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出来事時(t e )の「出来事」について

2.4. 時間関係算定プロセスによるテンス・アスペクト記述

2.4.1. Reichenbach(1947)、工藤(1995)による時間関係図

2.4.2.3. 出来事時(t e )の「出来事」について

ここまで、「出来事時」という用語をなんとなく用いてきたが、「出来事時」と言う場 合の「出来事」とは何を表すのだろうか。以下では、この点について考える。 

次の(81a)は動作動詞、(81b)は変化動詞であるが、この場合、述語の表す「出来事」と は、それぞれ(82a)、(82b)のような場面だと言えると思う。 

(81) a. 太郎は10分間走った。 

b. あ、窓が開いた。 

(82) a. 走り始めてから、止まるまで。 

b. 窓が閉まっていない状態から、閉まった状態への変化 

この場合、出来事「時」とは、この場面の持続している時間だと言えるだろう。 つま り、前者は動作が持続していた時間であり、後者は変化が起きた時間が「出来事時(te)」

だと言えるだろう。 

しかし、次のような例はどうだろうか。上の例と同様に(83a)が動作動詞、(83b)が変化 動詞だが、この場合、述語が表す出来事は上とは異なる(高橋1985:34-35, 44-45参照)。 

この場合は、それぞれ(84a)(84b)のような場面を表していると見るべきだろう。 

(83) a. あ、走った! 

b. 窓が10分間開いた。 

(84) a. 走っていない状態から走っている状態への変化  b. 窓が開いてから、閉まるまで。 

つまり、この場合は、先の(81)の場合とは逆に、前者が変化を表しており、後者が持続 期間を表していると言える。この場合、出来事時というのは、「走り始めの瞬間」や「開 いてから閉じるまで」の時間だということになるだろう。 

このように見ると、「走る」のような動作動詞も、「開く」のような変化動詞も、それ ぞれが(85a)(85b)の二つの場面を表し得ることが分かる。仮に、「走っている/開いてい る」状態をp、「走っていない/開いていない」状態を¬pとすると、(86a)(86b)のように示 せる。 

(85) a. ¬pからpへの変化の場面 

「あ、窓が開いた。」「あ、走った!」 

b. ¬pからpへの変化時点からpから¬pへの変化までを含んだ場面 

「太郎は10分間走った」「窓が10分間開いた」 

!

(86)

!

a.         b.  

     

   

このように見ると、「走る」や「開く」という述語が用いられた時に、「出来事(時)」

が何を表すかは、動詞そのものからだけでは決定できないことが分かる。 

(85a)のタイプを、これが変化時点を表すことから「[¬p→p]」と示し、(85b)のタイプ を、これが開始時点から終了時点までの間を表すことから「[¬p→p] 〜 [p→¬p]」と示す ことにする。そうすると、ここでは、「走る」も「開く」も、どちらも「[¬p→p]」と

「[¬p→p] 〜 [p→¬p]」の両方を表せる、ということになる。 

通常は、「走る」のような動作動詞は「[¬p→p] 〜 [p→¬p]」を表すために使用され ることが多く、「開く」のような変化動詞は「[¬p→p]」を表すために使用されることが 多いと思うが、ここで見るように、必ずしもそうではない、ということが分かる。1819 

また、(87)に見るように、動詞によっては、「[¬p→p]」を表す際にも「[¬p→p] 〜  [p→¬p]」を表す際にも同程度によく使用されるものもある(鈴木1979:13)。 

(87) a. [¬p→p]       :10分前に{寝た/黙った/乗った}。 

b. [¬p→p] 〜 [p→¬p]:10分間 {寝た/黙った/乗った}。 

ここで、このように、動詞の表す場面に関する二義性を認めると、次のような疑問が生 じる。それは、(88)のように「テイ」を使って言った場合に、それが出来事のどの場面を 表すのか、というものである。 

(88) a. 太郎が走っている。 

b. 窓が開いている。 

例えば、(88a)や(88b)のように言った場合、「走る/開く」を「[¬p→p]」だと考える と、「テイ」が表す場面は、出来事時に後続する場面だということになる。一方、これを

「走る/開く」を「[¬p→p] 〜 [p→¬p]」だと考えると、「テイ」が表す場面は、出来事

 ここで言う[¬p→p]の局面は、いわゆる「起動相」によって表される局面だと言える。ただ、「死ぬ」

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のような動詞については、一般的には起動相とは捉えにくいかもしれないが、本稿の立場では、これも[¬

p→p]の局面を表すという点において「あ、走った!」の場合の「走る」と同じものとして考える。

 ここでは、 [¬p→p]の局面と[¬p→p] 〜 [p→¬p]の局面の両方を表せる動詞について見てきたが、実

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際には、これらのうちどちらかしか表せない動詞も存在する。例えば、「着く」のような動詞は前者しか 表せず(「??電車が3分間駅に着いた」)、「働く」のような動詞は後者しか表せない(「??あ、太郎が働い た!」)。これは、動詞が内在的にもつ語彙的な意味によるものだと考えられるが、本稿ではこの議論には 立ち入らない。(この点について、より詳しくは、Igarashi & Gunji 1998を参照)

