これまで述べてきた通り、オランダでは各学校に多岐に渡る自由が保障され ている。こうした状況の申、オランダでは各学校の価値観を最大隈尊重させつ つ、教育の質を維持するためのものとして学校評価がある。この学校評価は、
大きく分けて内部評価と外部評価に区別される。
まず内部評価についてである。これは、各学校は当該学校での教育活動全般 に渡り自ら定期的に評価し、その質を保証するというものである。各学校では、
自らが作成する教育目標などを示した学校計画書や、年次プランを示した年次 活動計画書で、内部評価組織の設置を始めこれに関わる基本的な事柄について 定めることとなる。こうした計画書と、実際の教育活動を照らして自己評価を していくわけだが、その評価をどのようにして実施するかは、各学校に委ねら れている。しかし、学校計画書と年次活動計画書は学校経営において非常に重 要なものであるため、内部評価だからといって手を抜くことはできない。なぜ ならこれら2つは、保護者や子どもによる学校選択に際しての、<学校教育契
約>だからである(註1)。
次に外部評価についてである。この外部評価は、オランダの文部科学省下の 準独立機関である教育監査庁が中心となり、そこに属する教育監査官が実際に すべての学校を訪れ、監査を行う。しかし、オランダでは<教育の自由>が認 められているため、こうした監査も、国が支持する教育方針に従っているか否 かを審査するものではない(註2)。
教育監査官はまず、4年に1度発行され、学校の教育目標を示した学校計画書 や、毎年発行される保護者向けの学校ガイドなどによって、あらかじめ各学校 の情報を得る。次に、教育監査官は実際に学校を訪間し、授業観察に加え、校 長や教員、保護者、生徒の代表との意見交換を得て、「(1)質の維持、(2)テス
ト、(3)教材提供、(4)時間、(5)教授・学習のプロセス、(6)学校の雰囲気、
(7)生徒指導とガイダンス、(8)成果」(註3)の8分野において全国統一の監 督基準に則って診断する。それは、科目の種類・就学時間など文部科学省の最
低限の取り決めがなされているか、生徒の成長、二一ズをよく理解しその期待 に適切に応えられているか、生徒の成長に十分な配慮をしているかなどである。
監査の周期は、平均して2年に1度とされているが、問題が多い学校ほど頻繁 に訪れ、改善方法などをアドバイスする(註4)。こうしてできた診断書は、学校 の異議申立てを受けた後、2000年以降はインターネット上に一般公開され、い つでも見ることができるようになった(註5)。
なお、「教育監督庁は学校の教育計画や活動計画について一切の変更命令権は 有しておらず、これらの計画は提出されたその瞬間から『学校の固有の立法』
として妥当し、その限りにおいて、それは国家レベルでの規律に代置する」(註6)
とある。つまり教育監督庁による各学校の評価は、あくまで公の客観的資料と して一般に公開するためのもの、もしくは、それを基に各学校にアドバイスす るためのものであると言える。
また、各学校が自律的に教育の質を保証できるように、多くの支援機関が存 在している。主要なものとしては、初等教育学校に対しては学校支援サービス
が、中等教育学校に対しては教育センターなどがある。前者は全国的なネット ワークを形成しており、後者は教育領域・宗派・公私別に設置されている(註7)。
最近ではそのほとんどが民営化されており、今まで地域の生徒数に応じてサポ ート機関が国や自治体から受けてきた補助金は、2006年からは各学校が受ける ことになった。これにより、いつ、どこで、どのサポート機関を利用するかは 各学校の自主性に任せられることになった(註8)。
2 間接的効果
あらゆる面で自由度の高いオランダの学校が、その質を維持するために間接 的にではあるが、大きな効果を発揮する制度がある。それは、第3節で紹介し た、<学校の選択権>と<学校経営に参加する権利>である。前者は、校区が ない中で子どもと保護者が自由に学校を選択できる権利、後者は、子どもと保 護者による学校経営者の様々な決定に対する同意権・勧告権である。第3節で はこれらを、子どもと保護者の権利、または学校の自律性という側面で述べて きた。しかし、これら2つの制度は同時に、学校の質の維持という側面にも大
