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学習における replace の重要性

第 6 章 議論 78

6.3 学習における replace の重要性

学習においてreplaceを行わない実験(実験2)によって、replaceを行わないと、文法 化はもとより意味変化自体がほとんど確認できないことが示された(図5.9a))。この結果 は、文法化またはそれを含む意味変化にreplaceが重要な役割を果たしていることを示唆 する。replaceがもたらす効果については3.2.3節で確認しているので、本節では学習の中 でmerge,chunk,replaceが実際どのくらい行われたを量的に調べ、replaceがもたらす効果 と考え合わせてreplaceの重要性について議論する。

図6.3は、実験1のある試行について、通常の学習における各オペレーション回数を時 系列で示したものである。縦軸はオペレーション回数の積算、横軸は世代である。それぞ れのオペレーションの回数に注目すると、図6.3から分かるように、一般化の数としては

replaceが圧倒的に多い。ここでは代表例を示しているが、replaceを行わない設定である

実験2以外の各実験設定や各試行(シード)間で、傾向は変わらない。

0 100 200 300 400 500 600 700

0 50 100

replace

chunk merge

学 習 の回 数( 積 算

) [ 回]

世代

図 6.3: 各オペレーションの回数

一方、図6.4はreplaceを行わない実験2のある試行について、各オペレーション回数

を時系列で示したものである。縦軸はオペレーションの回数の積算であり、横軸は世代を 表している。特に図6.3と比較すべきは、回数の絶対的な値である。3.2節で分析したよ うに、各オペレーションが前提としている文法化を含む意味変化に必要な認知能力(再分 析、認知的類推、言語学的類推)のうち、認知的類推以外は各オペレーションが分担して いた。chunkが実現している能力は再分析で、mergeが実現しているのは言語学的類推で ある。そしてreplaceはこの両方を実現する。したがって、replaceがなくなることにより、

chunkやmergeがそれを補うことも考えられないわけではない。しかし図6.3と図6.4と

を比較すると、replaceがなくなることでchunkやmergeが学習を補うことはなく、むし

ろchunkとmergeを合わせた学習の回数自体が減少していることが示されている。

この学習回数の減少と単語型ルールとの関連を考える。まず、再分析能力を担っている

chunkとreplaceを比較する。chunkは新しい形式を発見したときに単語型ルールを生み

出すのに対し、replaceはchunkの発見した形式の拡散による再分析であり、新たに単語 型ルールを生み出さない。次に、replaceがなくなることの影響を考える。もし、replace を行わない場合においても、chunkやmergeの回数が同じであれば、単語型ルールの数は 変わらないはずである。5.3.3節で示したように、replaceがなくなることによって意味変 化は全く見られなくなるといってよいほど減少したのに対して、単語型ルールの数は半分 程度の減少にとどまっていたのはこのためである。一回のreplaceによって新たな単語型 ルールが変化しないにもかかわらず、replaceを行わないことによって単語型ルールの数

世代

80

60

40

20

0 学 習 の回 数( 積 算

) [ 回]

0 50 100

chunk

merge

図 6.4: replaceのない実験における各オペレーションの回数

が半分程度減少したことについては、replaceを行わないことがchunkやmergeの学習状 況へ影響を与え、これらの回数が減少したことを示す。

以上のことを考えると、学習の過程として次のようなことが分かる。replaceのみが可 能な状況(mergeやchunkはすでに施せるだけ施した状況)が何度も生まれ、replaceを 行うことでそれが引き金になって、さらなるmergeやchunkが可能な状況が生まれる。そ のような学習状況がよく起こる。

このことは、ある知識を他の自分の知識に適用し(replace)、そこからさらなる新しい 知識を見つけ出す(chunk)というサイクルがあることを示す。replaceが学習の中で支配 的であるのは、既に存在する知識を他の知識へ拡大適用するという能力(すなわち言語学 的類推)が、学習に非常に重要であることを示している3

以上のことを踏まえ、文法化を含めた意味変化について考える。replaceが主に、chunk で発見した新たな知識の言語学的類推による拡散を担っていたことを考えると、この学習 の過程は、言語学的類推によってあらたに再分析可能な状況が生まれ、そこで生まれた新 たな知識がまた言語学的類推により拡大する、というサイクルがあることになる。これ は、Hopper and Traugott (2003)が、再分析と類推の繰り返し適用によって文法化が起こ ると述べたことに対応していると考えられる。replaceがなくなり言語学的類推の能力が

3なお、言語学的類推が学習に重要であるという本節で得られた知見を、言語進化の文脈から分析する と、言語学的類推と言語進化との関係についてさらに重要な知見が得られる。本件については6.7節で議論 する。

極端に制限されると、あるひとつの知識の発見を、自分の知識体系全体へ拡散する効果が なくなり、たとえ再分析ができたとしてもその知識が広がらない。従って使う言語の意味 変化が起こらなくなる。本研究は、以上のような再帰的に起きる学習プロセスによる知識 の構造化が、文法化が起きるために重要であることを提示したものと解釈できる。

6.4 意味が完全に共有されることによる意味空間設計への制