとりを行っていることが示唆された といえるであろう。
4.4.2.2情報とり場面
次に、日本語母語話者、日本語上級話者が情報を受け取る場面(情報とり場面)に おけるコミュニケーション方略を機能別に集計したところ、以下のようになった。
41
表 15 情報とり場面における各機能別発話数 発話機能 NSY HY 情報要求 0 8 あいづち 57 37 理解表明 1 7 自分の理解確認 2 35
明確化要求 1 4 共同発話 0 10
表15 の結果からわかることとして、情報とり場面においては、母語話者と非母語 話者との間に明確な違いが見られると考えられる。一つ目は、非母語話者の方が「わ かります」などの理解表明が多いことである。日本語母語話者は「はい」などのあい づちを多用するのに対し、非母語話者は「はい」などのあいづちに加え、「わかります」
「なるほど」などの理解表明を用いる傾向があった。
149 MY 手、手を、こうやっていて、
150 HY あーなるほど
199 MY あー任せてって感じ、ちょっと、いい、いいこと、いいことしよう と思った、と思う
200 HY 分かりました、/そう/
次に、自分の理解確認を多用して自らの理解が正しいのかを明確にする傾向が見ら れた。
7 MY 右は女の子、左、あのー、/右は/男の子、左は、女の子 8 HY 右は、女の子?
91 MY あとは、女の子はちょっとびっくりした 92 HY あ、びっくりした?あ、サプライズ?
93 MY うん、そう、あーありがとうみたい、びっくりした 94 HY ありがとうってびっくりした
95 MY うん
最後に、上級話者は中級話者の発話困難を察知し共同で発話を完成させようとする
42 傾向があることがわかった。
122 HY これどうやって知っていますか?
123 MY そのー表情は、めっちゃ困っていて 124 HY あー、
125 MY 手が自分の体を、、、
126 HY あ、さが/し/
127 MY //探し//ていて
このような共同的な発話は母語話者には見られなかったことから、Hは相手の発話 困難を察知して共同的に発話を行う可能性があることが明らかになった。
しかしながら、この結果は、NS、H、Mそれぞれ一人ずつのみの結果であり、タス クによるものであることは否定できない。そのため、予備調査の段階では情報のやり とりの際に使用される方略を結論づけることはできない。しかしながら、母語話者と 非母語話が行う言語調整行動に何らかの差異が存在し得ることは推測できる。
本調査においては、各話者6名ずつのやりとりを記述し、言語調整行動の際を明ら かにしていく。