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今後の課題

ドキュメント内 監視データを用いた航空交通の分析 (ページ 101-134)

本研究の成果をさらに発展させるための今後の課題は,以下の3点である.

以上の3点の課題について,本論文の成果を糸口とし,実際の運用に親和性のある解 1. 干渉問題において,本研究で明らかになった干渉解消方法を,

既存の飛行軌道最適化技術と合わせて,複数の航空機のコンフ リクトフリー同時飛行軌道最適化を行う.

2. セクタ解析によって推定された航空管制官にかかるワークロ ードの関係を明らかにし,統一的に利用できる航空管制官のワ ークロードモデルを構築する.

3. 上空通過機問題において,到着機管理に巡航高度の選択の自 由度を加えた合流制御手法を提案し,種類の異なるフライトが 効率を低下させることなく運航できるようにする.

1. 干渉問題

実際の監視データから,航空管制官の干渉解消のノウハウを 抽出することができた.本結果を参照することで,干渉解消の 自動化において実際の運用を考慮したシステムの提案を行う ことができる.

2. セクタ問題

航空管制官のワークロードを構成すると考えられる要素に ついて定量化し,セクタごとのワークロードを定量的に示すこ とを試みた.本結果は,セクタの混雑度合いの比較に用いるこ とができ,セクタの構成を考える上で有用である.

3. 上空通過機問題

上空通過機および国際線航空機の現状を,監視データを用い て明らかにした.本結果は,上空通過機と国際線航空機の協調 した流れを生成することに有益である.

決策を提案することができれば,冒頭に示した航空交通システムの課題を解決できるよ うになると考えている.

Appendix A

航空交通に関する諸規則

航空交通システムに関連する規則類は,批准国全体に効力のある条約から国内法およ び関連する基準など様々なものがある.図A.1に,関連規則の関係を示す[77]

国際民間航空条約

付属書(119

航空法

航空法施行令

航空法施行規則 航空保安業務処理規程(全13編)

5管制業務処理規程

(管制方式基準)

航空路誌(AIP)

航空路誌改訂版(AIP‐A)

航空路誌補足版(AIP‐S 耐空性審査要領

サーキュラー

自衛隊法

: 国際条約 : 国内法 : その他

図A.1 航空関連規則

Appendix Aでは,本論文に関連する規則を,対象となる規定を用いて整理する.

A.1. 航空管制官の業務

航空管制官の業務は,次の3つに大別できる.それらは管制業務,飛行情報業務およ び警急業務であり,それぞれに複数の役割が与えられている.図A.2に,航空管制官の 業務をまとめる.

航空交通業務

飛行情報業務

管制業務 警急業務

①計器飛行方式 による飛行の管制

②特別有視界飛行方式 による飛行の管制

③有視界飛行方式 による飛行の管制

①気象情報の提供

②航法援助施設の 運用情報提供

③飛行場等の状況に 関する情報の提供

④交通情報,鳥群情報 の提供

⑤航行の安全に必要な 情報の提供

航行中の飛行機で 緊急状態,遭難状態 あるいは不法行為を 受けたもの

: 業務名 : 業務の対象 図A.2 航空管制官の業務

この中で,一般的に航空管制といわれるものは,管制業務のことである.この管制業 務が行なわれている空域のことを管制空域と呼ぶ.

A.2. 空域構成

現在の日本が航空管制を担当している空域は,福岡FIR(Flight Information Region) と呼ばれ,図A.3のような構成である.福岡FIRは,陸域周辺を管轄している4つの航 空交通管制部(Area Control Center, ACC)および洋上管制区に分割されている.

さらに,4つの航空交通管制部はセクタと呼ばれる空域に分割されており,高高度を 飛行する航空機を管制する場合,セクタが管制空域の最小単位である.セクタは,原則 として2名の航空管制官によって担当されている.例として,東京ACCのセクタ構成 を,図A.4に示す.

Fukuoka FIR

Oceanic  Control Area

Naha ACC Fukuoka ACC

Tokyo ACC Sapporo ACC

図A.3 福岡FIRの構成

図A.4 東京ACC内のセクタ構成

空域構成については,福岡にある航空交通管理センターによって定期的に見直しが行 われてい.

A.3. 管制間隔

管制間隔は,管制方式基準[78]に定められている.航空機の様々な位置や状況により,

管制間隔は個別に指定されている.ここでは,レーダ使用時の基本となる管制間隔を用 いることとし,以下にその数値を示す.FL はフライトレベルであり,標準気圧 1013.2 [hPa]を基準とした等圧面である.日本では14,000 [ft]以上の高度は通常フライトレベル を用いることが多く,FLに100 [ft]単位の高度を付加して表す[77]

■ 計器飛行を行う航空機同士の垂直間隔の最低基準 a) FL290以下の高度 : 1,000 [ft]

b) FL290を超える高度 : 2,000 [ft]

c) 短縮垂直間隔(Reduced Vertical Separation Minimum,RVSM)適合機相互間 : 1,000 [ft]

d) c)において機器が故障しているとき : 2,000 [ft]

■ 航空機相互間のレーダ間隔の最低基準

a) レーダサイトから40 [NM]未満 : 3 [NM]

b) レーダサイトから40 [NM]以遠 : 5 [NM]

また,高度に関しては,機体側の高度維持技術による誤差や,オーバーシュートによ る間隔を確保できていない一時的な状況もありうる.このため,以下の値を許容される 最低垂直間隔変化の目安とする.

