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後発開発途上国卒業に向けてのラオス政府の役割

第6章 ラオスの後発開発途上国からの卒業についての展望

第4節 後発開発途上国卒業に向けてのラオス政府の役割

開発途上国の開発を推進する上で政府が果たすべき役割は大きい。政府は、国家開発 の長期的な戦略と中短期の具体的な計画を策定し実施しなければならない。そのために 政府は強いリーダーシップを発揮し、予算の確保とその適切な執行を行う必要がある。

開発の最大の目的は経済発展である。経済が発展することにより、雇用が生まれ、国民 所得の上昇が期待される。経済開発のためにはその基礎となる道路や水道、電気といっ た社会基盤の整備が必要である。多くの開発途上国でそれを担うのは政府であろう。同 時に国家のルールを作ること、法制度の整備とその適切な執行は経済の健全な発展のた めばかりではなく、国民が安全に安心して生活するためにも必要である。そこには、国 民の利益、例えば財産権や所有権といったものも含まれる。また、開発途上国では、教 育や保健サービスの提供についても政府が責任を負い、それは同時に人的資源の維持と 育成にも関連している。開発途上国では、経済開発の源である投資のための国内貯蓄が 不十分であり公共投資による社会基盤整備が遅れ、民間企業も起業のための資金不足と なっている。その不足分を国際機関や先進国、近隣国といった諸外国に頼らざるを得ず、

そのため外交は政府の重要な役割となる。さらに、国民所得の低い状況にあって、国民 が生活する上で必要とする最低限のものを手にするためには、公的機関が何らかの介入 を行う必要がある。そして、政府がその役割を適切かつ効果的に果たしていく上で、そ れらの活動に対して説明責任を負い、透明性を確保していくことが必要である。そうし たことを踏まえた適切な人材の育成が行われなければならない。

ラオスは課題に対処しつつ、国家開発を推進し、LDCs からの卒業を目指している。

ラオスの抱える課題は前項でも述べたように明らかであり、その課題の本質は開発の恩 恵を国内の隅々にまで行き届かせること、そしてそのための予算と人材の確保である。

外国企業の進出や国内企業の発展にともない、そうした民間企業による開発とその恩恵 を受ける人々がいることも事実であるが、恩恵を受けることのできない人々の多くは、

そうした企業の進出がない地域に居住しており、そうした人々に対して影響力を発揮す ることは、恐らく政府や地域の行政機関にしかできないことである175

言うまでもなく、人材育成は教育と直結した問題である。本章第 2項・表6-3-8はラ オスの教育指標について、初等教育就学率 121.0%、中等教育総就学率 50.0%、高等教

175 例えば、電力会社や鉱山会社、国内の大手企業が存在する地域では、道路や電気などの社会基盤 整備が企業によって行われており、その周辺地域住民は社会サービスへのアクセスも容易である。

また、企業の存在によって雇用も創出され、収入を得ることができている。但し、そうした企業の 恩恵を受けられるのは、その企業に雇用されている人とその家族といったように限定的である。

育総就学率18.0%と示している176。初等教育におけるドロップアウト率が26.7%であり、

中等、高等教育と進むにつれその残存率も低いことが推察される。より有能な人材を育 成するためにも、高等教育機関への進学率を高めることは重要なことである。

表6-4-1 2014年-15年度公務員採用試験の状況

出所:JICAラオス事務所専門家会議資料より筆者作成。

(Vientiane Times 24 May. 2014, 04 Aug. 2014, KPL 21 Aug. 2014)

表6-4-1は 2014年-15年度の公務員採用試験の状況である。当時と現在とでは採用制

度が変更となっているが、公務員を志望する者で内務省が実施する一次試験を受験した

のが 37,472 人、うち合格者数が 32,500 人であった177。二次試験の採用予定定員数は

5,000 人であるので、競争率は 6.5 倍という難関であった。また、受験者のうち 8,162

人がラオス国立大学の卒業生であることから、公務員を目指す人たちはラオスのなかで も非常に高い教育を受けてきた人たちであった。

こうして難関を突破し採用された公務員であるが、採用された後6ヶ月間はインター ンとして勤務することとなり、この間は無給である。そのため勤務しながらアルバイト をする者が多い。また、アルバイトをしているのはインターン期間中に限らず、本採用 職員であっても給与水準が低いため、アルバイトを続ける者も多い。2014年-15年度の ように歳入欠陥を原因とする予算執行の停滞が生じた場合、給与の遅配が生じることさ えある。国家開発の指導的立場にある中央省庁の職員であっても、副業をしなければ十 分な生計を立てられないという点は非常に重要な問題である。政府が国家開発において より有効にその役割を果たすためには、行政機関に勤める公務員が自らの仕事に対して 真摯に取り組むべきであり、そのためには彼らが仕事をする上でのインセンティブが必 要であり、それはまぎれもなく給与である。自ら働いた分の給与と、働いた結果に対し ての昇給が公務員のインセンティブである。

176 UNDP,2015, “Human Development Report 2015”, Table 10 Education Achievements, p244, New York2008年-2014年のデータより抜粋。

177 前年度の採用予定者数と比較し定員数が3分の1に減少しているのは、前年の歳入減の影響によ り期中の予算削減のために大幅に新採用者数が削減されたことが要因であると推察される。本採用 制度は変更され、2015/16年以降は各省庁がそれぞれ採用試験を実施している。

