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第3章 ラオスの経済成長と産業構造についての考察

第 3 節 ラオスの国際関係と経済発展

第2章および第3章前節までに近年のラオスの経済、産業の状況をみてきた結果、急

74 ODOPは、日本の大分県で始められた地域振興政策である一村一品のラオス版である。ラオスの 場合、村単位ではなく、郡単位で地域特有の産物開発を行っている。

75 ラオス統計年報2015年に公表されている2005年から2015年までの年間旅行者数のデータを基 に、年間増加率を算出、さらに年間増加率を幾何平均して算出。

速な経済成長をするようになり、それに伴い産業構造も変化してきたことが明らかとな った。その要因として 1986 年の新経済メカニズムの導入、すなわち市場経済を導入し たことにより、対外的な関係が大きく変化したことによると推察した。1986年以前のラ オスの対外的関係は、旧ソヴィエトやベトナム、中国を主とする社会主義同盟国との関 係にあった。経済政策の転換によって資本主義経済国との関係が修復され国際機関だけ でなく、ヨーロッパやアメリカ、日本など資本主義経済国からの開発援助と、外国直接 投資誘因のきっかけとなったと考えられる。なかでも、開発援助流入額の増加はラオス の社会・経済の発展にとって重要であった。

そこで、まず外国からの資金流入のうち、無償資金およびその他の資金流入について 統計資料を参照し検討してみる76

図 3-3-1 ラオスの無償資金受入額(単位百万ドル)(1970年~2014年)

注:技術援助は含まない。

出所:World Bank Database, World Development Indicators, 無償資金流入額(技術協力を含まない)

のデータを基に筆者作成。

図3-3-1は1970年から2014年までのラオスに供与された無償資金援助額の推移であ

76 政府開発援助(Officaial Development Assistance: ODA)には無償資金援助、有償資金援助、技 術協力の3つの方法がある。無償資金援助は、援助受入国に返済義務を課さない資金贈与であり、

援助受入国の経済社会開発を目的とした事業に必要な施設、資機材、設備およびサービスを購入す るための資金を贈与するものである。主に、食糧、安全な水へのアクセス、衛生、保健、医療、基 礎教育などの基礎生活分野、国づくりおよび持続的経済成長に不可欠な経済基盤整備などを実施す るものである。無償資金協力は比較的所得水準の低い国を対象としている(国際協力用語集第4

2014)。

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る。ラオスが共産化した1975年〜1985年までの無償資金の供与国は旧ソヴィエト連邦 やベトナムを中心とする社会主義同盟国であったが、その額は少なかったことがわかる。

1977年から 1986年までの10年間の無償資金受入額を隣国タイと比較してみると、ラ オスが受け取った無償資金総額は1億9千万ドル、タイの受取額は7億7千万ドルであ った77。そして、1986年以前は、年によって受入額が増減していた無償資金は、年々増 加するようになった。旧西側諸国との関係が回復したことで無償資金の供与国が拡大し たことが要因であった。2005年以降ラオスの無償資金受取額は急増し、2008年は2億 5千万ドル、2014年には3億6千万ドルとこれまでに最も多くの無償資金を受け取った。

1970年代から1980年代の中国やベトナムの開放政策や旧ソヴィエト連邦の崩壊など社 会主義同盟国の状況に対して、ラオスが受け取る無償資金の受取額が増加したことを踏 まえるならば、ラオスでも市場経済メカニズムの導入と開放政策がラオスへの無償資金 流入に影響を与えたと考えられるだろう。

無償資金の受入額は、2008年に1億 2千万ドル(歳入の 14.1%)であったが、2010 年には4億ドル(歳入の29.4%)を超え、2014年には6億4千 6百万ドル(歳入の23.1%) にまで増大した。また、無償資金およびその他の外国からの借入金等を含む資金受入は 2008年に2億 2千 3百万ドル(歳入の26.0%)、2010年に約5億ドル(歳入の36.6%) を超え、2014年には 9億 4千万ドル(歳入の 33.6%)にまで増大した。鈴木は、ラオ ス財務省内部資料を基にラオスの財政と外国援助について、2006/07 年度のラオス政府 の歳入の17%が無償資金に占められていると述べ、歳出のうち84%が外国援助(外国融 資)によって賄われていると指摘した(鈴木 2009 53頁)78

次に、無償資金とその他の資金流入についてみてみる。表3-3-1は、2008年から2014 年までの財政とその収支状況、歳入に占める無償資金および無償資金以外の外国からの 借入金等を含む歳入の割合をまとめた。

歳入、歳出ともに2008年から2014年までの間に約3倍に増加した。そして、財政収 支は歳出超過が続いており、特に 2013年には約5億 9千万ドルの歳出超過となってい る。鈴木は、ラオス政府の歳出内訳について、経常支出が歳出全体の55%、資本支出が 45%を占めており、経常支出の約40%が賃金・給与などの人件費であったと述べている

