5.3.1 交差点ごとの比較
単純4現示制御の場合の交差点ごとのSRTの分布を図 5.2に,各種統計量を表 5.4に示す.この図より,
いずれの交差点においても分布形状はSRTが0.7〜0.8秒あたりで大きく異なっていることがわかる.この 時間長は一般的な人間の反応時間にほぼ近いといえ,この値より大きいSRTで発進したドライバーは自分 の側の信号灯火を見て発進を開始したと考えられ,逆にこの値より小さいSRTで発進したドライバーは自 分の側の信号灯火のみならず,交差側の信号灯火の切り替わりタイミングや最終右折車の通過状況を予見 しながら発進(予見行動)したと考えられる.予見行動して発進する車両の割合は,交差点ごとの信号待ち 時間,交差点の道路構造や交差側信号灯火の見通し,信号現示パターンによって変化すると考えられる.
交差点ごとに比較を行うと,西大須のような大規模交差点において青開始前に発進する車両の発生率が高 いことから,これら予見行動をする車両の割合が比較的高いと推測される.これは交差点規模が大きく最 終右折車両との交錯点まで十分に距離があり,さらに全赤時間長が5秒と長いことにより,青開始前に発 進しても安全であるとドライバーが認識しているためと考えられる.また,SRTが0.8秒以降の分布形状 は交差点ごとに大きな差がみられないことがわかる.これらのドライバーは信号の切り替わりに従って発 進を判断するため,交差点ごとに大きな差が生じないことによるものと考えられる.
表 5.4 各交差点の SRT 統計量 交差点 平均値[s] 中央値[s] 標準偏差[s]
砂田橋 1.08 1.16 1.09 末盛通2 1.03 1.14 1.45 太閤通3 1.21 1.29 1.25 西大須 0.88 1.00 1.48 熱田神宮南 1.38 1.35 1.27
48
図 5.2 SRT 分布(単純 4 現示制御,全交差点データ) 5.3.2 矢印制御と単純 4 現示制御の比較
信号制御が矢印制御の場合には信号現示パターンが複雑になることで,ドライバーにとっては4現示制 御の場合に比べ切り替わりタイミングが予測しづらくなると考えられる.そこで,矢印制御が行われてい る熱田神宮南と,熱田神宮南と同じく横断歩道が設置されていない砂田橋交差点におけるSRTの分布を示 したものが図 5.3である.これより,SRTが0.7〜0.8秒を境にして単純4現示制御の砂田橋に比べ矢印制 御の熱田神宮南ではSRTが右側に大きくシフトしていくことがわかる.これは,単純4現示制御とは異な り,矢印制御では信号現示パターンが複雑になることで,通勤目的ではないドライバーは不慣れなことで 反応遅れが大きくなることで,信号切り替わり後の発進タイミングにばらつきが生じるためであると考え られる.
図 5.3 SRT 分布(矢印制御との比較) 5.3.3 最終右折車の残留状況による比較
最終右折車の交錯点通過状況に応じて,交差側直進車の発進タイミングが異なると考えられることから,
最終右折車の残留状況の有無別で交差点ごとにSRT分布を比較したものを図 5.4に,交差点流入部ごとの SRT統計量を表 5.5に示す.ここでの残留の有無は,交差側の青開始時点を基準として,最終右折車が交 錯点を通過し終えていない場合を残留ありとし,交錯点を通過し終えている場合を残留なしとした.これ
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 10 20 30 40 50 60 70
-5 -4.5 -4 -3.5 -3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
頻度
SRT [秒]
砂田橋(n=147) 末盛通2(n=346) 西大須(n=225) 太閤通3(n=168) 砂田橋(n=147) 末盛通2(n=346)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 5 10 15 20 25 30
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
頻度
SRT[秒]
砂田橋(n=147) 熱田神宮南(n=167)
49
らより,ほとんどの交差点で残留なしの場合と比べて残留ありの場合はSRTが大きくなっていることがわ かる.また,砂田橋,末盛通 2,熱田神宮南などでは,残留ありの場合の予見行動グループの発生率が,
残留なしの場合に比べて明らかに低くなっている.これは,最終右折車が交差点に残留しているために,
予見行動するグループのフライング発進が抑制されたためと考えられる.しかし,太閤通3や西大須など では,これらの差が明確ではない.交差点規模が大きい場合には,たとえ最終右折車が残留していたとし ても自車が交錯点まで到達するまでに右折車が交錯点を通過し終えていることが見込めるため,フライン グ発進の発生率は大きく低下しないものと考えられる.
