3−1.本章の構成
3−1−1.本章の目的
本章では、第1章2節で示した研究の目的のうち、第一の目的を達成するた め、旧開田村を対象とし、その景観を構成する空間的要素と社会的活動との相 互関係と、そこから生じる相互の影響を分析・考察する。実証的な事例分析・
考察のために、本章では、以下に示す3点の目的を設定している。
本章の第一点目の目的は、地域景観を支える空間的構成要素と社会的活動諸 相の実態を把握し、そこで得た相互関係の分布特性から、地域景観を構成する 相互関係のまとまり(相互関係の構造)としての景観の基本的な単位を抽出す
ることにある。
第二点目の目的は、上記の相互関係の構造に起因し、地域社会における活動 が地域景 観に内的なシステムを生成することを、景観の基本的な単位別に考察 するとともに、その内的なシステムの発現が地域社会に与える影響を明らかに することにある。その上で、第三点目の目的は、上記の内的システムの発現が、
地域の自治の基盤の形成に果たす役割を考察することにある。
以上の3つの目的の達成により、本章では、景観を構成する空間的構成要素 から、そこに関わる社会的活動を媒体として自治の基盤形成に至る論理的な展 望(パースペクティブ)が構想されることになる。
3−1−2.本章の構成
(1)本章の構成
本章は、第1節本章の構成、第2節旧開田村(髭沢地区)における空間構 成要素と社会的活動諸相の相互関係の構造の調査、第3節地域景観の内的シス テムの生成・発現実態と地域社会や自治の形成に与える影響に関する考察、第 4節小括、の4節により構成される。
このうち、本節(第1節)では、本章の目的、構成、本章で用いる用語の定
義などを提示している。
続く第2節は、本章の目的1の達成を目指している。具体的には、旧開田 村髭沢地区を調査対象地として、地域景観を構成する空間構成要素と社会的活 動諸相に着目し、2007(平成19)年と1947(昭和22)年の両年におけるそれらの相 互関係を調査・分析している。また、そこで得た相互関係の分布特性から、地 域景観を構成する相互関係のまとまり(相互関係の構造)としての景観の基本 形成単位を抽出している。続く第3節1項では、本章の目的2の達成を目指し ている。具体的には、第2節の分析で得た基本形成単位を踏まえて、空間構成 要素と社会的活動諸相の相互関係の構造を通じて、地域景観には内的システム が生成されていくことについて考察している。
さらに、第3節2項では、本章の目的3の達成を目指している。具体的には、
旧開田村の景観政策とその結果を対象として、地域景観の内的システムがどの ように発現(再現実化・再社会化)し、それが地域社会にどのような影響を与 えるのかを、そこで生じた事実や住民の心情から捉え、自治を巡るわが国の行 政学的課題に対し、地域景観はいかなる意味を有するのかを考察している。
以上の構成を通じて本章では、地域景観が自治に果たしうる役割の原理的枠 組みを想定し、景観を構成する空間的構成要素から、そこに関わる社会的活動 を媒体として自治の基盤形成に至る論理的なパースペクティブを構築している。
(2)本章の分析・考察手法
本章では、旧開田村の髭沢地区を対象に、景観工学による現況実態調査、及 び変遷調査の手法と、ドキュメント調査、及びヒアリング調査等を組み合わせ た調査手法を採用し、調査結果を景観工学の手法を用いて分析している。分析 結果の考察では、一旦、生態学的視覚論、現象学、哲学的身体論、文化人類学 的な知見を援用した後、行政学的な枠組みを用いた考察を行っている。
具体的には、髭沢地区の空間構成要素の抽出においては、事前にドキュメン ト調査を行いその概要を把握した上で、空間を構成する地形、高低差、建築物、
構造物、植物、土地利用等を平面・断面にプロットしていく景観工学的な現況 調査手法を用いている。また、変遷調査では、航空写真を用いている。その際、
各空間構成要素と対応する社会的活動は、現況調査時に現地在住のヒアリング
対象者の同行を得ることで情報収集を行っている。
以上の情報から空間構成要素と社会的活動諸相の分布特性を把握し、その相 互関係の構造としての基本形成単位を抽出している。ここでの分析では、まず、
平面図と断面図に現地調査、変遷調査の情報を落とし込み、平面図からは空間 構成要素と社会的活動の関係性に生じている「領域」を、断面図からはその「配 置」を読み取る。また、平面、断面の複合的関係から「境界」の存在を確認す
る。その上で、基本形成単位の抽出では、山田(2008a)による景観工学的な敷地 形成原理の分析手法を応用している。
山開は、敷地という空間単位を対象とし、これを構成する空間構成要素の相 互関係から、境界領域の諸要素を説明し、境界により分節された各空間領域の 景観・デザインの様相変化の分析から、境界による領域分節と道による統辞の 構造を、敷地形成原理として見出している。本研究では、上記の「敷地」にお ける形成原理を、社会的活動を伴う「地域」に拡張し、空間構成要素と社会的 活動諸相との相互関係の構造を実証的に捉えるために、図3−1に示すところの
「空間一社会構造図」を考案し分析に用いている。
