第2章 先行研究と問題意識
2.6 海外の OVOP
2.6.2 マラウイ
マラウイと大分県の一村一品運動を通じた交流は1990年代から始まり、2003 年に「ア フ リ カ 開 発 の た め の 東 京 国 際 会 議 (Tokyo Internationla Conference on African
Development: TICAD)」第3回会合(TICAD-Ⅲ)に出席するために訪日していたバキリ・
ムルジ大統領(当時)が大分県を訪問し、一村一品運動の導入を表明した43。2003 年には、
農業灌漑食料保障省内にOVOP事務局を設置し、国家政策として導入した(JICA2008: 18)。 マラウイ政府の動きを支援する形で、JICAは、2005年10月から技術協力プロジェクトと して「マラウイ一村一品運動のための制度構築と人材育成プロジェクト」を開始した44。「マ ラウイでは、一村一品運動(OVOP)は『小規模農民グループを対象にマラウイ農林水産物 を利用した加工技術の普及、品質改善、マーケティング能力向上を図り、マラウイ産品の付 加価値向上を目指す』ものと定義されている。これは地域振興や地方開発のコンセプトから
43 筆者インタビュー、NPO法人 大分一村一品国際交流協会、内田正氏(2013 年3 月28日)。
44 マラウイへのOVOPの導入には、JICAと大分県の甚大なる努力があった(吉田2006:180)。
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一歩踏み込んだより具体的でわかりやすいものであるが、ローカルでの一次産品開発のイ メージが前面に出たものとなっている」(吉田2006: 183)。
実施体制を整備するため、JICAは専門家やJOCVを派遣し、マラウイからの研修員の受 け入れを行った45。OVOP事務局には2007年から2008年の予算として、経常予算1700万 MK46(12.1万USD)、開発予算2,100万MK(15万USD)が割り当てられた47(JAICAF
2008: 20)。マラウイOVOPの特徴は、プロポーザル審査による融資制度であり、OVOP事
務局が行う審査を通過したグループのみが融資を受けることができた。JICAの支援に関し ては、事業に必要な経費の3割以上をグループ側が負担することで、技術支援と訓練、Web デザイン、機材供与等を受けることができた(向井2012: 26)。2003年からOVOPの認定、
支援を受けてきたグループを、表2.1にて示す。
表 2.1 新規認定グループおよび支援額の推移 会計年度
(7 月~6 月)
2003-04 2004-05 2005-06 2006-07 合計
新規認定グループ数 14 4 14 7 39
支援額(1,000MK) 9,891 1,176 14,259 14,993 40,319 出典: JAICAF(2008:22)より抜粋
2007年度にはOVOPグループ活動の支援とともに2006年11月から始まった一村一品 集中研修(OVOP Intensive Training: OIT)を通じた県レベルでのOVOP推進体制の構築 が行われた(JICA 2008: 7)。OITで実施された小規模ビジネス・マネジメントの経験を基 に小規模ビジネス・トレーニングが実施された。また、大手スーパーでの販売時に要求され
45 8名の職員と1名のマラウイ大学ブンダ校講師が日本研修を受講している(JICA 2008:5)。
46 マラウイの通貨クワチヤ、1USD(米ドル)=500MK(2015年1月)。
47 その後の議会の混乱もあり、予算執行は制限を受けた(JAICAF 2008: 20)。
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るマラウイ標準化機構(Malawi Bureau of Standard: MBS)48 からの認証を受けるための 支援活動が行われた。