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きな効果を発揮している。
これまでオランダの各学校には、教育理念や教育方法において高い自由が認 められていると紹介してきた。しかし、オランダでは学校の存続の条件として、
「当該地方公共団体の住民数に応じての最低生徒数を上回っていること」(詩9)
と設定している。この条件における最低生徒数は、第1節の学校設立の為の条 件として紹介したものと同様である。つまり学校は、それぞれどんな教育をす
るかは自由だが、一定の生徒を確保することができなければ廃校となる。
こうした状況下にある学校に対し、子どもと保護者には、<学校の選択権〉
と〈学校経営に参加する権利>が認められている。
オランダにおいて、子どもと保護者が転校するということは、頻繁に起こる ということではないが、珍しいものでもない。オランダのある学校では、役所 の担当者を交えて問題のある教師の指導を求めたが、校長の指導力がないこと に学内が騒然とし、在籍していた生徒の3分の1が他校へ移るということもあ った。保護者は、学校側と話し合う努力はしても、学校が子どもに合わないと 判断すると躊踏なく学校を替えるようである(註10)。
またオランダの子どもと保護者には、学校経営者の決定に対して同意権・勧 告権が認められているが、勧告権に関しては決定の再検討を要求するだけの権 利であり、同意権ほどの強制力はない(註11)。しかし、学校存続の条件が一定 数の生徒の確保であり、子どもと保護者に学校の選択権が認められていること から、勧告権すらも、学校経営に対し非常に大きな効力を発揮する。つまり学 校の経営者は、学校経営に関わるあらゆることに関して子どもや保護者の意見
を無視できないのである。
このように、学校経営者である校長や教員は、常に子どもと保護者から魅力 的な学校として認められるだけの力量を求められている(註王2)。子どもや保護 者の二一ズに応えることが、必ずしも学校の質を高めることに繋がるわけでは ないが、学校経営に外部の評価が反映されるというのは、学校の質の維持に一 定の貢献をしていると言える。
3 学校間格差の考察
教育全般が各学校に任されているオランダには、学校間格差というものはあ るのだろうか。それについての資料は見当たらないが、リとテルス(2004)は、
現在オランダには、<分離現象>というものが存在し、オランダ文化やオラン ダ語を知らない移民や難民の子供が、全生徒数の90%以上を占める学校(フラ ックスクール)が増えており問題である、と紹介している(註13)。このような 現象や、いわゆる人気校、不人気校の存在はオランダにもあると考えられる。
しかし、現在までの文献研究により筆者は、学校間で<人気>という面で若干 の偏りはあるにしても、学校間に何らかの顕著な格差を見出すことはできない のではないかと考える。そうした考えに至った根拠を、これまで紹介したオラ ンダの学校教育をまとめる意味でも、以下に示す。
一、初等教育段階で行われるCIT0テストなどのテストは、あくまで子供の発 遠の度合いを客観的に見るためであり、学校平均を出すものではなく非公 開であること。
二、運営に関し各学校の自由度が高く、保護者の学校選択権が認められてい ることから、どの学校も経営努力を惜しまない、ということ。
三、どの学校にも学校運営に関し、保護者・子どもにも強い権限が与えられ ており、その意志が反映されやすい構造になっていること。
四、教育監督庁が公表する診断書は、様々な角度から総合的に監査したもの であり、一様の尺度で学校間に優劣をつけられるものではないこと。
五、学校運営をサポートする民間の機関が多数存在し、学校をサポートする体 制が十分に整っていること。
六、この国の進学条件が卒業資格の取得であり、進学先の学校を選ぶ際の競 争がないこと。
七、中等教育学校への進学は、本人や保護者の意見が優先されることに加え、
ほとんどの中等教育学校が準備コースを併設していること。
八、この国(ヨーロッパ)の一般的な思考として、無理して勉強するよりも、
自分にあった道で早く自立することに価値を見出す、ということ。(=学 35