第Ⅵ章 超高圧電子顕微鏡用の高安定電子線バイプリズム機構の開発
3. 複数の電子線バイプリズムを用いた電子線ホログラフィー
3.1 ダブル電子線バイプリズム干渉計
図6-4(a) 低倍率広視野観察時、(b) 高倍率高分解能観察時の光学系
3. 複数の電子線バイプリズムを用いた電子線ホログラフィー
線バイプリズムを用いた電子線ホログラフィー干渉計を確立した。
図6-5に2台の電子線バイプリズムを用いて干渉縞間隔と干渉領域幅を独立に
コントロールできるダブル電子線バイプリズム干渉計の光学系を示す。Upperバイプ リズムを第1像面に導入し、Lowerバイプリズムを拡大レンズ下部のクロスオーバー 面に設置する。ここで、拡大レンズ下部のクロスオーバー面から第2像面までの距離 を𝐷𝑙、Lowerバイプリズムから第2像面までの距離を𝐿𝑙とすると、試料面に換算した 干渉縞間隔𝑠𝑜𝑏𝑗と干渉領域幅𝑊𝑜𝑏𝑗は、
𝑠𝑜𝑏𝑗= 1 𝑀𝑙
1 𝑀𝑢
𝑎2𝐷𝑙𝜆
2[𝛼𝑙𝑎2(𝐷𝑙− 𝐿𝑙) + 𝛼𝑢𝑏2𝐷𝑢] (6.2)
𝑊𝑜𝑏𝑗 = 1 𝑀𝑙
1
𝑀𝑢2𝛼𝑙𝐿𝑙− 1
𝑀𝑢𝑑𝑢 (6.3)
で与えられる。ここで、𝑀𝑢= 𝑏𝑢⁄𝑎𝑢、𝑀𝑙 = 𝑏𝑙⁄𝑎𝑙である。式(6.2)において、𝐷𝑙と𝐿𝑙とが 一致するとき(𝐷𝑙− 𝐿𝑙= 0)、すなわち図6-5の光学系配置で示した拡大レンズ直下の クロスオーバー面にLowerバイプリズムが設置されるとき、干渉縞間隔を Upperバ イプリズムの電圧のみによって可変できることになる。このように、Upperバイプリ
ズムとLowerバイプリズムを適切な位置に挿入することによって、電子線ホログラフ
ィーにおける重要なパラメータである干渉縞間隔と干渉領域幅を独立に制御できる干 渉光学系を得ることができる。
図6-5 ダブル電子線バイプリズム干渉計の光学系
更に、ダブル電子線バイプリズム干渉計では、フレネル縞が発生しないという メリットがある。図6-6(a)に通常のホログラムを示す。試料は酸化マグネシウム微結 晶である。干渉領域内にフレネル縞のコントラストを確認できる。 (b)に、ダブル電子 線バイプリズム干渉計で得たホログラムを示す。観察場所は(a)(b)共に同じである。干 渉領域内にフレネル縞が観察されていないことがわかる。1 台のバイプリズムを使用 する通常のシングル電子線バイプリズム光学系では、フィラメント電極が像面とは異 なる位置に配置されるため、フレネル縞が観察される。ところが、ダブル電子線バイ プリズム干渉計ではUpperバイプリズムが対物レンズの像面に導入されるため、バイ プリズムから発生したフレネル縞はバイプリズムの像に帰結する。Lowerバイプリズ
ムは、拡大レンズのクロスオーバー面に配置され、且つUpperバイプリズムの影内に 収まる。そのため、電子ビームに触れることが無いことから、フレネル縞を発生しな い。よって、ダブル電子線バイプリズム干渉計を用いることで、干渉領域にフレネル 縞が重畳しないホログラムを得ることができる。
このように、ダブル電子線バイプリズム干渉計は電子線ホログラフィーにおけ る重要なパラメータである干渉縞間隔と干渉領域幅を独立に制御でき、且つフレネル 縞が重畳しないホログラムを得ることができる。従って、電子線ホログラフィーの利 便性を高めると共に、高感度化にも貢献できる光学系であるといえる。
図6-6(a)通常のホログラム、(b)ダブル電子線バイプリズム干渉計のホログラム。試
料は、酸化マグネシウム微結晶である。
