第2章 生徒一人一人を大切にする学級経営
第1節 学級経営
1 学級経営の捉え方
学級経営の概念は曖昧である。様々な立場の人によって、異なる定義が為され ている。倉田1は、学級経営に対する考え方を、おおまかに次の二つの立場に分け
ている。
①学級経営を学級教育の効率を高めるための手段とみなす立場。端的に表現す れば、大事なのは各教科等の授業であり、学級経営は、それに奉仕する限り において存在意義を持つとする立揚である。教科の学習指導は含まれない。
②教科の学習指導を含めて、学級教育のすべてが学級経営であるとする立場。
学級において展開される諸活動を、教育活動と経営活動に分けることをやめ、
そのすべてを学級経営として包括的に捉えようとするもの。
そして、一般的にいって、中学や高校では①の考え方が、小学校では②の考え方 がそれぞれ支配的である、と倉田は述べている。この中学・高校と小学校の差は、
教科担任制と学級担任制の違いから起こるものであろう。①の立場は、学級経営 を条件整備と捉える立場でもある。木原は学級経営を次のように定義している。
学級経営とは「学級教育の効率を高めるために、学級教育の全領域を通して行われ る精神的・物的条件整備機能である」2。精神的条件整備とは学級の人間関係の調 整であり、具体的には、学級の集団士気、連帯感、集団規律などである。筆者も、
基本的には①の立場であるが、学級経営を単なる手段や条件整備とする見方は支 持できない。なぜなら、学級経営が学級の人間関係を調整し、望ましい学級集団 をつくることを含むのであるなら、それはすでに教育そのものであるからである。
佐々木は、①の立場に立ちながら、このことを意識して次のように述べている。「学 級経営における条件整備は、それ自体を目的とするというより、その過程に人間 形成の機会と場がある、という認識に立って実践することが大切である」3。この 意味で、中学校特別活動指導資料4は、学級経営について適切な説明をしていると いえる。そこでは、次のように述べられている。
学級経営は、…学級を担任する教師が、学級の実態を正しく把握し、生徒との人間関係を深めな
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がら、より健全な学級集団を育てていく日常的な教育経営の営みである。
学級経営の内容として大きくは、集団経営と教室経営とに分けられるが、前者は、学級内の人間 関係の指導、生徒個々の指導など個と集団の関係を、よりょく調整していく機能、後者は、この集 団が運営される場、教室環境全体の条件を十分整えていく機能である。
このように、学級集団づくりを学級経営の目標とし、条件整備をその内容として いるところが、評価できる。筆者は、この定義を採用することにする。筆者の実 施した調査によれば、学級経営において教師は、生徒理解と望ましい学級集団づ くりを最も重視していた。この学級経営の実態からしても、この定義が、より現 実的である。
2 学級目標の重要性
学級目標は、内容的に見て二つのものに大別できる。一つは、教師側の目標で あり、それは学校教育目標や学年目標の具現化を図るための目標である。もう一 つは、生徒側の目標であり、生徒の自発的、自治的な話し合いによって設定され る目標であって、この場合は、生徒の思いや願いが前面に打ち出された目標とな る。ここでは、後者を問題にしている。前者は、生徒にとって切実な目標とはな りにくい。学級目標が、学級集団づくりのための集団の目標であるとするなら、
その目標は生徒側の目標でなければならない。本来、この二つが統合された目標 が理想的な目標であって、生徒側の目標を問題にするとはいえ、その話し合いの 中で、教師が自己の思いや願いを十分語り、生徒とともに学級目標を作り上げる ことなどによって、その統合を図る必要があろう。
学級目標は、学級経営において重要な意味を持つ。なぜなら、学級という集団 は、生徒個々人の意志とは無関係に、教師によって組織されたものであり、組織
された当初は、そこに共通の目標が存在しないからである。蜂屋5は、集団成立の 条件として、①複数の成員、②共通の目的、③組織(人間関係・役割分担)、④コ
ミュニケーションの四つをあげ、「集団指導の第一は、集合の段階にある子どもた ちを 集団にする ことである。そのためには、共通の目的として何を与えるか、
いいかえれば、集団のしごととして適切なものは何か、どのような条件を備えて いなければならないか、を検討することが必要である。」と述べている。このこと から、学級目標の設定は集合の段階にある生徒たちを集団にする第一歩であると
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いえる。すなわち、生徒一人一人の思いや願いを生かして学級目標を設定すると き、その目標は成員共通の目標となり得ると同時に、その目標を達成するという 課題は成員共通の目的になり得る。それゆえ、学級目標を設定することは、学級
という生徒の集合を機能的集団に一歩高めることにつながるのである。,このよう に、学級目標は集団づくりにおいて、重要な意味を持っている。学級経営の主た る目標が、望ましい学級集団づくりであるとするなら、教師は学級経営にあたる 際、この学級目標の重要性を十分に意識しておく必要がある。
3 肯定的評価の重要性
肯定的評価とは、生徒の活動などを評価する際に、悪い面ではなく良い面を見 つけて評価し、認めていこうとする評価である。それは、評価対象に対して、好 意的視点を持って評価することであると言ってもよい。
教師は、生徒の活動を引き出すことには意識して取り組むが、その活動を受け 止め、認めることについては、やや場当たり的な面があり、生徒の活動を十分受 け止め、評価しているとな言い難い。また、教師は、生徒や学級をよくしていこ うとする意識が強いだけに、悪い面に目がいきやすい。教師と同様、生徒たちも、
一日の反省などをする際、悪い面を指摘してその改善を促すような発言が多い。
それは、反省という言葉自体が、通常悪い面の指摘をその主な内容としているか らであろう。このように教育現場においては、肯定的評価が少ないのである。
肯定的評価が少ないということは、生徒が満足感や所属感、それに自己価値感 などを感じる機会が少ないということでもある。蜂屋は、自己価値感を「自分には、
他の人と同じぐらいの値うち、あるいは、少し優れた値うちがある、という内部 的・持続的な感情」であるとしたうえで、その育つ過程について次のように述べて
いる6。
自己価値感の育つ過程には、①集団の受け止めによって、②しごとのできばえによっての二つが あり、そのうちの①が中心である。また、集団の受け止めによって自己価値感が育つ過程の要点は、
その成員が行動し、しごとをすることと、それを集団が受容と正当な評価によって受け止めること である。さらに、自己価値感が育つ中で、自己受容と同時に社会受容が起こる。すなわち、自分を 認めてくれた集団を、そのままの姿で価値ありと認めるのである。そのとき、成員はその集団に対
して信頼感がもてるようになる。(要約)
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このことから、肯定的評価は、生徒の自己価値感を育てる上で重要な意味を持っ ていることがわかる。また、自己価値感が育つ中で、社会受容が起こるというこ とは、生徒と学級集団の関係が望ましいものになるということであり、それは所 属感へもつながるものであろう。このように、肯定的評価は、その生徒だけに影 響するのではなく、個と集団の関係にも影響を与えるものなのである。それゆえ、
肯定的評価は、生徒一人一人を大切にするという意味で重要であるだけでなく、
学級経営において、望ましい学級集団をつくるという意味でも重要なのである。