(鈴木 2009)。また、資本支出には、道路や橋梁、発電施設と送電線など社会基盤建設

が含まれており、国内の社会基盤整備を急ぎ、国民生活の向上と外資導入のための環境 整備に必要な歳出が増大してきたと考えられる。

無償資金援助の受入額は 2010年以降急激に増大しており、歳入比26%以上と無償援

77 World Bank, World Development Indicators, Grants excluding technical cooperation.

78 ラオスの会計年度は、10月から9月を1年度としている。鈴木によると社会基盤建設に対する支 出は歳出表の「資本支出」に分類され、2006/2007年は、支出計約33,879億キップのうち、国 内融資によるものが約5,415億キップ(16.0%)、外国融資によるものが2兆8,465億キップ(84.0%) であったと述べられている(鈴木 2009 53-54頁)。

助に過度に依存している状況がわかる。無償資金以外の他の資金受入額と合わせると歳 入比30%を超えることとなる。また、ラオスが外国から受け入れている資金の約70%か ら 80%が無償資金となっている。歳入・歳出と無償資金等の受入額の状況から、ラオス は財政の不足分を外国からの開発援助に依存していることは明らかである。

表3-3-1 ラオスの財政、無償資金およびその他の資金受入額とその歳入に占める割合

2008年〜2014年

1:アジア開発銀行(Asia Development Bank: ADB)の公表する統計データは、現地通貨建て表記の

ため、ラオスキップの対ドル年平均換算レートを使用した。

2:無償資金およびその他の歳入に含まれるのは、諸外国政府および国際機関、その他の政府機関 からの無償資金、利子、公的目的の返済不要の受取(科料、行政管理費、政府が所有する資産からの

収入、およびその他の無償資金以外の寄付、返済不要の受取等を含む。

出所:歳入、歳出、財政収支、無償資金受入額および割合、換算レートはAsia Development Bank, Key Indicator for Developing Countries, Lao PDR, 1999, 2005, 2015を参照し、筆者が算出して作成した。

無償資金およびその他の歳入と割合はWorld Bank, World Development Indicators, Grants and other revenue (current LCU)のデータを参照し、本表の換算レートを用いて米ドル換算した。

表3-3-2は2013/14年度の部門別公共投資額の内訳をまとめたものである。その他投

資額に含まれる内容が不明であるが、それを除くと通信・運輸への投資額が突出して多 くなっていることがわかる。次に多くなっているのが教育、保健で、続いて農林業とな っている。LSYに公表されている統計では、通信・運輸への投資額は2000年代以前か ら大きかったようであるが、2003年頃から教育、保健分野への投資額が増大してきたよ うである79。また、投資額の多い通信・運輸、教育、保健、農業については、70%以上

79 Committee for Planning and Investment National Statistics Centre, 2005, Lao PDR Statistics 1975-2005, Vientiane, Lao Statistics Bureau, 2006-2008, Statistical Yearbook 2006-2008, Vientiane.

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を国外財源に依存していた。公共投資全体でみてもその60%を国外の財源に依存してい るのである。製造業やサワナケット-セノSEZへの公共投資はほとんど行われておらず、

民間投資によって開発が進められていると推察される80

表 3-3-2 ラオスの部門別公共投資額内訳2013/14年度(単位:10億キップ)

1:ラオスキップの換算レートは表3-3-1を参照。

注 2:ラオス統計年報 2009-2014 に公表されている部門別の公共投資(国内・外国財源)額を抜粋。

但し、明らかに計算ミスと考えられる部分については筆者が算出し修正を加えた。

出所:Lao Statistics Bureau, 2014, Statistical Yearbook 2006-2014, Vientiane, p.114, Table 85.

ラオスの財政赤字は王国時代からの課題であり、民間部門が未発達で、農業依存の産 業構造、そして、徴税制度とその実効性に問題があることが主な要因であった。ASEAN 加盟とAFTAへの参加によって、輸入関税の減少も想定され、その補填のため取引税と 物品税の導入、さらに、それらを統一した付加価値税の導入などを行っているものの、

財政状況は改善されていないといってよいだろう。2000年代の天然資源開発の本格化に よって、鉱業部門の発展は税収に好影響を与えたが、財政にとって好材料となるような 税収増が生じても、それ以上の歳出が行われてきたため財政収支は改善しなかった。

このように歳出が増大する中で、歳入不足が重大な問題となることもある。例えば、

ラオス政府は、2013/14年度の第一四半期(2013年 10月〜1月)、および第二四半期の 徴税目標に対する徴収率が低下したことに因る歳入欠陥のため、大幅な予算縮小を余儀 なくされた81。2013年10月から2014年3月までの歳入実績は9兆 2,200億キップ(約 11億5千万ドル)、計画の36.6%、歳出実績は7兆7,700億キップ(約9億6,500万ドル)、

80 NSEDPⅧ(2016-2020)によると現在ラオスのSEZは全国に13カ所設置されている。表3-3-2 SEZのうちサワナケット-セノのみが掲載されている理由については不明である。

81 JICAラオス事務所。

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