しかし、販路拡大は、OVOP 事務局や日本人専門家、JOCV 等への依存が大きく、一過 性のフェアや輸入実績をつくったことにとどまり、販売先と生産者がいかに継続的な関係 を独自に結ぶかが課題となっている(JAICAF 2008: 23)。表2.1で示された39のグループ のうち活動を継続させているものは、2008 年現時点では21 にとどまり、初年度に参加し たグループの半数近くが活動停止もしくは、停滞中となっている49 (JAICAF 2008: 25-26)。 多くの行政官が日本で地域活性や一村一品運動について研修を受けているが、活動停止・停 滞中となっているグループに大分県で得た知見を取り入れて復活させた事例は、確認する ことができなかった。
大分県の運動では、県は住民が生み出した一村一品の知名度を上げ、販路開拓を支援する ために積極的にフェアの開催を行った。しかし、マラウイにおいては行政に販路を支援する といった意識は少なかった。行政が公的に作った場所での販売にはレヴィと呼ばれる場所 代が必要となり、レヴィを払いたくない生産者はインフォーマルな場所での販売を余儀な くされた50。また、MBS認証を取得できずに2011年に販売中止を言い渡されたミトゥンド ゥ(Mitundu)村51Aオイル生産グループでは、意欲を失った参加者の離脱を招いている(澤
2011)。さらに、同グループでは、輸送時に漏れてしまう食料油容器の改善など、ビジネス
取引における基本的な課題を克服しようとする人材が不足しており、自主的に外部から専
48 MBSはマラウイで唯一の品質認証機関である(JICA 2008: 7)。MBSは、厳しい衛生管理(販 売所と生産書を分離、メンバーの健康管理等)やハザードコントロールチェック、内容物サンプ リング品質チェック、包装パッケージ規定に合格した製品に与えられるが、小規模企業の成長を 促す観点から、違法なものと非衛生なものを除き、生産者が認証取得の努力をしていれば店舗か ら商品を没収されることはない(森2008: 2)。
49 初年度最も支援額が多かったIponga Cotton Production & Gininig(支援額3百万MK)が 活動停止となっているため、金銭的支援は効果的に活用されなかったことがうかがわれる。
50 OVOP研修のために来日したマラウイ行政官の発言に基づく(2012年02月06日)。
51 首都リロンゲより27㎞離れた人口2万2000人の農村で、食料油の他、トマトジャム、豆乳、
とうもろこし製粉、養鶏鶏肉などの生産者が組合の形でOVOPに参加した。同村にはコミュニ ティ貯蓄投資プログラム(Community Savings and Investment Programme:COMSIP)があ り、小企業対象のビジネス・トレーニング(36 科目)も行われていた(吉田 2006: 190-191)。
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門知識を取り入れ、活動を継続させようとする姿勢もみられなかった(澤2011)。
「コンセプトの普及についてマラウイ政府は、2003年11月に一村一品運動(OVOP)全 国大会を実施して以来、新聞やラジオを使い、また大統領自身を先導者としてその発言の機 会を活用して普及を進めてきた」(吉田2006: 184-185)。そのコンセプトを地方レベル、生 産者レベルにまで普及させるのは、日本の地域振興を学習してきた少数の人員と大統領や 高級事務レベルなど、訪日の機会に大分県の一村一品運動を視察した少数の行政官であっ た。吉田は、「このような限られた情報源と伝達手段の確立状況は、一村一品運動のコンセ プトや方法が、正しく学習されにくい環境にあることを示している」と指摘している(吉田 2006: 185)。
マラウイのOVOP製品は、全体的に品質が低く都市での販売が困難であるものが多く、
さらには、売り上げの回収遅延が慢性的な資金不足を招き、活動の継続に向けた課題が山積 みであった(森2008)。ミトゥンドゥ村の事例を見ても、一村一品運動のコンセプトが正し く理解される環境が整っていたとは言えず、大分県での研修で学ばれた教訓が、生産者グル ープへの効果的な支援と結びついていなかったことが分かる。また、プロジェクトも、融資 へのアクセスには焦点を置いているが、どのように返済していくかについてはあまり言及 していない。マラウイでは、大分県で研修を受けた行政官が、知識や技術、人材を根付かせ、
三原則のサイクルが流れる仕組みを作りだす橋渡し役となっていなかったと言えよう。