の開始から終了までの間の場面だということになる。このように、「テイ」がどの場面・

局面を表しているか、ということ対し、(89a)と(89b)の2種類の解釈が生まれてしまう。 

(89) a. [¬p→p] 〜 [p→¬p]の間  b. [¬p→p]の後 

この問題について、本稿では、次のように考える。 

まず、二種類の解釈があること自体に、問題はないと考える。なぜなら、「テイ」は

「状態」と「完了」の両方の意味を持ち、(89a)は「状態」にあたり、(89b)は「完了」に 当たると考えればいいからである。 

次に、どのような場合にどちらの解釈になるのか、という点について見る。ここでは、

この点について詳しい分析は行わず、典型的なものだけを挙げておく。 

まず、次に述べるような理由から、(90)のような文は、「[¬p→p] 〜 [p→¬p]」の

「間」の場面を表しており、(91)のような文は「[¬p→p]」の「後」の場面を表している と考える。 

(90) a. あ、太郎が走ってる。 

b. あ、窓が開いてる。 

(91) a. あ、{いつの間にか/知らないうちに}太郎が走ってる。 

b. あ、{いつの間にか/知らないうちに}窓が開いてる。 

(90)が「[¬p→p] 〜 [p→¬p]」の「間」を表すと考えられる理由は、話者が「走る」と いう出来事の開始や「開く」という出来事の開始を認識していないからである。もちろ ん、人が走っていたり、窓が開いていたりという状態が存在すれば、必ずその状態に至る

「変化」というものがあったと考えるのが自然だが、この場合、話者がそのような変化を 意識しているとは考えにくい。 

一方、(91)の場合のように、「いつの間にか/知らないうちに」というような表現と共に 用いられるということは、話者は「変化」が存在したことを前提としていると考えられ る。このことは、これらの以下に見るように、「いつの間にか/知らないうちに」のよう な表現が、純粋に状態を表す表現とは共起しにくいことを見ればわかる。(92)のaは形容 詞、bは名詞、cは状態動詞、dはいわゆる第四種の動詞に「テイ」を付加したものであ る。 

(92) a. ??(外に出て)あ、{いつの間にか/知らないうちに}寒い。 

b. ??(久しぶりに孫に会って)あ、{いつの間にか/知らないうちに}学生だ。 

c. ??(冷蔵庫を開いて)あ、{いつの間にか/知らないうちに}ケーキがある。 

d. ??(クラスの生徒の成績一覧を見て)あ、{いつの間にか/知らないうちに}太郎 の成績がずばぬけている。 

このように、述語そのものが「変化」を含意できないようなものが共起できないような 表現と共起するということは、「テイ」を含む述語部分が「変化」の意味を表しているこ とを示していると見ていいだろう。 

このように、述語部分が同じ「走っている/開いている」という形態で表されていたとし ても、この「テイ」と出来事との時間関係には、二種類の解釈があり得る。これは、上で 見たように、「走る/開く」にそもそも二種類の解釈が存在することから来ている。 

以上、「動作動詞」や「変化動詞」が表す出来事には、「変化」局面([¬p→p])を捉え るか「持続」局面([¬p→p] 〜 [p→¬p])を捉えるかの二種類の捉え方があると考えられる ことを見た。 

また、ここでいう「出来事」には、「走る/開く」のような動作性のものに限らず、「寒 い」のような形容詞や「学生だ」のような名詞、「ある」のような状態動詞も含まれる。

例えば、「寒い」であれば、出来事は以下の図の「寒くない状態(¬p1)」と「寒くない状 態(¬p2)」に囲まれた「寒い状態(p)」の部分を表す((93))。 

(93)

!

   

ここで生じる疑問として、「哺乳類だ」のように時間概念に縛られない属性を表すもの について、どう考えるのか、という点がある。例えば「コアラが哺乳類でない状態(¬p)」

というのは考えられないからである。しかし、実際には、このことは問題とならない。な ぜなら、状態相は、非状態相と違い、開始点と終了点を含むことができないからである。

状態相の場合、「p」である部分のうちの任意の時点・期間を切り取れるだけである。こ のことから、状態性述語についても、「出来事」は「p」である区間だと定めることがで きる。 

このように、ここでは、①動作性述語の場合、述語が表す「出来事(時)」には二種類の 解釈があることと、②状態性述語も出来事として捉えられることを見た。 

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2.4.3.

本稿の時間関係図 

ここでは、2.4.2で見た分析に基づいて、「状態/非状態」「完了/非完了」「過去/現在/

未来」の組み合わせの表す時間関係を図示していく。 

以下では、アスペクト部分とテンス部分の表す意味を区別して表記するために、まず、

アスペクト部分を表す図を表し、次に、アスペクト部分とテンス部分が組み合わされた図 を表す。(本稿では、2.4.2.2で見たような理由から、trが存在する場合には時制がtsとtrの 関係から決定され、tsとteの関係が時制の決定に関わらないという立場をとる。このよう なことから、trの有無(アスペクト部分)をまず確定し、その後、trがある場合はtsとtrの関 係、ない場合はtsとteの関係(テンス部分)を確定するべきだと考える。) 

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