第7章 研究の問題点と今後の課題
第2節 今後の課題
問題点としても挙げたように,筆者自身,さらに監督としての技量を磨い ていく必要がある。そのためには,今後も心理劇のワークショップにできる だけ数多く参加し,主役体験をすることを通して,監督と演者の間に起こっ ているものを実感として捉え,筆者が監督役割をとってグループに対して心 理劇的アプローチを図る上での参考としていきたい.そして,実際に監督役 割をとる練習も,今年度から発足した研究会において積んでいこうと考えて
いる。
また,この実践を通しても心理劇的アプローチによる効果が見られたこと により,今後はできるだけ簡単で安全な主役体験をしてもらう方法を考案し ていきたいと考える。増野(1997)は 監督を初心者が行うのは難しいし,内 容が発展して深くなったときに責任が取れるものでもない。深いものを引き 出して傷つけることもある.それを防ぐひとつの方法として,ドラマを構成 化することがある。 として,「守護天使」という方法を紹介している。さら に, 舞台を設定し構成化することは舞台演出者の役割を軽減し,小グルー プにすることでグループリーダーの役割も限定できる。治療者と分析者とい う,すでにカウンセリングなどで体験のある役割を中心に取り組んでいける のである。慣れてくれば,4,5人のメンバーが集まって行う相互研修にも なるであろう。 と述べている。この点にも今後,目を向け,興味をもって取
り組んでいきたいと考えている。
おわりに
筆者自身,現場での教育活動に行きづまりを感じ,本大学に入学した。初 めの2か月間は,特にこれといった研究目的も定まらず,講義を受け,カウ ンセリングの基本を学ぶことで,あわただしく日々が過ぎていった.そのよ うな中,夏野教授の勧めもあって,平成11年6月に心理劇のワークショッ プに参加する機会を得た。それまでは劇を見ることや,まして人前で劇を演 じるなどといった経験はほとんどなかった.初めは,不安も大きく,緊張し ながら参加していたのだが,セッションが進行するにつれ緊張も和らぎ,の めりこんでいくようになった。そこでは,劇を演じていく中で,本来,見え てくるはずのない他人の感情というものが表現されながら進行していくた め,他人の立場にたって物事を考えることができ,私自身の今まで取ってき た教育現場における教師としての役割意識の変容をもたらす機会が得られ たように感じた。ドラマの内容は筆者にとって直接かかわってくるものでは なかったが,自分自身を客観的に見つめ,振り返ることができたのである。
このような経験から,筆者同様,悩みを抱えていると思われる教師に対し て心理劇的アプローチを図ることが有効ではないかと考え,本研究のテーマ を教師に対する心理劇的アプローチによるカウンセリング研修とした。しか し,筆者自身が監督役割をとるため,ワークショップで経験した,個人の内 面を深く掘り下げていく形でドラマが展開していく古典的サイコドラマを そのまま適用するには,技術面などの様々な問題があった。そこで,本実践 に入る前に,学部生や同僚を対象としてパイロットスタディーを行い,指導 教官である夏野教授にもご助言をいただきながら,試行錯誤を繰り返し,ウ ォーミングアップの内容,ドラマの展開の仕方などを検討していった。
そして,最終的に教師を対象とした心理劇的アプローチによるカウンセリ ング研修を実施することができたのである.児童・生徒理解という点では,
ドラマを演じていく上で,必要とされる役割交換,あるいは他者の役割を取 得し演じることによっての効果があったものと思える。また,主役が提示し たドラマを協力して作り上げていくことを通して,参加者が自分自身につい て振り返ったり,新たな発見をもたらしたりといった効果も少なからず得ら れたように思える.そして,参加者にとって,この研修で得られた自己に対 する新たな発見や気づきが,今後の児童・生徒とのかかわり方や職場での人 間関係の改善へのきっかけとなってくれれば幸いである。
要 約
1.研究の目的
近年,教育現場においては,いじめ・不登校・学級崩壊といった問題を抱え,
教員はその対応に悩み続けている。教師が,これらの問題に対応していくため に,まず考えなければならないものに学級経営がある。学級経営の内容を簡約 に表現すれば,全て児童と教師の人間関係にあるともいえる。教育現場におけ る基底的な側面として,教師と児童の間に信頼関係が成立しないかぎり正常な 教育的諸活動はありえないものといえる。魅力的な学級,すなわち創造的な 人間関係を形成するためには,教師自身がとっている役割行動を客観的にみ る目を養い,児童のニーズに合わせた役割の変革が必要とされるはずである。
