6.5.1 右折走行軌跡
(a) モデル構造および推定結果
前述の分析結果より,右折走行軌跡は複数の道路構造要因と右折時の最小速度によって影響を受けるこ
66 とが示された.ここで,最小速度は交差点の
道路構造,右折車両の進入条件によって異な り,確率的に変動すると考えられる.そこで,
この最小速度を確率分布として与えることで 走行軌跡のばらつきを表現する.ここでは正 規分布を仮定し,平均値μおよび標準偏差σ を道路構造要因,右折車両の進入条件などの 説明変量の線形結合で表すモデルを構築する.
また,同一の最小速度であっても走行軌跡は 変動すると考えられることから,最小曲線半 径についても同様に正規分布で与えるモデル とした.これらのモデル構造を図 6.6に示す.
右折時の最小速度分布のパラメータ推定にあたっては,右折時の最小速度の影響要因について重回帰分 析を行ったところ,右折時の交差角度,IP点から中央分離帯までの距離,右折開始時の進入速度が有意で あったことから,これらの説明変数を用いて最尤法によりパラメータ推定を行った.その結果を表 6.6に 示す.これより,右折時の交差角度が右折時最小速度のばらつきに有意であり,かつパラメータの符号が 正であることから,右折時の交差角度が鈍角であるほど右折時の最小速度のばらつきが大きくなることが わかる.
表 6.6 右折時の最小速度 Vmin分布の推定モデル
パラメータ 説明変数 係数(t値)
μ
右折時の交差角度 [°] 0.0717 (5.57)
IP点から中央分離帯までの距離 [m] 流入側DHN_IN 0.00920 (4.52)
流出側DHN_OUT 0.105 (3.17)
右折開始時の進入速度Vin [km/h] 0.380 (13.13)
定数項 4.49 (2.62)
σ 右折時の交差角度 [°] 0.124 (2.69)
定数項 1.71 (4.57)
サンプル数 151
また,これらのパラメータ推定結果を基に,砂田橋,川名,太閤通3について,流入部ごとの右折時最 小速度の推定値と観測値の分布を比較したものを図 6.7に示す.これより,右折時最小速度の推定結果は 概ね良好であるといえる.
道路構造
・交差角度
・中央分離帯位置
…など
重回帰分析によるモデル 車両進入条件
・進入速度 Vin
・右折後の走行位置
クロソイド 1 A1
クロソイド 2 A2
図 6.6 右折走行軌跡推定モデルの構造
正規分布を仮定したモデル 右折時最小速度 Vmin
最小曲線半径 Rmin
67
図 6.7 右折時の最小速度 Vminの推定値および観測値の分布
同様にして,右折時の最小曲線半径Rminの分布についてもパラメータ推定を行った.パラメータ推定に あたっては,
表6.4最小曲線半径の重回帰分析結果より,右折時の交差角度,IP点から中央分離帯までの距離の最小 値,最小速度を説明変数として最尤法によりパラメータ推定を行った.これらパラメータ推定の結果を表 6.7に示す.
表 6.7 右折時の最小曲線半径 Rmin分布の推定結果
パラメータ 説明変数 係数(t値)
μ
右折時の交差角度 [°] 0.0621 (3.80)
IP点から中央分離帯までの距離Min (W1, W2) [m] 0.159 (4.35) 右折時の最小速度Vmin [km/h] 0.438 (7.63) σ 右折時の最小速度Vmin [km/h] 0.130 (17.4)
サンプル数 151 これより,右折時の最小速度が最小曲線半径のばらつきに有意でありパラメータの符号が正であること
から,右折時の最小速度が高いほど走行軌跡のばらつきが大きくなることがわかる.
ここでのパラメータ推定結果を基に,砂田橋,川名,太閤通3について,流入部ごとの最小曲線半径の 推定値と観測値の分布を比較したものを図 6.8に示す.これより,川名,太閤通3においては概ね良好な 推定結果であるといえるものの,太閤通3については,過大に推定されていることがわかる.この要因と しては,太閤通3に設置されているゼブラ路面標示が他の交差点に比べ交差点中心近くまで設置されてい ることで,ドライバーが路面標示を意識して小回りで右折していることが考えられる.現状のモデルでは 路面標示の影響については考慮が不十分であるため,これら路面標示の影響について精査することが今後 の課題として挙げられる.
0%
20%
40%
60%
80%
100%
15 20 25 30 35 40
累積確率
Vmin[m]
砂田橋(推定値) 砂田橋(観測値) 川名(推定値) 川名(観測値) 太閤通3(推定値) 太閤通3(観測値)
68
図 6.8 最小曲線半径 Rminの推定値および観測値の分布 (b) 観測軌跡と推定軌跡の比較
図 6.6に示したモデルを用い,砂田橋,太閤通3の右折について走行軌跡を推定した結果を図 6.9に示 す.
(a) 砂田橋(西側流入部,右折後第2車線) (b) 太閤通3(西側流入部,右折後第2車線) 図 6.9 右折時の観測軌跡と走行軌跡の比較
ここで,観測軌跡はいずれも流出後の走行車線が同一のもの(右折後の走行車線が最も内側の走行車線)の み抽出しており,比較のため個々の軌跡のIP点位置が同一位置となるようシフトさせている.また,推定 軌跡の推定区間は90%確率とし,破線により右折走行軌跡の5パーセンタイルから95パーセンタイルの 代表軌跡を示している.なお,右折開始時の進入速度には観測された進入速度の平均値を用いた.これよ り,砂田橋においては概ね良好に再現できているものの,太閤通3においては走行軌跡の推定区間と観測 値との乖離が大きくなっている.これは前述のように,最小曲線半径の分布推定において過大に推定され ていることが要因として挙げられる.
