第 2 章 POP 広告と店頭コミュニケーション
2.4 五感を刺激する店頭コミュニケーション
購買の直前に接触した広告が最も購買行動に影響を与えるといわれており、その威力 が最大限に発揮されるのが、店頭である。商品のアイデンティティをストレートに形に したパッケージ中心の展開、キーカラーやロゴ、キャラクターなど一貫したブランドイ メージによる展開、ショップツールを効果的・印象的に配置した店頭ディスプレイなど、
多くの企業ブランドがこれらを通して五感に訴える商空間・店頭づくりに力を注いでい るといえる44。
これまでの売場では、印刷物系POPを中心に、視覚を刺激するプロモーション媒体
43 社団法人日本プロモーショナル・マーケティング協会(2010)『プロモーショナル・マーケティング第三版』株式会社宣伝会議
44 ピエ・ブックス(2008)『店頭コミュニケーショングラフィックス』ピエブックス
32
が多数存在したが、昨今の消費者は周囲取り巻く情報環境に対し、麻痺状況に陥ってい るといえる。商品は既に充実しているため、商品やサービスの機能性を訴求するよりも、
消費者は感性面での訴求の方から得られる満足や喜びが大きいことが既に研究で明ら かになっていることから45、感性面にアプローチする情報の開発に注力していくことで、
消費者の満足度を高めるだけでなく、来店のきっかけづくりとなるのではないか。
では、店頭でどのように感性面にアプローチすべきか。小売店舗において消費者の五 感に作用する媒体について、恩藏らの研究をもとに46、表 2-2に示している。
表 2-2 店頭での五感に作用する媒体
感覚 媒体 役割 マーケティング機能
視覚
・印刷物(色) ・店舗の形成要因 ・色による購買促進
・流行トレンドの体現
・商品パッケージ ・商品パッケージへの作用 ・購買促進
・照明
・照明による客動線のコントロール
・店舗イメージ形成
・空間演出/商品演出
・滞店時間の増加
・客単価のアップ
・入店促進
嗅覚 ・製品属性
・デジタルサイネージ
・自律神経に作用
・免疫・ストレスに作用
・記憶の呼び起こし
・店舗評価の向上
・非計画購買の促進
・購買促進
・集客効果
・環境演出
聴覚
・製品属性
・BGM
・注意喚起
・空間全体との融合
・競合差別化
・購買促進
・環境演出
・店舗評価の向上
・広告映像 ・特定ブランドの認知 ・TVCM の記憶喚起
触覚 ・商品
・紙素材(チラシ等) ・商品認知(重さ、手触り) ・非計画購買の促進
味覚 ・商品 ・試食販売 ・非計画購買の促進
恩藏直人・買い場研究所(2010)、『感性で拓くマーケティング』をもとに、著者が作成。
表 2-2 にまとめるとみえるように、五感それぞれに訴求する各媒体の特徴と機能も 異なることがわかる。
五感における取得情報の約 7 割を占めるといわれている視覚情報として、店内装飾を 始め、各種ツールやVMDなどが挙げられ、また訴求されるメッセージとしては、文字 情報と画像情報が含まれる。次に聴覚については、店頭での提供媒体として、店内で流 れているBGMや館内放送さらには、商品属性としての音などが挙げられる。また、一 部での店舗ではデジタルPOPなど音声情報を発するものや店員の接客の声もこれに含 めることができる。触覚情報では、商品属性としての感覚、つまり商品の質感や手触り
45 A.Chaudhuri(2006),Emotion and Reason in Consumer Behavior, MA: Elsevier Butterworth-Heinemann, 2006
46 恩藏直人・買い場研究所(2010)、『感性で拓くマーケティング』丸善プラネット
33
などを始め、店内で配布しているチラシやパンフレットの紙の質感、デジタルサイネー ジのタッチパネルの接触感覚などがあげられる。嗅覚情報の提供については、商品属性 としての匂いが主である。例えば、パン売場の近くを通ると香ばしい焼きたてのパンの 香りがする。その他に、現在では技術が発達し、商品の匂いを技術的に再現する商品の 香り見本・香りテスターをはじめ、人の動きに反応して、商品香料を放出することも可 能である。最後に、味覚であるが、これは本来の商品そのものの味を指し、店頭でも実 際の商品を知ってもらい、購買を促す目的で商品の試食や試飲を提供している場合が多 い。特に新商品の場合、摂食経験がないと商品の購入を躊躇してしまうため、店頭では 商品との接触機会を増やすために、試食を提供するなどの試みがみられる。
このような五感を刺激するようなマーケティング施策が昨今多くみられ、店頭の様々 な媒体を介して消費者とのコミュニケーションに寄与していることがうかがえる。これ までコミュニケーションの手段として、人間は叫び声や言葉など聴覚器官に訴えるもの、
表情や身振りなど視覚器官に訴えるものなど多岐の感覚器官に対してコミュニケート
(communicate)してきた47。店頭においても、これらの感覚器官に働きかけることで、
消費者のこれまでにない気づきや発見を促し、新たな購買体験の提供に寄与できると考 えられる。
47 小幡章(1978)『広告の創造技法―広告コミュニケーションとクリエイティブ表現―』美術出版社,p7
34