第Ⅴ章 円形孔を用いた電子ビームの干渉性評価手法の開発
3. 円形孔を用いた開き角評価手法の開発
3.3 円形孔を用いた開き角の評価結果
実験で使用した円形孔は、銅薄膜(厚さ30 μm)に集束イオンビーム加工装置
(Focused ion beam system: FIB)を用いて製作した。コンデンサレンズ電流と開き 角の関係を得るため、複数の円形孔を用いており、それらの直径は、20.9、32.9、62.9、
83.8、104.0、124.5、および154.5 μmであった。円形孔の直径が大きくなるに従い、
大きなデフィーカス量を与えて観察するため、円形孔のエッジ形状が影響して、得ら れる観察像に歪みが生じる。そこで、最も大きな円形孔については、モリブデン薄膜 に作製した直径191.0 μmの孔にオスミウムコートを施した。オスミウムコートは、
プラズマ CVD 法を用いて成膜されている。プラズマ CVD 法はスパッタリングより も小さな粒子が得られることから、近年ではチャージアップ防止のため、対物絞りな どにも施されている[19]。図5-10に直径191.0 μmのモリブデン製円形孔の走査電子 顕微鏡像を示す。
図5-10 直径191.0 μmのモリブデン製円形孔の走査電子顕微鏡像
観察した円形孔直径から算出した開き角を記載している。横項目は、各々の円形孔中 心までフレネル縞が観察できたときの最も少ないレンズ電流である。各観察条件にお いて、円形孔中心までフレネル縞が観察できたときを○、できなかったときを×で示 している。
Cond. 2 のレンズ電流を大きくするに従い、ビームスポット径が小さくなると
共に、そのスポット位置が試料面から離れていく。よって、コンデンサレンズ電流を 大きくするに従い、小さな開き角が得られている。この実験条件において得られた最 も小さな開き角は、9.9×10-9 radであり、そのときのレンズ電流は14.00 Aであった。
コンデンサレンズの最大電流は15.00 Aであることから、本実験で得られた開き角は
Cond. 2 レンズを用いたときの限界値に近いと考えられる。最大レンズ電流の変更や
レンズ形状の変更などを行うことでビームスポットから試料面までの距離𝑑を大きく することが可能であるが、大幅な改造となることから現時点での対応は見送った。
表5-2 Cond. 2レンズを使用した開き角評価結果
レンズ電流(A) 開き角
5.20 6.00 6.80 8.00 9.00 10.00 14.00 15.00
7.3×10-8 rad ○ ○ - - - - - -
4.6×10-8 rad × ○ ○ - - - - -
2.4×10-8 rad - × ○ ○ - - - -
1.8×10-8 rad - - × ○ - - - -
1.5×10-8 rad - - - × ○ - - -
1.2×10-8 rad - - - - × ○ - -
9.9×10-9 rad - - - - - × ○ ○
8.0×10-9 rad - - - - - - × ×
3.3.2 Cond. 1レンズを用いた開き角評価結果
表5-3に、Cond. 1 レンズを使用したときの開き角評価結果を示す。表5-2と 同様に、縦項目は円形孔直径から算出した開き角を記載している。横項目は、各々の 円形孔中心までフレネル縞が観察時できたときの最も少ないレンズ電流である。各観 察条件において、円形孔中心までフレネル縞が観察できたときを○、できなかったと きを×で示している。本研究で準備した最大の円形孔(直径191.0 μm)に対応する開
き角8.0×10-9 radは、レンズ電流9.50 Aで達成できることを確認した。
表5-3 Cond. 1レンズを使用した開き角評価結果
レンズ電流(A) 開き角
4.25 4.75 5.50 6.40 6.65 6.90 7.75 9.50
7.3×10-8 rad ○ ○ - - - - - -
4.6×10-8 rad × ○ ○ - - - - -
2.4×10-8 rad - × ○ ○ - - - -
1.8×10-8 rad - - × ○ - - - -
1.5×10-8 rad - - - × ○ - - -
1.2×10-8 rad - - - - × ○ - -
9.9×10-9 rad - - - - - × ○ ○
8.0×10-9 rad - - - - - - × ○
図5-11にCond. 1レンズを使用したときのフレネル縞観察結果を示す[6]。円 形孔の直径は、191.0 μmである。Cond. 1レンズのレンズ電流は12.00 Aであり、電 顕像の記録時間は 5 秒である。 (a)はK2 カメラの視野全体を表示しており、鏡体倍 率を約 100 倍に調整して、円形孔全体が視野に収まるようにしている。 大きなデフ ォーカスに調整し且つ低倍観察を行っていることから歪像収差が重畳していると考え られる。よって、正確な倍率を決定することができないため、スケールバーは記載し ていない。しかし、歪像収差が重畳していたとしても予め計測した円形孔の直径は変 わらないため、この画像における長さ計測のキャリブレーションは達成できている。
円形孔中心部が周辺部よりも明るいのはレンズの収差の影響が現れており、大きなデ フォーカス量での観察により回折面と観察面が近くなっているためである。(b)は、(a) のエッジ部から中心付近までを拡大しており、円形孔中心部のラインプロファイルを 挿入している。フレネル縞が円形孔中心部まで達していることがわかる。また、30 本 以上のフレネル縞が観察できることから、式(5.8)が成り立っている。従って、95.5 μm 以上の可干渉距離が得られており、少なくとも8.0×10-9 radの開き角に達しているこ とを示している。
図5-11 直径191.0 μmの円形孔から発生するフレネル縞観察結果。(a) 円形孔全 体、(b)は左のエッジから中心部までの拡大図。中心部付近のラインプロファイルを 挿入している。