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第2章 ラオスの概要

第 2 節 地理的概要と民族

や世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)加盟を見据えた経済発展の加速と外 国からの投資の奨励・保護を重視していることがわかる。また、1991年憲法では明記さ れていなかった、「社会主義」というイデオロギーが明記された。前文では、現在の改革 事業の実施が社会主義体制へと移行する基本条件を建設するためであることが明記され、

経済体制に関する条文においても市場経済メカニズムが社会主義の方向に従った調整の 下に行われることが規定された。さらに、新たに国防=治安の章を設け、国民の国防義 務、軍・警察の強化、軍・警察の生活保障が新たに規定された。

ラオスは人民革命党を中心とする中央集権による国家体制の一方で、地方、つまり県 の統治に関しては県知事が大きな決定権を持っているということは半ば常識のように周 知されているが、これは県知事制の下でのラオス人民革命党による地方を支配するメカ ニズムでもある(瀬戸 2015b)。

第 2 節 地理的概要と民族

第 2 項 民族多様性

ラ オ ス 統 計 局 が 公 表 し て い る ラ オ ス 統 計 年 報 2014 年 版(Lao PDR Statistical

Yearbook :LSY2014)によるとラオスの人口は約680万人と推計されている40。ラオスは、

多民族国家(多言語族国家)であり 2000 年の国勢調査の際に 49の種族41に分類している が、安井によると、調査年によって種族数が異なっており、1985年の国勢調査において は800以上もの自称民族名が記録されたことから今後も分類や名称が補正されていく可 能性がある(安井 2015)。

政府が2000年に行った分類では、49種族が言語によってラーオ・タイ語族、モン・

クメール語族、チベット・ビルマ語族、モン・イウ・ミエン語族の4グループに分けら れており、表2-2-1に示すようにそれらの語族に属する民族種族が存在している。また、

表 2-2-2のように人々が住む地域の高低による分類が用いられることもある。

表2-2-1 ラオスの言語別種族区分

出所:西澤信善、2003、「ラオスのプロフィール」、『ラオスの開発と国際協力』、

めこん、19頁より筆者作成。

表2-2-2 居住地域による分類

出所:西澤信善、2003、「ラオスのプロフィール」、『ラオスの開発と国際協力』、

めこん、19頁より引用し、筆者作成。

ラオ・ルムは、低地ラオス人とも呼ばれ、海抜400m以下の平野部に住む人々の総称 として用いられており、ラオ族などのタイ系語族の民族を指す。ラオスの人口の約半数 が、ラオ族である。ラオ・ルムの特徴として、低地平野部を好み、灌漑技術を持ち、水

40 Lao PDR Statistical Yearbook 2014, Table 15, p22。以下ラオス統計年報はLSYの略号を用い、

年で区別する。

41 参考文献によっては、「種族」を「民族」と表現している場合もあるが、本論文においては「種族」

という表現に統一することとする。

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稲耕作を行い、もち米を主食としている。

ラオ・ルムと、ラオ・スンの中間、つまり山の中腹に住む人びとをラオ・トゥンとい う。ラオ・トゥンは、モン・クメール系民族でラオスの先住民であるとされ、ラオス中 北部から南部にかけて多く住んでいる。山の斜面で焼畑を行い、狩猟採集を行う森の民 族であるとされる。ラオ・トゥンは 49 種族の半分以上を占めるが、少数民族が多く存 亡が危惧される民族も多い。ラオ・トゥンは、ラオ・ルムによって山の中腹に追われた といわれ古くからこの地域に存在していたことがわかっている。また、ラオ・トゥンは、

焼畑農業を生活の糧としていたため定住性が低く、一方でラオ・ルムが平地に定住し、

ラーンサーン王国を造りラオスの主権を握ったともいわれている。

ラオ・スンとは、高地ラオス人のことで海抜800m以上の高地に住む人々で、モン・

イウ・ミエン語族やチベット・ビルマ語族が多い。18世紀から19世紀にかけて中国の 雲南省や四川省などからラオスへ移り住んだとされている。モン族、ミエン族、アカ族 など中国、ベトナム、タイ、ミャンマーなどの国境をまたがって山岳地帯に広がって住 んでいる民族が多いが拡散して居住している場合も見られ、時代が進むにつれラオ族へ の同化も進み、中には民族の消失に直面しているサブグループも見られるという。ラオ・

スンも焼畑農業を行い定住性は低かった。

ラオスの49の種族はそれぞれ独自の文化を有し、伝統的な文化継承を重視しており、

様々な儀式が現在も行われている。また、ラオスで最も信仰者が多い宗教は仏教(上座部

仏教)42で 66.8%のラオス人が信仰している43。林によると、現行憲法は信教の自由を認

めており、ラオ・ルムのごく一部を除いてほとんどが仏教徒で、ラオ・トゥンは精霊信 仰および仏教を信仰し、ラオ・スンはキリスト教か精霊信仰であるという(林 2015)。

ラオスの公用語はラオ語であるが、現代世代の多くのラオス人がタイ語を解する。そ の理由は、ラオスの多くの家庭はテレビを有し、タイのテレビ局を受信することが可能 であり、幼少時よりタイのテレビ番組を視聴して育つ人々が多いためである。そのため、

