第 7 章 加速度センサを用いたサンバダンスの解析 57
7.3 データ解析
7.2.3 実験手順
ワイヤレス加速度センサを腰及び手首に装着することにより被験者の運動を計測した。
ワイヤレス加速度センサは日立金属(株)のワイヤレス3軸加速度センサ(H48C)評価 キットを用いた。このセンサは各軸± 3Gの加速度を0.0088Gの精度で計測すること が可能であり、その時間分解能は200Hzである。取り付け位置の詳細をFig.7.1に図示 する。
図7.1 Installation condition of the accelerometer
ダンス及びシェイカー演奏のデータの取得は一回の練習後に3名程度の被験者につい て行った。その延べ人数は58人である。実験データの取得に際して、音楽のテンポは標 準的なサンバのテンポである105[BPM]のものを用いたが、比較のために100,120[BPM]
のものを6月15日と6月22日に各3試行、合計6試行に対して取得した。データの取 得時間は曲の開始から終了までで、基本的に用いた105[BPM]の曲の場合270秒間であ る。また、シェイカー演奏の記録は、シェイカーの演奏の練習が導入された4月6日の実 験から行い、ダンスをしながら演奏するシェイカーの運動を計測した。
7.3 データ解析
我々は、リズムをテンポとアクセント、すなわち動作の周期性と動作における強弱の差 と定義し、リズムの観点から動作を解析するために、周波数解析・自己相関・相互相関な どの複数手法をデータの解析に試行した。ここで、自己相関による解析が適切に特徴を示 していたために、これを用いることにした。以下の式に対してlagを任意の区間でとるこ
とにより自己相関関数が導出できる。時系列(7.1)における自己相関係数rは式(7.2)で 求まる。
X ={x1, x2, . . . , xN}T (7.1)
r=
N−l
i=1(xi−x)(x¯ i+l−x)¯
i=1N(xi−x)¯ (7.2)
l=lag
また、自己相関関数を導出する前段階としてデータに対してノイズ除去処理を行う必要が ある。これは、Butterworthフィルタを10[Hz]のカットオフで適用し、高周波成分を除 去することによって行った。
7.3.1 ダンスの解析
ダンスの解析に関して説明する。サンバダンスは上下運動が基本の運動となるため、
腰に付けたセンサの地面と鉛直な軸 (Y軸) に対しての解析とした。まず比較のため にインストラクターのデータを示す。ここでは、上方向に加速すると-方向に値が振 れ、上方向に加速すると+方向に値が振れる。Fig.7.2 は加速度の時系列の一部であ る。また、Fig.7.3 は、加速度時系列に対する自己相関である。ここで、サンプリング 周波数が200[Hz]であるために、1秒間は 200[lag]に相当する。105BPMの曲の場合、
60[s]/105[BP M]×200[Hz]114[lag]から、114[lag]が曲の1周期に相当する。Fig.7.3 の場合、赤丸で示した自己相関のピークがその周期と対応していることから曲のテンポに 合った周期的な運動がなされていることがわかる。また、Fig.7.2にて1周期分の時系列 に注目すると、強拍(赤丸/H)と弱拍(緑丸/L)において加速度のピークに差が観測され、
アクセントの表現がなされていることが分かる。また、自己相関関数からもそれが言え る。例えば、一定のテンポで{強 ·弱} とステップの強弱を表現した場合と{強 ·強} と表現した場合であると、後者の自己相関のピークは前者の1/2に見られることになる。
ここで、2人の被験者のデータにて同様の方法を用いた分析を行う。Fig.7.4 は、4月 6日時点での被験者Aの加速度の時系列の一部である。また、Fig.7.5はその自己相関関 数である。ここでは、定まったピークがなく、加速度の時系列においても、規則性が観測 できない。対して、Fig.7.7 , 7.9は、実験開始から約3ヶ月後の5月25日における被験 者Aと、同3.5ヶ月後の6月15日における被験者Bの加速度データから導出された自 己相関である。Fig.7.6 からは105[BPM]の曲において1周期に相当するlagにピークが 出ており、サンバ曲のテンポにのった一定周期の運動がなされていることが分かる。ま た、アクセントに関してFig.7.8を観察すると、インストラクターほど安定していないも のの、強拍(赤丸/H)と弱拍(緑丸/L)に差が観測され、アクセントの表現がなされてい ることが分かる。被験者Bにおいては、実験に使用した120[BPM]の曲における1周期 に相当する100[lag]に相関のピークが観察された。ここから、サンバのテンポの変化に も対応できる技能が獲得できていると言える。また、Fig.7.9 から、強拍(赤丸/H)と弱
7.3 データ解析 61
図7.2 Time series of acceleration of the lumber. The Instructor