3.2 1 MVホログラフィー電子顕微鏡を用いたダブル電子線バイプリズム干渉計
電子線ホログラフィーにおいて重要なパラメータである干渉縞間隔と干渉領域
幅を独立に制御できるダブル電子線バイプリズム干渉計を、1 MV ホログラフィー電 子顕微鏡にて構築すると共に、その有効性を確認した。Upperバイプリズムには第1 中間レンズと第2中間レンズの間のバイプリズム2を用いており、Lowerバイプリズ ムにはバイプリズム3を用いた。
図6-7にダブル電子線バイプリズム干渉計にて干渉領域幅をコントロールした
結果を示す。Upperバイプリズムの電圧は固定値(-90 V)であり、Lowerバイプリズム の電圧にそれぞれ-60 V、-70 V、-80 Vを印加している。Lowerバイプリズム電圧が 高くなるに従い干渉領域幅が広くなっているが、干渉縞間隔は変化していないことが わかる。
図 6-8 に Upper バイプリズム印加電圧を変化させることにより制御した干渉
縞間隔の変化を示す。Lowerバイプリズム電圧は固定値(-80 V)であり、Upperバイプ リズム電圧はそれぞれ-70 V、-110 V、-150 Vである。Upperバイプリズム電圧が高 くなるに従い干渉縞間隔が細かくなっているが、干渉領域幅は変化していないことが わかる。
このように、従来のシングル電子線バイプリズム光学系では実現が不可能であ った干渉縞間隔と干渉領域幅を、ダブル電子線バイプリズム干渉計を用いることによ って、超高圧電子顕微鏡でも独立に制御することが可能であることが確認できた。
図6-7 ダブル電子線バイプリズム干渉計を用いた干渉領域幅のコントロール。
Upper BPは、-90 Vである。(a) Lower BP電圧 -60 V、(b) -70 V、(c) -80 V。
図6-8 ダブル電子線バイプリズム干渉計を用いた干渉縞間隔のコントロール Lower BPは、-80 Vである。(a) Upper BP電圧 -70 V、(b) -110 V、(c) -150 V。
しかしながら、ダブル電子線バイプリズム干渉計において、図 6-5 で示した
Lowerバイプリズムが結像レンズの回折面と一致する光学系は、対物レンズを含む6
段の結像レンズを有している1 MVホログラフィー電子顕微鏡で実現させることが難 しい。そこで、拡大レンズ直下のクロスオーバー面から光軸方向に十数ミリメートル の範囲内の自由な位置にLowerバイプリズムを配置することで、ホログラムの作成に 関わる光学系の改良を試みた。図6-9 に、Lower バイプリズムの位置を𝐷𝑙− 𝐿𝑙 > 0 、
および 𝐷𝑙− 𝐿𝑙 < 0 の条件で調整したときの光学系を示す。これらの光学系では、
Lower バイプリズム電圧を変化させると干渉縞間隔と干渉領域幅が同時に変化する
ことになる。しかしながら、Upperバイプリズムによる干渉縞間隔の独立制御は維持 されている。図中では、Lowerバイプリズムの位置を変えて記載しているが、拡大レ ンズの強さを変えたときでも同様に考えることができる。実際に、この改良された光
学系を1 MVホログラフィー電子顕微鏡に適用し、ダブル電子線バイプリズム干渉計 としての機能を評価したところ、干渉縞間隔と干渉領域幅の独立な制御性が維持でき ており、光学的自由度が改善していることを確認した。
図6-9 𝐷𝑙− 𝐿𝑙 > 0および𝐷𝑙− 𝐿𝑙 < 0のダブル電子線バイプリズム光学系
4. 1.2 MVホログラフィー電子顕微鏡を用いた原子分解能ホログラフィー