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第2章 先行研究と問題意識

2.7 問題意識と仮説の設定

国内の一村一品運動については、政策面と長年継続している事例について、様々な分野 で詳細な研究がなされている。個別事例研究は、運動が開始される前から行われていたも のが多く、これらの事例は運動の提唱がなくても成り立っていた事例である。開発途上国 に一村一品運動の経験を伝えるのであれば、運動が提唱された後、住民はなぜ運動に魅力 を感じ採用しようとしたのか、さらに、運動の開始以前に始まっていた活動であっても、

55 開始当初は荒れた土地であったが、プロジェクト終了後も現地の人々とUCC(ユーシーシー 上島珈琲株式会社コーヒー、兵庫県神戸市に本社を置くコーヒーを中心とした飲料・食品メーカ ー)技術指導者らの努力により、ルワンダでも有数のコーヒー生産地となった。

http://www.ucc.co.jp/company/csr/country_of_origin/rwanda.html(2017年08月26日閲覧)。

56 コーヒーウオッシングステーションは、農家に対し、①コーヒーチェリー(木になっている 果実の状態)の買い取り、② 肥料・殺虫剤供給、③ 技術指導、④ 情報共有、⑤ セーフティネ ットの機能を果たしている(大和田2005:要旨)。「ウオッシングステーションが雇用する農業技 官(アグロノム)は、農家にとって最も身近に、農業技術の助言を受けられる存在でもある」(大 和田2015:142)。

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県や外部の支援によって住民がどのように変化していったのかということについても明 らかにされるべきであると考える。

一方、海外では、運動の主体が中小・零細企業や生産者であることが多く、既存の産地 や特産品の質を高めながら地域に雇用を生み出す活動として普及させようとする事例が 中心である。タイでは、ビジネス感覚を有する生産者や企業への支援が主眼となり、基盤 の弱い生産者が自ら問題を克服するための人材育成57への支援は少なく、地域に影響を与 える個人や組織の能力が高められたとは言い難い。

そのような中にあって、タイのルワムジャイ村の事例では、生産者が持っていた能力と ビジネスを結びつける支援が行われた結果、住民の力を引き出し、その力を活用できる環 境を整えることで三原則が達成され、JOCVが帰国した後も活動は継続されている。運動 を単なる企業家養成支援に終わらせないためには、生産者の持つ力を引き出し、地域の 人々をつなげながらビジネスのノウハウを取り入れ、販路開拓などを目指す橋渡し役の 働きが重要なのであり、その働きにより基盤の弱い生産者であっても、自らが持つ課題を、

彼ら自身がマネジメントできる範囲で克服できると考える。

アッサダン(2007)は、生産者グループの人的ネットワークに注目し、地縁的な関係を 基盤とした組織ネットワークであっても、リーダーが中心となって組織が適切に連携す ることで、それぞれが有する資源の有効活用が行え、生産から販売までの各過程が結合化 されて多面的効果が生み出されることを示している。Kumpongkanjaha(2010)も、「結 束型ネットワーク」および、「橋渡し型ネットワーク」の中心にいる人材の重要性を強調 している。

マラウイの先行研究や文献、聞き取り調査からは、国内外の消費者に受け入れられる可能 性を持つ地域資源を発掘し、その製品の競争力を高め、、製品を国内外の流通に乗せること

57 タイ・タワーイ村の木彫り職人は、海外からの顧客に対応するために独学で英語を身に付け た。行政からそのような支援はなかった(筆者インタビュー、木彫り職人、2012年2月5日)。

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で地域の人々をつなぎ、地域に影響を与えた事例は確認することができなかった。また、生 産者に必要なビジネスの専門知識を取り入れ、引き出した彼らの力を発揮することができ る場の構築を目指しながら盛り上げていく橋渡し役も確認できなかった。プロポーザルベ ースで個別の生産者の活動資金にアクセスできる支援と捉えられてしまったため、既存の 製品開発にとどまっているからである。

大和田(2015)は、ルワンダの一村一品運動では、地域資源の活用を、「未利用資源の活 用」の視点と、「既にあるものをどう改善し活かすのか」という視点がうまく伝わり、起業 家たちの手によって実践されたことが成果を生んだと指摘している58。そのなかで、コーヒ ーウオッシングステーションが、ルワンダのコーヒー農家にとって重要な場となり、有益な 技術や情報と生産者をむすぶ橋渡しの役割を果たしている。

多くの先行研究が、一村一品製品の品質に関する問題や経理の知識の欠如などを指摘 しているが、それらの指摘を踏まえても一村一品運動が必ずしも成果をあげたとは言え ない。開発援助プロジェクトとして、人々の力を引き出し、その力を活用するには、より 人と人、人と情報のつながりに着目することが必要になるのではないだろうか。

アッサダン (2007)およびKumpongkanjaha(2010)、そして大和田(2015)の研究 からは、橋渡しの役目を担う存在(人材・組織・場)が一村一品運動の発展に大きく関わ っていることが明らかであった。三者の違いは、前二者のタイの事例が一つの小規模企業 家に関することであり、後者は地域の生産者を含む一大生産地を扱っている点であるが、

双方とも、地域の人々と外部の情報や知識と結びつける存在の重要性を指摘している。そ のため、運動における橋渡し役が、どのように住民に有益な専門知識などを地域に普及さ せたか、また、どのようにして住民の力を国内外の企業と取引ができるまで高めることが できたかを明らかにすることで、従来の一村一品運動の研究には見られない特徴を、本稿

58フイエの生産者は、すでにマーケティングやカスタマーケアの意識があり、研修を受けること で、能力を高め、ビジネスを拡大していく中で会計を学ぶ必要性も感じている(大和田2015: 93)。

32 は持つと考える。

そのため、本研究では、複数の先行研究が開発途上国の事例において明らかにした「橋 渡し」の役割に注目し、「運動の採用者と専門知識を結び、採用者の力を引き出しながら 活用できる場を創造できるファシリテーターが、運動の普及には不可欠である」との前提 のもと、一村一品運動におけるファシリテーターが、どのような方法を用いて採用者を惹 きつけたのか、そして、彼らの努力をどのようにして成果につなげたのかを探求すること で、一村一品運動のファシリテーターの機能を明らかにして、今後同様のコンセプトを持 つプロジェクトを実施する際の教訓を得る。以下において、本稿で軸とする一村一品運動 のファシリテーターとは、どのような機能を有することが望まれるのかを検討する。