第5章 結論
5.1 イノベーションの普及からみる一村一品運動
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材や組織)は、地域のイノベータに働きかけながら、課題に対する具体的なアイデアを形に し、運動の採用者の力がなくては達成できない仕組みを創り出した。表5.1で示すように、
大山村とあぜみちグループ、大鶴地区、キルギスの事例では地域外の農業改良普及員や生活 改良普及員、JICA専門家がそのファシリテーターの役割を果たした。開始から20年以上 経過した大分県の事例では、外部者であったファシリテーターに促され、外部とのつながり のなかから、それぞれの地域に合った方法を見つけだした地域内の人々が、運動のファシリ テーターの機能を引き継ぐことで、外部からのファシリテーターが不要となっていった。一 方、地域のイノベータが外部との橋渡し役でもあり、地域に力を発揮する場を自ら築いた湯 布院町では、彼らが運動のファシリテーターの機能も兼ね備えていたため、他の地域とは異 なる関係性が地域内に見られ、地域で効果的な活動を模索していた他の経営者たちに働き かけることで成果につなげていった。
表 5.1 一村一品運動の普及者・運動のファシリテーター・地域のイノベータの関係
普及者 運動の
ファシリテーター 地域のイノベータ
大山村 村長 農業改良普及員など 変化を望む若者
湯布院町 旅館経営者(地域内) 地域の経営者たち
あぜみちグループ 県知事 生活改良普及員 変化を望む農村女性
大鶴地区 農業改良普及員 10 人の農業従事者
キルギス OVOP JICA JICA 専門家・JOCV ワークショップに 集まった生産者 出典:筆者作成
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5.1.2 イノベーションの知覚属性
一村一品運動のファシリテーターは、ビジネスと連携させた運動を5つの知覚属性を持 つ活動に変化させ、地域のイノベータを通して普及させていった。採用者は、相対的優位性 があることで、運動を「自分たちの生活をよくするよいもの」と捉え、複雑性が少なく、両 立可能性や試行可能性があることで採用しやすいと感じ、観察可能性があることで自身の 活動が可視化され、内省を招きながら力が引き出されていった。以下に詳細を示す。
(ア) 相対的優位性
大山村では、農業の専門知識や普及員の技術を持つファシリテーターを得て、労働時間な どの目標基準、収入を生み出す農作物の選定を行ない、共通の目標に向かって労働を収入に つなげることができる環境を村の予算を集中投資して構築した。運動は、従来とは異なる革 新性を持つアイデアとして、貧困から抜け出せずにいた若者を惹きつけた。あぜみちグルー プでは、気の置けない仲間と少額でもお小遣いを稼げるといった今までなかった試みが女 性たちをひきつけた。地場産業が崩壊していた大鶴地区では、年齢や性別を問わず、少量の 農作物でも収入につなげることができるという従来にはなかったアイデアは、運動の採用 者に受け入れられやすいものとなった。一方、普及者が運動のファシリテーターの役割も担 った湯布院町における活動は、地域性に浸透していた協働の概念を利用し、みんなで知恵を 出し合い、常にベストを尽くす方策が取られていた。
キルギスにおいても、最初にやる気がありオピニオンリーダーとなり得る地域のイノベ ータを見つけ、集中的に支援して、彼らの力を引き出した。その後、彼らが作ったものを売 ってみせ、収入につなげることで、キルギスOVOPが既存の生産活動に替わる有効な新し いアイデアとして他の住民にも受け入れられるようになっていった。このことから、一村一 品運動におけるファシリテーターに求められるのは、住民にとっての成果を招く相対優勢 性がある活動を生み出す力であると言える。
138 (イ) 両立可能性
大分県とキルギス双方の事例において、運動のファシリテーターと潜在的採用者(住民)
との直接対話や体験学習を通した経験の蓄積を通して、資源の価値を潜在的採用者に再認 識させ、彼らの能力に新しい知識や技術を積み重ねる方策で、ビジネスに活用できる能力を 高めようとしたことが確認された。つまり、必ずしも新しいと知覚される技術や知識ばかり を導入するのではなく、既存のものに新しい知識や技術を積み重ね、応用することで、新し いアイデアは運動の採用者にとってより馴染みやすいものになり、既存能力と今までなか った知識や概念の融合が見られた。湯布院においても、地域のイノベータが、先人が取り組 んでいたアイデアを引き継ぎ、外部から取り入れたアイデアや住民が持つ力を積み重ねて、