■ 管制方式基準より(一部を書き直している)

自動高度応答装置による表示高度を確認する場合において,300 [ft]以上の高度の 差があるときは,当該機に対しその旨を通報し,高度計規正値および現在高度の確 認を指示するものとする.

■ AIP Japan 3.9.9 高度逸脱報告より

計器飛行方式により飛行中の航空機の機長は,RVSM 適用空域及び対象高度帯 において,いかなる理由であっても,管制指示高度から300ft 以上の高度逸脱があ った場合,原則として別添の様式による報告書を作成し提出すること.

以上より,干渉評価の際に,保護領域に関して約700 [ft]までの一時的な垂直間隔 の低下は,原則として干渉とは判断しない.

A.4. 巡航高度

航空機の巡航高度は,航空法施行規則第177条によって定められている.図A.5に,

その概要を示す.

西行き 東行き

41,000[ft]

29,000[ft]

有視は飛

2,000[ft]の奇数倍 の高度を飛行 2,000[ft]の偶数倍

の高度を飛行

1,000[ft]の奇数倍 の高度を飛行 1,000[ft]の偶数倍

の高度を飛行 43,000[ft]に4,000[ft]の 偶数倍を加えた高度を 飛行

45,000[ft]に4,000[ft]の 偶数倍を加えた高度を 飛行

【RVSM適合機】

1,000[ft]の偶数倍

【RVSM適合機】

1,000[ft]の奇数倍

図A.5 航空法により定められている巡航高度

A.5. 航空交通流管理

航空交通流管理(Air Traffic Flow Management,ATFM)は,航空機が特定の航空路,

空域および空港に過度に集中することを防ぐために行なわれるものである.日本では,

航空交通管理センターで実施され,特にフローコントロール(Flow Control)による交 通流の制御が中心となっている.

フローコントロールは,特定の航空路,空域および空港の管制処理能力を超える交通 量を予測した場合に,IFR機の交通量を制限することである.具体的には,出発制御時 刻(Expected Departure Clearance Time,EDCT)を航空機に発出し出発間隔を制御するこ とや,セクタおよび進入管制区への入域間隔の制御等を行なう.

A.6. 洋上転移経路

洋上転移経路は,陸上の無線施設と洋上管制区内のフィックスとの間に設けられた経 路であり,国際線航空機によく利用される.ルート数は19あり(2016年 12 月現在),

そのほとんどが関東地方の東側に設定されている.洋上転移経路の一部を,図A.6およ び図A.7に示す.

図A.6 洋上転移経路

図A.7 洋上転移経路(図A.6の拡大図)

また,図A.8に示すように,北太平洋ルートの設定には4つの方法がある.

図A.8 北太平洋ルート

航空会社は目的地や当日の状況を考慮して,これら4つから飛行方法を選択すること ができる.

Appendix B

ADS-B データの活用

B.1. ADS-B の概要

ADS-B は,放送型自動従属監視と呼ばれ,航空機の位置および速度等の情報を共有

するための装備である.その特徴は,以下のようなものが挙げられる.

また,類似のシステムも複数開発されており,その種類も複数のものがある.表B.1 に,種類別の特徴の概要を示す.

表B.1 ADS(Automatic Dependent Surveillance)の種類

種類 概要

ADS-A

(-Addressed)

航空機間などの一対一の関係において,エーカーズ(Automatic Communications Addressing and Reporting System,ACARS)等

を用いて情報共有を行なうものである.

ADS-B

(-Broadcast)

ADS-Bを装備する航空機や車両が位置情報,識別符号,その

他のデータを自動的に放送し,互いに情報の共有ができる.

ADS-C

(-Contract)

ADS-Bに類似しているが,主に大陸や大洋を横断する際に,

航空機と契約した地上監視者との間で用いられている.

B.2. ADS-B の課題点

ADS-B はこれまでの監視システムと異なり,簡単な機器を装備するだけで,保有者

同士が直接所望の情報を共有できる.しかしながら,現在では航空機の搭載率が低いた

・ 搭載航空機同士や地上の監視者と情報を共有できる.

・ GPSによる他の監視システムと比較して正確な位置情報を得られる.

・ レーダ覆域によらず監視情報を一括送信できる.

め,一律にADS-B装着を前提としたシステムの構築が難しい状況にある.具体的には,

日本国内において,50 [%]程度の搭載率である.そこで,まずはADS-B の搭載率向上 や装備義務化に向けての取組みが世界中で行なわれている.

B.3. データ取得実験

ADS-Bデータの解析のため,研究室にADS-Bデータの受信設備を整え,そのデータ

の解析を試みる.図B.1に,ADS-B設置場所を示す.

図B.1 ADS-B受信アンテナ設置場所

アンテナ設置場所の詳細を,図B.2に示す.

建物

屋上外 屋上

ソーラーパネル

パネル設置台 手すり

ADS‐Bアンテナ

(ポール : 約2.6[m],アンテナ : 約0.59[m])

研究室へ

4.4 [m] 5.65 [m] 1.5 [m]

1.3 [m]

0.2 [m]

3.9 [m]

10 [m]

図B.2 ADS-B受信アンテナ設置場所の詳細

取得できるパラメータを,表B.2に示す.

ドキュメント内 監視データを用いた航空交通の分析 (ページ 101-134)

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