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加えて、公務員を目指す人々はラオスのエリート層で、高等教育を受けた人材であり、

中には海外で教育を受けた経験を有する人材や、援助ドナー国で研修等の能力強化を受 けた人も多くいる。彼らを適材適所に配置し、効果的に活用することも重要である。

表 6-4-2 ラオスの公務員数と2014年-15年度の省庁別採用定員数(人)

出所:JICAラオス事務所専門家会議資料(20149月)より筆者作成。

(Vientiane Times 24 May. 2014, 04 Aug. 2014, KPL 21 Aug. 2014)

表6-4-2はラオスの公務員数と2014年-15年度の省庁別の採用予定定員数を示してい

る。ラオスの中央省庁に勤務する公務員数は、2014 年 8月現在約 156,000人とされて いる。そして、2014年-15年度の採用予定数は 5,000人でそのうち36%にあたる1,800 人が教育スポーツ省、14%にあたる700人が保健省での採用予定となっている。ラオス の開発課題は、教育と保健であり、それらの分野への採用者数が多くなっていることは 課題に対する対策と合致しており、人材確保の問題に対する取り組みが行われている。

前述したように、人材の育成と確保については人員の確保という形で行われているが、

筆者は別の観点からの公務員の人材育成について指摘したい。

開発途上国で実施される技術プロジェクトでは様々な形で研修が行われる。例えば、

日本の例でいえば、本邦研修と呼ばれる日本に被援助国の行政官および民間人を招聘し、

技術訓練を受けるというものである。研修内容は分野別に知識や技術習得など多岐に渡 り、関連した業務に就く者が派遣される。研修員は研修終了後、帰国し業務にもどるわ けであるが、日常業務で習得した知識や技術を活かせる立場にあるかというとそうでは ない場合もある。また、研修で得た知識や技術を同僚に対して共有する機会も少ない。

加えて、研修に派遣された研修員が研修内容の業務に関わっていない場合もある。ここ で述べた問題は、ラオスにおいても同様である。援助供与国によって実施される研修は、

人的資源の質の向上にとって有益であるにもかかわらず、十分活かされていないのであ る。この点について改善するためには、援助供与国、被援助国の双方において研修機会 を有益にするための努力が必要であろう。

以上のことからラオスの人材育成のための要点を整理すると、以下のことが挙げられ る。

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1. 行政官の業務意識の改革とインセンティブの付与 2. 援助供与国によって実施される研修機会の有効的活用 3. 行政官の適材適所の適切な実施

市場経済メカニズムの導入から 2015年で 40年が経過した。2000年代中期以降のラ オスの経済発展は、水力発電と鉱工業、そして外資誘致による工業開発によるものであ る。この間に民間企業も増加し、ラオスにおいても市場経済が拡大してきていることは 間違いない。ラオス国内の治安維持と政治的安定が維持され、NSEDP に示される長期 的戦略に則り、開発計画が実施されるとするならば、ラオスの持続可能な開発が期待さ れるだろう。しかし、都市部と農村部や遠隔地との間の開発格差は是正されていないと いう状況も事実である。民間企業は、自社にとって利益があるかどうかが進出のインセ ンティブである。そのため、利益の見込めない地域には進出しない。そうした地域では ますます開発が遅れていく。ラオス政府はそれらの点については十分認識しており、そ の取り組みの必要性をNSEDPにおいても述べており、サム・サーン政策は、地方分権 とそれぞれの段階での人材育成と能力強化を図るための政策である。

国際機関や各国ドナーは、SWG にも示されているように各分野についてラオスへの 技術援助を実施している。技術援助を実施する上で重視されているのが、キャパシティ・

ディベロプメント(Capacity Development)という手法である178。キャパシティ・ディベ ロプメントは、途上国の課題対処能力が個人、組織、社会などの複数のレベルの総体と して向上していくプロセスを指し、個人や組織の能力向上のみならず、加えて制度や政 策の整備、社会システムの改善など対象を広げた考え方であり、外国からの介入行為で はなく、開発途上国自身による内発的なプロセスを指している。よって、開発途上国の 能力を構築し、強化し、維持するという継続的なプロセスである。開発の理想の形態は、

当事国の人びとによって国内外の要素を活用して、内発的に発展していくことであり、

そのための人的資源の育成と活用がなされるような働きかけが行われなければならない。

市場経済メカニズムの導入により、民間企業の存在感が増すラオスではあるが、MDGs 指標やLDCs指標が示すように社会開発状況は改善途上である。そのような状況にある ラオスにおいて、開発は国家の介入なしに成し遂げることは困難である。政府がその役 割を適切に果たし、すべての国民が開発の恩恵を享受できるような国家開発の推進が求 められる。

まとめ

ラオスは1997年以来20年間にわたり、LDCsからの卒業を国家開発の最優先目標と

178 キャパシティ・ディベロプメントに対してキャパシティ・ビルディング(Capacity Building)は、

個人や組織の能力強化のみを重視するもので、外部からの介入、つまり開発援助等による働きかけ によって能力を向上させていくという考え方とされる(JICA 2006)。