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第4章 農村の生活状況についての考察―悉皆調査の結果を基に

第 3 節 保健・教育状況

第 1 項 妊産婦のケアと乳幼児死亡

ラオス政府が課題としている格差是正は、収入面のみではなく、保健衛生や教育につい ても取り上げている。また、これらの指標は、後発開発途上国から脱却するための条件 としても重要な項目である。

タム村の世帯中、妊娠経験のある 186世帯中 30世帯で流産を経験した妊産婦が確認 できた。流産の原因のほとんどが重労働との回答であった。これらの世帯はすべて農業

を行っており、妊娠中の農作業が原因であると回答された。タム村では妊娠時に病院で の検診を受けている世帯は 186 世帯中 96世帯と約半数に留まっており、また、検診受 診世帯であっても、出産は自宅で行っていることから、伝統的な知識とその方法がとら れており、妊婦の出産における問題点の存在は否めない。

風野は、Report of the Lao Reproductive Health Survey 2000 (RLRHS 2000)の資料 から、ラオスの妊産婦の出産場所について、「過去5年間、86%の出産が家庭内で行われ たが(94年調査では 91.0%)、これも母親の生活条件、学歴などによって著しい差が見 られる」ことに言及し、居住地が都市部であるか地方部であるかによる差、学歴の高さ による差があると述べ、さらに、「地方部では 73%の出産が親戚、友人、伝統的介助者 の手を借り、保健医療の専門家に介助された妊婦は11.6%にすぎない」と述べている(風

野 2007 100頁)。タム村では、自宅での出産の割合は、世帯数ベースではあるが、75.9%

であり、病院またはヘルスセンター等で出産した世帯は24.1%であった。タム村は、地 方部とはいえ、カムアン県の県都ターケーク郡に位置し、市街地とは近接している。し かし、未だに多くの世帯で自宅出産が行われている。

表 4-3-1 乳幼児死亡率(1995-99)・新生児 1000 人についての割合

出所:風野寿美子、2007、『明日を紡ぐラオスの女性 暮らしの実態と変化のゆくえ』、めこん、103頁。

次に、乳幼児死亡の経験については、186 世帯中 40世帯で 2歳未満児死亡の経験が り、21世帯で5歳未満児死亡の経験があることがわかった。なかには、複数回の乳幼児 死亡の経験があると答えた世帯もあった。人間開発報告書2015によると、ラオスの2013 年の 2歳未満児死亡率は千人あたり53.8 人、5歳未満児死亡率は千人あたり71.4 人と 公表されている。風野は乳幼児死亡率について、RLRHS 2000から死亡率の都市部と地 方部との間の差について取り上げ(表 4-3-1)、「衛生施設、薬局、医療施設へのアクセス の難易度、住民の教育水準、罹病率など、地方農村の大きな負の要素すべてが関連しあ っている」と指摘している(風野 2007 103頁)。今回の調査では、過去の経験として聞 いているため、人間開発報告書の指標と比較することはできないが、タム村の子どもの 保健衛生状況、または、病気等に対する知識、処置方法には課題があると推察される。

. 214 5 214 5 7 6

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第 2 項 識字率と就学歴の状況

タム村の 15歳以上の成人者数は 642人、うち女性が311人、男性が 331人である。

女性の識字率が78.8%、男性の識字率は96.7%、男女合計の識字率は88.0%という結果 であった(表 4-3-2)。

表4-3-2 タム村の15歳以上成人識字率

出所:筆者作成。

表4-3-3 ラオス地域別識字率(2001 年)

出所:風野寿美子、2007、『明日を紡ぐラオスの女性 暮らしの実態と変化のゆくえ』、めこん、111 頁。

ラオスの15歳以上成人識字率は72.7%(HDR 2015) 121と公表されている。また、2010 年度の教育スポーツ省ノンフォーマル局資料では、81%(男性88%、女性75%)とされて いる(津曲 2012 57 頁)。さらに、NSEDP Ⅷ(2016-2020)に記載されている NSEDP