地域全体で参加できるように変化させることで両立可能となった。
(ウ) 複雑性
ビジネスの経験がなかった運動の採用者は、消費者が求めている品質や流通の重要性を なかなか理解できかった。大山村や大鶴地区でのファシリテーターは、経営の理論を採用者 に理解してもらうことを常に念頭に置いて、運動採用者の力を発揮できる場を模索した。そ の場を通して、経験のない採用者が理論を自身の経験を通して理解できるように促すこと で、ビジネスの複雑性を減少させた。キルギスOVOPも、生産者に生産から、製品開発、
流通・販売までの一連の活動を短期間に押し付けるのではなく、生産と経営管理を分けるこ とでビジネスに取組みやすい環境を構築した。
(エ) 試行可能性
運動のファシリテーターは、寄り添いながら対応することが可能な小規模なグループか らアプローチし、確実な成果を生み出すために技術や資金面での集中投資をした。採用者に とって試すことが容易である活動は、試しながら学び、能力を向上させていくことができる 経験学習の場となった。キルギスOVOPも、最初はやる気を示した少数の採用者(地域の
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イノベータ)から始め、収入や雇用といった成果を示すことで、次に続く採用者にとっての 不確実性の減少につなげた。
(オ) 観察可能性
大分県の一村一品運動は、住民の活動の様子をテレビ番組での広報や、研修、人材育成 の場において観察可能となり、新しいアイデアに対する仲間内の話し合いを促しながら相 互作用することで普及させていった。キルギスOVOPも、企業や専門知識を持つ人々と連 携することで、高品質の商品とはどういうものかなど、多くの一村一品プロジェクトで曖昧 であったビジネス取引に必要な基準を明確にし、誰でもが観察できるようにした。また、自 分が作ったものが売れ、活動を通して自由に村を出ることができたり、家計を助けることが できたりするといった身近な成果によって、キルギスのOVOPがどのような活動であるか 生産者は理解できるようになった。一生産者を支援するのではなく、地域への影響を視野に 入れたため、その活動は、採用者以外も観察可能であった。
本研究の事例の範囲内ではあるが、一村一品運動のファシリテーターの機能を持つ人々 が上記で示したような知覚属性を特徴に持つ活動を生み出したり、促したりすることで運 動の採用者の力を引き出すことを可能にしたとみることができる。
5.1.3 普及システム
政策立案者や専門機関が運動の普及者である場合は、地域のイノベータを最初の運動の 採用者とすることが普及のきっかけとなる。一方、地域のイノベータが普及者である場合に は、彼らが地域の他の組織と協働することで共通の目標が設定され、地域内の他の普及者を 招く。前者は、普及開始時、分散型普及システムの特徴を合わせ持つが集中型の特徴が強く、
後者は分散型の普及システムとなる。分散型普及システムにおいては、地域のイノベータが 地域内の異業種協働を通して他の採用者を取り込んでいったため、新しいアイデアを取り
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入れることへの抵抗感が少なかった。しかし、地域のイノベータが、活動をコントロールす る機能を果たさない場合は、ビジネスを取り入れた地域内のつながりは、利益だけを目的と した外部からの侵入者に弱められてしまう不安定さを持つ。つまり、湯布院町の事例のよう に、協働の概念の下で、活動をコントロールできる人材がいる場合には分散型の普及システ ムが効果を発揮するが、地域のイノベータが活動をコントルールできる範囲にとどまると もいえる。集中型普及システムの特徴が強くても、新しいと知覚されるアイデアされるが採 用者に受け入れられやすい活動としてデザインされる場合には、個人や組織の水平的ネッ トワークが構築されるように変化していった。一村一品運動のファシリテーターは、採用者 の力を引き出し、引き出した力を発揮できる場で新しい技術や知識を重ね合わせ、集中型の 特徴が強かった普及システムを分散型の普及システムに近づけようすることで、住民主体 の活動を目指した。