表 5.5 残留あり/なしのときの各交差点 SRT 統計量 交差点 流入部
残留なし 残留あり
平均値[s] 中央値[s] 標準偏差[s] 平均値[s] 中央値[s] 標準偏差[s]
砂田橋 南 0.82 1.01 1.26 1.16 1.24 1.01 末盛通2 東 0.68 0.90 1.74 1.57 1.33 1.16 太閤通3 北 1.54 1.32 0.95 1.58 1.41 0.72 南 0.92 1.11 1.50 0.82 1.25 1.59 西大須 北 0.84 0.91 1.52 1.00 0.95 1.14 熱田神宮南 北 1.44 1.41 1.08 1.77 1.59 1.23 南 0.93 1.11 0.28 1.31 1.15 1.31
(a) 砂田橋・南 (b) 末盛通2・東
(c) 太閤通3・北 (d) 太閤通3・南
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
頻度
SRT [秒]
残留なし (n=43) 残留あり (n=46)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
頻度
SRT [秒]
残留なし (n=60) 残留あり (n=54)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
頻度
SRT [秒]
残留なし (n=42) 残留あり (n=37)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
頻度
SRT [秒]
残留なし (n=43) 残留あり (n=36)
50
図 5.4 残留車の有無による SRT の分布 5.3.4 交差点規模別の比較
交差点ごとに残留の有無別に比較したものを図 5.5,図 5.6に示す.これらより,残留なしの場合は残 留ありの場合に比べて青開始前の発進割合が高くなることがわかる.残留ありの場合には青開始前に発進 しようとしても残留車両との交錯危険性が高いために発進を遅らせているものと考えられる.一方で,西 大須では残留ありの場合であっても青開始前に発進する車両の割合が高い.西大須は停止線セットバック 量が大きいため,停止線から交錯点までの距離も長いことで,残留ありの場合に青開始前に発進しても十 分安全であるとドライバーが認識しているためと考えられる.このような違いにより青開始前に発進する 車両の見かけ上の割合は交差点規模によって変化すると考えられる.また,残留ありの場合でも最終右折 車の交錯点通過タイミングは異なっており,最終右折車の交錯点通過までの時間長により交差側直進車へ の影響は異なるものと考えられる.この点については,後述するモデル分析において精査する.
また,残留なしの場合では,残留ありではフライング発進の発生が抑えられていた末盛通2や砂田橋の ような比較的小規模な交差点においても,その発生率が大きくなっていることがわかる.すなわち,予見 行動によりフライング発進するドライバーの潜在的な発生割合は交差点ごとに異なっており,実際にフラ イング発進するかどうかは残留状況に応じて異なることが考えられる.したがって,ピーク時などで交通 需要の多い場合にフライング発進車両の発生率が低くとも,最終右折車の残留が多いことでフライング発 進が抑えられている可能性がある.このような交差点では閑散時にフライング発進の発生率が逆に高くな ることが考えられ,観測されるフライング車両の発生率だけでは,その交差点で生じている危険挙動を適 切に評価できないと考えられる.したがって,これら予見行動をするドライバーの発生率を交差点ごとに (e) 熱田神宮南・北 (f) 熱田神宮南・南
(g) 西大須・北
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
頻度
SRT [秒]
残留なし (n=48) 残留あり (n=35)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
頻度
SRT [ 秒]
残留なし (n=27) 残留あり (n=57)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
頻度
SRT [秒]
残留なし (n=81) 残留あり (n=47)
51
推定し,これら予見行動を誘発する影響要因を交差点の道路構造,信号灯火の配置,信号待ち時間等から 分析することで,予見行動の少ない信号交差点設計に向けての知見が得られるものと期待される.