タイのテレビ番組を通じて、タイや海外の現代風俗、文化の流入によるラオス文化への 影響も大きく、現代世代の人々の中で、ラオス語にタイ語が混在して話されているとい う問題が生じている。

第 3 項 地域別の特徴

ラオスは、一般的に北部、中部、南部の三つに地域に区分され論じられることが多く、

それに倣って地域別の特徴について述べる。

まず、北部は、中国、ミャンマー、タイ、ベトナムと国境を接し、表 2-2-3 に示す 8 県で構成されており、総面積は11万2千755平方キロメートル(ラオス全体の47.6 %)、

42 上座部仏教は、戒律を遵守し出家による自己救済を本義する。出家、布施、儀礼への参加、瞑想行 など功徳を積むことで救われると信じられている(林 2015)。

43 Central Intelligence Agency, 2016, “The World Fact Book Laos”.

2014年の人口は239万8千人(ラオス全体の 35.3%)である。中部や南部と比較すると面 積、人口とも大きいが、人口密度で比較すると21.3人/㎢と小さいことがわかる。

表 2-2-3 北部の8県の面積、人口、人口密度(2014年)

出所:人口は、LSY 2014, Population and Demography、Table 15, p22、

面積は、LSY 2013, Population Estimation and Density in 2013, Table 15, p18.より抜粋して作成。

人口密度は筆者が算出。

気候は雨季と乾季にわけられるが、中部や南部よりも冷涼で 11 月中旬から 6 月中旬 までは乾季、6月中旬から11月までが雨季である。乾季のうち11月から3月は夜間の 気温が氷点下になる場合もあり寒いが、4月から6月は最も暑い時期となる。

北部に居住する人々は、第2項で挙げた言語種別による民族グループが町や村に混在 して居住している場合もあれば、小さな集落を同一種族で形成して居住している場合も 見られる。川の近くや平野に居住する人々はラオ語を解し日常生活を送っているが、山 岳地帯などの遠隔地に居住する人々の中にはラオ語を解さない人々もおり、古い伝統や 習慣を厳格に守り生活している。また、そうした地域では、道路や水道、電気といった 社会基盤整備が遅れており、貧しいとされている。しかし、近年では、こうした遠隔地 の人々が、より便利な平地に移住するようになっており種族の融合が進んでいる。

北部は比較的高い山々と森林に囲まれた地域で、多くの河川が流れており、重要な交 通ルートであるとともに、魚が豊富に獲れ、その流域は米、トウモロコシ、果物、イモ 類など生活に必要な食糧の供給にも役立っている。また、地下資源に恵まれ、各県で宝 石や石炭、その他の鉱物資源が存在するといわれるが、一部を除いてその採掘と生産は 行われていないという(ラタナヴォン 2015)。

表 2-2-4は、第 7次国家社会経済開発計画で示された、地域別のGDP 成長率、産業

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別のGDP割合、1人当たりGDPについて抜粋したものである。北部では、農業がGDP に占める割合が44.3%、工業が26.3%、サービス業が 29.4%となっている。農業につい ては、平野部では水稲作が行われているが、中高地では、山の斜面を利用した伝統的な 焼畑による陸稲栽培が行われている。近年、一部の地域で焼畑に代わる産業として大規 模なパラゴムノキの植林プランテーションが導入され、換金作物栽培が行われている。

表 2-2-4 北部地域のGDP成長率、産業別GDP割合、1人当たりGDP(2014年/2015年)

出所:The 7th National Socio-Economic Development Plan, Table 9: Estimation of Economic Structure and GDP per capita in Each Region from 2006-2010, p40より抜粋。

表2-2-5 中部1都5県の面積、人口、人口密度(2014年)

出所:人口は、Lao PDR Statistical Yearbook 2014, Population and Demography Table 15, p22 り、面積は、Laos PDR Statistical Yearbook 2013, Population Estimation and Density in 2013, Table

15, p18より抜粋して作成。但し、サイソンブン県の面積は、Ministry of Information, Culture and Tourism, Tourismlaos、Xaisomboun Overviewより引用、人口密度は筆者が算出して作成。

中部地域は、首都ヴィエンチャンを含む1都6県で構成され、面積8万919平方キロ メートル(ラオス全体の 37.6%を占める)、2014 年の人口は 306 万 6 千人(ラオス全体

の 45.1%を占める)であり、メコン川を国境としてタイと、また東側の山岳地帯でベトナ

ムと国境を接している(表 2-2-5)44。この地域は、インドシナ戦争中、ベトナムとの関係 上重要な戦略地域であったため、米軍の激しい爆撃を受け多くの不発弾が残され、今な お開発の妨げとなっている。中部の人口密度は 37.9 人/㎢と最も高く、首都ヴィエンチ ャンは人口密度が211.2人/㎢と人口集積が突出している。

44 サイソンブン県は、ヴィエンチャン県、シェンクアーン県、ボリカムサイ県に分割されていた旧サ イソムブーン特別区が201412月に再度独立した県として設置された。

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