図7.3 ACF of acceleration of the lumber. The Instructor
拍(緑丸/L)の差が観測され、アクセントがつけられていることがわかる。これらは代表 例であるが、その他の被験者に関しても同傾向のデータが観察された。ここから、各被験 者において、数ヶ月程度でリズムの獲得がなされることがわかった。また、その過程では
Fig.7.10,7.11 で見られるように、周期的ではあるもののアクセントがつけられていない
状態が観察され、先ずテンポを保つ技能が獲得され、その後にアクセントをつける能力が 身に付くことが示唆された。
7.3.2 シェイカー演奏の解析
ダンスと同様の解析を、シェイカー演奏についても行った。解析に使用した軸は、シェ イカー演奏に最も影響すると考えられる手首の前後方向の軸である。グラフでは、後方向 の加速度が正の向きとなる。Fig.7.12 にインストラクターによる演奏の加速度の時系列
を、Fig.7.13 にその自己相関関数をとったものを示す。ダンスの場合と同様に、シェイ
カー運動においても周期に対応するlagにピークがでていることからサンバのテンポに のった一定周期の運動がなされていることがわかる。また、加速度の時系列からは強拍 (赤丸/H)と弱拍(緑丸/L)のアクセントがつけられていることがわかる。
図7.4 Time series of acceleration of the lumber. Subject A (6, Apr.)
図7.5 ACF of acceleration of the lumber. Subject A(6, Apr.)
図7.6 Time series of acceleration of the lumber. Subject A (25, May.)
図7.7 ACF of acceleration of the lumber. Subject A (25, May.)
7.3 データ解析 63
図7.8 Time series of acceleration of the lumber. Subject B
図7.9 ACF of acceleration of the lumber. Subject B
図7.10 Time series of acceleration of the lumber. Subject C
図7.11 ACF of acceleration of the lumber. Subject C
図7.12 Time series of acceleration of the arm. The Instructor
図7.13 ACF of acceleration of the arm. The Instructor
代表として被験者Bを例にとり、そのデータを解析すると、Fig.7.15から、実験に使用 したサンバ曲のテンポである120[BPM]において1周期にあたる100[lag]に相関のピー クが出ていることから、ダンスの場合と同様にシェイカーにおいてもテンポに合った運動 ができていることがわかる。また、Fig.7.14 から、強拍(赤丸/H)と弱拍(緑丸/L)のア クセントがつけられていることもわかる。なお、このデータにおいてのみ、波形データの 正負を逆に見ているのは、シェイカーの演奏方法の違いがある。通常、身体と平行に手の ひらを向けてシェイカーを振るが、この被験者は手のひらを身体に対して直角に構えて演 奏を行った。これにより、解析する軸の関係から正負が逆となる。対して、Fig.7.10,7.11 は、ダンスにおいてテンポのキープができているが、アクセントの表現がなされていな い例である。このような被験者の場合、シェイカーの運動における自己相関のピークは、
Fig.7.17 でみられるように、105[BPM]の曲の1周期の半分に対応する57[lag]付近に観 察された。これは、先述した腰におけるアクセントの表現と自己相関関数の関係と同じ理 由が考えられる。この被験者ではFig.7.16 からも見られるように、強弱のアクセントが 適切につけられていないことがわかる。
他の被験者においても、ダンスにアクセントがつけられていない場合に、シェイカーに アクセントがつけられることはなかった。これは、シェイカー演奏技能の獲得のために
7.3 データ解析 65
図7.14 Time series of acceleration of the arm. Subject B
図7.15 ACF of acceleration of the arm. Subject B
図7.16 Time series of acceleration of the arm. Subject C
図7.17 ACF of acceleration of the arm. Subject C
は、先にダンス技能を獲得することが重要であることを示唆している。