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欄・調査対象となる「髭沢地区」のほぼ中央部の特定の点を想定し、=
賃 ㌫遥 そこを生活する任意の個人を原点と想定している。 = 皇 I・横軸には空間的広がり(敷地、集落、村落(地区)、外部)を1
塞塞 1とっている。 l
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□珂 I・縦軸には社会的活動主体の枠組み(地縁的共同体、地域内住民1 . I
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1 自治組織、地域内公的・準公的組織、外部)をとっている。
1 l・縦軸、横軸のマトリックスのなかに空間構成要素、及びその空1 = 間構成要素に関わる活動をプロットしていく。 =
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図3−1 空間一社会構造図の構成
「空間一社会構造図」は横軸に空間構成要素を、縦軸に社会的活動諸相を配置 してグラフ化したものであり、両者の相互関係の分布が図上で把握できる構成 を有している。
次に分析結果の考察において、空間構成要素と社会的活動諸相の相互関係の 構造から地域景観の二つの内的システムを仮説的に構想する過程では、生態学 的視覚論、現象学、哲学的身体論、文化人類学の知見を援用してシステムを理 論的に導き出す。その上で、内的システムの生成・発現の経緯を、景観工学的 手法で得た基本形成単位とそこに生じている活動実態とを時系列的に照合する ことで、内的システムの存在・特性を検証する手法を用いている。
その上で、以上の結果を、行政学的な枠組み、すなわち石田によるわが国の 自治の課題の行政学的知見(百日ヨ(1990))のなかで捉え直し、自治の課題と地 域景観の劣化との関係性と、地域景観が有する自治の課題解決への可能性を考 察している。
3−1−3.本章の分析・考察で用いる用語の定義
本章における分析・考察において独自に用いる技術的・学術的な用語を概説、
定義しておく。
まず、空間構成要素と社会的活動諸相の「相互関係の構造」については、「空 間構成要素と社会的活動諸相の相互関係の分布のなかに生じる構造」と定義し ておく。次に、地域景観の「基本形成単位」という用語は、「空間構成要素と社 会的活動諸相の相互関係の分布特性上に生じる類型であり、相互関係の構造を 構成する単位」と定義する。なお、「基本形成単位」という用語を用いることで、
「相互関係の構造」は「基本形成単位及び単位間に生じている構成の総体」と の再定義が可能である。その上で、r景観の内的システム」という用語は、r環 境への行為や地域社会の形成過程を通じて地域景観の内部に蓄積され、その発 現により社会的活動に影響を及ぼす、地域景観に組み込まれているシステム」
と定義しておく。
なお、これらの各用語の実体的な内容は、,以上の定義を踏まえつつ、分析・
考察のなかでより明確に示していくものとする。
3−2.旧開田村(髭沢地区)における空間構成要素と社会的活動諸相の相互関 係の構造の調査・分析
3−2−1.空間構成要素と社会的活動諸相の現況実態調査
(1)実態調査の諸元 a)調査対象地の選定
空間構成要素と社会的活動諸相の相互関係の調査にあたり、髭沢地区を調査 対象に選んだ理由は次の通りである。
調査対象の選定において条件としたのは、旧聞岡村の特性を典型的に示す空 間的・社会的なまとまりを有することであった。
空間的特性に着目すれば、調査対象地は、第2章3節1項(1)で示した旧開田 村の景観特性、すなわち河川を軸とし水田、集落の屋並み、河岸段丘、段丘面 の畑、山麓の採草地、森林の山並みに至る多様な空間構成要素が、地形の高低 差に従って河川軸上に奥行きを伴って展開される空間的まとまりを有する。社 会的な特性に着目した場合、社会的活動の基本的な単位を形成している行政区 と五人組を内包し、森林組合や消防団等の活動が存在し、また地縁的な共同作 業、歳時・祭事等が行われている社会的なまとまり、すなわち最低限、行政区 単位を有する地域である。
もう一つの選定条件として、地域景観を巡る空間構成要素、社会的活動をく まなく把握するという本調査の特性から、対象地の在住者の協力が得られ、且 つ協力者に大きな負担を与えない期間内に調査が可能な規模に限定する必要が
あった。
以上の条件のもと旧開田村の空間的、社会的特性のまとまりを再考すると、
西野川、末川本流周辺では川から山容に至る空間幅が広く、その空間的まとま りを捉えるためには複数の行政区に跨がった調査が必要である一方、支流の把 ノ沢川、髭沢川等では一つの行政区内で空間的まとまりをカバーでき、調査内 容・方法と空間規模の整合が図れることが分かった。さらに、髭沢地区は、旧 開田村役場及び木曽役場職員として景観を巡る活動に携わり自身の著作を有す る大目富美雄氏が在住しており、調査協力が得られるというメリットがあった。
且つ、髭沢地区は、(財)観光資源保護財団(1979)において、1979(昭和54)年時