第 9 章 サンバ演奏技能の習得支援システムの開発 93
10.6 将来の見通し
センサーや計算機を使った習得支援の可能性は大きいが、万能ではないことも留意して おく必要がある。技術が発達すれば独学が可能になるかという点については、よい教師に ついて練習に励むことが今後とも最善であろうことを指摘しておきたい。どれだけ精度の 高いデータが取れたとしても、それはあくまでも演奏の外面をなぞったものであり、現状 把握を助けるものではあるが、それ以上の情報(対策や改善方法)はそこには含まれない。
問題の原因を探ったり、改善方法を考えるのは人間のみがなし得ることである。した がって、センサーや計算機を使った習得支援は、教える側からみた教授支援の一環ととら えるのが適切である。既存の教授方法にセンサーや計算機を取り入れることで、教授法の 有効性(学習者の習得レベル)を客観性に検証し、より効果的な教授法を考えていくこと を手助けするのが本来の役割と考える。
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第 11 章
アメリカンフットボールのスローイ ングが野球の投球フォームに与える 影響について
本稿は以下の発表原稿に加筆・修正したものである。
初出: 青山 賢作,市川 大祐,藤波 努,
アメリカンフットボールのスローイングが野球の投球フォームに与える影響につ いて, ジョイントシンポジウム2006(スポーツ工学シンポジウム・シンポジウム:
ヒューマンダイナミクス), pp. 125-129 (2006.11.9).
11.1 はじめに
11.1.1 背景
著者の一人は高校時代、宇都宮学園(現・文星芸術大学付属高校)で硬式野球部に所属 し、投手を務めていた。しかし、高校2年生の時に肘のケガ(じん体の負傷) をしてしま い、現役を余儀なく引退した。ケガの原因は投球フォーム時の「肘が低い」状態で投げて いたことがわかった。
最近では野球の投球フォームを学ぶために工夫された練習方法が存在する。その中でも 今回はアメリカンフットボールに着目した。アメリカンフットボールを投げる練習は「肘 と肩と腕の捻り方が自然に身につく効果がある」と言われている。
このアメリカンフットボールの投球方法を踏まえ、被験者と共に練習(試行錯誤)を通 して理論を学ぶ。取り組んでいるスポーツの身体動作を習得するには、その身体動作の理 論を理解し、練習(試行錯誤)を通して理論通りに身体を動かすための感覚を得る必要が ある。
著者は平成16–17年の1 年間、少年野球の指導を行った経験がある。子供に野球理論
を説明しても理解できないのが事実であり、投球の感覚を練習(試行錯誤)してもらい「体 のどこの部分投手に重要なのか」を身体で「投球感覚」を理解してもらうことが重要で あった。また投球感覚というのは本人にしか理解できず、個々人により感覚的理解は異な り、感覚による知識を共有することは困難である。
11.1.2 スポーツにおける試行錯誤の現状
スポーツをする際、自分自身は「できる」けれど、その「できる」過程を上手く伝える ことができない、ということがよくある。M・ポラニーは「人は語ることができることよ り多くのことを知ることができる」と述べ、このできるけど語れない知識・技術を「暗黙 知」としている。スポーツの経験を通して得た感覚を人に上手く伝えられないのは、ス ポーツにおける知識・技術が正に暗黙知だからだと考えられる。
そして言葉にできない知識・技術は、実際に体験する過程を通してしか学ぶことができ ない。例として、自転車の乗り方を挙げる。日本で生まれ育っていればほとんどの人が自 転車に乗ることができるが、自転車に乗れるようになるまでは何度も失敗し試行錯誤を繰 り返し、その過程で「乗れる」感覚を掴んでいったはずである。しかし、どのようにして その感覚を掴んだのか、自転車に乗っているときの感覚はどのようなものなのか、という ことを説明するのは難しい。
11.1.3 スポーツの学習過程
感覚を掴む練習として、習得したい感覚が得られやすい別の運動を行い、そこで得た感 覚を目的の運動の感覚にフィードバックさせる方法がある。例えば、ニ軸歩行、二軸動作 では「膝を抜く」感覚が重要になるが、この動作の感覚を覚えるために、オンブして坂道 を登ったり降りたりする練習することがある。こうすることで歩行動作が制限され、膝を 抜いて進むしかなくなる。こうして数メートル歩くと「あ、この感覚か」となり、オンブ を外して同じ感覚であるけば「膝を抜く」感覚を身に付けることができる[小田 06]。この ように、目的とする感覚を得やすい動作で練習することは言語表現で指導するよりも効果 的だと考えられる。
11.1.4 目的
野球の投球練習においても、アメリカンフットボール(以降アメフト)のキャッチボー ルで野球の投球動作に必要な感覚を覚えさせようとすることがある[立花 06, 池田 06]。 しかし、アメフトで得た感覚が野球の投球動作にどうのように影響するのかは明確になっ ていない。
そこで本研究では、野球の投球練習に、アメリカンフットボールの投球動作取り入れる ことで、野球の投球動作にどのような影響を与えるのかを明らかにし、投球練習としての 有用性を検討する。