Ⅶ(2011-2015)のレビューの中で、15 歳以上成人識字率が、93.6%に上昇したと報告し ている。2001年にラオス保健省が実施したラオスの地域別の識字率の状況では、男女合 わせた識字率は 70.0%とされている(表 4-3-3)。これらの資料から、HDR が示す識字率 は 2001 年頃のデータに近いものであり全体的に向上している。それらを踏まえても、

タム村の識字率は、ラオス国内の水準よりも良好な状況にある。

ところで、ラオス地域別識字率の状況として特徴的な点は、北部、中部、南部との間 で比較すると中部、南部、北部の順で識字率に差があり、その差は10.0%以上あること、

また、都市部と地方部とで差があり、その差は 20%以上の差が生じていることである。

NSEDPⅦ(2011-2015)は、都市部と地方部との間の教育水準の格差是正は重要項目と

して取り上げており、さらにNSEDPⅧ(2016-2020)では、15歳以上成人識字率95%を

121 UNDP, Human Development Report 2015, Table10 Education Achievement, 2005-2013の期間 で最新のデータより

%3 1 2 %3 1 7 62 % % %3 1 7 4

%3 1 .0 2 %3 1 .0 7 62 % %3 1 .0 7 4

%3 1 50 2 %3 1 50 7 62 %3 1 50 7 4

4 1

5 5 .5 625

35 0

0

目標として教育の改善に取り組んでいる。

タム村の識字率の高さを裏付けているのが、村人の就学歴であろう。ラオスでは、図

4-3-1のように、6歳から10歳までの5年間が初等教育、11歳から4年間の前期中等教

育、15歳から3年間の後期中等教育、そして 18歳以上の大学等高等教育と分類されて いる。

図4-3-1 ラオスの教育制度(2012年9月現在)

出所:津曲真樹、『ラオス教育セクター概説』、2012、17 頁より抜粋。

表4-3-4 タム村の15歳以上成人の就学歴の状況

注:高校および大学進学者の人数には、現在在校している人を含む。

出所:筆者作成。

表4-3-4は、タム村の 15歳以上成人の就学歴の状況である。15歳以上成人666人の

うち、533人(成人者の約80.0%)が小学校、401人(成人者の約60.0%)が中学校を、198 人(成人者の約30.0%)が高校を、28人(約 4.0%)が大学を卒業または在学中である。

また、6歳から14歳の子ども158人中141人が識字者であり、96人が小学校に、45

235 0

(

4

) 9 4

(

) 8

(

9 G1

6

4 G1

G1

7

13 0

1 1 1

2 0

人が中学校に現在通っていると回答している。さらに詳細をみると、6歳から10歳の子 ども58人中58人が現在小学校に通っており、11歳から14歳の子ども83人中45人が 中学校に現在通っているとの回答を得ている。11 歳から 14 歳の子どものうち 38 人が 中学校に就学していないとはいえ、タム村の子どもたちの初等教育に関する就学の割合 は高いと言えるだろう。なお、タム村には村内に小学校があり、中学校および高校は村 から 1km の距離にあることが、就学者割合の高さの理由の一つであろう。ラオスにお いて教育は無償ではないことから、子どもに教育を受けさせるためには教育費122が必要 である。公立の小学校でも、年間約 25 ドルが必要であるが、タム村の識字率や就学状 況から推察すると、村人の教育に対する意識は高いことがわかる。

津曲が述べているように、「ラオス一国をみればどの指標においても、この 10 年 間 のあいだに改善傾向が見られるが、周辺諸国の教育指標と比較すると問題が見えてくる」

(津曲 2012、1頁)、「ラオス教育セクターは依然教育施設の不備、教科書・教材の不

足、教員の数、及び、能力の不足、脆弱な教育行政、低教育予算等の様々な問題を抱え ている。特に、山岳地帯や僻地における教育開発進度の遅れ、都市部と農村部における 教育成長格差、全体的な教育開発における質の低さ等、EFA123達成に向けて教育セクタ ーが取り組むべき課題(特に格差と質の問題)は多く残されている」(津曲 2012、3 頁)と いうのが現実である。このような状況にある教育セクターではあるが、中部に位置し、

市街地に近接するタム村では教育に対する村民の意識が高く、識字率、就学状況につい ては良好であるといえるだろう。