7. 評価の設計
7.2 学習成果の測定
転移課題の重要性
学習成果の測定では,まず,コースの中で練習したことをテストする.次に,コース の内容が習得されていればできるだろうと期待される応用課題によってテストする.
これは,認知心理学で言う「転移」をテストすることにほかならない.転移というの はある領域で獲得された知識や技能が別の状況や場面において活用できることであ る.
実際,私たちがいろいろなことを学ぶのは,それが別の場面にも転移できるという ことを期待している.コースの中では100%上手くできても,コースの外,つまり現実 社会においてその内容が活用されないのであれば,何を学んだのかということになる だろう.あらゆるコースは,そのコースの中で上手くできるということを期待してい ると同時に,コースの外に出たときも上手くできるようになって欲しいという願いの もとに作られている.したがって,転移がないということはそのコースがうまく設計 されていないということである.転移がうまくいくようなコースを作るためにも,応 用課題でテストをして,実際に転移が起きているかどうかを確認することが必要であ る.
一方,コースで扱っていない内容をテストするのはタブーである.転移課題ではな い,まったく別の内容をテストすることはやってはいけない.なぜならば,それは学 習者を裏切っていることになるからである.学習者がきちんと学習をしていれば,適 切な評価を得られるようなテストを作らなければならない.もし,コースと関係ない ことを突然テストしたとすれば,学習者は面食らうだろうし,さらには教え手への信 頼を失うことになるだろう.
測定の⽂文脈
どのような文脈でテストするかを考えたときに,理想的には,パフォーマンスコン テキストに近い形でのテストをするのがよい.たとえば,2分間スピーチの最終的な テストは,2分間スピーチを聴衆の目の前で実際にデモンストレーションしてもらう という形のテストがよいだろう.もし,これを,ビデオを前にして1人で2分間ス ピーチをしてもらうとなると,ゴールからは少しずれることになる.これではアイコン タクトも測れないし,実際に大勢の聴衆がいる前でドキドキしながらスピーチすると いうリアルな文脈で行うスピーチとは違ってくる.できるだけ実際に行われる文脈に 近い形でのテストをするのがよいということになる.
このような評価をオーセンティックな評価と呼ぶ.オーセンティック(authentic)と いうのは,実際の正統的な行動とマッチするような形で評価をするということであ る.
オーセンティックではない評価はどのようなものかというと,○ 問題や穴埋め問題 といったような,いわゆるペーパーテストがあげられる.○ 問題や穴埋め問題は,現 実の社会や生活の中には出てこない.実際の仕事の中で紙を配られ,穴埋め問題を解 くということはないのである.
図7.2 オーセンティックなテスト
それでもなぜそのような人工的なテストをするかというと,採点が楽であり,公平 だからという理由によっている.しかし,2分間スピーチのトレーニングを行った後 には○ 問題を作ろうとは思わないだろう.2分間スピーチのトレーニングを行った後 は,2分間スピーチのテストを行うのがオーセンティックな評価なのだから.
もし短時間でパフォーマンスを見ることができない場合には,ポートフォリオ
(portfolio,書類の束という意味)として,その人がそれまでにやった課題・レポー ト・作品などを集めて一つの書類の束にして,それを全体として評価する.
パフォーマンス評価もポートフォリオ評価も最終的にはオーセンティックな評価を 目指している.もしポートフォリオ評価が広く使われるようになってくれば,試験一 発で評価を決めるということが馬鹿げたシステムだと考えるようになるだろう.60分 程度の○ 式や穴埋め式の人工的な形での試験によって評価することが,どれほど信頼 できるものかどうかということが問われるようになるだろう.ましてや長期間に渡っ
て学んだ成果を評価することは,短時間でできるものではない.ポートフォリオ評価 には,60分間の1回のテストとは比較できない信頼性がある.
今まで小学校や中学校で延々と受けてきたテスト,また免許や資格試験の際の人工 的なテストは,テストの中の一部の特殊な形でしかないことを理解しなくてはならな い.インストラクショナルデザインでは,そのような形式とは違うテストを工夫し,
オーセンティックな評価を目指すべきである.
テストのウォッシュバック効果
テストがどのようなものであるかが明示されると,そのことによって逆流が起こ る.つまり,最後に受けるテストが,その前の学習活動へ逆波及していく.
典型的な例では,センター試験などの国家的規模で試験が行われる場合,試験でど のような問題が出題されるか,形式はどのようなものであるかということが全ての高 校生の学習活動に逆波及する.そして,最終的にはセンター試験で良い点をとれるよ うな学習法を高校生が選ぶようになる.
したがって,学校の中でどのような勉強法がよいのかという伝統的な文化とは別 に,センター試験対策に有利な勉強法が波及していく.それは,しばしば学校の中で の勉強法と食い違う.このように,高校の教員はこのウォッシュバック効果を無視す るわけにはいかない.教員独自の流儀で教えていることが,センター試験にあまり役 に立たないとなれば,生徒からは不評を買うことになるだろう.まさにこれがテスト のウォッシュバック効果なのである.
テストはテストに過ぎないのに,逆波及して勉強の仕方を変えてしまうという効果 がある.最後のテストをどのような形と内容で行うかということは,この意味でも非 常に重要になる.その意味でも,インストラクショナルデザインではオーセンティッ クな評価をしようということを考えている.
図7.3 テストのウォッシュバック効果