しかし,実際のところ,学級経営というものは,対児童との関係のみで成 り立つものではない。教師自身,学校という組織の一員であるため,その背 後には学校の体制というものが大いに影響をもたらしている。すなわち,魅 力的な学級を形成していくためには,児童理解はもちろんのこと,教師自身 が置かれている状況(自分の意志とは関係なく組織の一員として遂行しなけ ればならないことや,自分自身とそのまわりを取りまく人間との関係性)を 把握しておかなければならない。
増野(1990)は 現在の社会は変化も速く,そこについていくのがやっ とであり,毎日がいつのまにか流されていくと感じている人は多い。そのよ うななかで自分を見失ってしまうような不安もある。社会の中である役割を もっているとその役割が次々と行動を要求する。そのようなものから自由に なる場として,瞑想をはじめとした様々な状況がある。心理劇の場もその一 つである. と述べている。心理劇では,舞台という特別な空間を前提として 認めることによって,役割から自由になることが容易であり,自分のとって いた役割を客観的に見つめることができる。一般的に,日々,目の前にある 教材や行事をこなすことに追われているとされる教師にとって,いったん立 ち止まり,自己から距離をとって自身を見つめ直す機会は必要とされると思 われる。そのために,カウンセリング研修として,自己を探求でき,他者の 立場を理解しながら創造していく心理劇を教師自身が体験することは有効 な手段であると考えられる。
教師を対象として心理劇を適用した,戸田(1991)や島谷(1999)など の研究では,トレーニングとしての効果やグループ内での人間関係が深まる
といった効果が報告されている。しかし,その中には,教師という集団を対 象として心理劇を適用したものとしての特徴といったものは見えてきてい
ない.一般的に教師は常に,子どもへの援助というコンサルティの職業上あ るいは役割上の課題遂行における問題を抱えている。そういった意味からす ると,教師に対してカウンセリング研修を行うということは,共通の悩みを 抱えた特別な集団に対しての試みということになる.その中で,自己受容し,
客観的に自分を見ることで問題の新しい展開へのヒントを発見する可能性 を探るものとして活用できるのではないかと考えている。
そこで,本研究では,対象が教師であるということに焦点を当てて,カウン セリング研修において心理劇的アプローチが,自己開発という視点から,職場 で役割をとる上での自己理解および自己発見にいかに有効であるかを検証する ことを目的とする。また,いかに共通の悩みを抱えた集団といえども,参加者 の性格特性によりセッションの進行に伴う参加者の態度や考え方の変化に違い が生じると思われるため,その点についても分析し考察を加える。
2.研究の方法
(1)対象
教師以外のグループとの比較による検討も行うため,実践1としてA県B 女子大学の心理学を専攻している大学院生(学生グループ)と,実践2とし て,A県C大学の大学院に通う現職教員(教師グループ)の2グループを 対象に実施した。学生グループは10名で,教師グループは8名で行った.な お,各グループには監督(筆者)1名とビデオ撮影者1名(学生グループで はN教授がスーパーバイザーを兼ねて,教師グループでは同僚)が参加し
た。
(2)実施期間と実施方法
実践1は2000年4.月から5,月にかけて,授業として組まれている時間枠 の内,3回(週1回90分),実践2は同年7,月に,希望者を募り3回(90
分)実施した。
(3)分析方法
ビデオに記録した2つの実践内容の経過やセッション後に書かれた感想 を資料として用い,それぞれのグループ内での参加者の様子や変化を分析し た。さらに,補助的な意味合いで,セッション後に記入してもらった振り返 り票をもとに作成した評定尺度によるセッションの進行に伴う参加者の変 化の分析も試みた。また,参加者の性格タイプによる違いも出てくると思わ れるため,事前に5因子性格検査を実施し,その結果をもとに性格特性別に 分類を行い,事例分析を通しての考察を試みた。