6.5.2 左折走行軌跡 0%
20%
40%
60%
80%
100%
10 15 20 25 30 35
累積確率
Rmin[m]
砂田橋(推定値) 砂田橋(観測値) 川名(推定値) 川名(観測値) 太閤通3(推定値) 太閤通3(観測値)
0 10 20 30 40 50 60
0 10 20 30 40 50 60
Y[m]
X[m]
クロソイド1 円弧 クロソイド2
5%ile
95%ile
0 10 20 30 40 50 60
0 10 20 30 40 50 60
Y[m]
X[m]
クロソイド1 円弧 クロソイド2
5%ile
95%ile
69 (a) モデル構造および推定結果
左折走行軌跡についても右折走行軌跡と同様 にモデル化を行った.前述の分析結果より,左 折走行軌跡のクロソイド1区間とクロソイド2 区間は複数の道路構造要因と左折時の最小速度 によって影響を受けることが示されている.そ こで,走行軌跡のばらつきを表現するために,
右折時と同様に,左折時最小速度は交差点の道 路構造,左折時の進入条件によって確率的に変 動すると考え,左折時最小速度を確率分布とし て与える.確率分布として正規分布を仮定し,
平均値μおよび標準偏差σを道路構造要因,左
折車両の進入条件によって説明するモデルとした.また,円弧区間の最小曲線半径についても走行軌跡の ばらつきを考慮するため,同様に正規分布で与えるモデルとした.これら左折走行軌跡の推定モデルの構 造を示したものが図 6.10である.
左折時の最小速度分布のパラメータ推定にあたっては,左折時の最小速度の影響要因について重回帰分 析を行ったところ,左折時の交差角度,隅角部半径,大型車ダミー,左折後の歩車道境界線からの走行位 置が有意であったことから,これらの説明変数を用いて最尤法によりパラメータ推定を行った.その結果 を表 6.8に示す.
表 6.8 左折時の最小速度 Vmin分布の推定モデル
パラメータ 説明変数 係数(t値)
μ
左折時の交差角度 [°] 0.156 (11.56)
隅角部半径 [m] 0.212 (4.20)
大型車ダミー (大型車=1) -4.62 (-5.32)
左折後の歩車道境界線からの走行位置 [m] 0.794 (9.22)
定数項 1.20 (0.91)
σ 左折後の歩車道境界線からの走行位置 [m] 0.169 (3.15)
定数項 2.22 (8.26)
サンプル数 238
これより,左折後の歩車道境界線からの走行位置が左折時の最小速度に有意であり,かつパラメータの 符号が正であることから,左折後の走行位置が歩車道境界線から遠いほど左折時の最小速度のばらつきが 大きくなることが示された.
表 6.8の推定結果より,西大須(西側流入部,左折後第3車線),末盛通2(東側流入部,左折後第1・2車 線)について,左折時の最小速度の推定値と観測値の分布を比較したものを図 6.11に示す.これより,末 盛通2において,左折後に第1車線を走行するケースでは,推定値が過大となっていることがわかる.左 折後に第1車線を走行する場合には速度低下が著しく,その影響が非線形であることが要因として考えら れる.その他のケースでは概ね良好であるといえる.
左折時最小速度 Vmin
最小曲線半径 Rmin
道路構造
・交差角度
・隅角部半径
・歩車道境界線位置
重回帰分析によるモデル 車両進入条件
・左折後の走行位置
クロソイド 1 A1
クロソイド 2 A2
図 6.10 左折走行軌跡推定モデルの構造
正規分布を仮定したモデル
70
図 6.11 左折時最小速度 Vminの推定値および観測値の分布
左折時の最小曲線半径Rmin分布についてもパラメータ推定を行った.パラメータ推定にあたっては,表 6.5 に示した左折走行軌跡の最小曲線半径の重回帰分析結果より,左折時の交差角度,隅角部半径,左折 後の歩車道境界線からの走行位置を説明変数として最尤法によりパラメータ推定を行った.これらパラメ ータ推定の結果を表 6.9に示す.
表 6.9 左折時の最小曲線半径 Rmin分布の推定モデル
パラメータ 説明変数 係数(t値)
μ
左折時の交差角度 [°] 0.127 (13.09)
隅角部半径 [m] 0.390 (12.93) 左折後の歩車道境界線からの走行位置 [m] 0.862 (16.81)
定数項 -6.46 (-6.31)
σ
左折時の交差角度 [°] 0.0363 (4.95)
隅角部半径 [m] 0.0624 (3.09) 左折後の歩車道境界線からの走行位置 [m] 0.118 (3.89)
定数項 -2.86 (-3.77)
サンプル数 238
これより,いずれの説明変数も標準偏差σに有意となっており,パラメータの符号が正であることから,
交差角度,隅角部半径,左折後の歩車道境界線からの走行位置が大きくなるほど,走行軌跡のばらつきが 大きくなることがわかる.
表 6.9に示したパラメータ推定結果を基に,末盛通2(東側流入部,第1・2車線),太閤通3(南側流入部,
第2車線)について,流入部ごとの最小曲線半径の推定値と観測値の分布を比較したものを に示す.こ れより,いずれのケースにおいても推定結果は良好であるといえる.
0%
20%
40%
60%
80%
100%
10 15 20 25 30 35
累積確率
Vmin[m]
西大須(西・3) 推定値 西大須(西・3) 観測値 末盛通2(東・1) 推定値 末盛通2(東・1) 観測値 末盛通2(東・2) 推定値 末盛通2(東・2) 観測値