図 5.5 残留ありの場合の交差点ごとの SRT 分布(単純 4 現示)
図 5.6 残留なしの場合の交差点ごとの SRT 分布(単純 4 現示) 5.3.5 モデル化
(a) モデルの定式化
以上の分析結果を踏まえ,青開始から先頭直進車が動き出すまでの時間(SRT)を推定するモデルを構築す る.ここではSRT の分布が式(5.1)のワイブル分布に従うと仮定して,分布パラメータα,β,γに各種 説明変数を組み込むことで,道路構造,信号制御条件,交通状況の違いがSRTに及ぼす影響を分析する.
𝑓(𝑡) =𝛼 𝛽
𝑡 − 𝛾
𝛽 𝑒𝑥𝑝 − 𝑡 − 𝛾 𝛽
𝛼 = 𝛼 + 𝛼 𝑥 + ⋯ + 𝛼 𝑥 𝛽 = 𝛽 + 𝛽 𝑥 + ⋯ + 𝛽 𝑥 𝛾 = 𝛾 + 𝛾 𝑥 + ⋯ + 𝛾 𝑥
(5.1) 0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14 16
-5 -4.5 -4 -3.5 -3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
頻度
SRT [秒]
砂田橋-South(n=46) 末盛通2-East(n=54) 太閤通3-North(n=37) 西大須-North(n=47)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 2 4 6 8 10 12 14 16
-5 -4.5 -4 -3.5 -3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
頻度
SRT[秒]
砂田橋-South(n=43) 末盛通2-East(n=60) 太閤通3-North(n=42) 西大須-North(n=81)
52 ここで,
f(t):青開始からの経過時間t[s]における先頭車両の発進確率
α:形状パラメータ β:尺度パラメータ γ:位置パラメータ である.
ワイブル分布の各パラメータの説明変数として以下の要因を考慮した.
信号制御に関する要因: 黄時間長[s],全赤時間長[s]
道路構造に関する要因: 停止線セットバック量[m],停止位置から交錯点までの距離(エンタリング距 離)[m]
車両ごとの状態量: 大型車ダミー(大型車=1),最終右折車の交錯点通過時間[s]
(b) モデルの推定結果
推定結果を表 5.6に示す.推定された係数はいずれも統計的に有意であり,モデルの適合度も比較的高 い.まず,形状パラメータαは分布のばらつきを表すが,大型車ダミーの係数が負になっていることから,
小型車に比べ大型車では発進タイミングが早くなるということを表している.このことは,大型車は発進 性能が低いものの,発進タイミングは通常のドライバーに比べフライング傾向にあることが考えられる.
また,尺度パラメータβでは値が大きいほど分布が右にシフトする.推定結果よりエンタリング距離の符 号が負になっていることから,エンタリング距離が大きいほどβが小さくなる,すなわち発進タイミング が早くなることを表している.これは大規模交差点ほど青開始前に発進するドライバーの割合が高くなる という前述の分析結果と一致する.一方,位置パラメータγは分布の立ち上がり位置を表すパラメータで あり値が大きいほど分布は左にシフトする.推定結果では右折車の交錯点通過時刻が遅れるほど立ち上が りが遅れることから分析結果と一致する.
表 5.6 SRT 推定モデルの推定結果 ワイブル分布の
パラメータ 説明変数 係数(t値)
形状パラメータα 大型車ダミー (大型車=1) -3.97 (-3.11)
定数項 12.4 (6.80)
尺度パラメータβ
エンタリング距離[m] -0.00878 (-4.52) 矢印制御ダミー (矢印制御=1) 0.238 (2.95)
定数項 14.5 (7.06)
位置パラメータγ 最終右折車の交錯点通過時間[秒] -0.0504 (-4.52)
定数項 12.5 (6.13)
𝜌̅ 値=0.430,サンプル数=1167
5.3.6 SRT 推定結果の比較 (a) 観測値と推定値の比較
推定結果をもとに観測値と推定値の比較を行う.比較に際しては,エンタリング距離,最終右折車の交