第 6 章 振動を活用したトンネル覆工変状監視方法の提案
6.3 変状進展監視方法
6.3.1 進行性指標を活用した変状監視の流れ
本論文で提案するトンネル覆工の変状監視の流れを図 6.3.1 に示す。本論文では,
定期点検時に浮きやひびわれ等の変状を確認し,緊急措置を行うまでには至らないが,
進行性を確認する必要性があると判断された要監視箇所を対象としている。このよう な変状監視を行うのは,経験的にトンネル延長 1km に対して 1 箇所程度を想定してい る。
10kHz 程度まで計測できる加速度計を変状箇所中心位置と,その周辺で 2 点以上配 置し,列車が変状箇所を通過するごとにトンネル覆工壁面の振動を計測するものであ る。加速度計の設置範囲は,比較的広い範囲を対象とすることも考えられるが,本論 文で検討した実績では,2m程度の範囲となる。現状の覆工の状態を把握するために,
加速度計の設置当初に複数の列車の平均的なフーリエスペクトル比を基準伝達特性と して求めておき,基準伝達特性からの変化を評価することで,変状の進展を監視する。
フーリエスペクトル比に変化が生じた時点,つまり進行性指標が変化した時点で,対 策等の措置方法についての検討を行うことになる。
変状箇所を列車が通過するときの振動は,列車が変状箇所に近づくにしたがって加 速度時刻歴波形の振幅が大きくなり,通過後は,振幅が徐々に小さくなっていく。こ のことから,加速度の計測は,トリガーレベルを設定して自動的に計測を行うことに なる。この場合,地震の影響でトリガーが作動する場合も考えられるが,地震による 加速度記録の数は,列車が変状箇所を通過する頻度と比較して小さいことから,進行 性指標を連続的に管理すれば変状進行性の有無の判定には大きな影響を及ぼさないと 考えられる。
基準となるフーリエスペクトル比 列車走行時のフーリエスペクトル比
進行性指標 の算出 基準となるフーリエスペクトル比 列車走行時のフーリエスペクトル比
進行性指標 の算出
170 6.3.2 進行性指標の算定方法
(1) 測定点間の加速度フーリエスペクトル比の算定方法
トンネル内の列車の速度や車両編成は,一定でない場合が多い。そのため,覆工表 面の加速度波形の時間長さも,通過列車によって異なる。一方,フーリエスペクトル 比は,対象とする波形の時間の長さによって,周波数の計算点の間隔が異なる。本論 文で提案する進行性指標を求めるためには,通過列車によって時刻歴波形の長さが異 なっても,同一の周波数間隔でフーリエスペクトル比を算定する必要がある。そこで,
次式に示す周波数の区間平均の値を直線で結んでフーリエスペクトル比を算定し,フ ーリエスペクトル比の平滑化を行うこととする。
n
n is
is
j j
i
F x
1
(6-1)
ここに,xi はi番目の周波数におけるフーリエスペクトル比の区間平均値であり,F は フ ー リ エ ス ペ ク ト ル 比 の 振 幅 で あ る 。 区 間 平 均 を 求 め る 周 波 数 に お い て ,is か ら
is+n-1 のn 個の区間平均を求めている。n は区間平均を求める周波数範囲に含まれる
フーリエスペクトル比の周波数の計算点数である。区間平均を求める周波数範囲は,
第 3 章の実トンネルの振動計測データに基づく検討結果から,50Hz とする。
本論文で提案する変状監視方法は,打音検査で濁音を確認したり,目視検査でひび われ等の変状を確認したりしている要監視箇所を対象としている。この要監視箇所の 変状の進行性を確認するためには,常時監視を開始する時点のフーリエスペクトル比 を基準伝達特性として求めておく必要がある。
(2) 進行性指標の算定方法
変状監視に当たっては,常時監視を開始する時点のフーリエスペクトル比を複数回 計測し,この複数回計測した結果から求めたフーリエスペクトル比の平均値を基準伝 達特性として評価することになる。基準伝達特性のフーリエスペクトル比の算定に当 たっては,周波数毎に複数のフーリエスペクトル比の算術平均を計算することで求め る。常時監視状態においては,この基準伝達特性としたフーリエスペクトル比と,変 状箇所を列車が通過する毎に求めるフーリエスペクトル比から,次式を用いて進行性 指標Rを算定することになる。
y x
y x R Cov
( , )
1 (6-2)
ここに,x は常時監視を開始する時点の加速度フーリエスペクトル比の平均値の対数 値であり,y は常時監視時の通過列車による加速度フーリエスペクトル比の対数値で ある。Cov は x と y の共分散である。σxとσyは,それぞれ x と y の標準偏差であ る。
172 6.3.3 変状進行性の判定
ある変状状態の時に計測した加速度のフーリエスペクトル比の形状に変化が生じな い場合は,この進行性指標は 0 となり,フーリエスペクトル比の形状に変化が生じた 場合は,進行性指標は 0 より大きな値を示すことになる。
本論文での実験結果によれば,事例は少ないが,梁試験体による模擬ひびわれの進 行性指標は,二本のひびわれがそれぞれ 14cm 進展した場合においても,進行性指標は,
0.4 以上の値を示した。変状の人為的に生じさせたトンネル覆工模型の載荷試験では,
変状の変化を確認したときの進行性指標は 0.2 以上の値を示した。これらの変状の進 展による進行性指標の変化は,加速度の振動成分によらないことを確認している。
一方,実トンネルの計測期間中はあらたな変状の発生が生じておらず,このときの 振動結果によれば,計測した全列車のフーリエスペクトル比の平均値に対して,各列 車のフーリエスペクトル比との比較から求めた進行性指標は 0.1 以下の変動となって いた。また,トンネル覆工大型模型実験において,載荷盤 1 本あたりに 9kN(載荷盤 の載荷圧 0.1MPa)の初期荷重を与えた予備載荷状態におけるフーリエススペクトル比 と,載荷前で載荷盤がトンネル覆工模型試験体に接触していない状態のフーリエスペ クトル比から求めた進行性指標は,覆工にひびわれ等の変状が生じていない状態で概 ね 0.1 以下であった。
これらのことから,進行性指標が 0.2 を上回る状態が続けば,変状が進展している 可能性が極めて高いものと判断することが出来るものと考えられる。このように基準 伝達特性に対して求めた通過列車ごとの進行性指標が 0.2 を上回る状態が続いた場合 は,詳細調査等を行い具体的な補修等の対策検討を行うことになると考えている。